建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年3月号〉

interview

省内の横断的調整機能を強化し、複雑な政策課題に対処

急がれる運輸施設のレベルアップ

運輸省技術総括審議官 井上興治 氏

井上 興治 いのうえ・こうじ
昭和18年11月1日生、40年国家公務員採用上級試験(土木)合格、41年北海道大工卒。
昭和 41年 運輸省第五港湾建設局勤務
47年 科学技術庁計画局計画課専門職
49年 北海道開発局港湾部港湾建設課開発専門官
50年 同港湾計画課開発専門官
50年 運輸省港湾局計画課専門官
52年 秋田県開発局主席参事
54年 同環境整備課長
56年 北海道開発庁港政課開発専門官
58年 運輸省港湾局環境整備課廃棄物対策室長
61年 国土庁大都市圏整備局計画官
63年 北九州市港湾局長
平成 2年 運輸省港湾局付
3年 同開発課長
6年 北海道開発庁港政課長
7年 北海道開発局港湾部長、
9年 運輸省港湾技術研究所長
10年 現職。
運輸省に技術総括審議官というポストが新設されて、3年目を迎えた。各局の技術面での政策をトータルにコーディネートするポストで、来る国土交通省移行への布石とも言えそうだ。運輸施設は、人と物の移動、流通を司るわが国経済の根幹だけに、国際競争に後れをとらないためには、施設のレベルアップが欠かせない。そこで現在、このポストにあり、運輸省全体を見渡す立場にある井上興治審議官に、ポストの果たすべき役割と政策課題などについて語ってもらった。
――技術総括審議官という役職の持つ役回りは
井上
このポストは、2年前の7月に新設されました。運輸省には技術行政局として航空、自動車、鉄道、港湾、海上の5局があり、運輸省全職員37,000人のうち技術系の職員は17,000人います。これら技術系職員が持っている能力を総合的、効率的に発揮させることが必要です。
また、例えば港湾と鉄道のアクセスの問題、また、空港と鉄道のアクセスの問題など、一局だけでは対処できない課題も発生するようになりました。そのため、各局にまたがる様々な課題を円滑に処理できる仕組みが必要になってきたのです。そうした課題に的確に対処していくためには技術系の局を総括する組織が必要ということで新設されたポストです。
――タテ割りで相互不干渉になりがちな各専門部局を横断的に調整して、広域的な課題に対処するというわけですね
井上
そういうことです。
――どんな課題に取り組み、どんな成果を得ましたか
井上
例えば、公共事業のコスト縮減は政府が3年間で10%の目標を掲げて取り組んでいるところですが、運輸省でも港湾、鉄道、空港整備などいろいろな分野で公共事業を実施しており、中には鉄道建設公団といった特殊法人で行っている公共事業もあります。そうした公共事業のコスト縮減に向けて、技術開発や品質向上、経営努力の対策を横断的に進めています。
平成9年度の実績を見ると、所要の規模で縮減目標はほぼ満足できる内容になったと思っています。今後とも引き続き各局の情報を集めたり、またこちらから各局に必要な政策課題を提示して努力してもらおうと考えています。
――コスト縮減については、独自に前年度予算との比率など基準を設けているのですか
井上
3年間で10%が目標ですから、毎年3%程度の縮減努力をして、結果的に3年間で10%の目標を達成するという地道なやり方が必要でしょう。
―― 一方、建設業界の立場から見ると、コスト縮減が足かせとなり、最近の積算では、利益を生むには苦しいとの話をよく聞きます。公共事業は景気対策の一面がありますが、コスト縮減によってその効果が相殺されてしまう心配はありませんか
井上
コスト縮減は、発注者側が努力をせずに単価を下げて達成すれば良いというものではありません。私たちには歩切りをして縮減をするという発想はありません。あくまでも新しい技術を導入することによってコスト低減を図ったり、資材を上手に運用することで下げたり、企業努力や技術開発を促進させる観点からコスト縮減に取り組んでいるのです。
――以前から日本は高コスト構造といわれていますが、同時に流通コストをいかに低減させていくかも課題ですね
井上
物流問題については、平成9年に総合物流施策大綱を策定し、その中で社会資本を着実に整備していくこと、規制緩和を推進すること、さらに物流システムの高度化を図ることで、コストを下げて流通の合理化を進めることにしています。
当然、運輸省としても大綱の方針に従って港湾や空港、鉄道など社会資本の整備を推進するとともに、規制緩和に関しては平成8年に需給調整を原則的に廃止する基本方針を打ち出しました。廃止に伴って、いくつかの課題も生じますので、それへの対応をどうするか検討しているところです。
また物流のシステムの合理化については、情報化の推進や、流通の一貫輸送を実現できる施策を進めたり、輸入促進地域の整備を図ることによって少しでも合理化、高度化を進めていく考えです。
――そうしたことが日本経済に国際競争力をつける要ですね。国民も、実際に整備にあたる施工業者もその構図を理解していくことが必要でしょう
