建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2005年5月号〉

interview

圏央道が千葉県土を激変させる

地域の再発見を促し新たなビジネスチャンスを提供

国土交通省 関東地方整備局 千葉国道事務所 前所長 野口 宏一 氏

野口 宏一 のぐち・こういち
昭和 33年 5月 31日生
昭和 58年 3月 名古屋大学大学院修了
昭和 58年 4月 建設省入省 九州地方建設局福岡国道工事事務所
昭和 60年 7月 国土庁地域振興局 山村豪雪地帯振興課係長
昭和 62年 4月 建設省都市局都市政策課係長
昭和 63年 7月 四国地方建設局 土佐国道工事事務所調査課長
平成 5年 4月 建設経済局 調整課調整官
平成 7年 4月 四国地方建設局 大洲工事事務所長
平成 14年 4月 国土交通省関東地方整備局 千葉国道事務所長
平成 17年 4月 宮崎県土木部 高速道対策局長
千葉県は、ディズニーランド、幕張新都心、千葉ニュータウン、上総アカデミアパークなど、様々な開発プロジェクトを抱えつつも、成田空港、千葉港とのアクセスにおいて効率性が低く、また大市場圏となる東京都内との交通網も不十分であったため、ディズニーランドを除けば初期の目標を達成している状況にあるとは言い難い。その状況を一変させるのが、圏央道を骨格とした道路ネットワークである。アクアラインとの接続により、渋滞の激しい都内を回避しつつ関東圏を一巡できる環状道路で、これを背骨としつつ各種連絡道路網が構築されれば、各地に分散する開発プロジェクトの連携が発生し、新たなビジネスチャンスが生まれる。その整備に当たる千葉国道事務所の野口宏一前所長に、道路整備とその効果などについて伺った。
▲木更津JCT(空撮)
――事務所の所管しているエリアと地域的特色は
野口
我々は千葉県船橋市から東側のエリアを担当しています。県内は、地形的には平均標高が低い割りにはトンネルが非常に多いのが特徴です。127号を主に、富津市から南方には二十以上のトンネルが連続しているという状況です。しかも、古くに建設されたトンネルなので、断面が小さく大型車両同士、例えば観光バスなどもすれ違いが出来ない状況になっています。
そこで富津館山道路と館山線も含めて、大断面のトンネルを掘っており、観光や地元産業にとっても有益な路線にしようと事業を進めています。
――かつて、北海道豊浜、白糸トンネルの悲劇からトンネルの安全度が関心の対象となり、全国的に緊急の点検・補強が行われましたが、県内のトンネルについては
野口
その点では、我々も慎重に構えておく必要はあります。トンネルの拡大だけではなく、老朽トンネルなどの改築や、トンネルの防災関係などは、日頃から注意していく必要があると考えています。安心して通ってもらうことを、我々はモットーとしなければなりません。
ただし、よほど条件が整ったところでなければ、トンネルの拡幅までは実施できないので、現断面のままで早急に補強する手法が中心になっています。
――その他に、最近着手された主要事業は
野口
湾岸道路は、千葉市内で地下での立体交差が事業化され、工事発注した段階です。また、千葉市から房総半島の西側を通る16号へと接続する国道357号線で、共同溝の整備を行っています。一方、国道51号では順次4車線化の整備を進めているところです。
そのほか、20年来の事業として進められてきた富津館山道路が、昨年の5月に全線開通しました。それにリンクするネットワークとしては、高規格道路の主要事業である圏央道を残すだけの段階になっています。
――富津館山道路の概要は
野口
千葉県内の高速道路は、JH(日本道路公団)の事業区間としては富津竹岡ICまでで、富津中央ICから富津竹岡ICまでの区間が、この3月19日に開通しました。このため、残る区間は君津から富津中央までの区間となりました。その先の区間に位置するのが富津館山道路で、我々の担当する直轄部分と、jh担当部分との共同事業で進め、昨年の5月29日に全線供用した自動車専用道路です。
