建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年11月号〉

interview

町民とともにつくりあげた第7次総合計画の推進が使命

自治体合併論議実らず自立の道を模索

北海道様似町長 橋爪 正利 氏

橋爪 正利 はしづめ・まさとし
生年月日 昭和11年9月20日生まれ
最終学歴 北海道浦河高等学校卒業
昭和 34年 4月 様似町役場勤務
昭和 48年 6月 教育委員会社会教育課長
昭和 54年 4月 教育委員会管理課長
昭和 58年 5月 民生課長兼保育所管理者
昭和 63年 4月 総務課長
平成 2年 7月 議会事務局事務局長
平成 9年 5月 様似町収入役
平成 12年 2月 様似町助役
平成 12年 12月 様似町長就任 現在1期目
北海道日高支庁管内の東南部に位置し、未だ原生の姿を数多く残すアポイ岳を背景に歩んできたマチ、様似町。このマチも他の自治体と同様、一次産業の低迷などで財政状況は厳しい状況で、また合併論議も進展が見られず、観光資産であるアポイ岳では盗掘が絶えないなど、町政として頭を悩ませる課題は多い。そうした苦境にもめげず、「町民とともに作りあげた第7次総合計画の推進が私の使命」と語る様似町長・橋爪正利氏に、今後のマチづくりの展望などを伺った。
――任期を終えるにあたり、これまでの町政をどう自己評価していますか
橋爪
私は前職が助役だったということもあって、厳しい財政状況にあることも熟知しており、一方では第7次の総合計画の策定にも着手していたので、就任後は行財政改革に取り組みつつ、第7次総合計画に沿った町政を推進してきました。
しかし、考えていた以上に財政状況は厳しいもので、第7次総合計画で策定した事業については、反省点も多々ありましたが、厳しい財政状況の中でそれなりには執行できたと思います。
――どこに反省点がありましたか
橋爪
財政難から、住民の負託に十分に応えられなかった面がありました。住民への理解を求めて了解された面もありますが、了解されずにもっと努力して欲しいとの要望もありました。
――財政基盤となる産業政策も重要ですね
橋爪
この町は水産業が主要産業で、生産額から見ると、農業の約3倍にも上ります。したがって、町の活性化のためには、農業を含めていかに水産業などの第一次産業を振興するかにかかっています。そのため、それを町政課題の一つとして取り組んできています。
水産業については、昨年はコンブの不作年に当たり、非常に厳しい一年でしたが、今年は天候に若干恵まれ、収穫量も多かったので、あとは価格にかかっています。
また、これからは秋サケ漁の時期になるので、前年同様の水揚げを期待しています。これについては、沿岸漁場改良事業の推進や、あるいは栽培漁業など、これらの整備が着実に効果を上げつつあると考えています。
――農業の概況はいかがですか
橋爪
農業は年間約12億円程度の生産額ですが、その約80%が軽種馬です。しかし、近年の軽種馬市場の低迷から馬の売れ残りもあり、また売れても思うような値が付かないなど、非常に厳しい状況を迎えています。
今後のためには、軽種馬産業から異業種への参入といった、軽種馬農家の多角化経営・転換・転作などにも対応できるよう、町政を通じて支援していきたいものです。
――町の重要なビジネスであり、収入源であれば、管内全体及び道、国なども挙げて取り組むことが必要ですね
橋爪
先頃には、新冠町で全国ホースサミットが行われ、また浦河町のシンザンフェスティバルにタイミングを合わせて、日高管内では支庁主体の馬立国宣言をしています。軽種馬振興対策協議会にも、様々な要請活動を進めています。
このように、道、国あるいは中央競馬会など、様々な事業者を挙げて取り組み、要請などもしていますが、なかなか思うように結果が出てこない状況です。しかし、競馬法の改正を含めて、今後に向けては良い流れが出来ていく期待感はあります。もちろん、それだけで抜本的な解決にはならないと思うので、管内各町とも、多角化経営・転換など、様々な対策を考えていかなければなりません。
――町の観光資源としては、アポイ岳が有力ですね
橋爪
