建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年11月号〉

interview

特集・港湾新時代〜世界の港湾立国へ〜

(後編へ)

時代の要請に応じた変化と進化が必要

一様ではない港湾の未来像と機能

国土交通省港湾局長 金澤 寛 氏

金澤 寛 かなざわ・ひろし
昭和21年7月24日生
出身  岡山県
昭和 47年 3月 京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了
昭和 47年 4月 運輸省入省(第二港湾建設局企画課)
昭和 47年 4月 京浜外貿埠頭公団工務課工務一課
昭和 49年 4月 第一港湾建設局企画課第二調査係長
昭和 52年 5月 科学技術庁計画局計画課専門職
昭和 54年 4月 沖縄開発庁沖縄総合事務局那覇港工事事務所建設専門官
昭和 56年 6月 国土庁大都市圏整備局計画課専門調査官
昭和 58年 5月 第二港湾建設局企画課長
昭和 60年 10月 港湾局防災課補佐官
昭和 62年 10月 鹿児島県土木部港湾課長
平成 2年 4月 港湾局環境整備課廃棄物対策室長
平成 2年 6月   〃   〃   海域環境対策室長
平成 5年 4月 第四港湾建設局関門航路工事事務所所長
平成 7年 4月 第二港湾建設局横浜調査設計事務所長
平成 9年 7月 港湾局技術課長
平成 11年 4月 第三港湾建設局長
平成 12年 6月 港湾局大臣官房技術参事官
平成 14年 7月 現職に就任
世界経済のグローバル化を反映して、我が国の港湾も厳しい国際競争の渦中にある。とりわけ、アジア諸国との価格競争においては、その高コスト構造から不利な立場にあり、巻き返しには並大抵の努力ではおぼつかない。どのようにして、優位性を確保するのか、そのために、どのようなインフラ整備と体制整備が必要なのか、金澤寛港湾局長に、今後の戦略を伺った。
――近年の港湾は、岸壁の規模が水深15m、16mに及ぶなど、大深度化に向かって整備が進められていますが、港湾としての完成形をどう描いていますか
金澤
今日の港湾は、その役割がかなり多機能にわたっています。物流機能もあれば生産機能もあり、生活空間でもあり、かなり複合化しているので、一律に完成度を測って表現することは難しいものです。道路であれば、その路線としての完成度が分かります。もちろん道路にも多目的な利用法があるでしょうけれども、港湾の場合はそれ以上に多角的な利用形態があると思います。
もうひとつは、時代背景によって港に対する要請が変わっていくので、常にそれに応じる形で、いわば脱皮しながら変化していく特質があります。したがって、どの段階においても完成と判断することはできません。
例えば、コンテナ輸送という機能においては、30年前のレベルでは水深12mが最大だったのです。水深12mくらいの岸壁に相当するコンテナ輸送が、計画の中心だったのです。その岸壁の長さも、おおよそ250m程度でした。ところが、コンテナ輸送は船舶が大型化してきており、それを受け入れるべく港湾が、その流れを先取りしながら整備を進めていかなくてはなりません。
今の15m岸壁というのは、世界の主要な基幹航路を対象とする中枢港湾をつくろうという整備目標の象徴ですが、その岸壁に視点を置いて見るなら、現在の流通する貨物量から、10年先には30バースくらいは必要になると推計しています。現時点では16バースが完成し、供用していますから、それで測るなら、完成度は50数パーセントとなります。ただし、これはあくまでも15メートル級を基準に考えた場合の指数であって、現実には、さらに大規模な岸壁に取って代わられる可能性もあるわけです。
というのも、最近の造船計画を見ると、現在のコンテナ船は6,600個積から7,000個積が最大ですが、世界的には、10,000個積のコンテナ船が登場するとも言われています。そうなると、整備すべき岸壁の規模も、また変わってきます。
港が常に経済・社会状況を見ながら、顧客である船舶や製造業の要請に答えていくならば従来の重厚長大型からはかなり変わってきています。顧客の目的、あるいは対象の変化に応じて、港湾も変革しながら変わっていくわけです。
