建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年8月号〉

interview

選択と集中で投資効果を向上

食と観光を基軸に景観重視の基盤整備へ

北海道建設部長 野村 昌信 氏

野村昌信 のむら・まさのぶ
昭和 22年 10月 31日生 小樽出身 北大工卒
昭和 45年 4月 北海道庁採用
平成 2年 4月 旭川土現事業課長
平成 3年 6月 旭川土現道路建設課長
平成 4年 4月 企画振興部企画室主幹
平成 6年 4月 札幌土現企画調整室長
平成 7年 6月 室蘭土現事業部長
平成 9年 6月 道路計画課参事兼市町村道室長兼高速道室長
平成 10年 4月 建設企画室企画調整課長
平成 11年 5月 網走土現所長
平成 13年 4月 土木局長
平成 15年 6月 胆振支庁長
平成 17年 4月 現職
壊滅的な将来が展望された財政動向から、北海道は「財政立て直しプラン」の基本的な見直しを迫られることになり、道内公共事業を担う建設部の年間予算も、その余波を受けて激減の動向が展望されている。このため、経営基盤のほぼ100パーセントを官公需に依存する道内建設業界の将来も危ぶまれている。激減する年間予算をもって、公共投資の経済効果をいかに生み出すのか、同部の野村昌信部長に対策を伺った。
――今年度予算の概要と執行におけるポイントは
野村
北海道は、長引く景気低迷の影響による道税収入の落ち込みや、国の地方行財政改革による地方交付税の大幅削減に加えて、介護保険や老人医療費などの義務的経費の増加から、巨額の収支不足が生じ、赤字再建団体への転落が現実的な状況となっています。
このため、道では昨年8月に「財政立て直しプラン」を策定し、歳出削減や歳入の確保に取り組んできましたが、今後、収支不足がさらに拡大する見通しとなったことから、平成18年度以降は「プラン」について、大幅に修正せざるを得ないという、大変に厳しい状況となっています。
今年度の建設部の平成17年度当初予算額は、約4,700億円で、対前年度比は95%となっています。この他に、他部に計上して土木現業所で執行する予算額が、約450億円となっています。
建設部としては、この限られた財源の中で、財政負担の可能な範囲において、あらゆる工夫をしながら必要な社会資本の効果的・効率的な整備に努めていきたいと考えています。
――今後の公共事業予算の動向と対策は
野村
道が昨年8月に策定した「財政立て直しプラン」においては、公共事業費についても、財政再建の最終年度である平成19年度に、15年度と比較して19%削減することを目標としています。今後、収支不足が大幅に拡大する見通しとなったことから、プランを1年前倒しすることを基本として、この8月を目途に見直すこととしました。
しかしながら、北海道においては活力ある地域づくりを進めていくため、産業経済や地域の暮らしを支える社会資本の整備が、まだまだ必要です。
今後の社会資本整備に当たっては、これまで以上に「選択と集中」の視点を明確にしつつ、北海道にとって本当に必要な社会資本の整備を進めていかなければならないと考えています。
特に、広大な面積を有する本道の経済活動を支え、地域間の交流・連携、自立的発展に不可欠な高規格幹線道路網の整備促進や、近年多発している自然災害から人命と財産を守り、安全で快適な国土基盤形成のための施設整備などについては、重点的に取り組んでいこうと考えています。
――道内建設業界の業況回復に向けては、どう展望しますか
野村
本道の建設業は、道内総生産の10%、就業者数の11%を占めるなど、地域の経済と雇用を支える基幹産業として極めて重要な役割を果たしてきています。
しかし、15年度の建設投資額をみると、ピークであった5年度と比較して32%もの減少となっています。建設投資額に占める公共事業の割合は61%と、全国平均の43%に比べて非常に高い割合となっています。また、道内の建設業は、そのほとんどが経営基盤の脆弱な中小建設業者です。
今後、国や地方の厳しい財政状況に伴い、公共事業の縮減が避けられないことから、建設業を取り巻く経営環境は一層厳しさを増すことが予想されます。