これが全線開通したお陰で、いよいよ事務所の最優先事業は、圏央道にシフトしたところです。
――湾岸千葉地区では、地下での立体交差となるのですか
野口
そうです。モノレールが千葉市内を通っているので、地上での立体交差が無理な箇所もあるのです。区間としては、二つの交差点を通過するかたちとなりますが、千葉市役所の直近を通るので、まさに市街中心部をスムーズに通過する形となります。
――この路線は、地域的には沿岸ルートですね
野口
地域的に見ると、国道16号と圏央道が千葉・東京区間を周回する路線です。この16号や圏央道が、都市部と郡部を色分けできる境界線になります。千葉はそうした二面性を持っているということですね。
――各路線の混雑状況は
野口
やはり国道16号、6号、14号、そして357号は、非常に混雑する路線です。
そのため、道路ネットワークの補強はしていかなければなりません。現在、51号など拡幅していますが、そうした交通容量を拡大していくための方法について、市民や地元の行政とも協議している状況です。
――圏央道は、多摩・八王子など西方は訴訟という事態になっていますが、東方は順調に進んでいるのでしょうか
野口
千葉県内においては、圏央道は5工区に分けて進めています。1工区は利根川から東関道までの区間で、2工区は東関道から千葉東金道路の終点までの区間。3工区は、すでにJHが開業している千葉東金有料道路の区間を活用、4工区は東金から茂原長南ICまで、そして5工区は、茂原長南ICから木更津JCTという区分です。
現在、事業として着手しているのは、1工区、4工区と5工区です。2工区については、船橋にある東京湾岸道路調査事務所が都市計画決定に向けて環境調査等を実施中です。
我々が所管する事業区間は、木更津JCTから木更津IC間を実施しており、その区間は我々とJHが共同して進めています。
施工区分としては、木更津JCT〜茂原長南までが直轄、茂原長南から東金までが、JHの施工するエリアとして分担しています。
――全線開通となった場合は、JHが全区間を管理運営するのでしょうか
野口
JHが有料道路の事業許可を持っている区間と、そうでない区間がありますが、最終的にはおそらくその方向になっていくと思います。
――神奈川・千葉を直結するアクアラインができた当初は、料金が高いと言われ、利用状況が懸念されましたが、内陸部の圏央道の完成が大きく影響しますね
野口
そうです。やはり、千葉県内の道路整備が不十分であるために、東京方面から千葉に訪問客が来てくれないということも、非常に大きな要素になっていると思いますから、圏央道が千葉の骨格の一つとなるでしょう。アクアラインから圏央道へ接続して、内房にも外房にも行けるようになり、あるいは房総半島の内陸部にもいけるようになれば、利用状況はかなり様相が変わってくるでしょう。アクアラインの交通量の増大に、大きく寄与できると考えています。
企業立地の面でも、例えば最近、茂原市で電機メーカー・日立が、液晶工場の起工式を行いました。それは、圏央道によって茂原市の交通利便性が向上する展望があったからだと思います。
観光面で見ても、最近は海水浴客はやや下降気味ですが、房総半島南部では、開花を早く楽しめるので、早春に訪問客を集めているという状況ですね。高速道路が繋がっており、山中で県の有料道路を通じて鴨川などに出られる形になっているので、鴨川周辺への客の入り方が変わってきたとの報告も耳にします。
併せて、千葉県内には18の道の駅がありますが、そのうち8つは南側に集中しているのです。そこでは、ユニークな取り組みをしている道の駅が多いのです。お陰で、房総半島全体の観光客は、ほぼ横ばいですが、そうした地域では、かなりアップしていますね。
――予算を投じただけの効果があったわけですね
野口
道の駅同士で連絡協議会のような組織をつくって活動しており、一つ一つの道の駅は小さくても、それらを集成すれば、大きなテーマパークのようになると思います。千葉にはディズニーランドという大テーマパークはありますが、それとはまた別の趣向のテーマパークと言えるでしょう。
――道路ネットワーク全体を展望した上で、新たに国道を新設しなければならないエリアはありますか
