建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年8月号〉

interview

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食と観光で北海道経済の新局面を切り拓く(前編)

すべての産業経済政策を一元的に遂行

北海道副知事 麻田 信二 氏

麻田 信二 あさだ・しんじ
昭和 22年 12月 23日生
網走市出身
北海道大学農学部農芸化学科卒
昭和 49年 4月 入庁(上川支庁経済部農務課)
平成 9年 6月 農政部農政課長
平成 11年 5月 農政部次長
平成 14年 4月 農政部長
平成 16年 4月 現職
北海道副知事のポストに、長年農政を担当してきた麻田信二氏が就任した。所管部局は農政部、水産林務部、経済部、建設部と、本道の産業経済全般を一元的に統括する立場である。「経済行為に関わる政策を別々に執行するのでなく、一元的に遂行することによる利便性を生かすため、部局間の連携強化を促したい」と語る。また、本道の経済再生への道筋については、「優れた観光資源、食資源を基軸としたインフラ整備へとシフトすることで、観光立県を実現していきたい」と展望。将来的には「成長著しい中国市場への参入を視野に入れた展開を構想している」という。一部業界ではようやく不況からの回復の声が聞かれるものの、依然として回復の後れている本道経済に道民も疲弊しきっている。本道が誇れる資源である食料と自然を切り札に、どう新局面を切り拓いていくか。麻田氏へのインタビューを2回に渡って連載する。
――所管部局における新年度予算の執行方針と重点的な施策についてお聞きします
麻田
4月末に公表された本道の平成16年1月から3月期の完全失業率は6.9%に上り、前年同期と比べると1.2%の改善が見られました。また、完全失業者数は19万人で、前年同期と比べ4万人減少しています。しかし、全国の平均失業率5.0%に比べれば、まだ1.9%も高い水準にあり、依然として若年層の就職が難しい状況です。
このように北海道は、依然として厳しい経済状況下に置かれていますが、この現状を打破するためには、「食」と「観光」がキーポイントで、これにより地域内発型産業を育成することが重要です。長期的な戦略を持って、北海道の「食」や「観光」を世界ブランドにしていくことが、北海道経済を活性化させるための重要なキーポイントです。
そこで、当面する雇用・中小企業対策に取り組むとともに、本道経済の再建に向けて、16年3月に策定した「ほっかいどう産業活性化プログラム」に沿った取組を推進しています。
また、昨年9月に改訂した「雇用創出プラン」に基づき、「地域における取組の促進」と「若年者の就職促進」の2つを新たな重点施策と位置付け、着実に進めるとともに、市町村との協働によって、地域の特性を活かした雇用おこしが重要です。
特に若年者に対して総合的な就職支援サービスを提供する「ワンストップサービスセンター」を設置するほか、季節労働者の雇用の安定と通年雇用化に向けた能力開発を支援します。
一方、雇用者側となる中小企業への対策としては、中小企業向け金融支援を充実し、道内中小企業の再生を加速するため、「中小企業再生支援資金」を創設します。
 さらに、小規模企業対策や景気対策の強化を図るため、「特別小口貸付」や「景気変動対策特別対策貸付」を拡充し、セーフティーネット対策も強化します。
――公共事業を主な原資とする建設産業も、有力な雇用対策の受け皿として期待されてきましたが、事業費削減の影響が如実に見られるようになりました
麻田
確かに、公共投資の縮減などに伴い、建設業をめぐる経営環境の悪化が懸念されます。そこで、新たに「建設業等ソフトランディング対策費」を計上し、一次産業との連携など、各支庁独自の取り組みを強化するほか、新分野進出を促進するゼミナールや公共事業などへの新技術導入を促進するプレゼンテーションなどを実施することで、建設業の企業体質強化や新分野進出を促進する方針です。
――「ほっかいどう産業活性化プログラム」の内容は
麻田
「ほっかいどう産業活性化プログラム」については、本道に優位性や可能性がある戦略分野における事業展開を集中的に支援するもので、本道産業のリード役となる企業群の形成に向け、経営革新や新事業展開といった新たな活動に果敢に挑戦する中小企業を積極的に支援します。
