建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年9月号〉

interview

新旅客ターミナルのテーマは〜人に優しく、利用しやすく、地域の皆様と共に生きる空港〜

平成17年6月に新旅客ターミナルビルグランドオープンへ

函館空港ビルデング株式会社 代表取締役社長 泉 清治 氏

泉 清治 いずみ・きよはる
生年月日 昭和7年5月23日生まれ
最終学歴 法政大学法学部法律学科卒業
昭和 36年 5月 函館商工会議所入所
昭和 46年 4月 函館空港ビルデング鰍ノ出向
昭和 46年 6月 函館商工会議所相談課長辞職
昭和 46年 6月 函館空港ビルデング椛獄ア課長
昭和 59年 8月 同社取締役営業部長
昭和 60年 8月 同社常務取締役
昭和 62年 8月 同社代表取締役専務
平成 7年 8月 函館エアポート商事(株)代表取締役社長
平成 9年 8月 函館空港ビルデング(株)代表取締役社長 現在に至る
【現在の主な公職】
社団法人函館地方法人会会長
社団法人北海道法人会連合会副会長
函館商工会議所副会頭
函館空港は、市街地に近い利便性と高速交通需要の高まりを背景に、国際観光都市・函館市を中心とする道南圏の空の玄関口として発展をしてきた。乗降客数、貨物取扱量ともに、道内では新千歳空港に継いで2番目に多く、現在でも増加を続けている。こうした需要に対応すべく、新旅客ターミナルの建設が進められており、平成17年6月の完成を目指している。函館空港ビルデング鰍フ泉清治代表取締役社長に、新旅客ターミナルの構想と道南圏における函館空港の役割などを伺った。
▲新旅客ターミナル完成予想図
――函館空港のこれまでの歩みをお聞かせください
函館空港初の定期航空路線が開設されたのは、昭和34年のことで、当初はdc−3型機やys―11小型機での運航が主流でした。その後、昭和45年6月27日に当社が設立され、翌年9月7日に旅客ターミナルビルと貨物ターミナルビルの営業を開始しました。
平成11月には、2,000m滑走路が供用開始となり、函館空港は国内で10番目のジェット機就航空港となりました。使用機材も小型機からb3/b4/b6の大型機へと移り、航空利用客の大衆化や新規エアラインの参入なとで、乗降客数、発着回数、さらに物の流れも活発化して、大量輸送時代へと変貌しました。
――それに対応する整備状況は
国際線ターミナルビル建設も含めると、今回を含めて4回の増改築工事を行いました。
最初の増改築工事は昭和54年7月で、25年前です。前年の昭和53年12月には滑走路が2,000mから2,500mに延長され、当時の年間乗降客数は約94万人でしたが、年間13万人も延びていたので、今後の新規航空路線開設を見込み、150万人対応のターミナルヘと増改築しました。
当時としては、規模も相当大きくなったとの実感がありましたが、2年後の昭和56年には早くも100万人を記録し、昭和57年には函館〜東京線にジャンボ機が就航されたのを契機に航空需要が益々増加しました。平成元年12月には、初めて150万人を突破し、同時に施設の狭隘問題が再び表面化しました。
その後も年間20万人から30万人ずつ増加し、一刻も早く増改築を行う必要性があったことから、平成2年に150万人から170万人対応のターミナルヘと第2回施設増改築工事を行いました。この工事では、旅客及び貨物ターミナルビルの増改築工事と合わせ、就航便数の増加に伴って不足となったボーディングブリッジ2基を新設しました。
3回目の工事は、国際線ターミナルビルの建設ですが、平成4年に行われた日本・ロシア航空当局間協議で、ciq体制の整備を条件として、函館〜ユジノサハリンスク線就航に向けての準備として行われることとなったわけです。
――その経緯は
北海道と函館市から、事業主体となるよう要請されたのですが、当社としてはこの事業に、非常に大きなリスクを感じていました。しかし、行政としての政策的要請を承諾し、国際線ターミナルビルの建設へ踏み切ったわけです。
そして平成6年4月4日に、日ロを結ぶ唯一の路線となった函館〜ユジノサハリンスク定期航空路線が運行され、道内では新千歳に次ぎ、国内では19番目の国際定期航空路開設となりました。
その後、平成8年4月20日には、国内線で函館空港開港以来の利用客数が3,000万人の大台を達成し、また平成10年には過去最高の2,474,770人を記録しました。
