建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年11月号〉

interview

近畿6府県188市町村の広域埋立処分場整備を担う大阪湾広域臨海環境整備センター

新たに大阪湾に「大阪沖埋立処分場」を建設

大阪湾広域臨海環境整備センター 常務理事 樋口嘉章 氏

樋口 嘉章 ひぐち・よしあき
昭和 30年 12月 8日生
兵庫県出身
昭和 53年 3月 東京大学工学部土木工学科卒
昭和 53年 4月 運輸省入省(第二港湾建設局横浜調査設計事務所)
昭和 55年 4月 港湾技術研究所土質部動土質研究室研究官
昭和 58年 1月 第二港湾建設局海域整備課企画係長
昭和 59年 4月   同 上  企画課第一計画係長
昭和 60年 7月   同 上  企画課補佐官
昭和 61年 4月 総理府沖縄開発庁振興局振興第三課専門官
昭和 62年 11月 関西国際空港(株)建設事務所技術課課長代理
平成 元年 10月 運輸省港湾局技術課補佐官
平成 3年 4月 (財)国際船と海の博覧会協会事務局催事部長
平成 5年 1月 (財)国際臨海開発研究センター企両部主任研究員
平成 6年 4月 運輸省第三港湾建設局松山港工事事務所長
平成 8年 7月 下関市港湾局長
平成 11年 6月 運輸省第三港湾建設局環境技術管理官
平成 12年 5月 国際協力事業団長期派遣専門家
(インドネシア共和国運輸通信省海運総局派遣)
平成 14年 7月 国土交通省港湾局環境・技術課技術指導官
平成 15年 4月 兵庫県健康生活部参事
(大阪湾広域臨海環境整備センター派遣)
商都・大阪の経済を支える大阪港が、スーパー中枢港湾として指定された。アジア圏との物流が、他港に抜きんでて多い大阪港は、主力として開発が進む夢洲地区と、現在のコンテナ物流の中心である咲洲地区とが直結していないため、輸送効率に難点があった。そのため、両地区のアクセス向上に向け、沈埋トンネルによる臨港道路の整備を進めている。その最前線に立つ大阪港湾・空港整備事務所の樋口秀二所長に、事業計画と現場の状況などを語ってもらった。
――このセンターの事業概要からお聞かせ下さい
樋口
昭和56年に、当時の厚生省と運輸省が共管する法律として「広域臨海環境整備センター法」が制定されました。当時は廃棄物が次々と排出される時代だったこともあり、県境を越えて廃棄物の処理を適正に行うことを趣旨として制定された法律です。それに基づいて、昭和57年に大阪湾の4港の港湾管理者、近畿6府県の京都府、大阪府、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県と159市町村が共同出資し、行政範囲を越えて長期的・安定的、広域的に、廃棄物を適正に処理するための組織としてこの大阪湾広域臨海環境整備センターが設立されました。
このセンターが事業主体となって海面に最終処分場を確保し、さらに埋め立てた土地を活用して港湾機能の整備を図るという計画が「フェニックス計画」です。この計画は、首都圏を擁する東京湾と近畿圏を擁する大阪湾を想定して検討が進められてきたのですが、首都圏では現在に至るまでこの事業は実現しておらず、近畿圏でのみ計画が進められました。
当初の資本金は1億円で、大阪湾センターではまず第1期計画として、尼崎沖の埋立処分場と泉大津沖の埋立処分場を整備してきました。尼崎の処分場は平成2年1月から、泉大津の処分場は平成4年1月から受け入れを開始し、それ以来14〜15年間にわたって処理対象区域からの廃棄物受け入れを進めてきています。この二つの処分場では、管理型区画での廃棄物の受け入れを既に終了しており、現在は安定型区画でのみ廃棄物を受け入れている状況です。
――フェニックス計画の命名の由来は
樋口
廃棄物の焼却灰で埋め立てられた土地が、有用な緑の大地に再生するという意味で名付けられました。港湾管理者が考える将来の港の発展に資する土地造成というのがこの計画の基本的な考え方になります。昭和50年代は地価が右肩上がりの時代だったことも背景にはあります。翻って今の時代は、必ずしも地価が右肩上がりではなく土地需要もあまり多くはありません。
しかし、そういう情勢でも、すでに土地としてのかたちが出来ているところについてはそれぞれの港湾管理者が有効な事業計画を展開しています。例えば、尼崎の港湾管理者である兵庫県では「21世紀の森構想」に取り組んでおり、泉大津埋立処分場についても11月に埋立の部分竣工を予定しており、大阪府で土地利用を図る段階です。
