建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年10月号〉

interview

北海道の優位性を全国へ発信

まず、地元の優位性を再認識する

北海道開発局長 山本 隆幸 氏

山本 隆幸 やまもと・たかゆき
昭和 48. 3 北海道大学大学院修
昭和 48. 4 北海道開発庁採用
56. 4 同北海道開発局建設部道路計画課開発専門官
58. 4 同北海道開発局帯広開発建設部道路課長
59. 6 同企画室開発専門官
63. 4 建設省四国地方建設局香川工事事務所長
平成 2. 6 同道路局国道第一課特定道路専門官
3. 5 北海道開発庁地政課開発専門官
5. 4 同地政課事業計画調整官
7. 6 同北海道開発局札幌開発建設部次長
8. 7 同計画官
10. 6 同地政課長
11. 7 同北海道開発局旭川開発建設部長
13. 1 国土交通省北海道開発局事業振興部長
14. 7 同大臣官房審議官(北海道局)
15. 7 同北海道開発局長
新年度概算要求に向けて、その概要が判明した。総額1兆4,500億円で、前年度比14.8パーセントと、大きな伸びを見せたが、今後の財務省による査定と予算折衝で、まさに北海道の存在意義をアピールし、インフラ整備の必要性への理解を得るための正念場を迎えている。北海道開発局のトップとして、この7月に就任した山本骰K局長は、「まずは、道民が北海道の優位性に気づくべき」と力説する。その上で、国家レベルの課題解決に、北海道が有用であることをアピールすることが必要と主張する。
[8月7日(木)インタビュー]
――まず、概算要求に向けた基本姿勢をお聞かせください
山本
概算要求については、経済財政諮問会議で基本的な方向が決定され、対前年度比3%減という厳しい状況にありますが、その方針に基づいて事業間の連携の強化や効率化を進めながら事業の効果を発揮させることが必要です。そうした基本姿勢に基づき、循環型社会の形成などの重点4分野を中心に、個性と魅力ある地域づくりに取り組んでいます。
今後の北海道の役割は、去る1月の国土審議会北海道開発分科会の企画調査部会において、食料基地、環境保全、観光、安全・安心の4機能が期待される、との方向性が示されました。このうち、観光については単なる観光ではなく、北海道の地域や風土を総合した観光交流の促進を意味しています。また、地域で新しい産業の展開が必要であることも示されました。
それらを踏まえ、我々としては、北海道が期待される役割を果すための基盤である、高速交通ネットワークや災害に対する安全性の向上等について積極的に事業を展開していきたいと思います。
加えて、バイオマスへの対応など、産業につながるようなソフト面での調査を、いろいろな事業者と一緒になって行いながら、単なるハードのネットワークだけではなく、ソフト的な事業も進めていきたいと思っています。
――北海道はこれまで、なにかにつけ官頼みで歩んできた歴史があるので、政府によって措置される開発予算の影響力が大きいですね
山本
私としては、北海道にある良いものを、もっと情報発信してほしいと思うし、またしていくべきだと考えます。それを活かして、経済活動につなげていくことが大事だと思うのです。本州のように歴史があるわけではありませんが、わずか百数十年の短い歴史の中でも、ここまでやってきたのです。それだけに、不屈の精神というものは絶対に持っているはずです。
確かに、いろいろと情勢は厳しいものがありますが、経済状況の厳しさなどは、どこの地域も変わらないと思います。しかし、北海道は厳しい冬にも、広さにも負けずに頑張ってきたわけです。そのことをもう一度思い返しながら、具体化していくということが求められているのではないかと思います。
――不屈の精神を支える、新しい丈夫な支柱が必要になるのでは
山本
最近は道経連が、北海道にはこれほど素晴らしいものがあると、具体例を紹介したパンフレットを制作してprしています。それを見て思いましたが、私たちは北海道に暮しながら、意外に地元のことについて、知らないことが多すぎます。例えば、お伊勢さんの大名物である赤福の原材料となっている小豆やもち米は、大半が北海道産なのです。ハーゲンダッツのアイスクリームは有名ですが、その原料の100%が浜中産の牛乳であることは、あまり知られていません。富山名物の鱒寿司は、桧山産のサクラマスが使用されており、銀座コージーコーナーのショートケーキのイチゴなども、実は全て北海道産なのです。