野口
新線としては、成田空港へのアクセス路線となる国道464号が重要です。印西牧の原に千葉ニュータウンがありますが、その開発エリアの中までは整備されていますが、そこからさらに成田空港までを結ぶ必要があります。
 そのため、新規路線として平成17年度事業化予定です。事業は県と直轄とで、およそ半分ずつくらいの区間を分担しますが、地域の新しい道路であり、成田空港のアクセス強化として重要な役割を持つものとなります。
――国際空港やニュータウンのアクセスは、やはり重要ですね
野口
何かあったときのために、複数ルートを東京方面に向けて結ぶことが大事で、道路だけでなく鉄道事業も一緒に展開していく予定となっています。とりわけ、千葉ニュータウンを抱える市町村としても、東京からだけではなく、成田空港周辺でも企業立地が進んでいるので、そうしたエリアで就業している人々の需要も念頭に入れて期待しているようです。
――まさに、道路が地域の繁栄における生命線となりますね
野口
その意味では、圏央道も合わせて、当事務所の担当ではないですが、外環状も千葉にとって大きなインパクトを持った道路です。
――都市部の共同溝については、行政機関のシステムの他に、民間企業のネットワーク施設も入る余地はありますか
野口
計画では、東電、NTT、千葉市下水道が入る予定です。357号神明蘇我区間は、渋滞区間でもあるので、施工に当たっては掘り返しを抑制し、渋滞を減らす工夫をしています。
――共同溝などの地下スペースの有効利用は、都市部として今後とも重要ですね。余剰スペースを民間にリースし、その収益を道路特定財源へ繰り入れる施策モデルの確立も可能では
野口
光ケーブルがかなり普及していますが、小さい断面で必要なスペースを確保できるので、今後とも都市基盤として重要になります。阪神淡路や最近の震災に見るとおり、何が起きるかわからない情勢ですから。
従前と比べると、通信ケーブルをさらに小断面にできるとのことなので、企業はすでに保有する基盤を光ファイバーに置き換えるなど、出来るだけ投資を縮小する傾向にあり、公共の共同溝への参加意欲という面で見ると、若干下火になっている状況にはあります。
その点では、今後の課題になると思いますが、すでに連続区間もあるので、共同溝を積極的に開放していく方向性は変わらないと思います。
また、共同溝だけでなく、情報BOXや電線共同溝なども、空いている余剰スペースを民間事業者に賃貸することはあるでしょう。その使用料は、自力で投資するよりは遙かに安価な設定になっています。
――公共投資を経済的なビジネスと捉えるのは、行政という立場では抵抗があるかもしれませんが、公共事業の財源が様々に論議される今日の情勢では、新たな財源対策として公共サービスに基づく収入の増加を図るのは有効と思います
野口
近年は道路特定財源だけでなく、全体的に公共事業が批判され、無駄に使われているのではないかと疑問視されていますが、事業を実施する立場としては、構築されたインフラ施設が有効に利用されている実態についての説明を繰り返しているところです。
PRの手法も、以前とは変わって、よりわかりやすい手法になっています。単に道路の新設、改築のアナウンスだけではなく、どのような効果を生み出すのか、アウトカムの試算と公表に力点を置く方向に変わっています。
ただし、それは道路事業者同士が共同し、県と市と国とjhが一体となった形でなければ、効果は望めません。各事業者が所管する単一の路線だけで、道路ネットワークを集結するという機能はないので、やはり共同ですることが大切です。
――国道、県道、市道、高速道路の全てが、繋がってこそ真の利用価値が生まれるものですね。ただ、利用者側からみると、現実にはどれがどの事業者の管理するものであるのか、認識が不明確のケースもあるのでは
野口
そうですね。北海道では開発局がすべての国道を直轄で管理しているので混同はないでしょうが、本州では県管理と国管理の場合があります。
しかし、基本としては、例えば県は圏央道から枝分かれして、独自に県道を整備していくわけです。道路の持つ機能は、各事業者ごとに違います。
