建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2004年1月号〉

interview

特集・港湾新時代〜世界の港湾立国へ〜

北関東の海の玄関口として発展を目指す

立地条件を活かした展開が課題

鹿島港湾・空港整備事務所長 前田 陽一 氏

前田 陽一 まえだ・よういち
昭和 39年 9月 30日生まれ
出身 青森県
平成 元年 3月 北海道大学大学院工学研究科土木工学専攻修了
平成 元年 4月 建設省入省
平成 8年 4月 東北地方整備局企画課長
平成 10年 4月 大臣官房技術調査室技術調査官
平成 12年 4月 (財)国土技術センター上席主任研究員
平成 14年 7月 現職
高度経済成長期に、急速に拡大しつつあった重化学工業の受け皿として開発された鹿島港は、鉄鋼、石油化学など素材型産業を中心とする工業港だ。一方、平成になってから開港した常陸那珂港は、北関東自動車道とセットで北関東の海の玄関口として計画された商業港であり、北米航路の開拓をはじめとする港勢拡大に向け、現在港湾整備を急速に進めている。依然厳しい経済情勢のもと、それぞれの立地条件を活かした発展を図っていく。
――鹿島港の概要からお聞かせ下さい
小平田
鹿島港は昭和36年に鹿島臨海工業地帯として事業化された港です。なんとか高度経済成長に間に合ったという感じです。臨海工業地帯は大きく3つのブロックに分かれており、当事務所正面の高松地区と呼ばれる地域は、住友金属工業(株)さんを中心とする鉄鋼エリアとなっており、隣の神之池東部地区は石油化学コンビナートのエリアとなっております。当地区のコンビナートは、鹿島石油(株)さんを原油の受け入れ口に、石油化学関連の企業さんが集積しております。石油化学工業は、原油から製品までの間、各企業さんの間を中間材料がパイプの上流から下流に流れていきますから、自然と一体的な配置になってきます。また、神之池西部地区は、鉄鋼・石油科学以外の企業さんを中心とする3つめのエリアとなっております。
当港の事業化に当たっては、実は事前に水面下で立地企業の誘致が進められていたということが言われており、そのプロモーターは当時の茨城県知事さんだったと聞いております。当時の知事さんが事前に企業グループに誘致を呼びかけていたのです。当時は石油化学コンビナートの需要が伸びていたので、コンビナートの拡張・新設が急速に進んでおり、企業側も既存の3大湾には新規に立地する余地が無くなってきていたために、他に工場用地を探していたという状況でした。そこに鹿島港の話がもたらされ、次の場所としてスポットライトが当てられることになったわけです。ただし、鹿島開発の後に続く工業開発では、企業誘致より用地整備が先行したため、その直後のオイルショックなどで打撃を受けてしまったというところもありますが。
――立地面でのメリットは
小平田
当地域は地盤が非常に堅固で、用水の確保が容易であること、まとまった土地が確保できたことがメリットでした。日本は地震国ですが、その中では当地域は活断層から遠く離れていて直下型地震の可能性が低く、過去の記録からも地震の発生が少ないことは、重い設備を配置するコンビナートにとっては有利な条件です。また、鉄鋼コンビナートにとって用水を豊富に確保することが重要ですが、ここは背後に北浦があり、用水の確保が容易です。
――首都圏が背後にあることも、立地条件として理想的と言えるのでは
小平田
当時は新規投資先として、大消費地に近いということがある程度はメリットとして考えられていたと思います。しかし、その後各地に工業団地の造成が進んでいわば飽和状態ともいえる状態になっていること、また陸送コストが高くつく現在では、首都圏への近接性だけで言えば内陸や東京湾内にもっと近いところがあります。そうしたなかでわざわざ鹿島港に立地するのは、原料や製品の輸送を陸路よりも海運に託するような企業さんと思われます。そうでなければ、敢えて鹿島港に立地せず、他の場所でも良いわけで、その方が首都圏を背後に持つメリットが大きい。首都圏への近接性だけでは「理想的」とまでは言い切れないと思います。海運を利用することがメリットとなっている企業さんに評価されていると思います。例えば、鹿島石油(株)さんの製油場で生産されたガソリンは陸送では茨城県内を中心に配送されており、それ以外は船舶による輸送が中心と聞いております。つまり、輸送コスト面だけからは「理想的」といえるほどのメリットにはならず、これに加えて港を使うことのメリットを加えて評価いただいているのではないかと思います。
一方、人の流れで見ると、当地域から東京までは、バスであれば2時間以内で移動出来ますから、その意味では東京から見ると相対的に近く、企業活動を東京と連動してやりやすいと思いますね。横浜まででも頑張れば日帰り出張が出来ます。
――現地は、すでに企業群で埋まったのでしょうか
小平田
