建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年3・4月号〉

interview

2005年愛知万博に向けて活発に進む県土整備

大震災・台風水害への安全度の向上も進捗

愛知県建設部長 安田勝一 氏

安田 勝一 やすだ・かついち
生年月日 昭和19年8月11日
最終学歴 北海道大学工学部土木工学科 昭和42年3月卒業
昭和 42年 4月 愛知県職員に採用
平成 5年 4月 愛知県土木部道路建設課主幹
平成 9年 4月 愛知県土木部道路建設課長
平成 11年 4月 愛知県道路公社工務部長
平成 12年 4月 愛知県建設部道路監
平成 15年 4月 愛知県建設部技監
平成 15年 11月 愛知県建設部長
愛知県は2005年の日本国際博覧会に向け、会場・アクセス整備を進めている。中部国際空港の同時開港も控え、周辺の都市開発、アクセス整備など、県を挙げての県土整備が活発に進められている。ただ、近年は東海地震や東南海・南海地震発生の可能性が高まっているとの指摘があり、また例年の台風常襲地帯でもあることから、県土の安全性向上も手が抜けない。そうした県土のインフラ整備を担う安田勝一建設部長に、各種公共事業の整備状況などを伺った。
――万博会場へのアクセス整備状況と今後の見通しは
安田
全国各地の方に博覧会へ快適に来場して頂くためには、アクセスの整備が重要です。
そこで、道路アクセスの整備においては、まず広域的なアクセスとして第二東名・名神高速道路の豊田東JCT〜四日市JCT間と東海環状自動車道の豊田東JCT〜美濃関JCT間について、国土交通省と日本道路公団によって順調に整備が進められています。
そして会場周辺へのアクセス道路としては、東名高速道路と連絡を図る名古屋瀬戸道路の新設や、猿投グリーンロードの4車線化などを実施しています。
名古屋瀬戸道路は、高架橋などの構造物工事がほぼ終了し、引き続き舗装、料金所施設などの工事を実施しており、博覧会開催までに整備を完了することにしています。
また、猿投グリーンロードの4車線化事業については、本年3月22日の開通を目指し、最後の仕上げ工事を進めています。
――新規の新交通にも着手していますね
安田
鉄軌道アクセスの整備については、名古屋市営地下鉄東山線藤ヶ丘駅と愛知環状鉄道八草駅の間、約9kmを結ぶ新交通「東部丘陵線」を整備しています。博覧会時には鉄道系の輸送手段として、我が国初の磁気浮上式システムとなります。愛称は「リニモ」と決定しており、工事はすでに高架部の橋桁が全線で繋がっています。
地下区間のシールド工事も、約9割の掘削が完了するなど順調に工事が進んでいます。今後は運営会社となる愛知高速交通(株)による軌道等工事の完了後に、試験走行を重ね、博覧会開催前の開業を目指します。
また、愛知環状鉄道についても、JR中央線との直接の利用を図るなど、愛知環状鉄道鰍ノよる整備が進められているところであります。
万博会場へのアクセス整備については、日に日にその姿が見えて来ましたが、博覧会開催までの完成に向けて、さらに万全を尽くしていきます。
――一方、一般道路のネットワークは、完成に近づいていますか
安田
愛知県の特徴としては、世界のトヨタを擁するだけあって、自動車保有台数は全国第1位であり、旅客輸送の約8割を自動車交通が占め、大都市圏でありながらも自動車への依存度が非常に高い地域です。
また、産業面では自動車工業だけでなく、世界有数の製造品出荷額を誇っており、さらに工業製品のみならず農業産出額でも全国第5位、年間商品販売額は全国第3位という地位を占め、経済活動がかなり盛んな地域でもあります。そして、これらの物流も9割以上をトラック輸送が占めており、人・モノの移動において、道路は非常に大きな役割を担っています。
