建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年3月号〉

interview

特集・わが国の文教施設整備最前線

産学官連携を視野に入れたスペースマネージメントを推進

名古屋工業大学施設課長 田代 文彦
工学系単科大学として6,000人もの学生が在籍する名古屋工業大学は、学科の縦割りを打破し、組織の再編整理を行う大学改革を進めている。この改革を踏まえ、どのような施設整備を行っていくのか、田代文彦施設課長に伺った。
――現在進められている整備事業についてお聞かせ下さい
田代
緊急整備5ヶ年計画に基づく耐震補強を含む大規模改修等整備は、13年度の11号館から始まりました。既に16号館、24号館が終わり、現在は21号館の改修、22号館増築のインキュベーション施設(1,000m2)がまもなく竣工します。
――敷地が限られていますが、キャンパス整備にあたっての課題は
田代
本学のメインキャンパスである御器所地区は、敷地が狭く(134千m2)、そこに13万m2の施設と6千人の学生、教職員が生活しており、数値的には他大学と比べてもかなりの過密状態であると言えます。平成元年からの再開発による建物の高層化によって、ある程度は緩和されてはいると思いますが、抜本的な解決までには至っていません。これからの大型改修などによって共用スペース、特に「学生の場」を中心に確保していく必要がありますね。
――キャンパスの立地は
田代
本学はJR、地下鉄の駅からも近く、名古屋市最大規模の鶴舞公園、名古屋大学病院、そして戦前の面影を残す閑静な住宅地に囲まれるなど、立地環境としては比較的恵まれています。
従ってこの狭い敷地をマイナス要因と捉えるのではなく、周辺あるいは名古屋市全体がキャンパスとの観点から計画していこうと、現在若手教員と施設課で共同作業を始めたところです。
▲総合研究棟(21号館)
――大きなエリアの中でキャンパスを捉える発想ですね
田代
今までの大学で必要な施設整備については、全て基本的には自前でという考えに沿って動いてきたと思います。しかし本学に限ったことではなく、これからは自治体、あるいは民間施設との連携が急速に進み、何でも「自前で」揃える必要が無くなっていくのではないでしょうか。特に本学の場合、愛知県という産業集積地の中心にあり、近隣には産業の研究所もたくさんあります。卒業生も多いわけですし、本学に無い新たな機能、研究を求めようとすれば、そこを利用することもできるし、またその逆もあり得るわけです。いわゆる垣根が無くなる形になるのではないでしょうか。
身近なところでは歩いて10分程の場所、鶴舞公園に市の中央図書館がありますが、本学にも図書館はあるわけです。そこで両図書館が連携し、本学と中央図書館で分担できるものは分担していければ、同じ図書を買う必要もなくなるでしょうし、蔵書の伸びをも抑えられる、即ち図書館の増築経費なども抑えられていくことになるわけです。
――他の施設についても市民の利用が考えられると思いますが
田代
同じく本学には50周年記念寄付建物として720人収容の講堂がありますが、現在はあまり利用されていません。とはいえ寄付建物ですから解体するわけにもいかず、さりとて現存している限り維持費はかかります。
一方鶴舞公園に2千人以上のメインホールと700人のサブホールを持つ市公会堂がありますが、サブホールもかなり利用されています。そこで本学講堂も公会堂のサブホールのひとつとして割安な使用料で利用して頂くことも考えています。それによって維持管理に要する費用がペイできれば、講堂は経営できるわけです。
――地域との交流が盛んになると、管理面で課題も発生するのでは
田代
「開かれた大学」と言われて久しいわけですが、生涯教育、公開講座などソフト的な側面で捉えられることが多いと思います。しかしハード面からも当然考えていく必要があります。その際一番難しいのはセキュリティとの関係でしょう。塀をなくして、幅を持たせた生け垣にする。建物単位でカード錠を付けるなど、ある程度物理的な対応は可能ですが、どんなに物理的な対策を講じたとしても、やはり限界があります。結局のところそこに住む人の意識ではないでしょうか。「隣は何をする人ぞ」から「向こう3軒両隣」、ここにセキュリティの基本があるように思います。
省エネ対策についても施設面だけでは限界があります。自宅でクーラー・電気をつけっぱなしにしている人はあまりいないと思いますが、大学では個人負担という意識が希薄ですから、そのあたりがルーズになりがちです。法人化後は経費の削減は避けられません。そのためには一人ひとりの意識改革のため、光熱水費などの数値を元に啓蒙していく必要がありますね。
――各大学とも研究室その他の占有についても、いろいろと検討しているようですね
田代
これからますます産学官連携にウェイトが置かれます。そして外部資金の確保が大学の明暗を決めていくことになると思います。それに対応していくためには外部資金により、研究スペースを確保していく必要があります。そのため、本学においても現在スペースマネージメントの一環としてスペースチャージの導入を検討しています。
今まで室の点検調査においても、有効利用されているかが判断が難しく、なかなか思うようにいきませんでした。しかしこの制度の導入によって、大学構成員が施設は資産だ、大事にかつ有効に使おうという意識が生まれてくることを願っています。またこれをひとつの財源として予防保全を実施していきたいですね。
――法人化に向けての組織体制づくりは
田代
本年度から本学は大学改革の一環として、教員組織を今までの縦割りの学科組織から、学際的、複合的な教育研究を進めるため「領域」という横断的な組織に、また来年度は学科の再編も実施されます。
事務組織においても施設課は管財業務を取り込むと同時に、資産という視点から経理部の元に編入します。そして今までの専門的な係編成から、横断的な係編成へ変わる予定です。これは教員組織の再編と同じ考えで、一人一人がそれぞれの専門的な知識を生かしつつ、他の職域分野にも幅広い視野を持って業務を実施していく、いわば「職域性」を目指すものです。

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