建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年2月号〉

interview

特集・わが国の文教施設整備最前線

知の創造・人材育成・地域貢献で躍動する名古屋大学

安全の確立と機能的で快適なキャンパスの実現

名古屋大学施設部長 岡田 康裕 氏

岡田 康裕 おかだ・やすひろ
昭和19年3月8日生 (富山県)
S 41. 4 群馬大 施設課
S 50. 4 浜松医大 施設課
S 50. 10 同 〃  設備係長
S 51. 1 同 〃  電気係長
S 57. 9 福井医大 施設課企画係長
S 59. 7 同 〃  補佐
S 61. 4 金沢大 設備課補佐
H 1. 4 放送教育センター 技術課長
H 4. 4 三重大 設備課長
H 7. 4 富山医薬大 施設課長
H 9. 4 東大 電気・通信設備課長
H 12. 4 高エネ機構 施設部長
H 14. 4 名大 施設部長
中部圏の学術と文化の拠点大学である名古屋大学は愛知県内に4つの主要キャンパスを持ち、それぞれの役割と機能を明確化すると共に、相互に補間連携する基盤を整備し知の創造、継承、交流の拠点として地域のみならず国際的にも開かれた大学を目指し具体策を着実に実施している。来る国立大学法人化に向けて、どのような施設作りと体制整備が行われているのか、岡田康裕施設部長に伺った。
――名古屋大学キャンパスマスタープランの概要からお聞きしたいと思います
岡田
キャンパス整備の基本目標と、その実現に向けた基本方針として、2000年度にキャンパスマスタープラン大綱を定めました。その大綱では、基本目標として「創設以来のキャンパス整備の特性を継承・発展させ、個性的で開放的なキャンパスを目指すこと」、「機能性、安全性、快適性を備えた知の創造を促すキャンパスを目指すこと」、「教職員・学生の自立的・自発的な活動の支援、学内外との多様な知の交流に資するキャンパスの創出」という3つの目標を掲げています。
――名古屋大学で進められている緊急整備5か年計画の概略は
岡田
この5か年計画は01年度からスタートしたもので、本学で今年度実施予定の事業を含め、新改築は約94,800m2、改修が約46,000m2、総計約140,800m2が改善・整備されました。
整備にあたっては、施設の効率的・弾力的な利用を推進するための施設の点検評価、それに繋がる教育研究の活性化を目指して、共通スペースの確保・運用体制を確立しました。
今後の施設整備は、キャンパスマスタープランや05年度までの緊急整備5か年計画に基づいて進め、その後は新たな国の施策に沿って整備することになりますが、大学法人化は教育、研究の在り方の再点検だけでなく、これを支える基盤である施設についても、目標の明確化を迫るものになるでしょう。また、良好な教育研究環境の維持という機能面だけでなく、財務面からも効率的な施設管理が重要視されます。
耐震改修の実施率はまだ30%くらいという状況です。地震に備えた学生、大学職員の安全管理は緊急の課題です。
――最近は大震災に対する警告が、頻繁に発せられていますね
岡田
こればかりはいつ起きるかわかりません。今までのところ比較的に順調に改修の予算措置されていたのですが、予算は来年度かなり厳しいとのことです。それも含め、まだまだ課題はたくさんありますね。緊急整備5ヶ年計画自体は05年度までですが、それで全てが解決するかといえば、まだまだです。
また、研究教育スペースの確保も課題ですが、一方では課外活動施設や福利厚生施設などの生活関連施設の充実が課題です。その他、地域社会との接点となる施設についても、取り組んでいかなければなりません。
▲12月に新設された地下鉄名城線名古屋大学駅
――昨年12月には東山キャンパス内に地下鉄駅が開設され、利便性が向上しましたね
岡田
駅のある四谷・山手通は都市景観の指定区域になっているため、名古屋市と協力して駅出入口の形状のプランをつくりました。駅出入口全てがシースルーになっており、グリーンベルトの広場がどちらからも見渡せるデザインです。
――キャンパスの中央に駅が位置しているのですね
岡田
キャンパスが東西に長いので、その位置になったのです。地下鉄は本山から八事に至るのですが、沿線には本学の他、南山大学・中京大学があり学生街を形成しています。
名城線の延長(名古屋大学駅の開設)により、大幸キャンパスと東山キャンパスが地下鉄でダイレクトに繋がることになり学生・教職員の利便性が格段に改善されます。
研究面、教育面という本来の機能もさることながら、一般の方々にも大学に親しんでもらうねらいから、数年前から芸術ホールや国際交流施設、博物館などの複合的な建物を構想し、地域社会とコミュニケーションできるような施設を計画しています。
今後は大学も個性を発揮する時代で、地域社会との共生、すなわち、地域と一緒に生きていくことが重要です。地域の文化の中心という考えが、整備にも反映されることが大切です。
――整備が進められている附属病院については
岡田
名古屋大学医学部・同附属病院の基本理念は、患者の視点に立ち、疾病予防から社会復帰に至るまでの全人的な医療を実践し、高度先端医療の開発研究を推進・充実させ、良質な医療人を育成することです。
