建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年9月号〉

interview

未知普請活動に取り組む

近所づき合いを大切にして道の国の道づくりを継承

国土交通省 近畿地方整備局 滋賀国道事務所長 板谷 勉 氏

板谷 勉 いたや・つとむ
S 46.3 大阪府立工業高等専門学校土木工学科 卒業
S 46.4 建設省入省
H 6.4 近畿地方建設局 阪神国道工事事務所工務課長
H 12.4 近畿地方建設局 道路部 道路管理課長
H 14.4 近畿地方整備局 企画部 技術管理課長
H 15.4 近畿地方整備局 滋賀国道事務所長 (現在)
古来、近江は、地理的に東日本と西日本をつなぐ中継地であることや、奈良、京都等の都に隣接するなど、恵まれた地勢条件によって、この地を通過する幹線道路は、日本の歴史に幾度となく登場する。奈良時代に定められた7官道のうち東海道、東山道、北陸道の3道が近江・滋賀の地を通過して以来、その道筋に変遷はあるものの、幹線道としての機能は変わることなく、現在の国道1号、8号、21号、161号に継承されている。奈良時代からの道づくりを受け継ぐ滋賀国道事務所の板谷所長に管内の情勢や建設の進む1号、8号、161号のbp事業、様々な取り組みをしている未知普請活動などについて語ってもらった。
▲1号栗東水口道路 工事中箇所
板谷
滋賀県は、奈良時代に北陸道、東海道、東山道が官道として整備され、交通の要衝となってきました。その道筋はその後の時代も重要幹線として受け継がれていきます。地形的に東国・北国と都を結ぶ玄関口として重要な位置を占めたこと、隣接する京都は平安以来江戸時代末まで1200有余年にわたって都であったことによって交易、物資輸送の中継地として近江・滋賀の道のもつ重要性は現代にも継承されています。
県土は四方を1,000m級の山々に囲まれた盆地上の地形で面積は4,017km2、その1/6が琵琶湖です。これらの山々からは約120本の河川が琵琶湖に向かって流れています。天井川の形状をなしている河川が多くみられ、国道8号草津市内では、旧草津川の堤防をトンネルで抜けるという面白い構造も見られます。
――県勢はどんな状況でしょうか
板谷
滋賀県の人口は約136万人です。これは全国で31番目の人口ですが、人口の増加率を見ると、全国でもトップクラスの人口の伸びを続けています。特に大学や、民間企業の研究所が集中している草津市周辺湖南地域の増加率が著しく、大学や民間研究機関の立地も盛んで活力に溢れています。名神高速と現在建設中の第二名神とが草津でジャンクションされ、草津田上icで両自動車道への乗り入れが出来ることにより、非常にアクセス性の高い地域となります。名神の開通以来、ic周辺地域には優良な企業の立地が進みました。そうしたことから、滋賀県の第二次産業は就業比率、県民総生産に占める出荷額比率ともに全国トップです。
やはり名神高速が早い時期に開通したことが、非常に大きなインパクトになっていると言えます。
▲8号米原bp7工区(h16.3.30暫定供用区間)
――管内の道路網の概況は
板谷
滋賀国道事務所が管理している路線は、奈良時代以来の官道東海道、東山道、北陸道の道筋を継承する国道1号、8号、21号、161号の4路線、管理延長は約250kmで近畿管内で最も長い管理延長を持つ事務所です。琵琶湖は自然環境の面からも、水資源としても、観光資源としても非常に大切な財産です。また、舟運の時代には航路として湖辺の多くの港に繁栄をもたらしましたが、湖周約250kmのこの巨大な湖は地域間交通のバリアにもなっているのです。これを克服するためにも、湖南、湖北、湖西、湖東の地域間交流インフラである、琵琶湖を循環する国道1号、8号、161号のバイパス事業を推進する必要があると考えています。
滋賀の気候は湖北地域と湖南地域で大きく異なり特に湖北地域は豪雪地帯で、1〜3m近く雪が積もることもあり、平均積雪日数が最大で121日という地域もあります。滋賀国道事務所では毎年11月30日から翌年3月25日までを雪寒対策期間として除雪作業や路面凍結防止剤の散布、情報提供などを行っています。最近では、平成13年1月の豪雪で、名神関ヶ原〜彦根間、北陸道今庄〜木之本間が通行止めとなりました。このため、高速道路利用の大量の車が、国道21号や8号あるいは161号へ流入し、幹線道路が麻痺するだけでなく、地域道路にも交通が入り込み、日常生活にも支障を来たしました。このような経験を踏まえて、滋賀、岐阜両国道事務所、滋賀県、岐阜県、滋賀、岐阜両県警および道路公団からなる冬季交通対策連絡会を設置し連携して雪害対策を図っているところです。
