建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年3月号〉

interview

歴史を生かしたまちづくりを展開

松前城を復元し、100万人の観光客を

松前町長 松村 明夫 氏

松村 明夫 まつむら・あきお
松城小学校、松前中学校、松前高等学校卒業
昭和 35年 6 月 松前町役場に奉職
昭和 55年 5 月 管財課長
昭和 62年 7 月 町民課長
昭和 63年 10 月 総務課長
平成 5年 4 月 管財課長
平成 7年 5 月 助役
平成 9年 7 月 退職
―この間、町の多くの重要施策にたずさわり、その推進役を務める―
[地域活動]
松前高等学校野球部ob会 前会長
大磯町内会総務部長(6年間)
毎春、北海道で最初に桜の便りを届けるまち・松前町。北海道最南端に位置するこのまちは、道内でも古い歴史のあるまちとして知られる。松前城(福山城)を擁する松前氏・松前藩の城下町、北前舟による近江商人との交易の湊として栄え、そして明治維新期、箱館戦争の舞台ともなった海の湊・松前は、激動の北海道(蝦夷)の歴史を、常に先端に立って見つめてきた。
合併など、地方自治体の再編が叫ばれる中、財政難、高齢化・過疎化の進行など、道内郡部の町村を取り巻く状況は特に厳しい。この状況下にあって、町村は何を指針として21世紀を生きればよいのか。このヒントを探すべく、「歴史にこだわった、他にない独自性のあるまちづくりを」と説く松村町長に、松前町のまちづくりについて伺った。
――1期目のゴールがそろそろ見えてきたところですが、この3年半の町政をどう評価しますか
松村
町長への就任は、大変な借金を背負ってのスタートでしたから財政再建のための行政改革がまず第1のテーマでした。財政の健全化計画を立て、職員の採用を控えたり、日当や旅費を切り詰めるなどやれることは何でもしてきたと思います。
 我慢を強いられながらも職員の協力の甲斐あって、今やっと明るさが見えてきたところです。町としての事業を展開していくためにも、まず財政が安定していなければ何もできませんからね。
――松前は道内でも歴史の古いまちなので松前町では、“歴史を生かしたまちづくり”を展開していますね
松村
具体的には、商店街の道路の拡幅工事、歩道の整備、商店街すべてを城下町風のつくりにしようという計画を進めています。松前城の下に、福山、松城、唐津の3地域があり、この商店街をもう一度見直そうということで準備を進めていたのですが、国、道の予算も認められ、ようやく平成13年度に着工の見通しです。
 既に着手している松前城の復元工事は搦手二ノ門が平成12年度に完成し、今年はその周辺に白い塀を造る方向で進めています。これも国の新年度予算で了承を得たので、何としても築城400年を迎える平成17年までには、完成に漕ぎ着けたいと考えています。
――こうしたまちづくりを行っていく上で、参考にしたことは
松村
昨年、地元の建設業界、商店街の皆さんと、滋賀県彦根の素晴らしい街並を見てきました。なぜ彦根かというと、北前船を通しての歴史的結びつきから友好都市を結んでいるからです。ここは、彦根城の周辺に、城下町風の商店街が並んでいて、実に壮観でしたね。この彦根のまちづくりをモデルに、我が松前町も歴史を生かすまちづくりに夢をかけようという意を強く持ちました。
――松前は観光のまちであると同時に、漁業がもう1つの重要な産業ですが、漁業の振興についてはどう考えていますか
松村
スルメイカ、ホッケなどを主体に漁をしてきた地域ですから、これまでは管理型ではなく獲る漁業に頼ってきました。そのため必然的に不安定な漁業経営を強いられ、これが年々厳しさを増しています。
そこで現在、札前に蓄養漁港を作っているところです。これは北海道内でも注目されている港で、そこにウニ、アワビ、ヤリイカなどを放流して、活魚として付加価値を付けていこうとしているものですが、ようやくこれがほぼ完成する予定です。
 サザエは成功しましたが、アワビについては何とかものになりそうな気配が見えてきたところです。これを産業の活性化に結びつけられないものか、観光資源の1つに加えられないかなど、いろいろなアイディアが検討されており、可能性が期待されています。例えば観光客にステーキにして提供するなどです。これが実現すれば、松前だけのオリジナルとなります。
――アワビのステーキを“松前ブランド”に
松村
そうですね。やはり他には無いものを“松前ブランド”として出していきたいと思っています。観光の中でも食の部分は大変注目されています。私たちもインターネットを活用しながら町の特産品や観光をprしていますが、これからは特色あるものをどんどん出していきたいですね。
――松前町に限ったことではありませんが、北海道の農漁村地域では、少子・高齢化や過疎化の問題がより深刻になっています
松村
北海道の場合、札幌周辺に若者が集中し、郡部ではどんどん減っているというのが現状です。この町でも、例えば道立松前高校の卒業生は毎年約150人ですが、そのうち、地元に残るのは10%ほどでほとんどの若者は出ていってしまいます。これに対してなかなか特効薬が見当たらないというのが現実です。
 企業誘致といっても、函館から約2時間ほどかかりますからなかなか難しい。また、札幌を中心に考えた場合、松前、江差はちょっと遠すぎるというイメージがあるようです。
――確かに、jr松前線も廃止されてしまいました
松村
松前線廃止の影響は大きいですね。今後は計画中の松前半島道路(高規格幹線道路)に期待したいところです。こうした道路網の整備が進めば、松前と函館・札幌との距離も短縮されます。
――この地域は、冬場は本州方面へ出稼ぎに行く人が多いようですが冬場の雇用確保策も重要な課題では
松村
例年11月〜4月頃まで、約1,000人ほどの町民が出かけます。そして、5月になると地元に戻り漁に出る。この間、就労の安全や留守宅のことなどもありますから、私も町長として出稼ぎ先を訪問しています。
 いずれにしても、現段階では、高齢者への福祉対策として岩場の海苔を活用することを考えています。冬場の雇用対策と同時に高齢者の雇用の場を創出し、個々の所得を上げることができるものを作っていくことが必要です。
――国や道の協力を得るという考えは
松村
今や国、道の力を借りてという時代ではなくなっています。何事も町村自らの手でやらなければならない時代です。そうした認識に立って、松前町の場合は歴史の浅い北海道の中で歴史にこだわった生き方をしていきたいと思っています。他町村と同じことをするのではなく、独自性を持ったまちづくりをしていかなければ。
――今後の課題として、どんなことを行っていきますか
松村
1つには町民の健康づくりです。何事もまず基本は健康ですから、町民の健康管理のための保健センター、介護支援センターの建設を考えています。町立病院を充実させ、そのすぐ側にセンターをつくり、病院とタイアップした形で健康管理をするというものです。
もう1つは、何とか100万人観光を実現したいので桜と歴史を生かした街並みづくり、そして農畜水産を生かした食、それに伴う大型駐車場の整備です。
平成13年度は松前藩主松前家墓所の整備、特養ホームの増床、城の整備、アワビの放流などを重点に事業を進めていきたいと考えています。

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