特定機能病院として、高度先端医療の中核であると同時に、教育病院として計画的で一貫した医師臨床教育並びにコ・メディカル教育研修を進め医療提供、研究推進に資することとしています。
▲名古屋大学鶴舞キャンパス
――鶴舞キャンパスの再開発は、どのように計画されていますか
岡田
医学部と病院は相互の密接な機能的関連を保ちながら、それぞれ施設を集約してゾーンを分離しています。それによって管理の明確化を図るとともに、大学院研究棟などを学部と病院の総合的な共同研究の場として位置づけています。再開発計画は93年度に文部科学省の調整会議に諮られ、承認されたもので、その後直ちに整備に着手しました。
計画立案から10年が経過していますが、ほぼ順調で、現在整備している中央診療棟もスケジュールどおりに進んでいます。しかし計画内容については経年による医療の進歩、社会情勢の変化、患者ニーズの多様化など、医療を取り巻く環境によって大きく変わるので、施設計画の変更も予測されます。
また、近隣の鶴舞公園とも一体的な環境を考慮した医療施設とする方針で、病棟から見ると公園が病院の敷地、前庭に見え、非常に良い景観になっています。
場所も地下鉄駅と、JR中央線駅に近接し、中部圏の中核病院に相応しく非常に交通の利便が良い所にあります。
――患者にとって快適な散歩ができる環境は、院内治癒力を高める上でも貢献しますね
岡田
そうです。本学では開放的で親しみやすいキャンパスを目指していますが、鶴舞地区の場合は病院施設がある関係から、防犯上どうしても塀を造らざるを得ないわけですが、それでもできるだけ開放的にするため透明なフェンスにし、セキュリティと地区の景観それぞれが満足できるよう配慮していきたいと考えています。患者としては、眺めの良いところの方が過ごしやすいと思うので、どこの部屋にいても公園が見渡すことができるように蝶ネクタイ型という配置プランになっています。
――整備スケジュールはどの様になっていますか
岡田
鶴舞キャンパスの再整備計画は93年にスタートしました。整備はビルドアンドスクラップを基本に94年にまず病棟に着手し98年に全館が竣工しました。次に医学部1号館に着手し01年に竣工し共用を開始しました。このように計画立案から10年が経過し、ほぼ順調に進捗しています。現在整備している中央診療棟は当初スケジュール通りの整備であり、引き続き中央診療棟の完成後外来診療棟を整備することとしています。
――医療機関としては、耐震性、防災性も重要ですね
岡田
想定されている東海地震の震度6強という地震でも、機能を損なわない免震構造を採用しています。
患者の安全性、災害時に機能を発揮できる病院がテーマでもあり、病院利用者、職員の安全確保と、地域中核救急センターとしての使命を果たすべく、防火・防災・防犯への対策、放射線物質・微生物・病原菌への安全対策などは万全です。
――来年度の法人化に向けては、どのような準備を進めていますか
岡田
来春から病院が法人化するにあたって、病院長以下、財政改革に努めています。大学病院は、診療の他に教育・研究という不採算分野の機能をもっているので、その中での従来以上の財政の健全化は非常に難しいのですが、病院の扱う予算は膨大なので、全学的に病院経営のバランスが取れないと名古屋大学の発展はありません。
――組織体制は大幅に変わるのでしょうか
岡田
現在は施設の維持管理、修繕などの業務を多数の部局で別々に行っていますが、来春からは可能な限り一元化して効率化を図ることが求められます。そのため従来の施設の新築・改修をする「整備中心」の体制から「企画・立案」、「整備」、「維持管理・運用管理」を、総合的に行える体制に改組する予定です。
施設マネージメントを着実に実施していくには、既存施設の現伏を的確に把握し、取り組む課題を明確にすること、さらに課題に対し、施設マネージメントの目標としての施設水準、管理水準を設定することが必要です。施設マネージメントには、スペースの問題やクオリティの問題があります。またコストの問題では、エネルギーコストの抑制が非常に大きな課題です。
一つの例として構想したのは10年前ですが、コ・ジェネレーションシステムを導入することによりエネルギー使用量の抑制を図り、蓄熱槽によって電力のピーク負荷を平準化し基本電力料の引き下げを図っております。
同時にインテリジェント化にも取り組んでいます。10年前に比べて今日のスピードと情報量は全く違っていますが、当時から東山キャンパスをハブとし、鶴舞・大幸の全キャンパスを光ファイバーなどの高性能情報伝達システムによって結んでいます。
――膨大な建築ストックを、どのように効率よく管理していきますか
岡田
各部局の管理データがあるので、実態調査を行いつつ集約し、データベースを作成中です。具体例としては、施設利用実態調査、部局別使用面積の把握、利用者に対する満足度調査を行い、問題点を浮き彫りにします。
次に現地調査による危険個所、要改善箇所を把握し、データベース化することによって安全快適な環境改善の基礎データを収集整理し、今後の整備、維持計画に反映させます。既存施設の施設台帳や図面は、施設図面管理システムによって整理し、保全計画の立案や整備計画立案に役立てていきます。

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