  事業制度としては港湾管理者が出資しセンターが委託を受けて土地造成などの工事を進めるため、この造成された土地は港湾管理者の資産となります。我々も土地利用については興味を持っていますが、それをどのように利用していくかは港湾管理者で検討し、事業を進めます。長期的に見れば土地が有効に活用されているという意味で、有効な資産と言えます。
▲大阪沖埋立処分場(建設中)
――現在、進めている事業は
樋口
第2期計画で、神戸沖埋立処分場と大阪沖埋立処分場の事業を進めています。当初は同時にスタートし同時に受け入れを開始する計画だったのですが、実際には大阪沖埋立処分場の着手が若干遅れ、大阪沖はまだ工事中です。
神戸沖埋立処分場については震災後の平成10年2月から六甲アイランド沖で工事着手し、平成13年12月から廃棄物の受け入れを開始しました。現時点で受け入れを開始して3年足らずです。現在稼働している管理型の廃棄物処分場は神戸沖だけなので、全域から発生する管理型の廃棄物は神戸沖処分場に海上運搬して埋め立て処分しています。
現在、建設中の大阪湾沖埋立処分場についてはおよそ880億円ほどの事業費がかかると見ています。平成15年度末時点での出来高は約半分で、海底の地盤改良に力を入れているため、まだ水を切っていません。今後ケーソン設置などが進んでいくことになります。
――大阪湾の海底地盤の土地改良は難しいとのことですが
樋口
大阪湾には河川が流入しているので沖積粘土層が厚く堆積していることから、土地造成が難しい場所であることは事実です。
海底にはかなり固い洪積粘土層の上に柔らかい沖積粘土層が堆積しています。もちろん大阪湾では関西国際空港でもかなり大規模な埋立をしており、前人未踏の工事ということではありません。しかし、例えば関空の工事は、「豆腐の上に金塊をのせるような工事」といわれましたが、我々の現場でも豆腐にあたる、海底地盤の改良を確実にしておかなければならず、海洋工事の難しさを象徴していると思いますね。
――施工にあたっては、特別な工法を採用しているのでしょうか
樋口
ここではサンドドレーン工法とサンドコンパクションパイル工法という二種類の工法で地盤改良を行っています。サンドドレーン工法は、粘土の中に砂で直径40cmほどの柱を造って、上から土を盛り、その重みで砂杭を通して粘土の水を抜いて粘土を固くしていく工法です。これは粘土強度の発現状況をボーリングなどで調べながら進めていくことが必要なので、段階施工と言うこともできると思います。
一方、サンドコンパクションパイル工法は、もう少し大きな太い砂の柱を造って粘土を砂に置き換えて改良していく工法ですが、我々の現場では約35%と小さめの改良率で経済的に工事を進めているところです。
――樋口常務は、これまでにも関空の地盤改良に携わって来ましたか
樋口
昭和50年代に研究所に勤務したときは、大阪湾の粘土の試験をしていましたから、大阪湾の粘土とのつきあいは長いものです。その頃は神戸の第三港湾建設局(当時)に設けられた関空の着工に向けての準備室(関空計画室)があり、そこで様々な調査をしていたのですが、久里浜の研究所も支援体制を布いていたことから、現地のボーリングの立ち会いに来たりしていました。
その後昭和62年に関空会社の建設事務所で勤務していたときも、粘土の沈下安定管理についてはかなり取り組んできました。
関空の場合は沈下が非常に大きく、特に洪積層の沈下の大きさが問題になりましたが、私自身は平成元年に埋立がはじまり、洪積層の沈下がはじまったことを現場で確認してこれは大変だぞとわかったところで転勤になってしまったのですが…。
――そうした経験が、今回の大阪沖の埋立処分場などで生かされているのでは
樋口
事業費の出資者は港湾管理者である、神戸市、大阪市、そして国ということになりますが、やはり財政的な制約はあるので、経験を生かして何とか安く仕上げていくことが大きな課題だと思います。
▲台風16号で被災した神戸沖処分場南護岸
▲台風18号通過後の神戸沖処分場西護岸
――今年は台風が多く、非常に強い風と大きな波がありましたが、センターとしての被害はありましたか
樋口
今回は台風16号と18号が続けて来襲し、神戸沖埋立処分場で大きな被害がありました。8月31日の台風16号では六甲沖の西護岸がほぼ全延長にわたって被害を受け、南護岸では2箇所で止水矢板が内側に変形するという被害が確認されました。これは今回の来襲波自体が、設計波に近い大きさであったこともあり、ちょうど満月の満潮時の台風来襲によって被災したわけです。
