建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年10月号〉

interview

重要文化財の眠る飛鳥地方に近代的バイパス

遺跡を沈下させずにトンネルを施工

大阪国道事務所長 瀬戸 馨 氏

瀬戸 馨 せと・かおる
出身 大阪府
生年月日 昭和30年2月24日
学歴 京都大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻
昭和 55年 4月 1日 関東地方建設局企画部企画課採用
昭和 62年 11月 1日 沖縄総合事務局開発建設部道路建設課長
平成 2年 4月 1日 道路局地方道課長補佐
平成 3年 4月 1日 石油公団備蓄業務部土地調整課長心得
平成 5年 5月 1日 九州地方建設局長崎工事事務所長
平成 8年 4月 1日 沖縄総合事務局開発建設部企画調整官
平成 11年 4月 1日 関東地方建設局首都国道工事事務所長
平成 13年 4月 1日 近畿地方整備局大阪国道工事事務所長
大阪と奈良を結び、関西新空港へとアクセスする南阪奈道路の整備が進んでいる。国、道路公団、地元自治体、道路公社など多数の事業者による共同施工で、15年度の完成に向けて、各事業者が連携し、全力を挙げている。だが、奈良は古代・飛鳥文化の地であるだけに、多くの文化財や古墳が存在する。そうした貴重な遺産を保全しつつ、どんな施工が行われているのか。大阪国道事務所の瀬戸馨所長に伺った。
▲高架の施工状況
――南大阪と奈良県を繋ぐ南阪奈道路の事業概要からお聞きしたい
瀬戸
南阪奈道路は、延長16.9kmで、大阪の中央環状あるいは阪和自動車道から、奈良の大和高田バイパスまでを接続する路線です。そのうち中央環状から国道170号までの区間については、大阪府の道路公社が府道の有料道路として整備しています。そこから4.4kmについては直轄で整備し、その上に道路公団が有料道路を整備する形で、残りの区間では道路公団単独、あるいは大阪府、奈良県の事業の上に、さらに道路公団が乗るというバラエティに富んだ事業形態になっています。それぞれの事業者が知恵を出し合って、ひとつの路線として整備を進めているわけです。
一つの路線に、これだけの事業者が参画して連携している事例は珍しいのではないでしょうか。
――そのメリットは、やはり進捗が早いことでしょうか
瀬戸
そうです。各事業者が少しずつ分担して実施しますから、結果的には早く完成することになります。完成は、15年度末を目標としています。
――直轄としての整備区間は、川を挟んだ市街地で、鉄道とも交差するなど、変化に富んでいますね
瀬戸
山間部と平野部とを比べた場合には、丘陵部が多くなります。鉄道も挟んでいますので、直轄区間では2ヶ所を跨いでいます。
施行地のエリアは、歴史が非常に古いところで、奈良県側ももちろんですが、特に大阪側の南阪奈の府県境部分は、かつては竹の内街道という難波津と飛鳥の宮を結んでいた、日本の官道の第1号と言われている道路が通っています。ルートがそれに沿っていることもあって、大阪府側にも多くの古墳や文化財があり、中でも大黒トンネルについては、そうした文化財が多く出土したために、切土構造をトンネルに変更した経緯もあります。文化財は、重要で貴重な財産ですから、残せるものは工法を変更して残すことにしました。
峠は道路公団の施工ですが、特に長大なトンネルになっています。
――この路線は、計画も各事業者が共同で行われたのですか
瀬戸
いいえ。調査は、直轄として行い、事業化の段階で各事業者が参画したものです。全線同時供用に向けて、連携しながら進めています。
管内は、地元の沿線の道路の交通機能が非常に弱く、渋滞ポイントもあり、その解消に当然繋がっていくものと思います。もちろん自動車専用道路なので、渋滞の解消以外にも走行時間の短縮という効果が期待出来ますね。特に奈良の橿原方面から近畿自動車道に直接繋がるので、大阪方面はもとより、特に関空へのアクセスが非常に良くなると考えています。
――関空へのアクセスが強化されると、様々な機能的広がりが期待できますね
瀬戸
そうです。近畿自動車道の先には関空連絡道が繋がっています。橿原の大和高田バイパスから直接、南阪奈道路を通って関空まで行けます。従来では例えば国道165号を通って、橿原インターで西名阪に乗って行くルートしかありませんでしたが、ルートの選択肢が増えることになります。
――地域の観光ルートについては
瀬戸
奈良には飛鳥エリアがあります。飛鳥の文化財以外に、長谷寺など様々な古寺もあります。奈良側では南北の京奈和自動車道の一部が、大和高田バイパスと交わるようなかたちで整備が進められています。