 例えば、観光事業者が農林水産業と連携して、地元食材を活用した観光の魅力を高めるような取り組みを支援したり、 「エクセレントカンパニー挑戦支援プロジェクト」として、優れた経営を行う企業群の形成に向けて、挑戦する気運の醸成を図ると同時に、産業活性化のリード役となる意欲的な中小企業が行う新製品・新技術の開発を支援します。
――北海道においては、観光資源と同時に産業資源としても、今後に期待が持たれるのは農業ですね
麻田
国際環境の変化にも対応できる持続可能な本道農業・農村を築いていくため、幅広い道民意見や道議会での議論を踏まえた上で、16年3月に農業者が夢の持てる農業・農村の将来像や取り組みの基本方向を示す「北海道農業・農村ビジョン21」と、その実現に向けて、道として重点的に取り組む施策や工程を明らかにする「アクションプラン」を策定し、公表しました。
16年度は、その実現に向けた施策に着手する最初の年であることから、ビジョンに掲げる「食」、「環境」、「人」、「地域」といった4つの視点に基づき、新しい農業・農村づくりの足がかりになる施策に重点化しています。
 とりわけ「食」については、「食」に関する条例の制定に向けた検討や、トレーサビリティ・システムの早期構築、道産食品独自認証制度の本格運用と、対象品目の拡大。さらに「北海道の食」づくりに向けた食文化データボックスの構築や、仮称ですが「愛食の日」の制定、道産農産物の輸出促進などを検討しています。
――BSEや鶏インフルエンザなどを通じて、食の安全は世界的な課題となっていますね。その意味でも「食」に関する条例のあり方に関心が持たれます
麻田
例えば、バイオテクノロジーの研究開発は、将来的には本道の産業振興に有用であり、積極的な取組が必要ですが、一方で遺伝子組換え食品に対しては、道民をはじめ全国の消費者が強い不安感を抱いており、また、一般作物への影響も懸念されます。
こうした状況で、開放系ほ場で遺伝子組換え作物を栽培することは、北海道ブランドの大きなイメージダウンとなる恐れがあります。このため、遺伝子組換え作物の取扱いについては、道民、消費者の視点に立ってしっかりと議論し、「食」に関する条例の中でルールづくりを行う考えです。
また、安全・安心で優れた道産食品を認証する道産食品独自認証制度についても、昨年度の試行を踏まえて、本年度から本格運用を開始します。
当面はハム類からスタートしますが、農産加工品や水産加工品などを対象に、順次品目を拡大していきます。
 食べる人の安心と、作る人の努力とをしっかり結びつけた制度として条例に位置付けることによって、北海道ブランドの向上につなげようという考えです。
――全国の食料自給率は40パーセント程度で、さらに数年後には38パーセントにまで低下すると予測されています。その背景には、欧米の食材の輸入によって、日本人の食習慣が変化したためといわれますが、とりわけ近年は若年者の食習慣が乱れているとの指摘もあります
麻田
健康な生活を送るためには、食べることの意味を理解し、安全な食べ物を選択する力や、好ましい食習慣を身に付ける、『食育』の推進が重要です。
道としては、国が制定を目指している「食育基本法」に先がけて、北海道における食育の基本的な考え方を示す「どうする『食育』北海道」を取りまとめ、道民の皆さんに提案したところです。
 この食育の問題も条例の中にしっかりと位置付け、家庭や学校、地域、さらには生産の現場も活かした北海道ならではの食育を積極的に推進する考えです。
――農業を取り巻く諸情勢への対策や、担い手対策などを含む環境・条件整備も重要ですね
麻田
「環境」については、クリーン農業のprや産地拡大、有機農業の技術開発などによる一層の推進、簡易施設の応急的な導入などの家畜ふん尿処理対策を進めます。
「人」については、道立農業大学校の専門学校化に向けた検討や、農作業事故に備えた研修体制の整備、農業法人などへの就業促進と人材確保に努めます。
 「地域」については、アグリビジネスの成功事例の育成や、グリーン・ツーリズム実践者の広域的な連携体制の構築や、特色ある花きの産地づくりを目指します。

