建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年9月号〉

interview

古都奈良の市街地を水害から守る岩井川ダム

癒しの湖森空間を創出

奈良県 大和川水系ダム建設事務所長 西本 信弘 氏

西本 信弘 にしもと・のぶひろ
昭和 21年 11月 19日生まれ
本籍  奈良県
平成 2年 4月 1日 奈良県土木部道路維持課 係長
平成 6年 4月 1日 奈良県土木部道路建設課 課長補佐
平成 9年 4月 1日 奈良県企画部交通政策課 課長補佐
平成 11年 4月 1日 奈良県土木部桜井土木事務所 計画調整課長
平成 13年 4月 1日 奈良県土木部道路建設課幹線道路対策室 主幹
平成 14年 4月 1日 奈良県土木部jr奈良駅連続立体建設事務所長
平成 16年 4月 1日 奈良県土木部大和川水系ダム建設事務所長(現職)
大和青垣の山々に囲まれた奈良盆地は、いくつもの河川が大和川に集中して流入する水体系となっている。都市化の進展で、浸透性が低くなりつつあるため、大和川流域の河川は洪水の危険性が高い状況だ。そこで、大和川流域総合治水対策の一つとして岩井川ダムが建設されている。すでに本体工事は17%ほど進み、徐々に姿を見せ始めている。奈良県大和川水系ダム建設事務所の西本信弘所長に、奈良県の地勢や事業概要などを語ってもらった。
▲岩井川ダム(完成予想図)
――大和川の流域対策における岩井川ダムの位置づけは
西本
奈良県の治水対策には大和盆地の総合治水対策があって、その中の一つに奈良盆地を取り巻く青垣の山々にダムを建設して洪水の調整をはかる大和あおがき治水システムがあり、そのひとつに岩井川ダムがあります。
奈良県は四方を山々に囲まれた盆地で、その山々を大和あおがきと呼んでいます。奈良県は非常に広域な山岳面積を持っていますが、盆地となると非常に少なく、そこに人口が集中しています。概ね奈良県全土の約18%ほどの盆地エリアを流れる大和川流域に、県人口の約89%が生活しているのです。
さらに近年は、交通システムの発達で大阪への通勤圏域となり、人口増となっており、それに伴って盆地の市街化が非常に進みました。その結果、今までは降雨があっても林や田畑に浸透水として吸収されていたものが、市街化されたことで一挙に河川に流入するようになったのです。特に奈良盆地を流れる河川は扇の形をしていて大和川に集中して集まってくる形態となっており、集まった水は大阪府との境界にある「亀の瀬」という渓谷部を経て大阪流域に流れます。亀の瀬渓谷は川幅が狭く、一気に降った雨は突然河川の氾濫などを起こしやすく洪水の危険性が増大しています。のみならず、地滑りの危険性もあり、昭和30年代から急進展した市街化によって、河川改修の用地取得が困難になっています。
 居住者の生活の安全や財産を守るために河川の氾濫を防ぐにも、従来の河川改修による治水だけでは、十分とは言えなくなってきました。そこで、流域の25市町村と県、国が一体となって、「大和川流域総合治水対策協議会」を組織し、流域の開発基準や保水機能の回復、河川改修の進め方などを協議し、60年度に「大和川流域整備計画」を策定したのです。そして、大和あおがきの山々にダムを造り、洪水調節を行うことになりました。その計画に基づき、すでに奈良県では天理ダム、初瀬ダム、白川ダムの3つのダムが完成しています。当事務所は、これらの管理とともに、現在は新規で岩井川ダムを建設しています。
▲西名阪自動車道御幸大橋周辺
(平成7年7月)
▲昭和57年8月 台風10号及び集中豪雨
王寺町役場前
――これまでに経験した水害は
西本
昭和57年8月の台風10号と9号崩れの低気圧により、記録的な豪雨がありました。大和川流域の各地で氾濫し、莫大な被害が生じました。最近では、平成7年7月にも大雨が降り、多くの被害が、また、平成10年9月の風台風で大きな風倒木災害が出ましたが、ダムが機能するようになってからは、あまり大きな被害はありません。
――ダムの概要は
西本
岩井川ダムの工事の進捗率は、17%程度の状況です。重力式のコンクリートダムで、堤高は55.0m、堤頂長、天端のダムの長さは180.9m、堤体積は82,000m3、総貯水容量は81万m3。用途としては洪水調整専用のダムになります。
