建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年5月号〉

interview

観光産業を基軸としたインフラ整備で沖縄の新たな時代を築く

ハード・ソフト両面からインフラをサポート

内閣府 沖縄総合事務局次長 渡口 潔 氏

渡口 潔 とぐち・きよし
昭和27年10月19日生
本籍 長崎県
学歴 昭和50.3 東京大学工学部土木工学科卒業
昭和 50. 4 建設省入省
60. 7  同 中部地方建設局企画部企画課長
61. 8 派遣 国際機関ESCAP(バンコク)
平成 元. 3 経済企画庁総合計画局副計画官
3. 5 建設省中部地方建設局愛知国道工事事務所長
5. 4  同 企画部企画調査官
6. 6 建設省都市局都市総務課建設専門官
7. 6 通商産業省環境立地局立地政策課地域振興室長
9. 7 建設省大臣官房政策企画官
11. 4 鳥取県土木部長
13. 4 国土交通省中国地方整備局道路部長
14. 7    同   国土計画局調整課長
16. 7 内閣府沖縄総合事務局次長
今年は日本の戦後60周年であると同時に、沖縄返還33年目に当たる。日米安保体制の下で観光王国として築き上げられてきた沖縄の県土は、米軍の再編につれ、その様相も変わることが予想される。その将来像から沖縄は観光産業を基軸に、なおさら自立に向けての力強い歩みが求められる。それをインフラ整備の側面からサポートする沖縄総合事務局の渡口潔次長に、今後の基盤整備事業の必要性と政策的展望を語ってもらった。
▲高速と58号(西海岸道路)による梯子の形成
――沖縄の社会資本整備の現況からお聞かせ下さい
渡口
沖縄は島の面積に比べて海岸線の総延長が非常に長く、各離島には空港があり、交通における港湾・空港の重要性は非常に大きいものがあります。本土からの観光客も全て空路で来訪し、それを那覇空港で一旦受け入れ、本島は車で、離島へは飛行機で乗り継ぐ交通体系ですので、インフラの充実が重要な課題です。
また、沖縄本島の中南部は人口が非常に稠密です。例えば高速道路の沿道状況で言いますと、東名高速・東京−厚木区間などで周辺に住宅、マンションが接近していますが、沖縄中南部もほぼ同じ立地状況にあります。渋滞の度合いも全国都道府県別で5番目に大きいのです。
――まだまだ道路整備が必要ですね
渡口
その一つの要素はレンタカー需要の高さです。かつて沖縄観光といえば50人乗りのバスで観光地を2泊3日で巡るツアーが主流でしたが、今日ではレンタカー利用が最も多く、県内中部地域の交通状況の調査では、国道58号通行車両の11%がレンタカーで、つまり9台に1台の割合です。もちろんこれは夏場のデータですが、沖縄は年間を通じて観光客が多いので、必然的にレンタカーの比率は高い傾向にあります。しかしこれまでレンタカー対応の道路政策は誰も考えてきませんでした。
そこで、その対策としていくつかのポイントがあります。一つ目は、来訪者はレンタカーで観光地を巡ることが多いため、はじめての人にもわかりやすい標識が必要です。二つ目は、レンタカーの場合はホテルに駐車して宿泊するわけですから、ホテル側も広い駐車場を確保する必要があります。
三つ目は道に不案内である訪問者のために、レンタカーにカーナビを標準装備することです。実は、日本で最初にカーナビ付きのレンタカーが登場したのがこの沖縄でした。ただ大雑把な観光ポイントしか表示されないのが問題で、実際に2回目の来訪者ともなると、もはや首里城や美ら海水族館などメジャーな観光地へは行かずに、穴場のダイビングスポットや地域で話題の食堂などのマイナーなところへ行くケースが多いのです。そうした情報も網羅した沖縄専用のカーナビシステムを開発したいと考えています。四つ目として、レンタカー用の、道の混み具合や車線数、シーニックポイントなどを表現した地図の作成を考えているところです。
――確かにリピーターは個人旅行が多いですから、団体から個人までも幅広く楽しめるソフト的な対策が必要ですね
渡口
メジャーな観光地だけでなく、マイナースポットにも訪問してもらい、消費してもらう構造ができてこそ、沖縄経済全体の底上げが実現できると思います。
そうした対策は、直轄の国道だけの課題ではなく、観光ルートとなる道路全てが対象となりますので、県とも協議の上で進めています。カーナビについても県の観光リゾート局やコンベンション、レンタカー会社、それから観光エージェンシーらと連携して進めていく考えです。