〈建設グラフ2004年9月号〉

優良道産材や食の地産地消を促進(後編)

海外戦略も視野に入れた市場開拓

食の安全が世界的な問題となる状況にあって、第一次産業の本場である北海道は、その安全性を高めていくための先進的な取組を進めると同時に、市場確保においても巧みな戦略と独創的な対策で相乗効果の得られる政策を行っている。前号に続き、それを先導していく麻田信二副知事に伺った。
――水産業や林業については、どのように展望し、どんな政策に取り組みますか
麻田
基本は、平成15年3月に策定した「北海道水産業・漁村振興推進計画」と、「北海道森林づくり基本計画」に基づく施策を着実に推進することですが、さらに今年度は、新たな情勢として、知事公約の実現、産業・雇用施策の一層の推進、そして15年度に発生した大規模災害への対応も図りながら、それぞれの計画に示す基本的な方針に基づいて、具体的な施策を展開することになります。
水産分野では、「水産物の販路拡大に向けた取組の推進」と、「水産業の発展に向けた取組の推進」を重点項目として、地産地消を基本とする道産水産物の愛食運動と、食育の推進、海域の特性に応じた栽培漁業の推進、密漁取締りの効果的な対策の推進に取り組みます。
森林・林業・木材産業の分野では、「産消協働による道産材の利用促進」、「災害に強い森林づくり」、そして「道民との協働による森林づくり」を重点として、道産材の産地表示や地域における住宅建設などでの利用促進、モデル地域での検討会の開催、さらに地域住民と森林所有者との協働により災害に強い森林づくり、道民との協働による苗木づくりなど、19年度開催予定の全国植樹祭に向けた気運の醸成に向けて取り組みます。
「北の海のめぐみ愛食総合推進事業」や「道産材利用促進対策事業」は、産消協働というコンセプトが、特に重要です。
――「北の海のめぐみ愛食総合推進事業」に基づく具体的な政策は
麻田
近年は食卓からの魚介類離れが進んでおり、水産物の消費拡大が大きな課題となっています。そこで、鮮度が良く、おいしい北海道の魚の「愛食運動」を進めるため、その活動母体となる生産者、消費者、研究者、調理人など、たくさんの人材によるネットワークを形成し、それを活かしながら水産物の消費を拡大していく第一歩としていく考えです。 また、「食育」という観点からも、道産水産物の学校給食への利用促進や、小学生に対する学習教材の作成などに着手します。
――最近はシックハウスなどという現象が話題になっていますが、そうした情勢こそ安全な道産材の需要拡大のチャンスですね
麻田
道民が安心して道産材を利用できるように、「道産材利用促進対策事業」として産地表示を明らかにする仕組みづくりと、地域で生産した木材を地域で利用する「地材地消」の取組を進めます。
例えば、地域で生産された木材で家を建てる場合、道と生産者グループが施主に柱を提供し、施主は道産木材のモデルハウスとして公開に協力をしていただくなど、生産者と消費者が連携した活動や、また学校教育分野では、木のぬくもりを感じる学習環境づくりにもつながる「ウッドスタート」として、児童・生徒などが自ら机の天板製作に携わり、それを卒業するまで使うといった仕組みなどを通じて、道産材の利用促進を図っています。
――建設業は、公共投資の抑制と事業費のコストダウンが徹底されているため、一部には不当廉売とも言えるダンピングや、過剰な価格競争も見られ、産業としては健全な状況にあるとは言えないようです
麻田
建設行政の目標は、住宅・社会資本整備を通じて、「豊かで安心して暮らせる活力ある地域社会の実現」を図ることであり、このため「第3次北海道長期総合計画」や「構造改革の基本方針」を踏まえながら、整備を促進しなければなりません。
そのため、16年度は建設業の経営革新に向けた取組の推進、協働による地域づくりの推進、資源の循環的な利用の促進を重点施策としています。
建設業の経営革新に向けた取組として進めている「建設業経営体質強化対策事業」では、経営戦略ゼミナールの開催や、中小企業診断士の派遺による経営戦略指導の実施により、建設業の経営革新を促進するための努力を支援しています。
また、建設業の一層の経営効率化に向け、制度の弾力的運用などの改善策について、産学官で協議するための「建設業経営効率化推進委員会」を設置しました。
――協働による地域づくり、資源の循環的な利用とは、具体的にはどんな施策でしょうか
麻田
協働による地域づくりは、「美しい景観のくにづくり推進事業」として、美しい景観を創出するために道民意識の醸成や、市町村連携の促進、景観に配慮した公共事業の推進などに取り組むことで、具体的には、子どもたちを対象とした景観学習プログラムの作成、全道市町村景観会議の開催、景観に配慮した公共事業を推進するための担当官の育成などを実施するものです。
資源の循環的な利用は、「公共建築物ストックマネージメント」として、公共施設の修繕履歴や劣化度の情報を一元管理するシステムを構築し、各施設ごとの最適な保全計画を策定するもので、庁舎など300施設に及ぶ既存施設の現況調査や、システムの整備などを実施する方針です。
――農業、水産林業、建設など、北海道の経済行為の全てに関わる政策を統括する立場にありますが、そうしたグローバルな立場から、基幹産業である本道の農業の未来像をどう展望していますか
麻田
