建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2001年3月号〉

interview

トマムリゾート崩壊の危機を脱出

ツインタワーの運営、徐々に軌道に

占冠村長 原 淳二 氏

原 淳二 はら・じゅんじ
昭和 7年 7月26日生まれ、占冠村立占冠中学校卒業。
昭和 23年 4月 占冠村役場
42年 6月 同議会事務局長
49年 4月 同総務課長
56年 6月 同助役(3期)
平成 5年 6月 同助役退任
9年 4月 同村長
占冠村に、巨大なツインタワーが出現したのは、バブル期も後半に入った頃だった。全国的にも有名となり、村のシンボルともなったが、バブルの崩壊と共に、運営会社であるアルファリゾートが倒産。平成のバベルの塔は崩れ落ちるかに見えた。だが、原淳二氏の村長の就任を機に、その悲劇は回避された。観光と第一次産業を基盤とするこの村の危機を救った原村長に、当時の苦悩と近況などを伺った。
――占冠村の代名詞にもなっていたトマム・リゾート倒産の折には、村の存続自体を危ぶむ声も上がっていたほどでしたが、その後どんな経緯を辿りましたか
11年は、全国的な組織である国際観光テーマ地区協議会が、ここを会合の場所に使って下さったり、北海道青年会議所が1,000人規模の大会を開いて下さったりと、随分皆さんに応援して頂きました。関係者の努力と相まって、おかげさまで少しずつ入り込み数も増えてきたところです。
――首長として最も悩んだことは
 施設全体の約6割は関兵精麦が運営しておりますが、残り4割をどうするかが最大の課題でした。その中にはスパハウスのような人気施設もあり、これが使えなければ人は来てくれません。結局、その部分を村が取得し、加森観光に無償貸与して維持管理はすべて自己責任で運営してもらうことになりましたが、当然、村の中にも賛否両論がありました。最大の懸念は、村が施設取得の是非と貸与の期間等で、もしも加森が撤退するようなことがあったらどうするのか、ということです。
しかし、どちらを選択するにも、最終的に観光の灯が消えることになればどうなるか。まさに、進むも退くも地獄を見ることになりかねない局面でした。何しろ、ここ数年で上トマム方面の地域には、公営住宅、上下水道、保育所、学校などの整備を進めてきたのですが、人口が減少したなら、全てが水泡に帰してしまいます。
ところが、国勢調査による就業人口比率を見ると、昭和55年には、一次、二次、三次産業それぞれがほぼ同じ割合だったのが、最近では一次産業が10%を切り、三次産業の観光が70%を超えるまでになっています。このように村の置かれている状況を考えると、私は施設を持たざるをえないと判断したのです。
しかも、リゾート会員権の所有者から「金銭の問題ではなく、私たちはトマムの自然を評価して買ったのだから、何とかトマムで会員権を使える方法はないものか」という声を耳にしていたことも大きな理由です。
現在、トマム地区には約76戸の公営住宅があるのですが、リゾート施設の運営が軌道に乗り、雇用機会が増え、子供の数も増え、そして学校では、教員の定数も増えたことで、現状では空きがない状況にあります。
 一時期は、占冠観光の明日はどうなってしまうのかと、思わず悲観した時期もありましたが、今では所期に追い求めていた、自然を生かした「国際山岳リゾート」という夢の可能性は、まだ十分に残っているのだと思っています。
――アルファ・リゾートの問題が村財政に与えた影響は、計り知れないものがあると思いますが、これをどのように処理し、さらに今後の財源確保をどうする考えですか
 アルファ関係については、平成10年以前のものは交付要求という形になります。平成11年分は約3億4千万円でしたが、地方交付税の中で70%を基準財政収入額として見込みますから、それで算出すると約2億2千万円くらいは税収としては見込めないことになります。しかし、その分が差し引かれてくるので、全く収入がないわけでもありません。財政的には、入らないなら入らないなりの方法でやりくりを考えなければなりませんから、現在、5ヵ年計画を立てているところです。
