建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年7月号〉

interview

行政のスリム化などで自立への新たなまちづくりを計画

町民との対話を重ねることにより、自立への不安を解消

北海道遠別町長 川島 茂之 氏

川島 茂之 かわしま・しげゆき
生年月日 昭和14年1月15日生まれ
出身地 遠別町出身
学歴 永山農業高校卒
平成 5年 6月 遠別町財政課長
平成 7年 5月 遠別町助役
平成 12年 10月 遠別町長初当選
全国の自治体が市町村合併問題で揺れる中、北海道遠別町は今年2月に、自立の道を選んだ。遠別町は、肥沃な大地を背景に、農業と漁業を基幹産業とする町だが、他自治体と同様、町財政などは厳しい状況だ。それでも自立の道を選択したのはなぜか。遠別町長である川島茂之氏に、その背景と今後のまちづくりについて伺った。
――就任してからの4年間は、どのように町政に携わってきましたか
川島
町長に就任した翌年は、新たに総合計画を策定する年でした。以前は10年計画で進めてきましたが、私は10年ではアバウトな計画になり、実態に合わないと考えていました。そこで、5年計画へ変更することにより、極めて現実的でシビアな総合計画を作成することができました。
また、情報公開条例を平成14年4月からスタートさせました。行政側から積極的に情報公開することにより、町民の町に対する信頼感は、多少なりとも向上したと思います。例えば、行政改革として、高齢者に給付していた町独自の年金を止め、子ども達への医療費や高齢者への福祉政策に、その財源を回しました。これも町財政の内容を公開することによって、高齢者に理解を得られ、不満も提示されませんでした。これも町民とのコミュニケーションに成功した結果だと思っています。
――市町村合併については、自立の道を選択しましたね
川島
今年2月に約一ヶ月間の時間をかけて、各集落で町民懇談会を開き、町財政の現況や他町村との相違点などを説明し、その結果、合併せずに自立の道を歩む考えを伝えました。
その最大の要因は、遠別町の債務が最も少ないことが挙げられます。これは、公債費の償還期間を短くした結果で、公債費の償還は、他町では今後、増えていきますが、遠別町の場合は減っていくことになります。
もう一つの要因としては、わが町は人口の約80%が市街地に集中しているため、上下水道などの社会基盤整備や学校の統廃合が既に終了しているのです。他町では、市街地が分散化していることもあり、まだまだ公共整備が遅れていることもあります。
この状況を踏まえ、今後とも行政の手法によっては、十分に独力で町政を運営していけるとの判断に至ったわけです。
――町民側からは、自立への不安を訴える声もあったのでは
川島
確かに、町民にも負担をかけることもあるとは思いますが、まずは行政の組織自体を徹底して改善していくことが、先決です。
例えば、人口の比率に反して職員数が多いので、自然減も含めて定数を減らしていくことが重要です。町立総合病院も、診療所に規模を縮小し、町立の特別養護老人ホームも、民間に委託するなど、町の規模に見合った構造にしていかなければ、到底、自立はできません。
こうした構造改革は、合併してもしなくても遂行しなければなりません。ですから、自立の選択をしたところで、その対応は進めていきたいと考えています。
大切なことは、みなが自立に向かって考えを共有しながら進む、やり抜く気持ちが大切なのです。自立に向けて町民とのコミュニケーションを深めた結果、理解を得られたと思っています。
――自立の方向性が決まったなら、今後のまちづくりの計画も変わっていきますね
川島
自立して生きねばなりませんから、そのためのまちづくり計画を策定するため、庁内に「遠別町自立のまちづくり研究会」を設置しました。そこで議論をしながら、様々な方向性を検討していく予定です。
また、現在の5ヵ年計画は平成17年度で終了するので、その後の計画を策定しなければなりません。次期計画には、自立を前提とした考えを反映させていきたいと思います。その過程では、まちづくりにおける町民の義務といった、いわゆる自治基本条例を策定していく考えです。
――重要な収入源となる基幹産業の振興も課題でしょう
川島
農業と漁業が町の基幹産業ですから、いわゆる安全・安心を訴えていかねばなりません。例えば、『有機の里づくり』と呼んでいますが、農薬を使わない有機農産物の栽培により、農産物の付加価値を高めていくことが大切です。
――最近は、農業と観光を組み合わせた新型産業への取り組みが見られます
川島
これには、我々も全力で取り組みたいテーマなのですが、何分にもお客さん相手の仕事で、経済情勢にも左右され、不安定な要素があります。とはいえ、原則としては良い物さえ作れば、結果として観光に結びつく可能性はあります。
実際に道の駅「富士見」に、農業、漁業などの直売所を設置した結果、大変好評を得ています。そうした場を利用しながら、遠別ならではの特産物を観光に結びつけていきたいものですね。
また今年は、旭温泉の改築を予定しています。その目的は、観光もさることながら、町民の保養施設としての位置づけがあり、浴槽も高齢者の歩行浴での健康増進、リハビリなどを狙いとした構造へと改築することにしました。こうした施策を通じて、高齢者の健康増進を図っていきたいですね。
――町民の高齢化も課題ですね
川島
現在は、町民3,500人のうち65歳以上の高齢者が1,000人と、29%を超えており、若年層の方々からは将来を不安視する声があるのも確かです。しかし、65歳以上ということは、みな年金を受給する人ですから、その総額は遠別では10億円を超えます。
また、町内の金融機関の預金総額を合わせると200億円を超えています。もちろん、町の財政資金なども含まれていますが、大半は個人資産で、7割以上は65歳以上の人の預金と推測されます。
したがって、高齢者が元気で活発に消費生活を送るまちづくりをしていけば、資金は循環していくはずです。ぜひ、お年寄りが元気に活躍できるまちづくりをしていきたいですね。
――次期選挙に向けての抱負は
川島
ポストに執着する考えは無いのですが(笑)、一部の支援者から要請があり、立起への意思表示をさせていただきました。やはり、長年にわたって行政の世話を受け、恩恵を受けてきた人間ですから、町に対する恩返しが出来ればと思っています。

HOME