台風は16号に続けて、すぐに18号が来ることが予想されたので、突貫工事で対策工を行いました。実質的には水曜日から日曜日までの5日間で1tほどの土嚢14,000体を設置するとともにコンクリート約800Fを打設しました。極端に言えば、防波堤の場合ケーソンの一部が飛んでも、若干静穏度が低くなる程度で、半年後に直せばそれで大きな問題はないのですが、我々の施設は廃棄物埋立護岸で、特に神戸は管理型の処分場でもあることから、一日たりとも矢板が破られた状態はあってはいけない施設なのです。9月7日に18号台風がきましたが対策工の効果もあってそれ以上に止水矢板の被害が拡大することもなく、台風の通過後には、すぐに廃棄物受け入れを再開出来たので廃棄物の受入れ先に大きな迷惑をかけることもなく、大変に幸運であったと思っています。
――これまでに、それほどの短期間で突貫工事を行った前例はありましたか
樋口
他の地域ではわかりませんが大阪湾センターとしては初めてだと思います。台風18号の接近にともない波が高くなってきている中でのコンクリート打設など、かなり厳しい状況の中で工事をすることにはなりました。万が一にも、止水矢板が破れて、内部の水が外部に流れ出るようになってしまった場合には、廃棄物の受け入れ自体ができなくなってしまいます。我々のセンターで廃棄物の受け入れができないとなれば近畿2府4県、188市町村の廃棄物を受け容れられなくなるので、極端に言えば、近畿圏の経済に打撃を与えかねない状況になるわけです。その意味では、今回は大阪湾センターの社会的使命の大きさを改めて痛感しました。
――施工会社もすぐに対応してくれたのですか
樋口
そうです。非常事態でもあり、施工に当たった当事者として状態を最も理解しているので、16号の被害状況を確認した当日に、すぐに対策を依頼しました。業界を挙げて支援いただいて、工事を進めることが出来ました。
今回は応急の復旧でしたが、正式な災害復旧としては、これから国土交通省と財務省の災害査定などを受けて進めていこうと考えています。
おかげさまでゴミの受け入れも再開出来ている状況ではありますが、まだ台風シーズンが終わったわけではありません。我々としては、まだ目を離せない状況にあるのは事実です。
――大阪の処分場の被害は
樋口
汚濁拡散防止のためのシルトプロテクターで、一部分波風の被害を受けたところはありますが、大阪の処分場はまだ水を切っておらず、水面上には護岸本体が出てきていない状況にあったので、特に大きな問題はありませんでした。
――ところで、処分場の護岸となると、独特のものでしょう
樋口
護岸自体は埋立をするときの構造物ですからある意味ではありふれたものだと思いますが、管理型で矢板で内部と外部の水が遮水された構造になっているので、これは廃棄物埋立護岸に特有のものと言えますね。
――埋立が終わっていないところなどは、やはり台風などの災害には弱いのでしょうか
樋口
完成していれば全く違うのですが、埋立がまだ進んでいない段階では若干弱い状態にあるのは事実です。
――現場の方々もだいぶ苦労なされたでしょうね
樋口
自然の力の凄さというのを改めて感じました。実際には、昭和30年代の伊勢湾台風以来、大阪湾ではあまり大きな台風の直撃を受けていないのです。極端に言えば、そのために50年確立波高が過小評価されていることもあるのではないかと考えられます。その意味では、今年は大きな台風が連続して上陸しているので、設計波高の考え方についても、改めて問題意識を持って取り組む必要があると思います。
――今回は貴重なデータとなったのでは
樋口
現在は廃棄物埋立護岸マニュアルの改訂という作業に国土交通省が中心となって取り組んでいますが、その改訂の中でも、今回の経験は生かしていけるのではないかと思っています。
――樋口常務は、国内だけでなく、国際社会でも活躍されていますね
樋口
イタリアのジェノバの国際博覧会や、バンコク港の近代化、パナマ運河の調査を手がけた他、インドネシアではjica専門家としてジャカルタのタンジュン・プリオク港をはじめとする港湾の開発に携わってきました。
パナマ運河は1970年代にアメリカの大統領がカーターだった当時、1999年にアメリカからパナマに返還されることになりました。この際、返還後の運河をどうしていくかについて、アメリカと日本とパナマが共同出資で合同調査を行ったのです。その日本側調査チームの一員として参加しました。
パナマ運河は日本の船舶が多く利用していることもあり、日本人の技術者もかなり関与しているのです。パナマ運河は20世紀初頭に整備されたものですから、かなり老朽化した施設なのです。こんな古い閘門が世界の船舶の大きさを決めているのか…と、意外な印象が強かったですね。当時はまだパナマックスを越えるコンテナ船はほとんどない時代でしたから、これで世界中の船の大きさが決まっているのかと、港湾の計画屋としては、ある種名状しがたい思いを抱いたものでした。