国際線については、国際線チャーター便での利用頻度が高まり、平成9年からは定期便に加え、ユジノサハリンスクヘのオイルメジャーによるチャーター便が、年間200便以上運航され、また平成12年からは台湾からのチャーター便が年間100便以上乗り入れるなど、チャーター便の運航が頻繁になっています。チャーター便の運航が盛んであることは、定期便の就航と同等に歓迎すべきことです。
――国際観光都市として発展を続ける『函館市』の空の玄関口として、空港が果たす役割は重要ですね
『函館』は北海道最南端の都市で、北海道と本州を結ぶ交通の要衝地です。歴史も大変古く、幕末に欧米文化の影響を強く受けた異国情緒豊かな町並みが特徴です。そして、美しい『100万ドルの夜景』があります。都市周辺には、海や山などの豊富な自然を有し、市街地からわずか1時間程度で、大沼や駒ヶ岳の壮大な景観を堪能できます。また、市内西部地区の異国情緒溢れる町並みは浪漫的で、一方では豊富な湯量を誇る湯川温泉街も市内にあるので、国内・外ともに人気のある観光地として広く知られています。
函館という街は、観光面においては大変、恵まれた環境にあるので、函館を訪れる観光客の期待に添えるような施設整備を行っていく必要があると思います。
――空港も観光の一部であるわけですね
今回の増改築工事でも、これらを踏まえた上で「〜人と人、函館と世界が豊かな(五感)のもとに出会う〜」をテーマとし、北海道の先発都市・函館の歴史と文化を何らかの形で紹介できるよう、また空港の利用客だけでなく地元市民にも親しまれる、開かれた、人的、文化的、そして様々な物が心地よく交わることができる、無味乾燥ではなく潤いのある施設を目指し、それをいかに表現すべきかを考えながら基本設計を行ってきました。
地域特性を充分に捉えた上で、その地域特性を上手く反映させた形であらゆる物を提供し、広めていくことが大切だと考えます。
また、空港ターミナルビルの運営業者としても、ターミナルビルの施設増改築は7〜8年周期で行うのが全国的な趨勢で、そうでなければ利用客に不便を掛けることとなり、引いては航空利用離れに繋がる恐れあります。そうした重責を担っていくことが、私たちに課せられた公共的使命であると思っています。
――新旅客ターミナルの具体的構想についてお聞かせください
今回の函館空港国内線旅客ターミナルビル増改築工事が論議されたのは、平成5年で11年前のことで、当時の運輸省を中心として整備計画を策定し、平成8年の『第7次空港整備計画』の閣議決定を受けて、『函館空港ターミナル地域整備計画検討会』を設立しました。そして平成10年に、運輸省航空局より『函館空港ターミナル地域整備基本計画書』が発令され、本格的にエアライン各社、諸関係機関との調整会議を定例的に開催し、平成14年7月に起工式を行って、いよいよ本体工事の着工となりました。
概要としては、「人に優しく、利用しやすく、地域の皆様と共に生きる空港」を最大のテーマとし、170万人対応から307万人対応ヘと、1.8倍の収容数に拡充します。総面積は11,000m2から23,000m2へと、2倍強の規模となります。
外観、内装は、先に述べたように国際観光都市函館の特徴を活かした建物とすべく、外壁は観光名所となっている赤レンガ倉庫群をイメージとした、レンガ風のデザインにしました。ターミナル前面部分は、ガラス張り壁面を採用し、自然光をふんだんに取り入れ、ロビー中央は吹き抜けとし、やわらかな光の射す、明るく暖かな空間が誕生します。吹き抜け部分に配置しているエレベータは、箱の中から外を見渡すことのできるような、子どもにも喜んでもらえる遊び心のある構造としています。
また、テーマである人に優しく利用しやすいという施設づくりのため、バリアフリーやユニバーサルデザインを採用し、どんな人々にも同じレベルのサービスを提供できる施設を目指しています。
――工事の進捗状況は
現在は二期工事に入っています。一期工事は、航空会社チェックインロビー・出発ロビーの一部、そして商業施設の一部の建築で、平成15年12月18日に完成し、供用開始しています。
二期工事でも、すでに一部供用開始となっていますが、既存施設を暫定到着ロビー・手荷物受取所・航空会社事務室に改修し、2階には出発ロビー・搭乗者待合室の残りを増築します。3階は送迎ホール・送迎デッキと、商業施設・飲食店の残りを増築し、平成17年6月に完成予定です。この二期工事完了時点で、旅客ターミナルの全てが完成します。三期工事については、改修工事がメインとなり、これは小規模工事となる予定です。
