建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年4月号〉

interview

農業の「大事さ」を改めて発信していくべき

合併は機能分担で、地域の対等な発展が望ましい

北海道浦臼町長 山本 要 氏

山本 要 やまもと・かなめ
生年月日 昭和16年3月20日生まれ
学歴 月形高等学校卒
前職 浦臼町議会議員
北海道空知管内浦臼町は、道内有数の米どころと知られ、また、ワインの加工用ブドウ作付面積は日本一など、農業を基幹産業とするマチだ。現在、地方自治体が合併問題で揺れる中、浦臼町もその問題に直面している。農業を基幹産業とするマチはどうあるべきか、浦臼町長・山本要氏に、農村地帯の今後の在り方について伺った。
――首長として町政を務めた4期16年間の感想は
山本
私の4期16年は、リゾート開発の破綻事件から始まり、そして今は合併問題などに直面しており、大変な16年でした。町民のために、思い切って仕事ができたのは3期目の4年間ほどでしょうか。だから、よく持ちこたえられたと思います。これも良い職員と助役、そして議会の皆さんの理解があったからです。
――総合計画もまもなく終了を迎えますが、達成度は
山本
当初の計画より、財政状況も変わったので、完遂とは言えません。地方に意欲があっても、財政力が伴わず、国も地方も一緒に痛みを分かち合うことでしか解決できないので、計画自体も新たに見直していく必要があります。
ただ、達成度としては、6〜7割近いと自負しています。浦臼町は農業が基幹ですから、国内でも最高の機能を持ったライスターミナル『中心蔵』を整備し、農家負担の軽減を実現しました。また、葡萄やトマトなど農作物に付加価値をつける加工施設も、15年度までに完成させました。
しかし、私としては「他の町にあるから、わが町にも」というより、「わが町で持てない施設は、他の町で利用する」という意識ですから、施設整備においては町民に不平・不満があるかもしれません。これも、町の将来財政という議論の中で、町民や議会もよく理解してくれました。
――施設整備の他に、農業振興策はどのように行いましたか
山本
私自身が農業就業者で、現在もその自覚があるので、農業は最も理解しているつもりです。1億2千万人の国民が、1.5年分ほど自給できる程度の米と、その生産に必要な農家、農地があれば良いという政府の考え方では、日本の農業はダメになると思います。我々が毎日、元気で仕事ができるのは三度の食事のお陰です。栄養剤だけを飲んでも、活力は得られません。その食の源は、農業、水産業、畜産業なのです。それを最近は忘れています。
だから、「農業は大事だ」と、しっかりと認められる発言と情報発信を、農業政策として行ってきました。食の安全や安心を、北海道から発信していくべきだと思います。
――葡萄の種や皮を活用した加工製品が好調のようですね
山本
この発想は、捨てる物を再活用できないか、という発想から生まれました。浦臼は、ワインの葡萄の生産・原料産地が日本一なのですが、醸造した後の種や皮などは堆肥にしていました。
しかし、その種の中には、良質のオイルがあるのです。そこで、そのオイルを抽出する研究をするよう指示しました。試行錯誤の末、そこから非常に肌に良いボディソープが製作できました。コストが割高なのが課題ですが、それを解決する為の努力を続けています。
また葡萄の種と皮には、健康食品として注目されるポリフェノールが含まれており、これを微粉末にして手延べうどんに混ぜてみました。ポリフェノール入りうどんで、葡萄の『葡』と『うどん』で、『葡どん』と命名しましたが(笑)、美味しいと好評です。
堆肥にすることも必要ですが、やはり食の安全や健康などは大事です。こうした発想がこれから農村地帯に拡がっていくことにより、もっと農村が見直されていくと思います。
――来年には、いよいよ市町村合併のタイムリミットを向かえますね
山本
国と地方合わせて700兆円もの債務があることから、それが論議されるようになったのですが、想像もつかない大変な数字です。本来は、国政の失敗と主張したいところですが、自治体も積極的に公共事業などに投資した経過があり、責任の一端はあります。
だから、合理的に町政運営ができる方法を検討すべきというのが、私の合併に対する考え方です。財政状況の悪化で、合併議論をするのは寂しいですが、前進しなければなりません。
しかし問題は、合併をどう捉えていくかです。現在、中空知地域で進めている4市2町の合併は、新設対等合併なので、逆に言えば新しい自治体を設置するものと考えれば、後ろ向きのイメージではなくなります。
当初は5市5町でしたが、4つの市町が協議会から抜けました。そうなると、浦臼は飛び地になるのですが、町民や議会にも苦渋の決断をしていただきました。これから議論を進め、対等合併が実現し、新自治体の形と方向性を町民に示せるかどうかがかかってきますので、非常に重大です。大げさにいえば、4市2町の合併によって、人口は9万5千人になるので、一人ひとりに目が届き、光が当たるような合併を実現したいものです。
合併は良い意味では、その地域が変われるチャンスです。合併をしたら、過疎化が進むといわれますが、機能を分担していけば良いと思います。例えば、滝川は都市の中枢機能、浦臼は農業の中枢、そして上砂川、歌志内などは工業の中枢といった形で、機能分担をしていくことで、対等な発展がしていけると考えます。
――最後に、今後の展望は
山本
自立であっても合併であっても、浦臼町は農業が基幹産業であることは変わりません。私が今、ライフワークとして進めているのは、中空知地域に国際的な食糧の備蓄・加工基地を建設しようという構想です。
現在、農業政策は縮小の方向にありますが、逆に日本の米は、これだけ生産量があって、しかも安全・安心、栄養価の高い米がとれます。また今は、米粉加工する技術が進んでおり、米からうどんができる時代です。その粉を作ることにより、食糧不足の各国に支援ができるのです。
ですので、私はその備蓄・加工基地をぜひ、中空知地域に作ろうと提案をしています。この地域は、国内最大の良質、安全、安心の米産地であること、また、ここは豪雪地帯ですが、その雪を利用した米の貯蔵が可能です。そして、千歳空港、旭川空港にもアクセスが近い。この地域ですと、コストなどをかけないで、備蓄・加工していく方法が実践できるのです。

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