流域における24時間雨量が215oのとき、基本高水流量が毎秒55m3のうちの45m3を貯留し、10m3ずつ放流することで、民家の集中する下流域の洪水を防ぎます。同時に、年間を通じて河川維持流量を補給し、河川環境の保全に貢献します。
▲岩井川ダム
――工事はどのような手順になるのでしょうか
西本
平成8年度までは主として用地取得を進め、平成9年度から付替県道奈良奈張線の工事に着手、14年12月から本体工事を発注し、平成15年9月に付替県道の暫定供用を開始しました。現在は掘削などは終了し、ダムコンクリート打設にとりかかっているというところです。打設は17年10月頃の完了を予定しており、事業としては平成18年度の完成に向けて努力しているところです。
現場では、ダムコンクリートを現地製造しており、コンクリートプラントから打設現場への運搬は、自動的に行われます。また、クレーンも管理者が運転台で作業を監視しなければなりませんが、操作自体はコンピュータ制御されており、作業を全自動で行うことができるものを導入しています。これらによって、コスト縮減が実現しています。
――このダムが完成すると流域の総合対策は完成と言えますか
西本
ダム自身が完成しても、流域の河川整備、遊水池等の流域対策、貯留浸透施設などの流域制御などの整備を引き続き行っていかなければならないと思います。また、この他にも小規模の生活ダムとして、大門ダムも整備中です。
――ダムの見学会などは行われていますか
西本
ダムの建設が進み、かたちとして見えてきましたので、小学生や地域の方々からどういうものなのか見せてほしいという要望があり、見学会などを行っています。
現地では、建設状況が展望できるスペースを確保し、説明用パネルも設置してあります。
――自然が豊富で、歴史的にも古いところですから、施工への制約もあったのでは
西本
一般的には、ダムに対する風当たりが強いようですが、この岩井川ダムに関しては、地元住民の方々も協力的で、地域の理解と協力を得ながら進めています。ただ、岩井川ダムは大和青垣国定公園・風致地区内に含まれており、特に右岸側は世界遺産である春日山原始林のバッファゾーン内でもあるので、それを意識して周りの景観に配慮しています。特に、植樹や風致に関して古都風致審議会の承認を受け、それぞれの専門家の意見を聞きながら単なる一時的な緑化だけでなく10年・20年後の先を見据えた二次的な長期緑化を積極的に進めることで自然環境や景観にマッチしたダム造りを進めてまいります。
また、どのようにすればダム周辺が憩いの場的になるのかについても検討しているところです。ダムサイトは、県内に入る自動車が峠を越えて、ようやく民家が一望できる地域にあります。緊張続きで運転してきたドライバーにとっては、ホッとする瞬間です。そこへ市街地を背景としたダム湖が、突然目前に展開するので、独特の感慨や感動を覚えることでしょう。子守歌を聴く時の癒しに似た、「湖森(こもり)」空間という安らぎのtherapy空間を、ここに演出できればと、私は考えています。

岩井川ダム建設工事

●岩井川ダム本体建設工事/奥村・大成・戸田・大豊・森本共同企業体

本社/大阪市阿倍野区松崎町2-2-2
TEL. 06-6621-1101


本社/東京都新宿区西新宿1-25-1
TEL. 03-3348-1111
関西支店/大阪市中央区南船場1-14-10
TEL. 06-6265-4504


本社/東京都中央区京橋1-7-1
TEL. 03-3535-1354
大阪支店/大阪市西区西本町1-13-47
TEL. 06-6531-6095


本社/東京都中央区新川1-24-4
TEL. 03-3553-4311
大阪支店/大阪市北区曽根崎1-2-9
TEL. 06-6313-7110


本社/大阪市天王寺区夕陽丘町4-11
TEL. 06-6779-1451


●岩井川治水ダム建設工事(取水放流設備工事)・第4-1-2号

本社/大阪市中央区谷町5-3-17
TEL. 06-6766-3300


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