大阪湾広域臨海環境整備センターの整備事業に貢献する精鋭企業群

●大阪沖埋立処分場護岸築造工事(南護岸基礎工その8)/東洋・テトラ特定建設工事共同企業体
東洋建設株式会社
大阪本店/大阪市中央区高麗橋4-1-1興銀ビル
TEL. 06-6209-8711


株式会社テトラ
大阪支店/大阪市北区豊崎3-19-3ピアスタワー
TEL. 06-6372-7324

●大阪沖埋立処分場護岸築造工事(南護岸基礎工その10)/大林・大豊特定建設工事共同企業体
株式会社大林組
本店/大阪市中央区北浜東4-33
TEL. 06-6946-4400


大豊建設株式会社
大阪支店/大阪市北区曽根崎1-2-9
梅新ファーストビル
TEL. 06-6313-7110


●大阪沖埋立処分場護岸築造工事(南護岸本体工その1)/佐伯・深田・家島特定建設工事共同企業体
佐伯建設工業株式会社
大阪本店/大阪市中央区備後町2-4-6森田ビル
TEL. 06-6203-6944


深田サルベージ建設株式会社
大阪支店/大阪市港区築港4-1-1辰巳商会ビル
TEL. 06-6576-1881


家島建設株式会社
大阪支店/大阪市福島区海老江1-2-16
TEL. 06-6458-6171


●大阪沖埋立処分場護岸築造工事(本体下部工その12)/国土総合・矢野特定建設工事共同企業体
国土総合建設株式会社
大阪支店/大阪市北区神山町1-3新扇町ビル
TEL. 06-6312-4351


矢野建設株式会社
神戸市中央区海岸通4-2-2
TEL. 078-361-5431


●神戸沖埋立処分場護岸仮応急工事(その4) ●神戸沖埋立処分場護岸仮応急工事(その5)
寄神建設株式会社
神戸市兵庫区七宮町2-1-1
TEL. 078-681-3120

株式会社吉田組
神戸支店/神戸市東灘区深江南町2-1-17
TEL. 078-411-3902



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