建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年5月号〉

interview

全国でも珍しいレクリエーション機能を持った多目的ダム

ゼロ・エミッションのモデル事業として施工

兵庫県神戸土木事務所 ダム課長 三宅 俊史 氏

三宅 俊史 みやけ・としふみ
昭和 23年 4月 28日生まれ
昭和 48年 3月 九州大学 工学部 水工土木学科 卒業
昭和 48年 4月 兵庫県庁
昭和 51年 4月 青野ダム建設事務所(6年間)
平成 5年 4月 上郡土木事務所 ダム課長(5年間)
平成 14年 4月 神戸土木事務所 ダム課長
兵庫県が施工する石井ダムは、新湊川総合開発事業の一環として整備されているもので、流域の治水対策は、この石井ダムを含む三ダムと河川整備によって構成される。建設地が都市部に近いことから、治水だけでなく、レクリエーション機能を地域住民に提供することを前提とした珍しい事業だ。一方、環境負荷の低減においても、ゼロ・エミッション事業として指定されているだけに、優秀な取り組みが見られる。同ダムの施工管理に当たる兵庫県神戸土木事務所ダム課長の三宅俊史氏に、現場の様子を伺った。
▲下流より上流を望む
――石井ダムの概要と現在の進捗状況は
三宅
石井ダムは、高さが66.2m、堤頂長は155m、堤体積は18万2,000m3、総貯水容量は220万m3、洪水調節容量が200万m3、堆砂容量が20万m3の重力式コンクリートダムです。貯水池運用においては、利水容量を持たない治水専用ダムですが、神戸市が共同事業者となって、堤体内に多目的ホールを設けるレクリエーション機能を持った多目的ダムとなります。
現在の進捗状況は、平成16年11月から試験堪水を予定しており、本体工事の全体の進捗率は2月末現在で79%となっています。堤体については、堤体の高さ66.2mのうち、58.5mまで出来上がっています。4月一杯でコンクリート打設は完了する見込みです。
――現場ではダムの完成形が見られる状況ですね
三宅
そうです。かなりの高さまで構築されており、残りはあと8mくらいですから、おおよそダムの形が見られるようになっています。4月末をもって、ダムコンとしてのコンクリート打設が終わり、後は天端橋梁やエレベータータワーなどの施工が残っているだけです。
――この事業が計画される以前の洪水被害状況は
三宅
この地域は、これまで何度も災害に遭っています。最近では平成10年、11年に下流で溢水が連続して発生しました。これらは震災後のことですが、そもそもこのダム計画の直接のきっかけとなったのは、84人もの死者を出した昭和42年に発生した台風7号の大災害です。それ以前にも、昭和13年の阪神大水害では616人が死亡しています。
そのため、これを契機に下流の河川改修と上流のダム群、この二つで下流の被害を防ぐためにスタートしました。
――このダムの完成をもって、治水対策は100パーセントと安心して良いでしょうか
三宅
このダムだけで、治水対策が終わったわけではありません。下流の河川改修と、上流のダム群が完成して初めて効果が発揮されるのです。
下流の河川改修はすでに平成14年度に完成し、上流のダム群には昭和55年度に完成している天王ダム、完成間近の石井ダムがありますが、さらに現在は高尾ダムを調査中です。この3つのダムが揃って初めて、上流のダム群として、洪水のピークを計画通りにカットできることになります。
そこで、高尾ダムの実施に向けて、兵庫県では国庫補助を要望していますが、まだ採択には至っていません。3つのダムが揃って治水対策は100%と言えるのですが。
▲上流より下流を望む
▲左岸より堤体を望む
▲付替市道烏原谷線より骨材貯蔵・
搬入ルートを望む
――石井ダムの施工にあたっての課題は
三宅
建設地の地形が急峻であるため、本体施工はもとよりダム湖周辺の付替道路の施工条件も、非常に厳しいものがあります。また、上流に市街地を抱え、下流も市街化されています。さらに近隣には緑豊かな六甲縦走路が通っており、貴重な自然環境でもあることから地形の改変を避けることに苦心しました。
掘削した残土は圃場整備などに使用し、現場内での処分は最小限に抑えました。ダムの場合は、通常は原石山を確保する場合が多いのですが、原石山で採石すると、やはり地形の改変に繋がるので、コンクリート骨材についても、購入して外部から搬入しています。
しかし、そうなると市街地をダンプトラックが走ることになり、地域住民の理解と協力を得ていますが、それでもさらに別の問題が発生したりします。その意味で、ダンプによる残土搬出においては、歴代の担当者がみな苦労しています。
――施工において導入された特殊工法は
三宅
この石井ダムは、ゼロ・エミッションリバーというモデル事業に指定されています。ゼロ・エミッションとは、計画・設計・建設・維持管理の各段階で、自然環境への影響を極力抑制するべく、循環型社会基盤整備に向けた挑戦のことで、そのモデル事業として施工しています。