これは大阪国道事務所の担当ではありませんが、平城京址のある大和北道路では、piを行い、そこでルートなどを決めています。
また、文化財だけではなく、そこに住む人々の生活環境の問題があり、一方で既存道路が狭くて困っているという実態もあるわけです。特にこの地域は、道路整備が非常に遅れた地域だと思いますね。
――南阪奈道路もさることながら、その他の国道整備も求められているのでは
瀬戸
大阪国道事務所は、どちらかといえば管理中心の事務所ですから、他の路線では大阪市内で桜宮拡幅として新しい桜宮橋の整備くらいです。
――整備も管理も、商都・大阪としての民意が反映されるのでは
瀬戸
やはり大阪は商人の町ですから、どうしても損得勘定が表面化します。我々の進めている公共事業は、地域全体の利益を目指していますが、それは必ずしも個々人の損得に合致しない部分があります。それは大阪に限ったことではありませんが、それを敢えて、ご理解頂くのが、なかなか難しい地域ではありますね。
ただ、逆に言えば利害が一致して割り切れれば、感情的問題はほとんどなく、あっさりといろいろな面でご協力いただけることも、一方ではあります。
その意味では、例えば大阪府や大阪市、その他の市町村にしても、非常に有効な社会資本整備であると認識されれば、非常に協力を得やすいと思います。
――ルート上には大きな団地や池もずいぶん見られますね
瀬戸
そういう箇所は、なるべく避けてはいますが、場合によっては、府の住宅公社などの開発とセットにしたところもあるようです。
その他、溜池や古墳もあり、地域によっては古墳群もあって、さらには藤井寺から羽曳野にかけては応神天皇陵や、日本武尊の陵もあります。
飛鳥地区は、近つ飛鳥と言われますが、奈良にある遠つ飛鳥に対して、大阪側にある近つ飛鳥と呼んでいたようです。太子町は太子陵、つまり聖徳太子の墓がありますが、これは太子が亡くなってかなり後につくられたもののようです。
――地勢としては古い歴史の舞台であり、観光客の利用も多いのでは
瀬戸
観光のための開発はあまり行われておらず、現実にはブドウ畑がたくさんあるので、ブドウ狩りのための来訪者が多いようです。しかし、かつては大型バスが通れるような道は、ほとんどない地域だったのです。
この地域にある池も、自然にできた池というよりは溜池で、灌漑用のものです。有名なところでは大阪狭山市にある狭山池ですが、これは日本で最古のダム式溜池と言われていますね。
聖徳太子ゆかりの土地もあり、道の駅には近つ飛鳥の里・太子という道の駅や、奈良側ではふたかみパーク當麻という道の駅もあります。當麻町などは、天皇の前で相撲試合を披露する天覧試合のはしりとされており、非常にユニークな地域が多いですね。
▲大黒トンネル
――施工に当たって、技術的に苦労したポイントは
瀬戸
何やはり技術的なポイントとしては、大黒トンネルが難しいですね。元々は切土、堀割りで施工する計画であったところをトンネルにしたので、メガネトンネルということになります。しかも暫定2車線で施工するので、メガネトンネルを@期線、A期線に分けて、将来はA期線を施工しなければなりません。
文化財が丘の上にありますから、文化財保護のための制約要因として、@期、A期を併せた沈下量を50mm以内に抑えるという条件があるのです。そもそも、メガネトンネルを@期、A期に分けて施工すること自体が、非常に珍しいことです。@期だけではなく、A期の掘削においても、最大50mmという条件は守らなければなりません。かぶりが非常に薄いこともあり、そうした面で、設計・施工においては一括発注方式の一般競争でありながらも、その中で参加者に技術提案をして頂き、採用された技術提案書に基づいて詳細の設計も併せて担当してもらうという方式をとりました。
もっとも、基本設計は、委員会を設置して、そうしたメガネトンネルを分離して施工するにはどうすべきかと、それに加えて沈下量の制約があるので、補助工法を中心に技術提案をしてもらいました。その技術提案書に基づく設計をして頂き、併せて施工もして頂くということですね。
――貫通した区間についての結果は
瀬戸
もちろん沈下量も予想したよりも少なく済みました。中央導坑で、まず小さいトンネルをつくり、センターピラーの部分を施工したわけです。これは特に新しい技術と言うことではなく、既存のいろいろなトンネル工法、あるいはトンネルの補助工法の組み合わせですね。沈下量の予測をしながら、どんな工法を採るのが最も安価で確実なのかが、ポイントでした。

南阪奈道路の早期整備に貢献


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