建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年7月号〉

interview

健康になる町をキャッチフレーズに移住プロモーションの受け皿へ

気品のある農業と農村景観づくりを目指す

北海道当別町長 泉亭 俊彦 氏

泉亭 俊彦 せんてい・としひこ
昭和 12年 6月 17日生
昭和 46年 5月 当別町議会議員(平成5年2月まで連続)
昭和 58年 5月 当別町議会 副議長(至 昭和62年4月)
昭和 59年 2月 当別土地改良区 理事長(至 平成14年10月)
昭和 62年 3月 西当別農業協同組合 代表監事(至 平成5年3月)
平成 5年 8月 北海道土地改良事業団体連合会総括監事(至 平成13年8月)
平成 7年 5月 当別町議会議員
平成 11年 5月 当別町議会 議長(至平成13年6月)
平成 13年 2月 石狩管内町村議長会会長(平成13年6月)
平成 13年 8月 当別町長 現在に至る
石狩管内当別町は、新篠津村との合併が中止となり、自立の道を歩むことになった。だが、将来は22億円を越える財源不足が確実視され、その道は険しい。だが、財政の再構築プランに取り組みつつも、農業の独自ブランドの確立、農村景観の改善、道の推進する移住プロモーションに合わせた住環境の整備など、戦略的な施策を進めることで活路を見出そうとしている。そうした取り組みを泉亭俊彦町長に語ってもらった。
――今年度の予算は、どのような概要になりましたか
泉亭
17年度は、前年度から約4.2%の縮小予算で、一般会計は91億、特別会計を入れると164億です。全体では約1.4%程度のマイナスですが、一般会計ではマイナス4.2%とならざるを得ない状態です。町長に就任してからは、毎年この状態が続いているので、今後は22億円あまりの財源不足になることを町民に報告した上で、今後の4年間の再構築プランを、町民と一緒に作成し、今年がそのプランの初年度です。
――限られた財源でどのようなまちづくりを実施しますか
泉亭
まずは、人口対策が重要で、人口を倍増させることを目標とします。町長就任時から行っている美しいまちづくりに向けて、今年は景観形成のための基本計画を策定すべく、景観委員会も拡充します。交通体系の構築に向けては、病院や大学、ゴルフ場などを巡回する民間の路線バスや、スクールバスも含めて一元化するための調査を行っています。
そのほか、情報通信基盤の整備として、行政サービスをネットワーク化するための電子申請システムの開発を中心に行っています。また、町内にある北海道医療大学との連携による商店街の活性化や、福祉・医療政策で連携を取ることを中心に予算編成しました。
――再構築プランの内容は
泉亭
住民サービスを維持するためには、これからは支え合っていかなければなりません。住民はサービスを受けるだけ、行政はサービスするだけの時代ではなく、住民参加の新たな仕組みを創り、効率的な行政にするために徹底して議論をし、4つの柱を立てたのです。一つは住民参加の推進、二つは事務事業の見直しです。支出の伴う施策は400〜500事業もあり、それら全てを見直して、施し型、ばらまき型の施策は、方向性を見直しています。例えば、従来の出生祝い金などの代わりに記念植樹をすることにしましたが、なかなか好評なのです。
三つは、行政組織の簡素化を進め、将来的には職員定数を削減していくことです。四つ目は、これらを通じて、財政基盤を健全化していくことです。
この再構築プランが予定通りに進めば、町は自立できます。
――1期目の政策についての自己評価は
泉亭
就任当時から見て、強く感じるのは、役場と町民の目線が同じになったということです。町民の皆さんが、資金が乏しいので、行政とも協力して何かをしようと働きかけてきます。今までなら、町職員のコンサルとしての頭で考えたことを施すという形でしたが、逆にどうしたら良いかと問いかけてきた姿勢が、功を奏していると思います。
今後も、こうした対話路線の延長で、これからの地方自治体はどうあるべきかを追究し、住民自治で、住民が本当に満足を得られることを、早い段階から相談し合い、情報を提供し合って実現していく体制を定着させたいもので、町民の意識をそのように変えられれば、私の町政執行は50点以上になるものと考えています(笑)
――まちの財源となる基幹産業の振興策は、どう取り組みますか
泉亭
基幹産業は農業で、1,400〜1,500戸だった農家が、この10年で800戸に減少しました。しかも65歳以上の高齢者比率が30%にもなり、後継者もいません。このままで国が提唱する法人化や大規模化が進むと、農村は崩壊してしまいます。そこで、私たちは年寄りも若い人も小規模農家も、みなが連携する集団営農という体制を取っており、国も去年一年間の実績をそれなりに評価してくれています。
今後は、独自のブランドの実現を目指します。過去には花卉類が全道一になったり、平成16年には大豆が日本一として受賞した実績もあり、これらのブランド化を目指しています。これからは、本当に良い土壌で作った物で、生で食べても元気の出る食材と言えるものを作ろうという方向に向っています。
また、農村全体の景観を向上させ、ただ食料を生産するだけでなく、より気品のある農村を目指しています。美しい農家の住まい、みち、並木、そうした景観の中で実が結実している風景を都会の人が羨ましく思うような農村景観を、みんなで創出し、そこで個性的なスローフードでゆったりしたサービスを提供したいものです。肥料や農薬を隠れて使用するのではなく、良い堆肥を作り、土と人間とが互いに近しい関係になることが理想です。この取り組みに農家が懸命に協力してくれれば、行政としてはメディアや町外に向けて、「これが本物だ」とアピールする方針です。
単に食料を安く大量に作って高く売るという発想は捨てて、土とそこに働く農家とがお互いに気品のある良い関係になるという、原点に戻ることを目指そうとしています。
――今後の町政においては、どんな施策が必要になると展望していますか
泉亭
北海道は、人口移住プロモーションによって、団塊の世代を受け入れようとしていますね。もし北海道で移住プロモをするとしたら、道都である札幌に近い当別町を、そのステージにしてほしいものです。現在、私たちは優良田園住宅構想を進めており、市街地の中の広いスペースでファーミングしながら、のんびり過ごしてもらえるところに住んでもらうというものです。
また、町有林が2,200m2、林道も30km以上もあるので、そうした林道で森林浴、森林セラピーをしてもらえば血糖値が下がるといわれています。全国的にも森林セラピーの研究が立ち上がっており注目を集めております。
幸い当別町にも北海道医療大学という「知的財産」がありますので、専門的な立場での助言をいただけると思います。利便性の高い札幌に非常に近くにありながら、農村景観でセラピーのできるような町で過ごしてもらうことを、政策として掲げており、現実的に実施していこうと考えています。そのためにも医師や山林に詳しい専門家などによるセラピーなどの専門委員会も設置することが必要です。山の中を歩きながら食べられる野草、木の実などのガイドができる人材を確保し、健康になる町を売り文句に人口増に向けての取り組みが有効な施策だと思います。

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