建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年12月号〉

interview

大都市拠点空港の量的拡大が課題

便数が増加すれば利便性が向上

国土交通省航空局長 岩崎 貞二 氏

岩崎 貞二 いわさき・ていじ
昭和 24年 8月 25日生 滋賀県出身 東京大学経済学部経済学科
49年 4月 運輸省入省(船舶局管理課)
51年 5月 航空局飛行場部環境対策第一課係長
53年 5月 鉄道監督局民営鉄道部管理課係長
54年 9月 札幌陸運局企画係長
55年 11月 海運局定期船課専門官
57年 6月 海上保安庁警備第一課補佐官
58年 9月 国土庁地方振興局総務課補佐官
60年 6月 海上技術安全局船員部労政課補佐官
61年 11月 海上保安庁政務課補佐官
63年 2月 阪神高速道路公団経済課長
平成 2年 6月 貨物流通局企画官
3年 9月 総務庁交通安全対策室参事官
5年 7月 運輸政策局観光部旅行業課長
7年 6月 東京都都市計画局新線計画担当部長
9年 7月 自動車交通局企画課長
11年 7月 自動車交通局総務課長
13年 7月 大臣官房審議官(自動車交通局)
14年 8月 航空局管制保安部長
16年 7月 航空局長
利用者にとっては、出発時間を気にせずに利用できる航空が望ましいが、そのためには空港ネットワークの構築と、さらに利用率の高い大都市拠点空港の量的拡大が必要だ。とは言え、需要動向を無視して闇雲に拡張するわけにはいかず、かといって常に満席で、緊急時の利用が望めない窮屈な状態では、利便性が低く、利用者の足も遠のきかねない。また、航空各社の採算性の問題もあり、さらには国際競争という課題もある。そうした諸問題を俯瞰しつつ、今後の航空政策と予算措置をどうするのか、国土交通省岩崎貞二航空局長に伺った。
――新年度予算編成に向けて、今後の航空政策やインフラ整備はどこにポイントを置いていますか
岩崎
一昨年から政策の舵を切り変えています。空港の整備は基本的に大都市拠点空港に重点配備しています。地方空港については、一部建設中のものも含め、概ね各地にできましたから、大局的に見れば、ネットワークは概成しています。不足しているのは、大都市圏拠点空港なので、その整備を着実に進めていくことが重要なポイントです。
大都市拠点空港は、成田、羽田、関空が中心ですが、成田空港は今年の4月から会社法人として民営化し、運営に取り組むことになりました。現在は2本の滑走路があるものの、1本は暫定供用で2,180mしかなく、延長が不足しています。これを2,500m級として本来の国際線仕様にしていくのが今後の課題です。
羽田空港は国内線用で、3本の滑走路がありますが、混雑状況からもう1本の滑走路が必要です。事業としてはすでに予算化されていますが、2009年度までに完成させるために必要な予算措置と手続きを確実に進めていきます。
関西国際空港は、現在滑走路が1本しかないので、2本目の滑走路の整備に着手します。埋立は今年度中にほぼ完了する予定ですから、来年度からは滑走路や誘導路といった上物整備に着手することになります。ただ、輸送需要はある程度の見通しがあるものの、膨大というわけでもないので、スムーズな運用に最低限必要な滑走路、誘導路だけに絞って施設整備を進める考えです。これからさらに需要が伸びていけば、本格的にターミナルの増設なども着手していきたいと思います。
――羽田空港のd滑走路は、その工法について様々な提案がありましたね
岩崎
3つの提案がありました。1つは埋立と桟橋を組み合わせるハイブリット工法、2つ目は一本の桟橋を造る工法、3つ目は浮体工法(メガフロート)です。2年前に工法選定のための委員会を開き、外部の専門家にそれぞれ意見を求めたのですが、3つの工法とも空港としては機能するとのお墨付きをいただいたのです。
これらの三種の工法から、最も技術的に安定的で、工期も確実で、事業費もリーズナブルなものに決定します。そこで、7月に入札を公告して8月に得た結果は、メガフロートは業界として無理とのことで断念。埋立と桟橋のハイブリッド工法のみが応募することになりました。本音を言えば、メガフロートも応募してもらいたかったのです。またそのためにメガフロートにも参加しやすいような入札条件にしたのですが、諸事情があって、その実現には至らなかったということです。
――施工費や難易度の問題でしょうか
岩崎