このように、実は様々な有名製品に、北海道産の原料が用いられていることがあまり知られていません。そういうことを、私たちは自ら自覚し、情報発信していくことが大切です。
――吉野家の牛丼の米も、道産米が使われているとのことですね
山本
吉野家もそうですし、最近は天丼やカツ丼専門店でも使われています。北海道の米が使われているのは、優位性があるからなのです。他では絶対に真似の出来ない、北海道米独自の良さがあるわけです。そのことを、北海道の農業者も自覚し、自信をもっていいはずだし、それを大いにアピールし、活かしていきたいものですね。
――問題はその売り方では
山本
付加価値を高めて、地域に還元することが大切だと思うのです。特に最近は、スローフードが流行し始めていますから、今こそ北海道産品の良さを再認識し、地域で楽しんでもらう絶好のチャンスだと思います。
まずは、地産地消を奨励し、そのことによってはじめて地元での評価が根付くのではないでしょうか。そして北海道の生産農家も、産物の付加価値を高める一方、少子高齢化が進み、人口が減っていく情勢下で、都市部との交流を深めながら、お互いの長所を高め合い、不足分を補完し合っていくしかないのだと思うのです。
――北海道が食料供給基地であることは、かなり以前からアピールしてきましたが、それ以前は石炭、木材などの資源エネルギーの供給基地でもありましたね
山本
エネルギーについては、かつて石炭の供給を通じて、非常に貢献してきた歴史がありますが、今後は新しいエネルギーへの取り組みが求められています。風力発電も注目されていますが、我々は現在、別海町でバイオマスのプラント実験を進めています。また、燃料電池についても同様です。
このようにエネルギー源の多様化は、北海道が先駆的に取り組んできています。北海道に建ち並んでいる風車が、今では青森県六ヶ所村でも建ち始めている趨勢です。つまりは北海道で作り、試したものが全国に普及するという先進地としての役割も担っています。
住宅の防寒設備にしても、厳しい冬でも快適に過ごせる住宅の建設技術は、他の地域においても展開していけるという確信があります。
――北海道には、それだけ発信出来るものがあることを自覚すべきでしょう。その産業と流通をハード面からいかに支えていくかが、課題ですね
山本
インフラは、整備自体が目的なのでは決してなくて、整備することを通じ、国民の生活を豊かにすることが目的です。北海道のインフラ整備が日本全体の中で、どう国民生活に貢献できるのかというビジョンを持つことが必要です。
食料にしてもエネルギーにしても、これらの課題を解決出来る地域というのは、やはり北海道なのです。本州のように、35度に及ぶ暑い環境で、みんなでクーラーをフル稼働したりしなくても、北海道なら、恵まれた自然環境の中で、無理なく様々な活動が展開できます。それを踏まえて、開発局としても一層、努力していく考えです。
――そのポテンシャルを十二分に引き出す上でも、基盤整備は必要ですね
山本
そうです。現実として北海道の食料自給率は180%に近い数字になっているのですが、北海道の国土を保全しながら生産を継続し、かつ、地域を守り、その活動を将来も継続していける最小限度のネットワークを、確実に築いておかなければならないと思います。
過去にも北海道開発局は、我が国における様々な課題を解決しながら将来に向けて基盤整備を進めてきたのですが、防災面での安全性、そして食料、環境、自然風土の保全、高齢化への対応などを考えると、この北海道で各種事業を展開していくこと自体が、その解決であるといえます。
もちろん、それを地域だけで自己満足するのではなく、その可能性とポテンシャルを、いかに広く知ってもらうかが大切なのだと思います。そのためにも、まだまだ基盤整備を進める必要があります。
――現在、北海道で進められているプロジェクトで、ぜひとも知名度を高める必要があるものは、何でしょうか
山本
個別のプロジェクトではなく、まずはいろいろな手段で、プロジェクトのネットワークをつくっていくことが、大事なのだと思います。これだけ広大な地域ですから、高速交通のネットワークというのもそのひとつです。逆に言えば、それらの一つが欠けても、機能は不十分なものになります。
高速道路のプロジェクトだけではなく、港湾整備なども単独として存在するのではありません。もちろん、それら個別のプロジェクトも、独自の目的をもっています。それを拡大した結果、別のプロジェクトとの連携が生じるのであり、それがネットワークというものです。

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