建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年3月号〉

interview

3万棟3,000万m2の都庁施設をトータルマネージメント

都民が納得できるストックの有効活用に軸足

東京都財務局建築保全部長 福島 七郎 氏

福島 七郎 ふくしま・しちろう
1971年 入都
その後、
都市計画局、新宿区・江戸川区、清掃局などを経て
2002年 7月 現職
東京都の営繕事業を担ってきた営繕部が建築保全部へと改組され、建築事業からトータルな維持管理へと所管業務が変更された。これまでに形成された膨大な建築ストックを一元的に管理し、今後の施設計画の源となる政策決定にも、技術的な視点から関わることになる。そして、空間を有効活用する資産運用のテクニックも求められることから、スタッフは従来の建築工学的な知識だけでなく、広範な見知が求められることになる。福島七郎部長に、今後のセクションの業務のあり方、技術者としてのあり方などについて伺った。
――昨年4月に新組織として発足した建築保全部の業務をお聞きします
福島
財務局建築保全部は、15年4月1日に旧営繕部と、都庁第一本庁舎、第二本庁舎、都議会議事堂、飯田橋庁舎を維持管理していた庁舎管理部が一体となって発足した部です。基本的には従前から所管していた建築物の建設部門と、庁舎管理部門とを合併したものです。
新規の建築計画が減少し、業務の中心が維持管理にウェイトが移ってきました。すでに都の建築資産は3万棟、約3,000万m2という膨大なストックを抱えています。もちろん、行政需要に応じて整備してきたわけですが、今後の行政のスリム化という方向性においては、これらの資産を全部保用する必要があるかどうかが課題です。
これまで必要な施設の多くは営繕部が建設し、その管理は施設を使用する部局が行ってきたわけですが、今後はそれを可能な限り統一化し、都庁舎の維持管理のノウハウを活かして全都有施設の一元的管理への道筋をつけようと考えています。
今後のテーマは、公共建築物としての維持管理をどのように機能的・効率的に行っていくか。そのために、これから計画するものについては、どんな視点で整備を行うべきか、が主なものになります。
――何らかの手応えや展望は得られましたか
福島
この10年間は、新たな庁舎や文化芸術施設は全く建設していません。現況ではこの都庁舎を含めて1万m2を越える建築物が、100棟以上あります。それらは最新のもので10年、この都庁舎でもすでに13年が経過しています。通常では一回目の維持保全を行う時期にさしかかっており様々なパーツが劣・老朽化しています。
そのため、庁舎としての機能も含めてどのような補修・修繕に着手すべきか。単に維持するのではなく、都行政は今後どうなるか、都政はどのように行われていくかを踏まえながら、そのために庁舎機能はどうあるべきかについて、数年後に迎える大改修に備えた調査を行っています。
そこで現在、民間企業からはエネルギーカンパニーという提案をいただいています。行政が庁舎を延命させることは、コストを含めて都民の理解が得られるのかどうか。また、pfiの導入を視野に入れながら、都の施設を廃止し、民間の施設を借りてしまった方が、都民の理解を得られる場合もあるのではないかなどを含めて検討を行っており、その方向は本年春には示される予定になっています。
――近年は自治体首長でもハコモノ行政を不要と宣言する人もおり、前回の統一選でもひとつの争点となりましたが、今後は専門的な知識・技能を持つ技術者はどう生きるべきかが課題ですね
福島
これまで相当の建築資産を形成しましたが、今はその維持だけでもかなりの負担となっていますから、納税者の立場から言えば、不必要な資産をいつまでも抱えていることは許されません。その流れから言えば、技術者はどこに存在価値を見出していけば良いか、危機感はあります。
今後は予算配分などを含めて、10年、20年後の都政を展望していく必要があります。今までは、施策の決定を受けて行動していましたが、今後はその施策決定の前の段階に関与できるよう力を発揮しなければなりません。
またPFIは、いろいろな技術や管理で得たノウハウに基づいて民間の整備したものを購入するという仕組みですから、直接建設することはないものの、いい加減な建物を造ってもらっては困るわけです。
公の施設であることを考えると、これまでに培ってきた技術をさらに強化し、より質の良いものを残すことに、我々はまだ力を発揮しなければなりません。したがって、今は発想の切り替えどきだと思います。
ただし、組織のスリム化を図る上で、どこに目配せをするかについてはコミットしなければならないと思います。職員を減らすことを公約にする首長もいますが、公の資産形成といった観点からは技術の継承をおろそかにできないと思います。
――スタッフもかなりの意識改革が求められますね。構造物も、今や50年から100年単位で使用することが提唱される時代になりました
福島
みなそれを意識しているのですが、これまでにそうした経験がなく、また鉄筋コンクリートや鉄骨で100年もつといわれた建築物にしても、既存の技術だけで論じているだけです。動脈系とか静脈系といわれる設備関係は確実に劣化が進むわけですから、未知の分野です。
――その意味では都庁舎のあり方というのは注目されますね
福島
築後13年になるので、すでに多くの部品は傷んできており、設備機器の更新や外壁の補修など大規模な改修時期に入ります。
民間の霞ヶ関ビルは2〜3年前に大改修が終わりましたが、建設時の初期投資より多額の改修費がかかったとのことです。長期的な視点に立ってどういう改修をするかが大きな課題です。