メガフロートによると、理由の一つはゼネコンやマリコン業界からの協力が得られなかったとのことですが、我々としてはメガフロートという単なる鉄板を製造して欲しいわけではなく、あくまでも鉄板を係留し、その上をきちんと舗装し、滑走路を整備して空港を造って欲しいわけです。
そのため、メガフロートにも係留し、滑走路の整備する技術が必要ですが、それはやはりゼネコンやマリコンの技術分野です。そのため、できるだけ多くの業界が参加できるように入札の制度を設計したのですが、協力が得られなかったわけです。
もうひとつは、海運が好調で造船業界は景況をかなり持ち直しましたが、そのことも影響しているのではないかとも思います。
――羽田空港は、いよいよ新ターミナルが完成を迎えましたね
岩崎
この12月に第2ターミナルが完成しますが、現在29万回の離着陸の中で、ボーディングブリッジを使わずにバス輸送を行っているのはおよそ3割強に上ります。新ターミナルが完成したことで、バス輸送がゼロになるわけでもありませんが、1割弱くらいに減少します。大部分は搭乗口から直接搭乗できるようになります。その意味では、利便性はかなり高くなると思います。
しかし、羽田に4本目のD滑走路が整備され、離着陸数が41万回に増えると、また不足します。そのため、もう一つの国際線のターミナルをpfiで整備することも検討しています。
――羽田空港でそれほどの容量を持ち始めると、成田空港との競合という懸念はありませんか
岩崎
4本目の滑走路ができた後、羽田で国際線はせいぜい3万回ほど入れる予定です。成田空港は年間18万回です。一時的に成田空港の利用率が下がることは、場合によってはあるかも知れませんが、需要動向についての懸念はありません。
――成田空港は、都心から遠いという利用者の声も聞かれます
岩崎
成田新高速鉄道という会社が設立され、新線建設の計画も進んでいます。それが完成すると、日暮里から成田までは約35分になりますから、アクセスはかなり改善されると思います。
――関西国際空港は、2本の滑走路の整備をもって完成でしょうか
岩崎
当面は2本の滑走路を完成させ、2期島や誘導路など、必要最小限の整備に止める考えですが、さらに需要が伸びていけば、新ターミナルの建設も必要となるでしょう。しかし、まだそれを検討するだけの需要に至ってはいません。
国際的な航空需要というのは、基調としては拡大していくと思っていますが、例えばSARS問題などによって下がることもあります。施設整備に当たって、あまり長期的に楽観的な予測で無秩序に造っていくのではなく、当面必要なものを着実に整備し、将来に備えられるようにしていくことが、正しいスタンスだと思います。
――首都圏のラッシュを見ると、鉄道事業などは逆に整備が遅れてしまった感がありますね
岩崎
そうですね。空港の場合も、社会経済における活性化対策のひとつとして、基礎的なインフラとして意義と役割がありますから、将来予測を悲観的に見て、整備を止めてしまうというスタンスも間違いだと思います。
――中部国際空港は、pfi方式で整備・運営される点で注目されますね
岩崎
来年2月の開港ですが、中部会社でできるだけ実用的で、利用しやすくかつコストが安い空港を造ることを主眼にして進めていますね。
国が直轄で整備する場合、より公平性が求められるので、限界もありますが、民間の場合はコスト抑制を第一に優先しています。もちろん、国の直轄事業でもできる限りコスト縮減のために、いろいろな手法を採り入れる取り組みを進めています。
――ただ、コスト低減に拘りすぎて、建設需要がもたらす本来の経済的波及効果が失われた上に、成果品の品質も保証できるのかどうかが問題では
岩崎
確かに事業費が低くても、後の維持管理にコストがかかるのでは困ります。表面的な節約だけではなく、維持管理コストも含めて入札し、廉価に整備するのが望ましいですね。
国際空港は、まずは滑走路をきちんと造ることが基本です。世界の国際拠点空港というのは、仁川であれ上海であれ、または欧米諸国の空港にしても、やはり複数の滑走路を持って、エアラインに対してスムーズに運行できる施設を提供することが基本です。
その点から見ると、日本の拠点空港たる成田などは、滑走路が2本とは言いつつも1本は短く、関西空港などは1本しかないのです。
