建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年8月号〉

interview

市民と協働したマチづくりで美唄の再生を目指す

好調な「ピパの湯・ゆ〜りん館」を核に交流人口の拡大へ

北海道美唄市長 井坂 紘一郎 氏

井坂 紘一郎 いさか・こういちろう
生年月日 昭和14年11月15日生まれ
最終学歴 日本福祉大学社会福祉学部卒業
昭和 38年 12月 北海道庁入庁
昭和 60年 4月 空知支庁地方部福祉課長
昭和 62年 6月 道民生部福祉課課長補佐
平成 3年 5月 道生活福祉部障害福祉課長
平成 6年 4月 道生活福祉部次長
平成 7年 6月 道生活福祉部青少年室長
平成 8年 7月 北海道庁退職
平成 8年 10月 美唄市長就任 現在2期目
北海道美唄市は、かつては炭鉱のマチとして栄え、最盛期には人口9万人を超える空知の中核都市だったが、石炭産業の衰退でマチの基幹産業を失って以来、人口の減少に歯止めがきかず、現在は3万人を切り、一方で、高齢化率は全国平均を大きく上回る状況だ。それでも合併ではなく自立の道を選択した美唄市は、どう生きていくのか。美唄市長・井坂紘一郎氏に、今後のまちづくりを語ってもらった。
――就任してからの8年間を、どう評価しますか
井坂
多くの市民に支えられた8年間でした。美唄は、かつては炭鉱で栄えたマチで、炭鉱災害による障害者や、道立の身体障害者施設、民間の知的障害者施設などがあるため、多くの障害者の方々が市民と一緒に生活している環境にあります。
そこで私は、かつて道生活福祉部次長を勤めるなど、福祉行政に携わった経験から、誰もが安心して生活のできる「北海道一の福祉のまちづくり」に重点を置いて、政策を進めてきました。本年には、福祉のマチづくりへ取り組む姿勢や役割分担を明確に示す「美唄市福祉のまちづくり条例」を制定しました。
また、みんなで助け合う福祉の精神を、商業や農業にも取り入れ、市民みんなで進める協働の精神で市政を進めてきたつもりです。
しかし、この間に拓銀の破綻に始まり、景気低迷や国や地方の財政危機、市町村合併問題などが浮上してきたことを考えると、激動の8年間でしたが、私自身としてはある程度の仕事ができたと思っています。
――美唄の基幹産業の状況はどうでしょう
井坂
基幹産業の一翼を担った石炭産業もエネルギー革命により、美唄は旧産炭地として早期に閉山が始まり、昭和48年には全炭坑が閉山しました。
残る基幹産業は農業です。市内は、肥沃な大地である石狩平野であり、約8,800ha程の農地の中で、特に水稲は作付面積、収穫量とも全道3位を誇る基幹作物となっています。その他にも、全国一の生産量のハスカップや、グリーンアスパラガス、メロン、大豆、軟白長ネギなどを生産しています。
近年、食品の安全に対する関心が高まる中で、今後はやはり消費者の方に安全で安心な農作物を提供することが基本です。例えば、水田の畔にハーブを植栽し、農薬に頼らない栽培方法で生産された米は、「香りの畦みちハーブ米」として販売され、好評を得ています。
また、米政策改革大綱のスタートに合わせて「地域水田農業ビジョン」が策定されたので、安全・安心な米や野菜などの産地づくりはもとより、地域農業の担い手となる認定農業者や農業生産法人など、意欲的な経営体の育成・確保などにも努めています。
▲介護老人保健施設:コミュニティホーム美唄
(右扉部分が貯雪庫)
――雪を活用したユニークな取り組みもされていますね
井坂
美唄は、年間の降雪量が8m〜11mにもなります。そこで、この雪を活かそうと、平成9年から産学官で自然エネルギー研究会を結成し、雪の冷熱を利用した「雪冷房」の実用化を推進しています。
世界で初の雪冷房マンションや福祉関連施設、昨年オープンした温泉施設、美唄市農協の米の貯蔵施設など、様々な施設に雪冷房の導入が進められています。
――中心市街地の活性化も重要ですね
井坂
大型店舗の進出や商店街の後継者不足などにより、空き店舗が目立ってきています。そこで、空き店舗の活用を図るため、専修大学北海道短期大学に留学する中国人留学生によって、空き店舗を利用した中華料理店をオープンしたり、主婦らが中心となって手作り情報を発信する情報交流館を開設しました。
今後も、地域の特性を活かした活性化策や、買い物のために遠出できない高齢者らのために、品揃えを充実するなど、美唄らしい魅力ある店舗展開が必要です。
――観光の見所などはありますか
井坂