――琵琶湖周辺は観光バスなども多いのでは
板谷
国道161号沿線の琵琶湖には多くの水泳場があります。また日本海へ向けての最短ルートであるため夏季の観光交通が非常に多く、週末は大変混雑します。また沿道に民家が張り付き幅員狭小のうえ大型車両も多く、交通安全上からも、161号の大津bp4車線化、志賀bp、小松拡幅、高島bp、湖北bpの未整備区間の早期整備が期待されています。
――今年度の主要事業は
板谷
交通量が多く、かつ大型車の多い国道1号の土山町から水口町、甲西町、石部町、栗東市の間は地域高規格道路甲賀湖南道路として位置づけられています。水口道路、栗東水口道路@、Aとして事業化されている区間について、引き続き用地及び工事の促進を図っていきます。
国道8号米原BPは今年3月30日に7工区3.2kmが暫定供用しました。引き続き8工区の用地買収を促進するとともに、超軟弱地盤地での盛土工法の試験施工を継続して実施します。
国道161号線では、西大津バイパスの4車線化工事の促進、高島バイパスの交通安全上必要となるところの工事を進めます。志賀バイパス1工区は暫定2車線で既に供用していますが、残る2工区について本年度より工事用道路の工事に着手し、次年度以降本線工事を促進していくこととしています。
さらに、権限代行の国道307号信楽道路、国道421号石榑峠道路の用地買収等を進めます。
――古い歴史文化をもつ滋賀の地にあっては、多様な思考による道づくりがもとめられるのでしょうね
板谷
長等トンネルは名刹を通過するトンネルでありますが、先輩方の努力、お寺さんとの長きにわたる話し合いによって、昭和56年に暫定二車線供用しました。
地域の歴史、文化といった、時間を経てきたものには、単純には捉えきれない価値があると思います。工学的発想だけのやり方でつくることを急いでしまうと、道を間違えることにもなりかねません。調査計画、設計施工、管理の各段階においていろいろな価値観のフィルターをとおして、どの様なかたちが最善なのかを考えることが大切だと思います。
▲花いっぱい運動
▲公共事業等行政対象
暴力対策協議会設立
――そうしたことも含めて、今事務所では「未知普請」活動に積極的に取り組まれているそうですね
板谷
「未知普請」活動は、「対話と協同」、「参加と責任」、「未知への挑戦」という3つのキャッチフレーズがありますが、平たく言えば、「みんなで使う道や川や港や公園など公共施設はみんなで智恵、力を出し合ってつくりましょう。美しく大切に使いましょう。そして心豊かな地域社会をつくりましょう。」ということだと思っています。滋賀国道では「パートナーシップ」、「ボランティア」、「コミュニケーション」、「行政連携」という切り口で活動していますが、つまりは、近所付き合いを大切にしながら道づくりを進めていくことかなと思っています。
「パートナーシップ」は、共に考えながら進めようという姿勢です。例えば国道161号浜大津地区の歩道整備事業。中央を路面電車が通っていて、両サイドの歩道が狭く、ラクダの背のようで非常に使いづらいため、沿道の住民の方々から解決の要請がありました。それを事務所の技術者だけでなく、みんなで考えようと、地元の自治会、大津市役所、コンサルタントとともに、実際にその道を歩いて、実態調査をし、議論を進めています。すでに今年が3年目で、いよいよ全体的な歩道デザインも決まってきたところです。
もう一つの例は国道8号の塩津バイパス2工区。昨年地元の自治会、小中学校の校長先生、地元西浅井町役場、国道事務所の担当者、コンサルタント、大学の先生からなるパートナーシップ協議会を設立し、現場を歩いて地域状況を確認し、問題点を把握しました。どんな道路構造にするか、将来どの様に管理していくのか等を、話し合いながら方向を決めていくこととしています。
二つ目は、「ボランティア」。住民グループのボランティア団体に道路清掃や植樹などの道づくりに参加してもらう、ボランティアサポートプログラムです。161号では、安曇川町「藤樹の里花いっぱい運動推進協議会」の皆さんや、志賀町「北小松自然を守り育てる会」の皆さんが、自分たちの町は自分たちで美しくしようと、国道敷きに花を植え、除草、清掃などきめ細かい管理をしていただいています。現在、さらに2カ所でボランティア団体と協定を結ぶ手続きを行なっているところです。
三つ目は、「コミュニケーション」。昨年からの取り組みである「みちパト」。三つの出張所単位で、ptaの方々と校区内の歩道の点検パトロールや、道についての出前講座、そして点検パトロールに基づく意見交換。問題のある箇所は速やかに改善を行なうことで、皆さんから好評を頂いています。