本工事に当たっては、既存施設を使用しながらの工事なので、工期は大変長くなります。利用客にはご迷惑をお掛けすることになりますが、御協力をお願いしたいと思います。
――テナントなどの入居状況は
第一期工事完了時点では、新規テナント1店を除き、創業以来の33年、共に良いことも苦しいことも乗り越えてきた既存テナント6店のリニューアルオープンとなりました。志を一つに売上げを分け合い、相乗効果を最大限に生かしながら新たに営業を開始したわけですが、第二期工事完了段階では、新規テナントを含めた新体制で『新函館空港』はスタートします。
新規テナントの出店については、今後とも急ピッチで市場調査と研究を行い、『函館らしさ』を全面に打ち出した形での展開、函館の名産物を素材としたメニューに配慮した特色ある飲食店を出店させていく構想です。利用客を飽きさせず、また来たいと思うような商業施設を目指したいものです。
また、テーマの一つでもある「地域の皆様と共にいきる空港」として、新ビル出発ロビー2階には『函館ギャラリー』という展示スペースを設けています。昨年冬には『はこだて冬の散歩道』というテーマで、函館の冬の街をメインとした観光写真を展示しました。現在は『はこだて塩ラーメンの歴史』について展示していますが、今後はイベントスペースとして絵画展や個展など、地域の方々の作品等を展示し、地元と共に楽しみ、より親しまれる空港づくりを進めたいと思います。
――北海道新幹線の建設構想も具体化していますが、どう捉えていますか
新幹線が北海道、強いては函館に乗り入れることにより、函館経済に与える影響は、大変大きなものになると思います。北海道新幹線の始点は新青森駅となるので、札幌一極集中であった北海道経済が少しでも分散し、新たに東北と道南を繋ぐ観光・商業圏を構築していくことが今後、最も重要であると思います。
現在、北海道の観光ツアーなどの多くは、『函館』が始点となるのが一般的です。当空港に到着し、そこから観光バスで道央へ向かいます。そのため、帰路は函館空港からとはなりづらいのが現状です。しかし、北海道新幹線によって東北と函館道南の連動した観光が可能になれば、観光のバリエーションはさらに広がっていくでしょう。そのため航空輸送と新幹線の二大輸送網が連携し、函館・道南をバックアップしていくのが理想です。
――今後の管内経済活性化に向けての戦略は
ユジノサハリンスク線に次ぐ、新規定期航空路線の開設が課題です。行政・議会及び地元経済、各関係団体が中心となって、活発なアジア諸国に向けて函館観光プロモーション活動を行っており、その結果、過去5年間の東南アジアからのチャーター便の便数実績は10倍強と、成果は確実で、手応えを感じています。今後は現状から一歩踏み込み、定期航空路開設に向けて、行政・議会・経済界の力を借りながら更なる活動を続けていきたいと思っています。
また、函館市は新しい函館づくりを目指し、『函館国際水産・海洋都市構想』に取り組んでおり、この分野における先進視察地として、昨年はナポリ、本年はボストン・ウッズホール・ニューポートヘと訪問団を派遣し、研究しているところです。私も昨年に引き続き、訪問団の一員として同行しましたが、函館市が今後進むべき道である『観光と水産・海洋学術・研究の融合』を推進し、『学術・研究都市』を形成して行く上で、大変参考になったと共に、今後これらの都市を結び、国際研究交流が促進されて行くための、希望の種を蒔くことができたと思います。
函館市はこのように、行政・議会・経済界・観光業界が一体となって、活発にそして強い信念をもち、この函館を『国際的な学術観光都市』へと成長させるべく様々な活動を展開しています。こうした官・民が一つとなって様々な活動を繰り広げ、努力して行くことは、必ず函館・道南の経済復興に繋がって行くものと信じています。
当社としても、先ずは17年6月の『函館空港新国内線旅客ターミナルビルグランドオープン』に向けて、役員・社員会社一丸となって取り組み、空港としての役割を果たすことに全力を傾けていきたいと考えています。

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