とりわけ、近年は市民生活における港の役割がかなり大きくなっており、港にショッピングセンターが建設され、そこで買い物を楽しんだり、ウォーターフロントが整備されて市民に開放されているところもあります。そのため、港の空間をさらに再開発していかなければならず、その形態も様々ですから、それだけに一律に完成度を表現することは考えられないのです。
港湾とは、時代の変化に応じて常に先取りしながら役立つよう、構造改革や再開発をしながら変化していく社会資本だと思います。
――港が多機能化し、かつては産業インフラとして利用者だけを見ていれば十分だったのが、今日ではそれだけでは済まなくなり、多方面に広く目を向けていなけれけばならないのですね
金澤
我が国の経済・社会、国民生活が、港の空間に何を求め、何を期待しているかを、先取りして考えながら変化に応じて変えていくことが、非常に重要になってきています。
例えば、今は岸壁も15mくらいを目標にし、30バースの半分くらいまでできましたが、コンテナというのは国際競争の中にあり、船舶の大型化も、その国際競争を受けての変化です。したがって、港も国内だけを見ているのではなくて、周辺の韓国、中国、シンガポールあるいはアメリカなどを視野に入れ、世界航路の水準に向かわなければなりません。一方の港が深くて、他方の港が浅いのでは、貨物船は巡回できないのです。その意味では、国際的な社会資本としての性格が強いですね。
――船舶の大型化と、貨物取扱量は、世界的な景気動向を反映しているのでは
金澤
もちろん、日本国内の物流量はgdpと相関していますから、例えば国内の輸送量も、gdpが下がると減っていきます。ところが、国際貿易では、国際コンテナ輸送が増えています。我が国のgdpの伸び率は近年ほとんどゼロかむしろマイナスですが、コンテナ輸送は5〜6%も伸びています。
その原因は、やはり工業製品にしろ食料品やエネルギーにしろ、その生産流通における国家間の障壁がなくなり、グローバル化が進んでいるからです。
例えば、従来のように国際的な分業によって、国家間で特産品を交換をしていました。ところが、かつて我が国は、アジア唯一の工業国家でしたから、原料を輸入して、我が国で工業製品を生産して、アメリカ、ヨーロッパ、あるいはアジア諸国に輸出していたのですが、今では中国や東南アジアでも、技術力が飛躍的に向上し、生産力が高まっています。そうなると、例えば自動車を造るにしても、全てを日本で製造するわけではなく、ボディやトランスミッションなどを別々の国で製造し、これを集約して製品に仕立てて輸送するといった体制に変わっています。そうした背景から、むしろ輸送量は増えているのです。
今までは一度の輸送で済んでいたが、一つの製品が完成し、輸出するまでに何度も輸送する状況へと変わってきています。その結果、貿易量はずいぶん増えてきているのです。
――今日では、逆に中国の家電メーカーが日本に進出しているケースも見られますね
金澤
日本やアメリカのメーカーが中国に生産拠点を移転したり、それが結果的に中国製品となっていたり、それが日本に輸入されているケースもあります。そのように、グローバル化がかなり進んでいることが、貨物輸送を増やしていますね。
――そうなると、港湾自体も国際競争を強いられますね。日本はとかく高コスト構造と言われますが、例えば港湾使用料、手数料などの国債価格競争も避けられないと思うのですが、対抗していけるのでしょうか
金澤
日本国内だけを考慮するなら、必要な物流価格を商品価格に転化すれば良いという発想も、ないわけではありませんが、現代は日本一国が強い時代ではなくて、工業生産についても周辺諸国と競争している状況です。そうなると、物流コストは大きく影響してきます。
生産コストの中で物流コストの占める比率というのは、一般的には6%〜8%です。過去は1割ほどでしたから、これでもかなりの努力によって、6%くらいに押し下げたのです。けれども、そのレベルからさらに1%を下げると、効果は非常に大きいですね。
それを考えると、あらゆる流通過程のコストを下げていく努力というのは必要なのです。当面は、韓国や中国の港と競争していくことが、最大の課題です。できればアジアから発生する貨物を欧米に輸送するに当たっては、例えば中国に寄港し、そして日本にも寄港していけば良いのですが、船舶が超巨大船になってきている分、船舶コスト自体が非常に高くなっています。そのため、港に停泊する時間をできるだけ短くしたいというのが、荷主の希望です。