また、観光客は那覇空港に到着し、そこでレンタカーに乗り換えるわけですが、現状では何百台ものレンタカーが駐車場に収まらず、周辺の空き地に駐車している状況です。一方で、空港には早く到着した利用者もレンタカーやマイクロバスの手配のために30分〜1時間も空港やレンタカー会社の営業所で待たされており、非常に効率が悪くなっています。
そこで将来的には操車場の設置を考えています。空港からレンタカーの駐車場までは、各社共同のマイクロバスで利用客をピストン輸送し、そこに集まった20〜30社程度のレンタカー会社から、各自が予約していた会社窓口に向かえば済むわけです。またレンタカー会社が集積していれば、もし車両が足りなくなっても他のレンタカー会社から一時的に借り上げるという融通も利くようになります。利用客も返却場所はわかっていますから、あとは係員が回収すれば済むことです。
このように、空港近くで各社合同のレンタカー駐車場ができれば、非常に効率的になると思います。
――インフラ整備を担う立場から、沖縄観光の魅力と課題をどう捉えていますか
渡口
沖縄の魅力は、綺麗な海と独自の琉球文化です。ただ、沖縄には観光地としてのショッピングの魅力がやや不足している感がありました。香港やハワイ、シンガポールでは、為替差を活かしてブランド物を手頃な価格で扱う店舗がありますが、沖縄では、陶器やパイナップルなどの地産品は豊富ですが、買い得のブランド品のショッピングが出来る場がなかったのです。
しかし、最近になってようやく二店舗が開店しました。空港の南側の「あしびなー」と、この3月にオープンしたdfsギャラリアです。dfsギャラリアの横にはモノレール駅もあり、そこでレンタカーの返却もできます。したがって、空港でレンタカーを借りて1泊2日で本島を巡り、戻って車を返却した際にもショッピングを楽しめるようになりました。モノレールとショッピングの利便性という魅力に、レンタカーの利便性が有機的に結びついているのです。
▲沖縄都市モノレール(愛称:ゆいレール)
――今後の道路施策の課題は
渡口
沖縄は縦に長く、東海岸側に高速道路が、西海岸側には58号という幹線道路が南北に走っています。この平行する二路線を「ハシゴ構造」と呼んでいますが、それを横に繋ぐ連絡道路を、もう少し整備する必要があります。高速道路の利用率は全国で13%、海外では30%程度なのですが、沖縄では7%に過ぎないのです
利用率を上げるための施策としては、ひとつは値段を下げることです。現在ETCを利用すれば高速道路の料金が朝夕は5割引になる料金システムのほか、2泊3日でのレンタカー利用客には、2000円を上乗せすれば高速道路乗り放題という実験を始めました。これはアンケート調査のために実施しているものですが、どこでも何回でも乗り降りが可能ですし、2000円という価格は、すぐに元をとれる金額です。昨年11月から実験をはじめていますが、実際に高速道路の利用回数は飛躍的に増えました。
もうひとつは利便を向上させるためのインターチェンジを増やすことです。沖縄自動車道と58号によるハシゴという構造を着実に構築することを考えたいものです。インター間隔は現在は6km程度ですが、先に述べたように東名高速の東京から横浜・湘南区間に相当するような道路ですから、全国平均である7km間隔では、とても足りないのです。そこで3km程度の間隔で、インターチェンジを造っていきたいと考えています。
そうすれば58号との乗り換えがスムーズになります。これまでは西海岸の58号が混雑し、東海岸の高速道路は空いている状況があったのですが、新しくインターチェンジと横断道路が出来るとこれまで以上に高速道路が利用しやすくなります。
また、現在ETCの専用インターは全国的な社会実験に合わせて安価に整備できるのです。社会実験で整備されたインターチェンジは全国では28ヶ所ありますが、沖縄にはまだありませんので、早期に実験に取りかかります。
さらに、米軍基地返還後の道路整備も構想しなければなりません。例えば宜野湾市の米軍飛行場が返還されたあかつきには、そこを通過する横断道路を高速道路に直結し、インターを配置します。これによって、米軍跡地の利用価値も非常に高まるのです。
またこのハシゴのモデルはモノレールの計画にも関係します。モノレールの首里までの終着点を延伸して高速道路に接続させる計画です。実現すれば北部から高速道路を経由してモノレールへ乗り換えることができます。新しくインターチェンジを造ってそこに高速バス停を設置すれば、高速バスからモノレールにスムーズに乗り換えることが可能になるわけです。
――高速道路のバスストップに降りたら、その場にモノレールの乗り場があるというイメージですね
渡口