一方、村税の徴収率を上げることも必要です。徴収率は、通常は97〜98%であるものですが、占冠村は約95%と少し低いのです。もう少し徴収努力をして財源を確保する必要があります。
その一方で、支出を抑制することも大切です。例えば定年退職者がいても、人員は当分は補充せず、公債費等諸経費を抑えるなど、堅実な運営を実行していくなら、向こう10年は行政サービスの現状レベルを維持できる見通しです。
 幸い上下水道もほとんど完備していますから、今後に大きな支出は、一部にはあるかも知れませんが、それほど多くはないでしょう。また、生活環境にしても、かなり整備が進んでおり、しかも、その償還も計画どおりであります。
――現在は、どのような政策に取り組んでいますか
 就業人口から見ても、かなりのウエイトを占めている観光産業の振興策に力を入れています。交通網の整備も進み、立地条件も飛躍的に改善されました。これまでの経緯を考えると、主としてリゾート中心になるかと思いますが、掘り起こされていない観光資源はまだまだあると思っています。富良野・美瑛広域観光推進協議会に加入しましたが、これら周辺地域と連携を取りながらprにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
また、年々減少傾向にある農業については、昨年に南富良野町農協と占冠村農協が合併しましたが、たとえ農協がどこにあろうとも占冠村の農家の経営が安定するような政策をとっていきたいと思っています。
特に農産物の価格は、農家が任意に独自で決められるものではありませんから、私が村長に就任してからは、生産費との差額があまりにも大きく開く場合には保障する制度を作りました。今後はさらに経営基盤の整備や、環境に配慮した取り組みも必要でしょう。新たに農業経営を志す人との交流、支援策も急ぎたいところです。
 一方、林業は森を育て、後継者を育てることに主眼を置いた取り組みを考えています。後継者を育てるためにも、技術のレベルアップを目指す支援策をぜひ盛り込みたい。さらに、昭和48年に建築された山菜工場の建て替えに向けて、平成13年度からそろそろ着手する予定であり、また地元資源の確保のために、収穫区域や期間を決めて山を休閉するなどの対策にも、今年から着手します。
――占冠村は平成14年に開基100年を迎えますね
 それに合わせて、記念行事を考えていますが、まだ具体的な構想はありません。本年から準備に入る予定です。ただ、単なる通過点にしないよう、皆さんの意見を聞きながら、これを起点に次代への希望ある村づくりの出発点と考えています。
――一期目の任期も終盤ですが、この4年の総括と二期目へ向けての抱負は
就任当初は、トマムの水不足の問題、その後にはアルファリゾートの倒産と、波乱に満ちた4年間ではありましたが、水利権確保も今年度中に見通しが立ち、リゾート問題も落ち着いてきました。
立起時に皆さんに約束した「開かれたまちづくり」を、みんなでやろうという公約については、各種委員を公募したり、村づくり10ヵ年計画も、これまでは専門家に外注していましたが、今回は住民参加による手づくりの開発計画を作りました。
もう一つの柱であった福祉事業は、在宅高齢者への支援策として風呂、トイレ、階段に手摺を設けたり、介護手当を支給するなどしてきました。さらに本年度はディサービスセンターをつくる方針です。このほか観光関連では「道の駅」の整備、青少年国際交流への支援などもあります。
私としては、厳しい財政とはいうものの、政策面でできる限りのことはやり、それなりの成果もあったと自負しています。ただ一つ残念なのは、公約していた情報公開がまだ100%でないことです。それ以外のものに関しては私なりに糸口を作ってきたと思います。
 二期目では、基幹産業である農・林業をきちんと伸ばしていくこと、福祉の充実を図ることなどに重点を置いた取り組みを考えています。そして、占冠に住んで良かったと思えるようなまちを目指したいと考えています。

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