道路ネットワークについては今年度末時点において、高規格幹線道路の整備は、県内区間320kmのうち、203kmが供用されており、それを補完する地域高規格道路については、計画路線359kmのうち、132kmが供用されています。
また、一般道路は、本県の管理する道路延長は約4,600kmで、その改良率は約75%と全国平均を上回っていますが、渋滞している区間を除いた整備率は約46%と、逆に全国平均53%を大きく下回っています。
また、山間部でも改良率は約46%と低く、都市部における交通渋滞の緩和と山間部における生活基盤としての安全な道路の確保が大きな課題となっています。
人・モノの移動については、こうした高規格幹線道路から、生活に密着した県道まで、ネットワークの構築がたいへんに重要で、第二東名・名神高速道路や東海環状自動車道、名古屋環状2号線などのネットワークの早期完成を図るとともに、安心・安全で豊かな暮らしづくりのために、まちづくりと一体となった道路整備や山間地域の生活を支える道路整備等を着実に進めてまいります。
――中部東海地方は、例年のように台風と豪雨の水害という試練に晒されますが、近年の被害状況と河川整備状況は
安田
愛知県の地形特性として、尾張西部のゼロメートル地帯を始めに低平地が多く、過去洪水や高潮などによる浸水被害をたびたび受けるなど、想定氾濫区域面積の割合は県土のおよそ4分の1を占め、その区域内に約260万人が居住し、約40兆円の資産が集積しています。
このため、県は改修が必要な県管理河川約1,300kmを対象に、おおむね5年に1度、つまり時間雨量約50mm相当の降雨に対応できるだけの、治水安全度の確保を目標に河川整備を進めてきたところです。現在、その進捗率は約50%です。
さる平成12年9月の東海豪雨では、台風14号が停滞中の前線を剌激し、年間降雨量の約3分の1に相当する、名古屋地方気象台の観測史上でも最大の記録的な豪雨に見舞われました。このため、県管理の一級河川新川を含め8河川10箇所の破堤が確認されました。
また、名古屋市とその周辺市町の広範囲な内水被害、東名・名神・名古屋高速の通行止め、JR新幹線・在来線・名鉄の運休、地下鉄の冠水による長時間にわたる不通、そして電気・ガス・水道・電話などライフラインの停止など、多くの人々の生活に影響を及ぼし、伊勢湾台風以来の大規模な浸水被害が発生しました。
このため、今後も東海豪雨と同様の降雨に見舞われた場合でも、洪水を安全に流下させて内水浸水被害を最小限にするため、庄内川、新川、天白川の3河川においては河床浚渫、堤防強化、橋梁改築などをはじめとする河川激甚災害対策特別緊急事業を、平成16年度の完了を目指して実施しています。
――一方、関東から中部にかけては、大震災の発生が迫っているとの観測が、話題になっています
安田
東海地震などに備えた河川堤防の耐震化については、堤防が沈下し、海水が進入するなど特に大きな被害が予想される区間を「あいち地震対策アクションプラン」に基づき整備しています。
また、橋梁の耐震化については、橋脚の補強対策は二次的な災害を起こす恐れがある鉄道や道路の高架橋を、落橋防止対策は緊急輸送道路に位置する橋梁を優先的に、「同プラン」に基づき実施しているところです。
また、県有施設の建物でも、地震防災対策の緊急性から、耐震改修に重点を置いて進めています。
対象とする施設は、特に耐震性能が低くて緊急性の高い建物を優先づけした庁舎などの一般県有施設45棟と県立学校176棟で、平成14年度から5ヵ年で耐震改修を進めることにしています。
平成15年度までの実施状況は、一般県有施設については、免震工法による地上10階地下3階の県庁西庁舎と大規模な構造補強による地上3階地下1階の県体育館(共に14年度からの継続工事)をはじめ17棟及び県立学校の42棟となっています。