そのため建設部としては、これまでも技術と経営に優れた企業が生き残れるように、建設業の「経営体質の強化」に向けた取り組みを進めてきましたが、今年度においては、中小企業診断士の派遣事業を引き続き実施するとともに、「営業力強化」や「IT化推進」に関するゼミナールの開催、さらにはそれぞれの地域で建設業が抱えている課題の解決に向けて、創意工夫ある取り組みを支援するなど様々な施策を展開しています。
建設現場の効率化の観点から、企業の適切な収益の確保を図るため、昨年5月に有識者、業界、行政からなる「建設業経営効率化推進委員会」を設置して検討を重ね、本年3月に建設現場の効率化、不良・不適格業者の排除の徹底、地域に信頼される建設業づくりについて、14の提言を受けたところです。
これに基づき、道としては、施工前に発注者、施工者、設計者が現地の施工条件などの共通認識を持つための「三者検討会」の本格実施、工事発注前の用地交渉などを総合的に進行管理する「トータルマネージャー」の設置など、建設業の経営効率化に向けた施策に、積極的に取り組んで行く考えです。
さらに、これらの施策の着実な推進を図るためには、関係部が一体となって取り組む必要があることから、4月に「庁内連携会議」を設置したところです。また、施策の実効性を確保するため、研修会や意見交換会などの場を積極的に活用し、取り組みの周知・徹底を図っていきます。
――今後の食と観光を支援するインフラ整備に向けての取り組みについて伺いたい
野村
北海道は、雄大な自然、新鮮な大地と海の恵み、四季折々の景観などの魅力を有し、国内外から多くの観光客が訪れています。
道では、こうした優位性を生かして、北海道を国際的にも通用する観光地とし、食と観光を北海道のリーディング産業とすることを目指して、さまざまな施策を展開しています。
そこで建設部としては、食や観光振興に向けた基盤整備として、道路や空港、景観整備などを推進していきます。
国土の22%という広大な面積を有し、都市間距離が長い北海道においては、主要都市間の移動時間を大幅に短縮する高規格幹線道路のネットワークの形成は、日本の食糧基地・観光資源の提供の場として、その役割をしっかりと担うための最重要課題です。そのため、早期に高規格幹線道路のネットワーク化が図られるよう、地元市町村や関係団体などと一体となって取り組んでいきます。
また、道路に関しては、観光拠点や空港、港湾などの主要な交通結節点へのアクセス道路の整備を通じた広域観光ネットワークの形成やバリアフリー化の推進など、観光客の利用に配慮した施設整備などに取り組むとともに、わかりやすい道路標識の整備による情報案内機能の充実や、北海道らしい美しい景観の形成に資する新しい取組である「シーニックバイウェイ」への支援などに努めていきたいと考えています。
空港の整備については、本道へは道外のみならず、東アジアを中心に海外からの観光客が飛躍的に増加してきています。
そのため、これまでも道管理の空港については滑走路延長などの整備を行い、観光客が快適に観光できるよう、航空ネットワークの整備に努めてきたところです。
現在は、奥尻空港において、滑走路を800mから1,500mに延長する事業に11年度から着手し、18年3月に全面供用を予定しています。
景観については、基盤整備においても景観に配慮して事業を実施することが重要であると考えています。そこで、13年に制定した「北海道美しい景観のくにづくり条例」に基づき、「北海道公共事業景観づくり指針」を策定し、これまでも景観に配慮した公共事業の推進を図ってきたところです。今後とも、観光地周辺の公共事業の実施にあたっては、この指針に沿った事業を展開していきたいと考えています。
その他にも、オートキャンプや花観光など、新たな観光資源としての役割が担える道立広域公園や総合公園など、身近な自然とふれあえる付加価値の高い都市公園の拡充を図っていきます。

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