具体的な取り組みとしては、廃棄物の最終処分量をゼロにするとことと、環境への負荷をゼロにすることの二つのポイントがあります。
廃棄物の最終処分量ゼロについては、先にも述べたように、発生した土砂を現場内での盛土その他に再利用するだけでなく、土砂の発生をできるだけ抑えるために造成アバットメント工法を採用しました。これまでは、山に深く切り込んで、作業ヤードを確保しながら施工していたものですが、この工法はダム両サイドの端部をコンクリートに置き換え、それを人工岩盤と見なしてそこに堤体を付けます。そうすれば、先に端部を作るので、これによって少なくとも4mは前にせり出すことができ、作業ヤードは確保できるのです。そうすることで、掘削土量と掘削面積を極力減らすことができるわけです。
この現場では、左岸側に造成アバットをつくりました。それで左岸側の掘削土量が51%削減できたほか、法面積が39%も削減できました。
しかし現場から濁水処理する過程では、どうしてもセメントの砂などが発生します。その場合、固形物を除去し、残りをph処理して排出するのですが、その固形物、脱水ケーキをリサイクル施設で再資源化します。それを使って、レンガの製造が可能なので、この現場でもレンガに再利用して、それを購入し、歩道や天端の歩道などに使用していきます。石井ダムで発生したものを石井ダムで使っているわけで、最終処分量ゼロ、環境への負荷がゼロとなります。
一方、自然環境の保全、再生のためには、貴重植物の移植、増殖のほか、法面も元の植生に戻す取り組みを進めています。伐採木については、根や枝葉の部分をチップ化して、法面の吹き付けの際に厚層基材として利用します。また、法面部分を法枠で押さえ込むのではなく、連続した繊維と砂を高圧で同時に吹き付け20cmの厚みで法面を覆います。強度的には、法枠で施工する場合と同じくらいの機能が確保できます。砂と繊維で法枠がないので、木が根を張る範囲が広くなり、法面の安定と同時に自然への回復も早くなると考えています。
さらに、化石燃料の利用抑制も行っています。現場に太陽光発電のパネルを設置し、太陽光を利用します。全ての電力を賄うことはできませんが、このダム管理に伴うコンピューター、照明などの電力は、できるだけ現場で発電した電気を使おうと考えています。
その他、これはどこでも見られますが、粉塵の発生抑制、騒音振動対策にも、もちろん注意してきました。
――様々なところに神経を使わなければ、ダムの存在を認めない時代ですね
三宅
自然環境に与える影響が大きいので、十分な配慮が必要だろうと思います。純粋な技術者といえども、これからは自然環境に配慮していく必要があると思います。
――ダムは山中ですが、大都市圏なので反対者もいたのでは
三宅
しかし、過去の災害について説明すると、さすがにダム嫌いの人もこの場合は仕方がないと、ご理解を示して下さいました。特に兵庫県は表六甲の河川が短く、山に降った雨が、すぐに都市部へ流出してくるのです。
その意味でも、ダムの存在は非常に重要であることが認識されており、下流域の暮らしを守るためには仕方がないというスタンスですね。
――地域住民とのコンセンサスにおいては、どのようなコミュニケーションを行いましたか
三宅
現場見学会や石井ダムウォークというイベントを開催し、下流域の住民と上流域の住民とが、お互いに交流できる機会をつくっています。ほかにも住民が見学したいという時には、工事に影響のない範囲で、できるだけオープンにしています。
例えば、日曜日に見学したいという意向があれば、月に1日ですが、日を設定して休日でも見て頂くという対応をしています。
――レクリエーション機能を最初から想定したダムというのは、珍しいですね
三宅
六甲縦走路など散策できるような場所も近くレクリエーション多目的ダムの建設地としては最適です。
神戸市は、年に2回六甲縦走大会を開催しています。ダム本体内部には多目的ホールを設けダム上部には、遊歩道や展望台を設けるので、六甲縦走路と連携してハイキングを楽しむこともできます。
▲名号岩
――具体的には、どのような構造になりますか
三宅
ダムの右岸側階段を常にオープンにして、遊歩道として散策できるようになっています。そのため下流から歩いてきた人が、この階段を登って上流の鈴蘭台まで足を伸ばして帰ってくることも可能になります。エリアには菊水山があり、ここに展望台もあるので登ってくる人々も多いのです。六甲縦走路は、ひよどりの駅から菊水山を目指して登り、東へ抜けていきます。こうした様々な動線が実現します。
また、近くには「南無阿弥陀仏」と大書されている名号岩という名所があります。文献によると、幕末から明治初期の時代に、近所の僧によって整備されたと伝えられます。これまでは谷底から見上げても、木が邪魔になって見えづらい状態だったのですが、付替道路を高い位置に設置したため、それがすぐ近くに見えるようになったのです。お陰で、ハイキングをする人々からは、良いものができたと感じてもらえると思います。

石井ダム本体施工

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