建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年7月号〉

interview

北海道の教育政策と施設整備

北海道の21世紀を担う人材の育成とそれを体現する教育施設の整備
全国平均を上回った学校教育へのIT導入率

北海道教育長 相馬 秋夫 氏

相馬 秋夫 そうま・あきお
生年月日  昭和19年2月18日
出身地  北海道帯広市
最終学歴  北海道大学法学部(昭和41年3月卒)
昭和 41年 4月 北海道職員採用 
昭和 62年 6月 総務部人事課長補佐
平成 元年 4月 空知支庁地方部長
平成 3年 5月 総務部知事室参事
平成 5年 4月  〃 人事課長 
平成 7年 6月  〃 次長
平成 9年 6月  〃 職員監
平成 11年 5月 網走支庁長
平成 12年 4月 建設部長
平成 13年 4月 総合企画部長
平成 14年 6月 現職
全国ベースでは一部に景気回復が見られるものの、本州とは海で隔てられ、気候も過酷な北海道はタイムラグがあり、依然として厳しい景況が続いている。そうした状況下で道州制も検討されるなど、かつてない激動の転換期を迎えており、それだけに21世紀を担う人材は、人間としての基本的資質だけではなく、新しいパラダイムに適応できる能力・資質が求められる。同時に、それを実践する場となる教育施設についても、その要請に即した施設であることが求められる。北海道の教育のあり方、人材育成のあり方について、相馬秋夫教育長に語ってもらった。
――北海道の振興のために求められる人材像と学校教育のあり方について、どう考えますか
相馬
平成16年の教育行政執行方針に明記しましたが、北海道はまさに未来を担う人づくりが最大の課題であるとの基本認識に立っています。
時代の大きな転換期を迎え、地域の人々が、自らのことは自ら決定し、自らが責任を負うことが求められており、自己を確立し、創造性に富んだ逞しい人材の育成が一層重要で、豊かな人間性をもち、社会の変化にも柔軟に対応できる資質と能力を身に付けた人を育て、地域の産業や文化を支え、地域に誇りをもって活動する人材の育成を目指します。
――そのための学校教育の在り方については、どう考えますか
相馬
学校教育においては子どもたちに知識や技能はもちろんのこと、自ら学び自ら考え、よりよく問題を解決する資質や能力などの「確かな学力」と、基本的な規範意識や倫理観、他人を思いやる心など「豊かな心」を育む調和のとれた教育活動を展開することが大切です。
各学校においては、基礎・基本を徹底すると同時に、豊かな自然環境を生かした教育など「生きる力」をはぐくむ特色ある教育を推進しています。
道教委としては「確かな学力」の育成に向けて、35人学級など少人数学級の導入や、習熟度別指導などの個に応じたきめ細かな指導の充実を図り、子ども一人ー人に学ぶ楽しさを体験させ、学習意欲を高める工夫をしています。
また、「豊かな心」の育成に向けては、家庭や地域との連携・協力の下、児童生徒の心に響く道徳教育の取組や、ボランティア活動など社会奉仕体験活動、読書活動を推進しています。
さらに、昨年度からは学ぶ意欲を培う高等学校教育を実現するため、「夢と活力あふれる高校づくり推進事業」を実施しています。
この事業では、10項目の実践テーマを示し、教育改革に積極的に取り組む高等学校を奨励校として指定し、支援しています。そうした各奨励校の実践研究成果を、広く道内の高等学校に普及させることにより、特色ある学校づくりを進める考えです。現在の奨励校は、50校となっていますが、今年度は132校が対象となる予定です。
――どんなテーマがありますか
相馬
実践テーマとしては、「イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」、「サイエンスハイスクール」、「プロフェッショナルハイスクール」、「学力向上フロンティアハイスクール」「いきいき体験モデルハイスクール」、「アンビシャスハイスクール」、「ITハイスクール」、「ネイチャーハイスクール」、「ふるさとハイスクール」、「パイオニアハイスクール」があります。
また、将来、社会人・職業人として必要とされる自立心や創造力、チャレンジ精神など、起業家精神を培う教育を推進するために、本年度から「起業家教育実践研究事業」を実施することとしております。指定校は、小中高合わせて42校となる予定です。