既に造成したところは、高い割合で埋まっています。残っているところもありますが、近年は工場の生産設備を拡大するために、用地の拡張をする時代ではなく、既存用地内で高度化していく方向性にありますから、量的に拡大する、というよりは質的に変わってきている、というのが現状ではないでしょうか。
むしろ、そうした莫大な用地と人手が必要となるなら、中国に移転してしまいます。したがって、その必要のない分野で勝負をしているところですから、企業側も用地に対する新規投資をしていられないわけです。生産設備にしても、最新の設備が整っているところを探しながら、新規の投資を抑えて高度化をしていくというかたちになってきているようです。
――デフレ不況ですが、当地域での企業の生産活動の様子は
小平田
例えば住友金属グループでは、鹿島製鉄所の設備を増強中です。これは、グループ全体の設備状況をみたとき、当地域に集約することが最も効率性を上げることができる、と判断されたためと聞いております。一方、企業によっては中国進出等によって撤退してしまい、敷地が空いているところもあります。このように、各企業さんは厳しい状況下で事業の再構築を進めており、その中で、鹿島への集約を選択していただいている企業さんもあれば、撤退される企業さんもあるという状況です。差し引きすると五分五分くらいではないかと思います。グループ全体のなかで、鹿島の工場の設備の新旧を評価されて、判断されているようです。
――3大港の後に開発されたので、設備は最新であるところが強みですね
小平田
そうです。ケースバイケースですが、都市部は相対的に設備が古い上に、地価が高いという場合が多く、こうした場合、企業側としては、都市部の施設を売却して再開発していく方向に向かいます。
一方では、新しい設備があり、技術革新も進むにつれて、生産性は上がってくるわけです。そうしたところに生産拠点を集約をしていこうという傾向があり、鹿島港はその面から見ると適しているわけです。
――一方、常陸那珂港は、さらに新しい港湾なのですね
小平田
鹿島港は、喩えて言えばようやく社会人になったかなというイメージです。とはいえ防波堤や岸壁などまだまだ整備途上であり、成長途中ではあります。
一方、常陸那珂港はまだ卒業しておらず、しっかり育成していかなくてはならない段階、というイメージです。港としてある程度一本立ちするまでは、集中的に手をかけてやらなくてはならないという段階ですね。このため、整備費も、当事務所が執行する総事業費のうちの3分の2から4分の3を集中投資しています。
――高速道路などの陸路は整備されていますから、あとは港湾整備が課題なのでは
小平田
高速道路も港の近くの方はできていますが、本来は茨城県内だけでなく、内陸部の群馬県まで繋がらなければならないのです。
ただし、高速道路が出来さえすればいいのか、というとそうではないと思います。高速道路の場合は景気の動向に影響を受けやすいところがあります。トラック業界というのは、実は設備産業なのです。トラックなどへの投資を回収しなくてはなりませんから、トラック運転手も景気が悪いからと、簡単に運送業を止めるわけにはいきません。そこで、近年のように貨物の動きが鈍くなると、業界内は過当競争に陥ってしまい、ディスカウント合戦を始めてしまうのです。しかも、荷物がないから人手はある、ということになり、そうなると高速道路料金を負担せずに、一般道をゆっくり行こうということになるわけです。これは逆もまた真なりで、バブルの頃は乗務員が不足した状況で、そのために3k職場と言われたものです。何しろできるだけ高速道路を利用して回転率を上げようとするのですから。
そのため、こうした経済情勢のもとでは、開通さえすれば単純に利用が増えるとは限りません。ただ、基本的なインフラの条件が良くなっていくことは確かです。港湾整備も併せて進めていくことが必要です。
――貿易の形態も、時代と共に変わってきましたね
小平田
群馬、栃木は、昭和の間は機械組立が盛んで、当初は道路を横断的に通し、輸出製品を集めてアメリカへ輸送することを主眼に考えていました。しかし、後に情勢は変わり、最近では日本各地の港に中国あるいは韓国などの東アジアや東南アジア製の消費財が直接入ってくるようになりました。しかも中国や韓国からの場合、感覚的には外洋を渡ってくるというイメージではなく、内航の延長のイメージなのです。
経済状況が大きく変わって、今や、日本企業の工場が中国に進出し、中国で生産して日本で販売する形態が主流となってきました。ヨーロッパやアメリカの航路は、かなり大規模の船でなければ行けないので、3大港のような大きな港に就航し、そこから陸路、あるいは内航船に積み替えて各地の港へ運んできたわけです。しかし、中国や韓国であれば、内航船の延長で行ける範囲なので、数千トンクラスの比較的小さな船で往来することができるわけです。