アポイ岳は、様似が誇れる山岳で、もちろん観光資源であるとともに、学術的にも貴重な資産です。現在では、高山植物などの研究者や地質学者らが、研究のためにアポイ岳に来る機会が増えており、登山を楽しみに来る観光客も多いのです。
ただ、残念なことには、一部の心ない登山者や、稀少植物の闇販売を生業としているのかは不明ですが、それらによる大々的な盗掘が後を絶ちません。数年前から監視カメラを設置し、登山指導員も常駐するなどの対策によって、この1、2年はだいぶ減少しましたが、アポイ岳にしかない高山植物が、そうした盗掘によって絶滅の危機にあります。
――観光客の増加は喜ばしいものの、社会的損失は深刻な問題ですね
橋爪
そのため、道は稀少動植物の保護に関する条例を、今議会で制定しました。登山者には厳しい規制が課せられ、アポイ岳については、登山道の利用だけが承認されている状況です。したがって、今後とも盗掘が増加するようであれば、登山道までもが規制される可能性もあります。
これを防ぐためにも、地元としてもマナーを守り、盗掘を防ごうと活動をしています。そして、アポイ岳をprしながら交流人口を拡大していき、観光産業を盛り立てていく方針です。
地元としては、研究に当たる大学生、学術者のためのアポイ岳調査支援センターを設置したり、高山植物関連の資料を展示するビジターセンターも設置し、受け入れ体制は整っています。また、宿泊施設としてアポイ山荘もあるので、それらを核としながら、ぜひ多くの方に来訪してもらい、マナーを守りながら登山などのアポイ岳観光、様似観光を楽しんでいただきたいものです。
――町内の都市基盤整備については、十分でしょうか
橋爪
バブルがはじけてから、国の景気浮揚策に沿った形で、社会資本整備のためにかなりの財源を投じてきました。それが、現在の財政状況を圧迫している要因の一つにはなっています。
しかし、継続して進めている下水道整備は、まだ3、4年かかる状況です。それらを含めて、今後の行財政運営については、さらなる検討に入りながら、第7次総合計画の見直しとともに、確実な形の中で整備を図っていきたいと思います。
――合併はどこの自治体でも、容易ではないようですね
橋爪
道内は本州のように、地理的にまとまっておらず、面積も本州の合併とは比較にならないほど広大です。仮に3町が合併すれば、浦河が支庁所在地ですから、当然、支庁所在地である浦河町に役場を置くことが想定されます。そうすると、えりも町の郊外からは1時間30分もかかってしまい、役場庁舎が遠くなることで行政サービスの低下に繋がるという懸念もあるのです。それが原因で、連合自治体の構想として進めたいという考えです。
様似としては、生活圏・商業圏などは浦河と交流しているので、合併については必ずしも反対意見はありません。また、各3町がしっかりとした合併後のマチづくり計画、構想を持ち寄るのですから、明治あるいは昭和の大合併のように、本庁所在地だけが栄えて、郊外地域は寂れるような状況にはならないと思います。
――過疎化は、どこの地域にとっても共通の懸念事項ですね
橋爪
現時点でも、すでに大都市は栄え、周辺は過疎化が進んでいるのが実態です。これでは、合併してもしなくても同じです。また、連合自治体構想を3町だけで行っても、それほど抜本的な行財政改革にはならないと、私は考えます。
したがって、基礎的自治体を設置し、国が進めている地方分権に真に対応できる体制をつくれば、各自治体が無理な自立によって、厳しい財政で町民に負担を強いながら行政を行うよりも、遙かに有効なマチづくりができるものと考えています。
とはいえ、合併は相手あってこそなので、当面は自立の道を模索しなければなりません。交付税の実質額はどれだけ削減されるかを厳しく想定しながら、15、16年度で進めてきた行財政改革を、新たに17年度以降の2ヵ年でさらに抜本的に取り組む必要があります。また、私の基本である第7次総合計画も、見直す必要があるでしょう。
経費削減を図りながら、行政サービスの低下は懸念されるかもしれませんが、ぜひ町民の理解を得ていきたいと思います。また、第7次総合計画は町民とともに作りあげた計画ですから、見直しはしても、その着実な推進が私の使命だと思っています。

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