特に、船舶を利用する場合は、特定の港湾の間だけでピストン輸送をする方が採算性が高いわけですから、どうしても寄港先を絞ってくるのです。したがって、例えば北東アジアであれば、日本に寄港するか、韓国に寄港するかを選択することになってくるわけです。
しかし、対応策としては、小型船での支線サービス、フィーダーサービスで集荷するという戦略もあり得ますね。そうなると、日本の港間のコスト競争よりも、韓国の港など、競争相手になる港とのコスト間競争が重要になります。
そこで、韓国の港湾コストと、日本の港湾コストを比較すると、やはり日本の方が高いのです。人件費の高さを含め原因はいろいろとあるのですが、それを分析してみると、改革を進めることによって少しずつ下げることは可能です。そこで、当面の目標は3割まで削減する努力に、様々な分野で取り組もうとしています。もうひとつは港でのサービスの時間がかかりすぎることも課題です。船が着岸してからコンテナを降ろし、諸手続きを済ませてから内陸に搬出するまでに、3、4日も掛かっているのです。韓国では2日以内、シンガポールならばわずか1日以内で出来るのです。それを改善して、1日くらいに収めないと、競争に追いつきません。
そこで現在、港湾局ではスーパー中枢港湾構想を提唱し、推進しています。行政として行うハード事業ばかりではなく、ソフト面でいろいろな手続きを所管する他省庁の実施機関や、荷役業界や海運やターミナル運営に当たる関係者が、みんなで協力し合って、日本の港の競争力をつけていかなければなりません。何しろ、船が寄港しなくなったのでは、港湾関係者だけではなく、国民生活そのものに影響します。また、製造業にとっても、コストが高いために、韓国に寄港してしまうようでは困るわけです。
その共通認識の下に、改革しなければならないという危機意識をもって、努力をしている最中です。
――施設整備によって、コスト削減に貢献することは、不可能でしょうか
金澤
まずは、船舶の大型化に対応した港を造らなければなりません。日本は先進国でしたから、先進国ゆえの後進性というデメリットがあります。早く進展し過ぎたため、古くに整備した施設は、船自体が大型化することで機能的に使えなくなってしまいます。後から新規参入している韓国の港は、最初から大型船対応で整備されているので、日本は機能的に陳腐化してきたものを早急に改造しなければなりません。ですから、港というのは岸壁だけがあれば良いというものではなく、泊地や航路もあり、改造するに当たっては施設を使用したままで改造するのは、かなり手間が掛かるのです。しかし、それを承知で、改造を進めなければなならないのです。
荷役も機械化し、情報化していけば、処理スピードも上がっていきますので、今はIT技術を活用してどのように情報化するかを含めて再整備を進めているところです。
そうしたハードの問題だけではなく、ソフトの問題もたくさんあります。手続きが縦割り化しているものを一本化し、ターミナルのオペレーションも、例えば分割して、特定の荷役業者が特定の船を担当するのではなく、それを一本化する事も必要です。もちろん、そこには業界としてのいろいろな課題もあるので、一度にはできないと思いますが、効率を上げるためには、いろいろな方法を考えて実施しなければならないでしょう。
――港湾コストの競争力強化のため、使用料や手数料を下げる一方で、その分を港湾関連業界外の一般者から徴収できる費目を新設することは不可能ですか
金澤
港の利用料、岸壁使用料というのは船舶会社から徴収し、コンテナヤードでは、港湾管理者がヤードの使用料をヤードの利用者から徴収しています。そうした使用料によって港湾は運営されており、受益者負担が明確です。
本来の港湾機能の恩恵にあずからない一般者は、そもそも港湾内に立ち入れないし、徴収する理由がありません。
ただ、最近はウォーターフロントで港を楽しむための緑地公園なども整備されていますが、それは公の場ですから、有料制にするというのは難しいでしょう。中には、吊桟橋を整備して利用料を課している事例も、あることはありますが。
――港湾敷地を有効活用し、民間のレジャー施設や、娯楽施設を誘致して、その立地企業から使用料を負担してもらうというのも無理でしょうか
金澤
東京都のお台場や横浜みなとみらい21のように、観光的な要素や、レクリエーションの要素を導入し、計画は民間の企業が立案してショッピングモールなどを整備した場合に港湾の用地を売却したり貸し付けたりして、民間企業に運営をまかせている例は多くあります。