よく誤解されることですが、欧米の飛行場に比べて、日本の飛行場は使用料が高いと言われますが、決してそんなことはないのです。例えば、成田空港とヒースロー空港などを比べてみても、決して成田が高いわけではありません。見落としてはならない重要なポイントは、徴収方法が違うことです。成田は着陸料金を徴収しますが、ニューヨークなどでは空港税というかたちで、エアラインからではなく、利用客から徴収しているのです。着陸に伴って徴収する価格は、実はそれほどの差はありません。
ただし、仁川や上海に比べれば、もちろん向こうの方が安いわけです。だから、それにも対抗出来るように、現在の水準を下げる努力をしなければならないわけです。そのためにも成田は民営化したわけで、それによって運営の規制が緩和され、非航空事業系の収入も得るなどして、民間企業ならではの知恵を出してもらいたいと思います。
――アジア諸国は人件費などの基礎的なコストが低いという強味があるため、それと同等に競争するのは厳しいですね
岩崎
仁川並みに成田の着陸料が下げられるかといえば、率直に言って難しいと思います。とはいえ、欧米と同レベルだから良いというわけにもいきません。できるだけ無駄をなくしていくのは当然です。コストを下げる一方で非航空系収入を上げ、その結果として着陸料も下げるというのが、今後の方向性だと思います。
――近年は、テロ対策が世界的な課題となっていますが、国内での状況は
岩崎
来年度予算でも、そのための予算要求をしています。旅客に対する検査、機内に持ち込む手荷物に対するチェックはかなり厳重になっています。そうしたセキュリティシステムは、ある程度出来上がりつつあると思いますが、今後は貨物、旅客の機内に預ける手荷物に対してのチェック体制については、さらに工夫していかなければなりません。
例えば、機内に預ける手荷物の検査システムは、今までは受け付けカウンターでチェックしていましたが、それでは一回しか検査できないので、二重三重のチェックを実施しようと考えています。そのための検査システムの導入を進めていきます。
――今後の航空政策に向けての課題は
岩崎
空港建設だけではなく、完成した空港をさらに便利にするには、どうすべきかも課題です。例えば、アクセスをさらに向上させる方策や、就航率を上げるための施設整備です。
空港容量の拡大に向けて、大都市圏拠点空港の整備を続けつつも、新しい視点で今ある空港を従来よりも良い空港にしていくことが必要です。
――空港の多目的利用は可能でしょうか
岩崎
なかなか難しいですね。現在の空港の容量などを見ると、日本ではジャンボ機などの大型機による定期便を中心にしています。50人乗り、100人乗りといった小規模の飛行機や、あるいはビジネスジェットの運行などは、ずいぶん望まれているのですが、滑走路がすでに満杯です。そのため、より大きな飛行機で運行した方が、より多くの人にサービスできるわけです。
ただ、いずれ滑走路が増えて、様々な航空需要も着実に伸びれば小規模の飛行機が着陸できる可能性もあります。そのために器を大きくしていけば、現在は日本の航空マーケットは大型定期便を中心に構成されているとはいえ、変化も見られるようになると思います。
世界的に見れば、羽田ほど大規模の飛行機が運行している空港はないのです。どこの空港も平均すると、1機あたりのキャパシティは概ね120〜130人くらいですが、羽田では1機あたりの輸送量が平均300人に上ります。
――やはり、一回でより多くの旅客を輸送した方が、経済効率は良いでしょう
岩崎
1日2便程度の路線だったのを小型の飛行機を導入して四便五便にしたところでは、むしろ採算性は上がっている事例も聞きます。飛行機のサイズを小さくして、効率的な飛行機で便数を増やす方が路線の採算性は上がってきます。地方空港については、それができるようになれば、さらに経営改善出来ると思います。
――能登空港のように、自治体が観光をアピールしつつ、航空会社に搭乗率を補償することで成功した珍しい取り組みもありますね
岩崎
失礼ながら当初は、能登空港は現実には難しいのではないかと思っていましたが、地域が空港を巧みに活用し、活性化させるべく取り組めば、あのような成果も可能であることを、我々も勉強させてもらいましたし、他の地域にとっても、良い事例になったと思いますね。
そこで、空港を活用しつつ地域をいかに活性化させていくかを、我々も一緒に考えていけるような取り組みをしたいと思い、各空港で関係者と連携するための空港活性化協議会をいくつか始めています。まだまだ試行錯誤は続くとは思いますが、それも今後の政策ですね。

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