美唄の観光スポットといえば、「宮島沼」というマガンが渡来することで有名な沼があります。今年は約6万7千羽が確認されました。そのため、一昨年にはラムサール条約登録湿地に指定されました。
また、美唄出身の彫刻家・安田侃氏の作品を展示する「アルテピアッツァ美唄」という芸術交流広場もあります。かつての炭鉱住宅街にあった古い校舎と体育館を活用した施設で、校舎と地域の自然、安田氏の創作した大理石の彫刻が融合した自然の空間として、世界的に注目を浴びています。
▲ピパの湯・ゆ〜りん館
――昨年12月にオープンした「ピパの湯・ゆ〜りん館」も、観光産業の一翼として期待できそうですね
井坂
交流のマチづくりの核施設としてオープンした温泉施設で、周辺には農産物直売や陶芸体験などができる体験交流館、野球場やテニスコート、陸上競技場などのスポーツ施設も揃っています。春には桜の名所でもあり、パークゴルフ場の整備も進めています。
「ゆ〜りん館」のオープン当初は、年間20万人の入館を見込んでいましたが、予想を上回り、約半年で20万人を超えました。経済効果も年間10億円ほどと見込んでいましたが、軌道修正して11億5千万円になるのではと予想しています。
今までは通過型の観光地でしたが、今後はこの温泉施設を、様々な交流事業を展開し促進していく拠点施設と位置づけ、多くの人々に美唄の良さを知っていただければと思います。そして、地域の活性化に繋げるためにも、交流人口の拡大に努めたいですね。
――市民の高齢化率が、際だって高いとのことですが
井坂
全国の高齢化率18.8%に対し、美唄の高齢化率は27%を超えています。昨年では、出生数185人に対して死亡数333人で、148人の自然減という急速な少子高齢化の進捗状況です。昭和31年には最高9万2千人を超えていたのが、この3月時点では3万人を切り、寂しさを感じます。
しかし、美唄の将来を担う子ども達の育成は欠かせません。そこで、幼少期からの子育てを支援する独立型の子育て支援センターも早期に整備しました。その他、道立高校が3校あり、専修大学北海道短期大学や国設の情報関連のコンピューターカレッジもあり、教育環境は整いつつあります。
――高齢者のための福祉予算が財政負担になっているのでは
井坂
財政上の投資額は大きいですが、介護施設やデイサービスセンターなどの施設は先駆的に整備が進んでおり、この8年間で約230人の新たな雇用が生まれています。福祉は、ただ単に費用がかかると思われがちですが、新規雇用も創出される大きな産業の一つとして、マチづくりに生かされると確信しています。
――市町村合併においては、自立の道を選択しましたね
井坂
100年に一度あるか無いかの課題で、ずいぶん悩みました。この管内では岩見沢市と栗沢町、北村、三笠市、月形町、そして美唄市と、この6市町村で任意協議会を設置し、検討、議論を重ねてきました。そして、これまで美唄が築いてきた歴史や文化、マチづくりや個性が、合併によって引き継がれていくかどうかを考えた結果、最終的には議会も自立を選択しました。
また、「6市町村の新市の構想」とは別に、「美唄市自立のシナリオ」を策定し、これをもとに合併の是非を問う18歳以上の全市民にアンケート調査を行った結果、55%強の市民が「自立」を選択したので、自立を決断するに至りました。
――今後の自立に向けたシナリオは
井坂
公募などで参加いただいた30名の委員による「美唄市まちづくり委員会」を5月に発足し、「自立推進計画」の策定を進めています。今後の公共サービスや地域コミュニティのあり方、近隣自治体との広域的行政のあり方、自立のためのまちづくりの進め方などを議論していただいています。
今後は、市民に痛みを伴うこともあることをご理解いただき、住民自治の枠組みや仕組みを構築していきたいと考えています。
――今後のマチづくりの政策展望は
井坂
事務事業の見直しや、事業の重点化をはじめとする行財政改革の徹底的な推進による財政基盤の強化をしなければなりません。また、今後のまちづくりでは、市民といかに協働したまちづくりをしていくかが重要です。そこで、美唄のまちづくりの基本的ルールを示す「まちづくり基本条例」を制定します。
今後は、政策の決定過程において、市民参加の協働による自己責任、自己決定のシステムを確立し、厳しい現状、危機的な状勢を美唄再生のチャンスとして捉えていきたいですね。「小さくてもキラリと光るふるさとづくり」を目指し、市民と自立への確かな道すじを着実に切り拓いていく所存です。

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