(後編)

港湾は時代と共に呼吸する

我が国の港湾は、臨海工業地帯の形成、都市の発展と一体となって、柔軟に形態を変えられる可変性が大きな強みであると、金澤寛港湾局長は強調する。反面、古くから港湾先進国として発展したことが足かせとなって、世界標準に合わせた規模拡大に向けての再整備が後れたとの問題点も指摘する。そこで、ハード面では既存の埠頭の再開発による大型化と同時に、港湾の弾力的な運用、そしてポートセールスに当たる港湾管理者のビジネスセンスの向上が、今後の貿易大国日本を支えるポイントであると提唱する。
――日本の港が、特に優れていると言えるセールスポイントは
金澤
日本は港湾先進国だったのですが、それが仇となって、むしろ現在は後進国とまでは言わないまでも、形態が少し時代遅れになってきていることは事実です。まずは、それを改善していかなければなりません。
港というのは、輸送の結節点であり、海上輸送から陸上輸送へ積み替えを行うだけではなく、人の輸送、物の輸送の積み替え点というのが、最大の機能です。日本はそれだけではなく、物を輸送し、港で原料を受け入れ、そこで加工し、製品化して、それをまた船で輸出してきた国なのです。世界でもそれを実施してきた国は、それほどありません。これは臨海工業地帯という形で始まったのですが、港で輸送品に加工して付加価値を与えるべく製造業が立地し、臨海工業地帯化して製品を輸出する体制です。このように、物に付加価値を与えていく機能を、港が持つ構造というのは世界的にも先駆けだったわけです。その仕組みはいまだに根付いていて、現在の臨海工業地帯には様々な優秀企業がたくさんあります。
ただ、時代が変わってきているので、その中でもある部分は外国に移転したり、または諸外国の臨海工業が発展して、そこに移っていったケースもありますね。しかしながら、我が国にはなお世界に冠たる製造業が港にあるので、その関係者達が、次代のさらに高度な製造業における技術革新を進めているわけです。物流と製造業が連携した空間が、そこに成立しているのです。
例えば、リサイクル産業を新規に興そうという場合も、港を中心に従来のストックを活用しながら、実現できるわけです。これは日本の港の大きな特色であり、セールスポイントですから、それを忘れてはなりません。いかに輸入大国になってはいても、単にモノを輸入しているのではなく、常にそこで付加価値を高めていくことが大事なのだと思います。
――生産と流通が直結した仕組みは、合理的で高コスト構造の改善という意味でも有効ですね
金澤
今後も製造業の業態が変わったから、消失していくのではなく、そこからさらに高度な形態へと変わっていくなら、それらの産業と港は常に密着し隣接しているものですから、ポテンシャルは非常に大きなものになるでしょう。
日本の場合は、人が住む都市も臨海部にあるわけで、大きく捉えれば港を中心に都市が成立しています。したがって、いわゆる都市問題をはじめとした様々な課題を港が抱えていると言えます。これを解決するときに、都市で排出される廃棄物の処分にしろ、エネルギー問題にしろ、都市再生と港の再生は不可分です。ここが内陸部の都市とは違うところです。
港の空間を上手く活用できるというのは、非常に大きな意味を持ちます。例えば、製造業や鉄鋼業のような広大な面積を占有する重厚長大型の産業が、業態変化をしていくなら、それに伴って占有する土地は小さくて済みます。そうなると、遊休地が生じるので、そのスペースを、都市再開発のための種地に活用することもできるのです。これが、港と都市が密着していることの強みですね。
そこでまた、港の形も変わっていくのです。今までは、石炭を積載した船が就航していた埠頭が、再開発され、今度は国際観光船が就航したり、あるいはレクリエーションのためのヨットハーバーに変わっていくといった具合です。そのような可変性のお陰で、日本の港には大きなポテンシャルがあるわけです。
もうひとつは、近代化に少し後れをとったとは言え、コンテナ輸送の分野でも日本はアジアの先進国だったわけですから、やはり港湾労働者、荷役作業者の技術力は高いものです。例えば、クレーンを操作して1時間にどのくらい積み下ろしが可能かといえば、日本は30年、40年のベテランとしての蓄積があるので、1時間に30個から35個くらい積み卸しができるのです。外国であれば20個から25個ぐらいでしょうか。
ヤードのオペレーションに限らず、itや電子計算機の技術も進歩していますから、それを採り入れようと思えばできるのです。とにかく日本の技術力の高さは評価されますが、ただ、先進国であった故に、小さな埠頭が連なっていたため、これを統一して大型化する埠頭の再開発を、これから進めていかなければなりません。それが完了すれば、あっという間に最先端の港へと躍進することができるのです。ゼロからスタートではないのです。
――東京港の大井埠頭で、それが実施されましたね
金澤
従来8バースあったものを7バースに編成替えして水深も深くして大型化したものです。トップバッターとしては、空間的な制約の大きい中で一定の成果を上げていると思います。今後とも埠頭を上手く統合化して、規模を拡大し、背後との連携、道路との連携を手直しして、部分修正していけば、比較的安価にしかも早く近代的な施設が出来るわけです。但し、利用調整に課題がありますが。