井上
そうですね。国際競争力の観点で非常に大事なことは、私は「国際インフラ」と表現していますが、日本のような貿易立国にとっては、国際ハブ空港、国際ハブ港湾を世界の最高水準で整備・維持していくことが重要です。いま、公共事業に対する見方は必ずしも肯定的ではありませんが、国際インフラはこれからも着実に推進していかなければなりません。
新東京国際空港(成田)は年間2,520万人、関西国際空港も1,130万人の乗降客があり、どちらも航空各社から増便の要望がありますが、対応しきれないのが実態です。
港湾を見ても、アジア・欧州間を就航しているコンテナ航路は、以前は週17便すべてが日本に寄港していました。ところが、いまは全体で24便に増えているのに、日本に寄港するのは逆に12便に減っています。単純な分析では何とも言えず、はたして日本の国際貿易に不都合が生じているのかどうかは必ずしも見えていませんが、いろいろ話を聞いていると、日本の貨物をシンガポールか香港まで運び、そこで積み替えて欧州との間を往復している事例もあるようです。いわばシンガポールや香港がハブ港湾になっていて、日本はフィーダー港になっているわけです。
これは日本にとって将来的に見過ごすことの出来ない兆候です。したがって国際インフラを世界の最高レベルで用意しておくことが、まず必要だと思います。
――先般、自民党都市問題対策協議会会長の柿澤代議士にインタビューした際、東京が国際競争で負けたら日本全体が負けたことになる。そのためには首都・東京を再構築し、空港も成田、羽田ともにハブ空港にすべきだと主張していました
井上
日本の経済規模はアジア全体の2倍に相当します。アジア全体の三分の二は日本の経済規模で、ものすごく大きなマーケットを持っているというのに、世界との窓口、ある人はゲートウエイといい、ある人はハブ機能といいますが、そうした役割を担う空港、港湾が一つで良いわけがありません。
 国際インフラをうまく日本国内に配置して、輸送の効率化なり物流の合理化を図り、人的交流も円滑に出来るように国際インフラを配置していくことはぜひとも進めていかなければなりません。
――その意味では、運輸省としてハブ空港・港湾をいつまでに整備しようと考えていますか
井上
空港整備7か年計画では、成田と関西の2期事業に、また今年から中部国際空港にも着手します。いわば国際インフラとしての空港整備に重点的に取り組んでいこうということで政策を展開しています。
港湾の方も中枢・中核港湾を整備する方針です。これは大規模な国際海上コンテナターミナルの整備を8地域で展開し、国際的な海上コンテナ輸送のネットワークの中に位置付け、間違ってもフィーダーの国にならないことを目指しているのです。
――ハブ港湾が八つ出来るということですか
井上
八つというより8地域ととらえています。東京湾、大阪湾、伊勢湾、北部九州、北海道の道央、東北の太平洋側、日本海中部、北関東に配置する計画です。
――ところで、運輸省は観光政策も推進していますが、整然ときれいに整備された港湾や空港を観光資源として活用することも可能では
井上
観光政策も大きな柱になっています。海外から日本に来る多くの観光客も含め、魅力あるマーケットを提供することが大事ですから、そうしたマーケットづくりのために運輸省も観光情報を広く迅速に観光客に利用してもらう情報システムを開発しているところです。
港湾関係について見ると、ウォーターフロントは魅力ある観光資源ですから、少しでも公共支援をして観光客を引き付けるような魅力あるウォーターフロント整備を促進したいと考えています。
北海道の港では小樽、函館、釧路港などが、うまくウォーターフロントの整備に取り組んだ好例で、首都圏の人たちからみても魅力あるスポットになっています。それぞれの港の個性を生かしたウォーターフロント整備を期待しています。
――さて、省庁再編によって2001年1月には運輸省と建設省、国土庁、北海道開発庁の4省庁を統合して国土交通省が誕生しますが、その中で運輸政策はどんな体制で行われることになりますか
井上
日本の社会資本を整備し、より良い交通サービスを提供する観点からいって、運輸省と建設省が一体となるわけですから、いままで以上に緊密な協力関係が出来ていくと思います。
地球環境、物流、都市問題などどれ一つとってもこれからの時代は技術政策が重要になりますから、技術の進展を念頭に置いて政策を立てていかなければ、時代に合った政策が出来てこないと思います。しかも、一つの局や課が政策的課題を抱えこんで単独で処理できるという仕組みにもなりません。施設の安全性向上にしろ情報通信の発達にしても、各々の持つ技術力はあらゆるところに利用されますし、各組織が連携しなければ政策目標を達成できません。
その意味で、この「技術総括」という横断的な組織、体制によって現在、積み重ねている蓄積、知見は、新しい体制になっても有効に機能すると思います。

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