――この都庁舎は、職員だけでもおよそ1万2千人が使用していますね
福島
来庁者を含めると、その3倍くらいの人が使用していると言われます。また、展望室が北と南にありますが、これなどは基本的に都民のための施設で、年間170〜180万人くらいが来訪しています。同じくらいの高さの民間のビルはたくさんありますが、有料です。それだけに都の展望室は意味があります。
展望室は約13年間運営してきていますが、今後も国内外の方々にさらに親しんでもらうため、観光スポットとして、より展望室の付加価値を高める計画を進めています。その一環として、10月31日には「サバティーニ」というイタリア料理のカフェが開業しました。200mの高さのところにカウンターバーがあり夜景を眺めながら洒落た雰囲気で飲食することができます。また、南の展望室は夕方5時半で閉鎖していたのですが、リサーチしたところ、夜間の時間帯にも集会やイベントの需要があることが判りました。そこでこうした需要にも対応できるような利活用の計画を進めています。
公共建築物の資産の有効活用という課題に通じて、都庁舎での取り組みを一般化できるのではないかと考えており、そのモデルとして、本庁舎から手をつけているところです。
――日本の首都・東京都から世界の大都市・東京都の庁舎としてのあり方が注目されますね
福島
そうです。目先のコスト縮減だけでは、庁舎が成り立つわけでもありません。ヨーロッパの街の形成過程を見ていると、街の中心に教会と行政施設があり、広場もあります。しかし、日本の都市構造は必ずしもそうではありません。
そうした中で、人々に親しまれるシンボリックなものかどうか、形も精神的なものも含めていろいろと考慮しなければならないと思います。もちろんコストも重要ですから、それも含めて様々な切り口で見ていく必要があります。
――それらを都民のために総合判断するのは難しい課題ですね
福島
千数百万人の意見を集約するのは、容易にできるものではありませんが、知事は、都民を代表しかつ我々の組織の長でもあります。したがって、その意向は重要です。
また若い職員には、施設管理というのは地味に見えるけれども、それは資産形成に直結しているのだという自覚をもってもらう必要があります。事務・技術といった採用時の枠があっても、それに拘って縦割りの発想を固持しているとスポイルされてしまいます。したがって、技術を修得し、それを継承していけるだけの人材を育てつつ膨大なストックを適切に切り盛りしていくことが我々の使命だと思います。
――それらを都民のために総合判断するのは難しい課題ですね
福島
千数百万人の意見を集約するのは、容易にできるものではありませんが、知事は、都民を代表しかつ我々の組織の長でもあります。したがって、その意向は重要です。
また若い職員には、施設管理というのは地味に見えるけれども、それは資産形成に直結しているのだという自覚をもってもらう必要があります。事務・技術といった採用時の枠があっても、それに拘って縦割りの発想を固持しているとスポイルされてしまいます。したがって、技術を修得し、それを継承していけるだけの人材を育てつつ膨大なストックを適切に切り盛りしていくことが我々の使命だと思います。
――今年度は養護学校や中等教育学校、さらに都立大学など、今後の若い人達が巣立っていく施設の整備が目立ちますね
福島
高校の改修についても多くの場合、使用しながらの施工になるので、どうしても3年くらいはかかります。今は高校改革が3次まで計画され、併せて耐震改修は18年度終了を目標に工事を進めています。この4〜5年は、高校改革と大学の施設整備が進められます。そうした改修を含めた施設整備が、都庁の技術を担っていく若い職員の絶好の機会として、この3〜4年が勝負どころと思っています。
――新大学については50年〜100年大計の考え方が主流になりつつありますね
福島
現在、南大沢に都立大学のキャンパスがあり、荒川区には医療系の学校、日野側に科学技術系の学校など、それぞれ特徴を持った大学があります。それらがひとつの大学になります。新しい大学になっても変わるものと、変わらないものがあると思います。建物がそれにつれて常に変化していくことは、物理的には困難ですので新築と改修・改築などをよく議論したうえで選択していくことになると思います。
――新大学の建設に当たっては、教授陣との意思疎通も重要になりますね
福島
大学のあり方を議論している過程で施設整備を着実に進めていくことは困難です。しかし、我々の宿命は、期限までにできる限りの取り組みを行うことになります。
そのために、施設整備を担当するラインの課長と課長補佐を大学側と兼務させ、情報交流のパイプをより短く太いものにし学校側が必要とするものを、施設整備にどう反映させるかを早い段階から協議しています。
これから都立の新しい大学が目指す4つの学部に対して、どんな施設が必要なのかなどについてスピードも意識しながらあたっており、現在は基礎教養系に必要な施設整備に着手しています。
――セクションの異なる技術者が情報交換する場を、設けているようですね
福島
建築技術者の多くは各局に配置されていますが、それぞれが独自の蛸壺の中で情報収集しても、得られるものは限られています。そのため今まではあまり事例がなかったのですが、都庁、警察、消防も含めて都の施設整備を連携しようと、昨年から技術の協議会を発足させました。日通しよくものごとを進めていこうと思っています。

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