鉄道・モノレールは、バス停留所と同じ平面を共有しても良いのだと思います。ドイツでも同様の構造があるのですが、実際に九州新幹線では新八代駅で在来線と同一ホームで乗り換えられます。これは地下鉄を乗り換えるような感覚と同じで、降りたら10秒で乗り換えられる構造です。ただ、乗車券の扱いの問題もあるので、自動改札のようなシステムを導入するかもしれません。高速バスの場合は、乗る直前にバス・モノレール共通切符を発行すれば、そのまま改札なしにモノレールにも乗り換えることも可能となるのです。このようなシステムを是非実現させたいですね。
――日本の道路と車との関係の縮図が、沖縄に象徴されているような印象ですね。沖縄だからこそできるということもあるのでしょうか
渡口
観光客に不自由をさせるべきではないという合意が、県民全体にあると思います。
▲那覇空港ターミナル地区
――沖縄の空の玄関口である那覇空港の今後の動向は
渡口
現在、那覇空港は3,000m滑走路が一本ありますが、現在では福岡空港に次いで使用量が多いのです。利用形態は自衛隊と兼用で、中国が近いこともあり、スクランブルや演習を行っています。そこでもう1本滑走路を持ちたいところです。今後、関空の2期事業と羽田の第4滑走路事業が終わると、あとは福岡空港を国際空港として展開させる事業か、または那覇空港の滑走路増設が焦点になります。
したがって、福岡空港には負けない論理展開が必要です。現在では自衛隊と共用し、季節的なピークも時間的なピークも高いために、サービスレベルが非常に落ちています。やはり沖縄の場合は観光で来られる方が多いですから、空港の利用は、季節的には8月・9月に集中します。時間的にも中途半端な時間ではなく朝と夕方に集中してしまうのです。
一方で福岡空港にはビジネス客が多いので満遍なく運航しています。沖縄は観光客をベースにしたフライトスケジュールが組まれているので、時間帯のピークが大きくなります。そうした事情から、福岡ではなく那覇を優先して欲しいと主張したいですね。
――一方で沖縄は水対策が兼ねてからの課題であるとのことですが
渡口
沖縄では復帰後8つのダムを建設しており、治水・利水においてはかなり安定しています。実際に過去10年間は断水がありませんでした。昨年は少し懸念がありましたが、給水制限を決定した二日後には雨が降り出したので、結局制限はせずに済みました。
しかし今後は観光客にまで節水を呼びかけたのでは、観光客が逃げてしまうのではないかと懸念しています。夏はとにかく暑いですから、ただでさえシャワーを利用したり、水を飲みたいと思うでしょう。そのときに節水などと言えば、観光客に不満が募ると思うのです。ですからもう少し水量を増やす必要があるのです。
そこで現在、大保ダムの建設を進めており、このダムを含めてさらにいくつかのダムを整備し、水の安定供給に努めたいと考えています。
先般、稲嶺知事と話した際にもこのことが話題に上りました。10年に一度水不足が起こると、それが観光客の記憶に残り、「沖縄は水が乏しい」との風評被害を受ける事態になってしまうと。やはり水についてはもっと安心してもらわなければなりません。観光客を掴んで逃がさない政策を実施していかなければ、ハワイやグアムに奪われてしまうのです。
――昨年は、異例の多さで台風が上陸しましたが、被害状況は
渡口
被害は本土と比べると少なかったですね。沖縄で被害が少ない理由は4つあります。県土の地質である石灰岩が水を吸収してしまうこと。二つ目は県内には大きな川がなく、しかも割となだらかで急流がないこと。三つ目は、ほとんどの建物が鉄筋コンクリートで、家が倒れたり、屋根が吹き飛ばされるようなことがないのです。
さらに四つ目の要因として、台風が来たときの対処の仕方にあります。台風が来たら、誰もが一切の仕事、経済活動を中断し、過ぎ去るまで10時間くらいは自宅内に待避します。そのため、沖縄では台風で死者が出ることはほとんどありません。
一方で台風のために飛行機が欠航になり、帰れなくなってしまった観光客のために、空港のロビーで寝泊まりさせるのではなく、民家でホームステイをしてもらう活動を昨年から始めています。費用は航空会社などが負担しますが、県民の協力を得て、沖縄の一般家庭の民家に泊まってもらい、家庭料理を食べてもらう趣向で進めており、沖縄のホスピタリティの高さを実感してもらえるチャンスだと思います。
――局では、そうした観光産業を基軸に据えた視点の中で、インフラ整備に取り組んでいるのですね
渡口
行政だけでなく、県民も観光客に気持ちよく過ごしてもらうために、目的をひとつにして取り組んでいるところです。

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