北海道の農業・農村は、広大な農地や豊かで美しい自然、高い技術力、開放的な気風とチャレンジ精神あふれた人材などに恵まれています。そして、今後さらに北海道の経済・社会を力強くリードし、また、我が国農業・農村の牽引役として、大きく発展する可能性を秘めています。
このため、その優れた潜在力を最大限に発揮していけるよう、本年3月に策定した「北海道農業・農村ビジョン21」の方向に則し、関係者との連携・協力のもと、安全で安心な農産物を求める消費者と生産者との信頼関係を基本とした「食」の構築、「環境」と調和した農業の推進、こうした取り組みを支える「人」づくり、個性豊かな「地域」づくりを積極的に進めていくことが大切です。
本道農業・農村の将来像について、消費者と生産者が「食」を通じて強い絆で結ばれた農業・農村の実現に向けては、消費者と生産者の交流が進み、そこにしっかりとした信頼関係が築かれることが大切です。
環境と調和しながら持続的に発展していく農業・農村の実現に向けては、環境に配慮した農業が展開され、緑豊かな自然、それを形づくる生き物、水、空気、土が、守られることが大切です。
多様な「担い手」が活き活きと活躍する農業・農村の実現に向けては、実際に農業・農村を愛する人たちが、希望と誇りを持って活き活きと営農し、また農村を力強く支えていくことが大切です。
個性を活かして「地域」が輝く農業・農村の実現に向けては、地域の創意工夫と個性豊かな資源が十分に活かされ、そこにしかない魅力で地域を一杯に満たしていくことが大切です。
――それらを踏まえた上で、農業基盤整備の今後のあり方をどう考えますか
麻田
道産食品に対する消費者の信頼を得るため、「食の安全と安心の確保」がこれからの農政の大きな柱であり、安全で品質の高い農産物を安定的に供給していくための排水対策や土づくりといった基盤整備が不可欠です。
道としては、こうした土地基盤の整備や家畜排せつ物の適正管理に向けた施設の整備を加速化するため、農家負担の軽減措置として食料・環境基盤緊急確立対策事業を、市町村と連携しながら講じているところです。
昨年の夏は、大冷害となった平成5年以来の低温・日照不足となり、約460億円の減収被害が発生しましたが、5年の冷害に比べて被害は小さくすみました。これは、品種改良や栽培技術の向上に加え、水田の深水かんがいに対応したほ場の整備など、基盤整備も大きく貢献した結果と考えており、今後とも災害に強い基盤整備の実施は重要です。
また、近年は都市住民が、農村地域の緑豊かで雄大な自然や農業生産が織りなす美しい景観、広々としたゆとりある空間を求め、農村地域を訪れる機会が増加しています。農業・農村に対する理解を深めてもらうためにも、農業農村整備事業が自然環境の保全や、農村景観の形成などに積極的に取り組んでいくことが重要です。
一方、厳しい財政状況なども踏まえ、北海道農業の持続的な発展に向けて、農業農村整備事業を効率的・効果的に進めていくために、農政部においては14年度から事業を進めるに当たっての基本的な方向や、新たな展開について検討を進めており、さらに今年度からは地元の意向を反映した弾力的な整備手法の導入や、コスト低減に向けた農家参入型直営施工の実施など、新たな施策も進めていきます。
いずれにしても、農業農村の整備については、地域の意向に十分配慮した計画的・効率的な事業展開を図っていくことにしています。
――食料自給率190パーセントという数字は、全国的にも強烈なインパクトがあります。食料供給基地としてのアピールやメッセージはありますか
麻田
北海道は、恵まれた自然環境など豊かな資源を活かして、酪農を始め、畑作、稲作などにおいて大規模な経営を展開しています。農業産出額は約1兆円と、全国の1割強を占め、カロリーベースの供給量では約2割に及び、我が国最大の食料供給地域として、重要な役割を担っています。
また、農業・農村は、洪水の防止や水資源のかん養、大気の浄化、さらには美しい景観の形成などの多面的な機能を発揮しており、その評価額は約1兆3千億円と試算され、農業産出額を上回っています。
ただ、一方では生産活動に伴う環境問題の発生、「食」の安全・安心に対する消費者の関心の高まり、遺伝子組換え作物の栽培に対する不安の声などがみられる状況にあります。
このため、道民をはじめ全国の食卓に食料を提供している北海道としては、「食の安全・安心条例(仮称)」を制定するなど、消費者の視点に立って、「道産食品」の安全・安心を確保し、消費者から信頼される北海道ブランドの向上を図る取組を実施していきます。
また、クリーン農業を実施する産地を拡大し、そのスタンダード化を図るとともに、有機農業の普及にも努めるなど、世界に通用する「食」づくりを進める考えです。
さらに自然景観を生かしたグリーン・ツーリズムなどの実施により、誰もが訪れ、暮らしてみたくなる地域づくりを進め、「世界ブランド」の観光を育成していきたいと考えています。
食のグローバル化が進む中で、わが国は、多くの農産物を輸入している状況にありますが、こうした取組により、北海道から世界ブランドの「食」を発信し、五輪景気に沸騰する中国など海外市場での開拓に向けて、戦略的に取り組んでいこうと考えています。

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