その意味では、外国というイメージではなく、海上における国境という敷居が低く、フィーダー船的なかたちで直接来てしまうのです。
したがって、今や日本全国の地方港に中国語やハングル語の船名が入った船が就航しています。そして、それらの積荷は消費財なのです。
――そうした変化は、いつ頃から見られましたか
小平田
バブルの頃からすでに中国への進出は始まっていましたね。ただ、あの頃は景気も良かったですから内需もあり、あわてて出ていこうという感じではなかった。それが景気が悪化して、当時はいきなり中国に進出する勇気がなかった企業も、バブル以前に進出していた企業が先達となり、中国で生産すればメリットがたくさんあることが分かったところへ、いよいよリストラクチャリングに迫られ、動きが加速したということではないでしょうか。
――東南アジア圏内での船舶の性能・安全性が高まったことも、アジア近海海運の拡大の一因では
小平田
どうでしょうか、その点はちょっと分かりません。私のイメージは、船舶の側と言うより、先ほど申し上げた物の流れが変わってきたことにより、本来国内3大港湾〜各地港湾間で行われていたフィーダー輸送、あるいは国内で陸送されていた部分が、中国船社や韓国船社による海運に移転してきた結果であるというイメージです。
いわば、外国とは大きな港だけで繋がっていて、あとは日本国内で完結という物の流れが崩れ、日本と中国・韓国を含めた大きな物流ネットワークが構築されてきた。そして、そのネットワークの一部として組み込まれてつつある、ということです。
――アジア近海の物流ネットワークの構築が常陸那珂港の振興にもつながっているわけですねね
小平田
たしかに地方の港の国際化は進みますし、消費者は中国製品が直接輸入されるので、安く入手できます。しかし、日本全体の産業を見るとマイナス面もあり、デメリットを生む可能性があります。
それは日本の港のハブ港としての地位低下です。ハブ港のメリットというのは、その港への航路が増えることによって物流コストの低下や関連産業の発展が期待できることです。物流というのはいろいろな意味で線の太さがコストに繋がってきます。貨物をいつでも発送できるというメリットもあります。施設も高度利用されることで、減価償却面からもコストが下がってくるのです。しかし、ハブ港であった港がその地位を失うようになると、これらのメリットを失い、逆にハブ港に対してハンディキャップを追うことになります。こうした様々なデメリットが生じるので、これを解決しようと盛んに提唱されているのがスーパー中枢港湾です。
グローバル化が進む以上は、中国や韓国を含めたアジアの大きなネットワークの中に取り込まれることは如何ともしがたいのですが、このネットワークの中でローカルな一部分に押しやられてしまわないよう、危機感を持たなければならないと思います。
また、常陸那珂港はもともと北米航路を念頭に計画された港です。アジア近海のネットワークの中で見る限り、日本海側の港と比べると、太平洋側の港は地理的な条件で劣ります。わざわざ迂回して来るわけですから。この港の立地条件を最大に活かせるのは北米航路であると思います。もともと内航船しか来ないつもりでいたところに国際航路がくるというならメリットだと思いますが、当港のスケールを活かすのは北米航路が必要だと思います。
――3大湾を含めて新たな改革が必要ですね。今後の整備上の課題は
小平田
すでにご利用いただいている船舶関係者の間では、エプロンが広く使え、荷役作業がやりやすいと好評です。最近は、船社さんは船舶の回転率を上げようと努力しています。このため、船舶が余裕を持って何日か停泊する、ということはなく、入港すれば直ちに荷役を始め、終われば即出港というかたちです。こうしたなかで、荷役がスムーズに行える、使い易い港にしていくことが必要です。そのため、防波堤の整備などを進め港内の静穏度を少しでも上げていきたいと思っています。

鹿島港の早期整備に貢献

●鹿島港浮標灯保守点検 ●鹿島港岸壁−14m築造工事 ●鹿島港中央防波堤基礎工事
東亜建設工業株式会社
東京支店/東京都新宿区西新宿3-7-1
新宿パークタワー
T 03-5323-3801


みらい建設工業株式会社
東京支店/東京都江東区亀戸1丁目
8-8
T 03-3682-8261
日起建設株式会社
東京支店/東京都港区高輪1-5-4
常和高輪ビル
T 03-3280-1411


●鹿島港南防波堤被覆工事 ●鹿島港土砂運搬工事 ●鹿島港南防波堤築造工事
藤昭建設株式会社
本社/茨城県鹿島郡波崎町大字太田
4158-2
T 0479-46-1061


株式会社朝日工務店
本社/茨城県鹿島郡鉾田町大字安房
1371-1
T 0291-33-3111


若築建設株式会社
東京支店/東京都目黒区下目黒
2-23-18
T 03-3492-0811



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