自動車出荷量全国一を誇る3港湾(後編)

愛知県は、工業と農業とがともに有数の生産力を持った産業県で、とりわけ自動車工業などの出荷量は、全国でもトップクラスだ。それだけに内国向け移出のみでなく、外国向け輸出の玄関となる港湾は重要な役割を果たしている。中部東海大地震の発生が話題になる今日、そうした産業インフラの強化はとりわけ重要だ。前号に引き続き、安田勝一建設部長に、港湾、県営住宅その他の公共事業について語ってもらった。
――県内の港湾の概況は
安田
愛知の港湾は、穏やかな内湾の自然環境を有した伊勢湾・三河湾に位置しており、古くから水辺にかかわる文化と盛んな漁業、そして物流・生産など経済活動やレクリエーションの拠点として多様な利用が行われています。
特に名古屋港、衣浦港、三河港の三つの特定重要・重要港湾は、日本列島のほぼ中央に位置し、背後には自動車産業を中心とする世界的なものづくりの中枢圏域が展開しています。その優位性を活かして、中部圏だけでなく日本の経済・産業を強力に支える物流拠点となっています。
そして、常滑港には2005年に中部国際空港が開港することになり、まさに陸・海・空の結節点であることが、さらにこの地域の優位性を高めています。
――有数の工業県である愛知は、工業製品の輸出のため、かなり整備が行われているのでは
安田
名古屋港は、貿易額が2年連続で全国1位で、わが国の貿易黒字の40%を占める、日本を代表する中枢国際港湾です。2003年4月には産業ハブ特区としての認定を受けています。
そこで、物流における日本の産業の国際競争を支えるため、港湾サービスのさらなる向上を目指し、大水深国際海上コンテナターミナルを整備するなど、機能の充実を図っています。
また、中部・東海地震の発生が話題になっていることもあり、そうした大規模地震に備えて耐震強化岸壁の整備、交流拠点としての商業・集客施設の充実や緑地の整備も行っています。
衣浦港は、約2,000haの臨海工業用地を有し、専用岸壁を中心に物流が盛んで、古くから地場産業を支えてきた港湾です。近年は、安全度と使いやすさの向上を目指して、臨港道路の整備や老朽化した港湾施設の機能回復を図っています。
ここでも大規模地震に備えて、耐震強化岸壁の整備や地成文化を保存・継承した港湾緑地の整備を行っています。
三河港は、トヨタを中心とする年間約100万台の国産車の輸出、外車の輸入基地となっています。自動車の貿易額が5年連続で日本一という、世界でも有数の自動車物流港湾です。海外自動車産業との連携を図り、自動車の生産・物流・リサイクル機能の体系的な構築を目指しており、これに対応した港湾機能の充実を図っています。
同じく大規模地震への対策も進めており、臨港道路橋梁の耐震補強を行っていますが、それだけではなく海域環境改善を目指した干潟の復元や、人々と海とのふれあいの場として複合型マリンリゾート施設(ラグーナ蒲郡)・海浜緑地の整備を行っています。
常滑港は、中部国際空港の開港に伴い、陸・海・空のターミナルとして、グローバルな人・物・情報の交流拠点という重要な役割を担うことになります。このため、空港と一体的に機能し、空港を支援・補完することを目指して海上アクセス基地の整備や、わが国で初めての空港と一体となった公共ふ頭の整備を行っています。
――一方、県民生活の利便に直結する福利厚生施設と言うべき公営住宅は、どのような状況ですか
安田
県営住宅については、昭和40年代に建設した約27,000戸の住宅が老朽化し、これから一斉に建替時期を迎えつつあります。そこで、昨年度に策定したストック総合活用計画に基づき、これらストックの質の改善と再生を効果的・効率的に進めていくことにしています。
特に近年は、居住者の高齢化も進展していることから、エレベーターの設置や床の段差の解消など、バリアフリー化のための改善を図る方針です。同時に、一人暮らしの高齢者や高齢者世帯向けに、緊急時の対応や安否確認、生活相談などの福祉サービスの提供が受けられるシルバーハウジングとして整備するほか、身体障害者向けも含め、設計上とくに配慮した福祉向け住宅や、老人同居を含めた多家族世帯向け住宅なども計画し、多様化するニーズに適切に対応しています。
その他、大規模な団地では高齢者世帯の増加などによって、団地の活性化が諜題となっています。そのため、子育て支援施設や生活利便施設などの地域施設や分譲住宅など、民間活力の導入についても検討を進め、少子高齢化や環境共生など時代の要請に応えた県営住宅の整備を実施していきたいと考えています。
――その他、愛知万博のための展示場建築も盛んに行われていますね
安田
愛知県における公共施設建築の主要事業といえば、やはり開催まであと1年に迫った2005年の愛・地球博における県パビリオンなどの建築工事です。瀬戸会場では、地形を大幅に改変せず起伏のある自然地形との親和性を図ったパビリオンを、長久手会場では「愛知らしさ」を表現するための伝統文化の象徴として、「山車」をモチーフにしたパビリオンを建築しています。
これらの計画にあたっては、環境万博の理念である「自然の叡智」に応えて、リユースできる木材と鉄骨の活用、外壁などへの間伐材の利用、太陽光発電、雨水利用といった環境負荷の低減に努めています。
その他に、平成15年度の新築施設としては、航空機等を展示する名古屋空港航空文化施設及びひいらぎ養護学校などがあります。また、県民向け公共施設について、PFI手法による事業化の可能性を、施設所管部局に協力して検討しております。

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