――最近は、少子化の影響もあってか、初等教育と上級学校の統合も見られますね
相馬
教育の連続性を確保するため、小中一貫教育、中高一貫教育など、校種間の連携を図るものです。道内における小中一貫教育の事例を上げると、道委託事業として3地域で実施することになっております。実践校としては、稚内市の天北小学校と天北中学校、室蘭市の武揚小学校、常盤小学校と北辰中学校、標津町の川北小学校と川北中学校です。この他、国委託事業として、三笠市の岡山小学校と萱野中学校で実施されています。
中高一貫教育は5地域で実施されており、14年度に上川中学校と上川高校、15年度には上ノ国中学校と上ノ国高校、鵡川中学校と鵡川高校、鹿追中学校、瓜幕中学校と鹿追高校で、今年度はえりも中学校とえりも高校において実施されます。
21世紀のすばらしい北海道を築き上げていくためには、有為な人材を輩出していくことが重要であり、その根幹は学校教育にあります。生徒一人一人のもつ能力を最大限に引き出す教育環境づくりは、教育行政に携わる我々に課せられた使命です。この認識をもって、今後とも保護者や地域の負託に応えながら、主役たる生徒を中心とした愛情と信頼に満ちた教育を実現すべく、職員一丸となって最善の努力を尽くしていかなければなりません。
――そうした理念を実現する上では、学校の施設もそれを反映したものであることが必要ですね
相馬
ゆとりと潤いのある教育環境づくりが必要です。学校は、児童・生徒の学習、そして豊かな人間性を育む場として、極めて重要であることから、様々なポイントに十分な配慮が求められます。
一つは、文化的環境づくりで、人間性豊かな児童・生徒の育成のためには、校舎が画一的とならないように、地域の風土や自然環境、まちなみと調和した施設整備が有効です。
また、木材利用の効果も重要です。木のもつ「温もり」、「柔らかみ」を生かし、温かみと潤いのある教育環境をつくるため、木材を積極的に使用します。
学校の緑化も大切です。学校は地域の中核的な施設であり、大きな敷地を有していることから、その緑環境は学校のみならず周辺地域や市街地に与える影響も大きいので、校地内に残されている自然や緑をできる限り保全します。そこで、樹木、草花による緑被率を、政策的に校地面積の20%を確保し、緑豊かな学校環境の整備に努めます。
学校施設のバリアフリー化も重要です。障害のある児童生徒が、支障なく学校生活を送れるよう、また高齢者などの地域住民の生涯学習の場としての利用も促進するため、玄関スロープや障害者用トイレ、エレベータなどの設置を進めています。
一方、学校施設は、多くの児童生徒や教職員らが一日の大半を過ごす生活の場でもあり、地域住民の緊急避難場所として指定されているケースも多く、安全で安心な環境を確保することが重要です。そこで、昭和56年以前の旧耐震基準で建築された校舎の耐震診断、耐震補強も急務です。
道立学校については17年度までに耐震診断を終了する予定ですが、市町村に対しても学校施設の耐震性能の向上などを強く働きかける方針です。
――最近は教育の現場にもITが着実に浸透しつつありますね
相馬
多様な学習内容や形態に応じた施設設備の対応も重要です。社会の変化に対応した多様な学習内容・形態を展開するため、情報通信機能の整備や、先端的な実習施設の整備を進めています。
例えば、「教育の情報化」を推進するため、校内LANシステムの整備も実施しています。その整備状況は、全国では29.2%ですが、本道では32.1%で平均を上回っています。内訳は、全国の場合は小学校23.2 %、中学校24.3 %、高校51.8 %ですが、道内の場合は小学校24.3%、中学校28.4%、高校61.3 %という実績です。
さらに、IT関連だけではなく、急速な技術革新や、経済社会の進展に対応した実際的・体験的な学習を充実するため、これに必要なバイオ実習室や、高度で先端的な産業教育施設の整備を進めています。
もちろん、児童・生徒の体力や健康の増進を図ることも重要で、柔剣道場や水泳プールなど学校体育施設の整備も同時に推進しています。
――近年は人間の寿命も長くなったため、痴呆化や呆け対策、生きがい対策も重視されていますね
相馬