――港湾整備だけではなくそれにリンクしたアクセス整備も一体的に行われていますね
金澤
道路と港と飛行場と、三位一体で連携しながら、お互いに物流の基盤施設として繋がるように計画しなければなりませんね。それを目標にしています。
――港湾の管理・運営者に対するアドバイスをお聞きしたいと思います。特に、管理者の中には、せっかくポートセールスに出向いても、いわば売り込むべき商品たる港のどこにセールスポイントがあるのか、焦点が明確ではなく、ただ名刺交換をし、型通りの挨拶だけをしているとの批判も耳にします
金澤
港湾とはそもそも物流基盤ですから、それをいかに上手く切り回していくかが大切です。また、それを加工していく生産の拠点でもあり、一方では観光やレクリエーションの機能も多くあります。そして、港湾管理者のほとんどは地方公共団体ですが、港の運営や、港を利用し、そこで経済活動を行うのは民間人なのです。
したがって、民間の経済人達が何を考えているのか、どうしたいのかという要望は、常に管理者がその人々とコミュニケーションをし、そして経営感覚を磨きながら、今後の計画に反映していかなければなりません。
独りよがりなことをしていてはならないわけで、常に港を中心とした利用者との話し合い、あるいは意見交換という場を積極的に作ってほしいものです。もちろん、すでにそういう場はありますが、それをさらに活発化させて、その中で特に国外交易のある港については、外国との取引もあるので、その意味では商社のような専門的情報を収集しなければなりません。外国の船社となれば、外国の船舶代理店の関係者、あるいは外国の港湾管理者、あるいは外国の企業との交渉も必要になります。
したがって、港湾管理者というのは地方公共団体の各種の部局の中でも、極めて業務の範囲の幅が広く、大変な苦労を負っていただかなければなりません。私も港湾管理者の経験があり、そのセクションは自治体土木部の中にあるのですが、土木部といえば、大体は物を造っている集団と見られているわけです。ところが港湾課などの港湾管理セクションでは、物を造るのは最後の話で、実は物を造るまでの計画をつくり、企画を立案し、どんなビジネスモデルで、どんな物をつくって管理し、いかに収益を上げるかというところまでを考慮しなければなりませんから、経営センスが必要になります。
その意味では、管理者の方々には、大いにビジネスセンスを磨く訓練をして頂いていると思うのですが、地方整備局ともいろいろと相談をしてもらいながら、国としても様々な側面で支援をしていきたいと考えています。
ポートセールスをひとつの例にあげれば、これに熟練し、非常に手慣れているところもあれば、そうでないところもあるわけで、まずはその基礎くらいは学べるように研修の場もあります。国土交通省の外郭団体が行っています。
それから、国土交通省としても、世界にネットワークが張り巡らされているので、そうした情報網も大いに利用してもらうと良いでしょう。そして、管理者がこれから港の経営、港の合理性を上げていこうと考えるときには、港単独ではなく、背後の道路網、飛行場、あるいは都市行政の連携なども大切ですから、その分野にも意を尽くしてもらわなければならないと考えます。
――自治体という総合的な機能を持っている利点を生かすことが大切ですね
金澤
港湾管理者は自治体という行政的な側面だけでも不十分なのです。ある意味で民間的なセンスがなければ駄目ですね。経営センス、経済的な問題に対する鋭いセンスを磨いていく必要があります。県の土木部の人事異動によって、前回は港に携わったから、次は道路に携わり、その次には河川に携わるといった形で回っている人がいるので、難しい一面がありますね。
これが市港湾局という専門セクションがあれば、人材として非常に鍛えられていくのですが。
しかし、港湾の仕事というのは、難しくも楽しいものです。単にものをつくって終わりではなく、それがいかに利用され、そして経営によっては、かなりの収益が得られるかも知れない儲かる話も出てくるわけです。上手くいけば、県の財政を豊かにすることも出来るわけです。反面、失敗すれば赤字を出してしまいますが、ある意味で成功と失敗の成果が鮮明となる仕事なのですね。その分、業務は厳しいものです。
――やはり古くから地域に根付き、歴史的に発展してきた港を有効に活用していくというのが、無理のないグランドデザインというものでしょう
金澤
これからの時代は、今までの資産を有効活用していかなければなりません。港というのは非常に魅力のある空間です。海があり、陸があり、船が着き、景観・景色も美しく、カモメも飛び交い、イメージも良いでしょう。ですから観光に活用するなら、様々な切り口があるわけです。それを地域の人が工夫をこらしていくわけです。
したがって、港は舞台でもあるのです。いわば野外劇場ですね。それをどのように使っていくかは、地域の人達の手に委ねられて良い。
コンテナ輸送については、これは世界と結ぶ話なのでプロの世界の事柄ですが、それだけではなく、地域の人達が、港をどう使っていくか、それを大事にしたいと思います。

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