また、道に広く親しんでもらう活動として、今年から旧街道を歩くイベントを行うことにしています。近傍に新しくバイパスを造っているところもあるので、その現場も見てもらいながら、今昔の道に対する理解を深めてもらえればと思います。今年度は2回予定していますが、第一回目は近江の地をこよなく愛し、自らの墓を大津義仲寺にと遺言した松尾芭蕉。芭蕉の生誕360年を記念して、俳人の黛まどかさん、成安造形大学の木村学長と共に俳句を吟じ歩くイベント「俳句&ハイク」を11月に行ないます。
四つ目は「行政連携」。6月には滋賀県下35の郵便局と郵便配達時に道路の異常等を発見した場合、事務所に通報・連絡して頂くことについての覚え書きを交わすことができました。郵便配達の方にはボランティアとして情報提供頂くものです。また、今年の2月に「公共事業等行政対象暴力対策協議会」を設立しました。県下の国土省、農水省、道路公団、水資源機構、下水道事業団、滋賀県、滋賀県警等からなる組織で、公共事業等に対する不当な要求行為等を排除し、事業の円滑な執行と職員の安全を図ることを目的として、不当要求行為等の情報収集提供体制の確立、不当要求行為等に対する統一的一体的対応の確立、講習会の開催等を図っていくこととしています。
――街道沿いには歴史的な遺産もたくさん残っていますね
板谷
滋賀は古来道の国といわれたように、道が四通八達し、今も多くの旧街道筋が残っています。宿場町として今もその面影を残している所や、復元して町づくりに活用している自治体もあります。旧街道は、車には狭くて使いづらい道路ですが、歴史が一杯詰まった空間であり、地域のアイデンティティであるわけで、引き継いでいきたい景観です。この空間を人の交流、地域づくりに活用できたらすばらしいことだと思います。
宿場の歴史博物館のような施設もいくつかあり、これらの施設と連携して、街道ウォークを手助けになるような案内や各種情報提供する仕組みも考えていきたいと思います。 
▲161号志賀BPT期工区 暫定供用区間
――技術者も、文化・歴史などを理解することが求められる時代ですね
板谷
言うまでもなく、私たちは道路をつくるために道路をつくっているわけではありません。人々の豊かな生活、安全安心に生活できるまちづくり、地域づくりを支援するものとして道路を整備し管理しているわけです。その意味で、私たちは地域の自然、歴史、文化などをよく知りそれらを踏まえて、将来を見据えた対応していくことが大切なことだと思います。
――行政としての広報活動にも積極的なのですね
板谷
私たちの行なっている仕事や道路のことを皆さんに適切にお伝えし、皆さんからはそのことについて色々ご意見を頂く、また意見に答えていくといったコミュニケーション行政を展開していくことが必要であると考えています。私たちのコミュニケーション行政のキャッチフレーズは「見ざる、言わざる、聞かざる」の反対、「見て下さい、言って下さい、聞いて下さい」です。
私たち滋賀国道事務所が何を考え、何をしようとしているのかを、できるだけ発信していきたいと思います。
広報誌と地元放送局番組を連動させた広報づくりを昨年から季刊でおこなっています。若手職員が番組出演して自分の担当している事業を説明します。また、若手の職員に対し、司会者がかならず「あなたは何故この道を選んだのですか」と問う場面があります。事業の紹介だけでなく、その質問にたいし職員自らの言葉で語ります。第一回目は女性技官が出演したのですが、就職でいろいろと悩んでいた女子学生から、彼女の姿を見て方向性を決めることができたとのお便りがあり、思わぬ効果もありました。番組づくりでは地元の首長さんにも参加してもらい、事業に対する期待などを語ってもらっています。広報誌では私も滋賀で活躍する色々な分野の方と対談するコーナーを受け持っています。お陰さまで広報誌を読まれた方から、多くの道に対するご意見や感想のハガキを頂いております。
――確かに工事の結果、どんなものが出来上がるのかは、一般者は知る機会が少ないですね
板谷
今回、広報誌を地元スパーや旅館、ホテル、病院、銀行等に置いてもらったことで、多くの人の目に触れることとなり、その意味で成功したと思っています。「どのように事業を進めているのか、よく分かった。ガンバってください。」とのお便りをもらいました。励みになるとともに、何のために道路整備をやっているのかということを色々な形で、伝えていくことの必要性を痛感します。未知普請の精神で、取り組みを継続し、充実させていきたいと思います。

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