――アウトカム指標についてのPRは、どのように行っていますか
野口
アウトカムプランとアウトカムレポートが、ワンセットになっています。近年では、平成15年度にアウトカムプランを策定し、その結果を集計したアウトカムレポートを発表してから、16年度のアウトカムプランを策定。そして、これからそれを集計したアウトカムレポートが発表になるという手順です。
その中で、今後はどのような道づくりをしていくのかについて、整備の基本方針を公表しています。
県の場合では、より具体的な事例紹介が多くなっています。例えば、千葉県にとって、当面の大目標は、千葉市から1時間で行けるエリアを県全土に広げるというものです。
――そうしたレポートについては、今後は信憑性が問われる可能性もあるのでは
野口
レポートは一年のタームで作成していますから、現実とはそれほど大きな狂いはありません。一方、目標については、達成に数年を要する場合もあることが予め判明しているものもあるので、その場合は翌年の目標だけでなく、数年後の目標として公表していることもあります。
――せっかく公共的に整備されたインフラですから、それを有効に利用して公共投資の配当を得ることが大切ですね。逆に、そうしたインフラの有効な活用法を、管理者から提案するのも一法では
野口
地元が上手く活用して乗ってきてもらえるかどうかがポイントです。例えば、先に触れた道の駅などは、良い事例だと思います。最近の興味深いケースでは、富山町に「富楽里とみやま」という道の駅があり、南総里見八犬伝のふるさとでもありますが、そこは一般の県道からも、富津館山道路からも進入できるという、全国でも珍しい構造になっています。
また、富浦町には「全国道の駅グランプリ」で最優秀賞を受賞した「とみうら」という道の駅があり、別名「びわクラブ」とも呼ばれ、びわの産地で有名です。びわを利用した食べ物や石けん、酒などを独自ブランドとして製造・開発していますが、この時期はイチゴ狩りのシーズンでもあり、旬の魚のおいしい食事処のセット券などと併せて売り出しています。道の駅だけではなく、それを端緒にして地域全体を盛り上げるということです。
――道の駅も、使い方次第で様々なビジネスチャンスが生まれますね
野口
我々は、インフラという基盤は提供しますが、あとは地元の皆さんで考え、特色を生かしたものを創ってもらうことです。大切なのは、来てくれるのをただ待つのではなく、PRをして積極的に呼び込む考えで取り組むことでしょう。
――道路ネットワークが完成すれば、そうして生まれた新規ビジネスの市場をさらに拡大することも可能ですね
野口
例えば、房総半島南部は、千葉市内から一時間半くらいかかっていたのですが、館山道が全通すれば、わずか一時間で到達できるようになります。千葉市内からだけでなく、東京からでもアクアラインを利用すれば、それが可能です。そうなると、今まであまり注目されなかった地域が再発見され、その特色を改めて見直して評価される可能性も生ずると思います。
また、千葉県のユニークな特色は、世界の玄関となる成田空港の他に、千葉港もあることです。東京港、横浜港に比べて目立たないのですが、港としてはかなり大規模で、重量・体積で見れば日本一なのです。目立たない理由は、コンテナ埠頭や一般者のための旅客、貨物ターミナルがあるわけではなく、企業がプライベートに所有する埠頭の集積で構成されているからです。そのために製油会社、製鉄会社が大規模に用地を占めているのですね。
――道路網の完成によって描かれる千葉の将来像は
野口
圏央道が千葉県の骨格となり、それが各事業者の道路に接続し枝分かれすることで、千葉県全体の発展に繋がると思います。そして、それ自体が環状道路としての機能も持つようになります。
成田空港の受け皿としても、これまでアクアラインにつながる千葉県側の整備がさらに進めば、十分な受容力を持つことになるでしょう。そして、企業立地も道路整備の進捗につれて、これからさらに盛んになるものと思います。

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