そのために、生涯学習の振興も社会的には重要な政策テーマです。平成5年に策定された「北海道生涯学習推進基本構想」では、「人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される」と明記されており、その理念に沿った生涯学習社会の構築を目指しています。
それに基づいて、13年に設置されたのが北海道立生涯学習推進センターで、生涯学習に関する、調査・研究、指導者の養成・研修、学習情報の提供・相談などが行われており、北海道の生涯学習推進の拠点施設と位置づけられます。
ハード面ばかりでなく、ソフト面においては、道民カレッジも開催しています。これは産学官が連携し、広く道民に各種講座などの学習機会を体系的に提供するもので、13年9月に「ほっかいどう生涯学習ネットワークカレッジ」として開講されました。100単位以上の規定単位を取得すると、正式な学位称号が得られるよう、公式にオーソライズされたもので、実績としては学士35名、修士14名、博士4名が認定されています。
現在は450の講座で学生数は1万3千人ですが、19年度までには500講座、3万人に拡充することを目指しています。
――今後の生涯学習はどのように変わっていくでしょうか
相馬
策定から10年を経過した「北海道生涯学習推進基本構想」の見直しが当面のテーマです。15年9月に北海道生涯学習審議会からの答申「生涯学習社会の実現に向けた今後の推進方策について」においても、見直しが提言されたので、今年度中には新構想が策定されることになります。
――スポーツの振興に向けては、どう取り組んでいますか
相馬
北海道スポーツ振興計画が12年10月に策定されていますが、基本は誰もがスポーツに親しめる環境づくりや、夢と感動を与える強い競技スポーツ、スポーツ活動の基盤づくりなどが、本道のスポーツに関する施策展開の方向性です。
また、心身ともに健康で充実した生活を営むためには、「だれもが、いつでも、どこでも、スポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会の実現」が、大きな目標となります。
そのため、地域住民が主体となって創設・運営する総合型地域スポーツクラブの育成や、それを支援する広域スポーツセンター機能の充実が重要となります。
――広域スポーツセンター機能は、どのように実現していますか
相馬
北海道立総合体育センター「きたえーる」に、全道の中核となる北海道広域スポーツセンター機能推進本部を、15年に設置しました。実質的な業務は道体協に委託しています。
また、道南、道央、道北、オホーツク、十勝、釧路・根室といった道内の6生活経済圏域を対象に、広域スポーツセンター機能整備に対する補助制度を創設しました。
――総合型地域スポーツクラブの開設状況は
相馬
16市町で総合型地域スポーツクラブが創設されています。内訳は札幌市、江別市、上川町、美瑛町、東川町、愛別町、鷹栖町、当麻町、比布町、東神楽町、士別市、風連町、北見市、網走市、釧路市、江差町で、さらに恵山町、南幌町、浦河町、旭川市、標津町の5市町が創設を準備中です。
今後は、これら広域スポーツセンター機能を充実させ、より一層地域に密着した支援を進める中で、各地域の総合型地域スポーツクラブの育成・普及を促進していきます。
一方、北海道スポーツ振興計画に基づき、多様なスポーツ活動に対応できる総合的な施設や、本道の特性を生かした冬季スポーツの拠点となる施設を広域拠点スポーツ施設として整備を促進していきます。
これについては、平成15年7月に広域拠点スポーツ施設整備促進の基本方針が策定され、広域拠点施設に必要な役割や機能、望ましい整備方向や整備促進のための方策など、基本的な考え方をとりまとめています。
また、各圏域における広域スポーツセンター機能の一層の促進や、施設整備の在り方などに関する具体的な検討を進展させるため、関係市町村などによる協議が円滑に進むよう支援します。
スポーツというのは、人生をより豊かで充実したものにするものであり、心身の健全な発達のためにも必要不可欠ですが、特に青少年期にスポーツの楽しさや、喜びを味わう体験を積むことは、学校生活に豊かさをもたらすばかりではなく、生徒の自主性、協調性、責任感などを育成するなど、教育効果も高いことから、今後とも本道のスポーツの振興には力を入れていく考えです。

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