建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年9・10月号〉

interview

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首都・東京の再生をインフラ面からバックアップ

交通混雑解消に向けてあらゆる事業を総動員

東京都技監・建設局長 小峰 良介 氏

小峰 良介 こみね・りょうすけ
昭和19年9月20日生まれ
昭和 43年 4月 建設局入都
50年 12月 港湾局企画部開発企画課主査
57年 4月 財団法人東京港埠頭公社埠頭建設部施設課長
62年 5月 総務局副主幹(副知事秘書)
平成 2年 8月 都市計画局施設計画部新線計画担当課長
3年 4月 港湾局開発部臨海副都心開発推進室整備計画担当課長
4年 7月 港湾局港湾整備部計画課長
6年 8月 荒川区土木部長
8年 7月 建設局参事(計画担当)
9年 7月 建設局道路保全担当部長
11年 6月 建設局道路建設部長
13年 7月 建設局道路監
14年 7月 建設局長
15年 6月 東京都技監建設局長兼務
日本は慢性化したデフレ不況から、立ち直りに向かう気配すら見えない状況が続いている。そこで、「日本の再生は首都・東京の再生から」とのスローガンを掲げて、石原都政も二期目に入った。それを足下から支えてきたのはインフラ整備である。交通渋滞で物流の流れが悪く、高コスト構造の一因ともなっている都内の渋滞緩和は、首都圏経済だけでなく、日本経済の競争力向上へとつながる。そのために、国、公団による三環状道路整備、そしてそれを生かすべく都などによる地域道路網の整備、鉄道連続立体交差事業など、あらゆる事業が実施されている。6月の人事異動で東京都技監に就任した小峰良介氏に、首都再生に向けてのインフラ整備と展望などを伺った。
――日本の再生は首都の再生からとの意気込みで、東京都は様々な地域活性化策を進めていますが、その首都圏が慢性的な交通渋滞で基盤が弱いのでは心許ないですね
小峰
東京の国際競争力と都市の魅力を高める首都東京の再生を実現するためには慢性的な道路交通混雑の解消が不可欠です。
そのため、東京都は首都高速道路中央環状線、東京外かく環状道路、首都圏中央連絡自動車道のいわゆる三環状道路の整備を国、道路公団に強く要請しています。また、都が直接施行する区部環状、多摩南北の骨格幹線道路等の整備を推進するなど道路ネットワークの形成に力を注いでいます。
さらに、鉄道と道路の連続立体化による踏切除却、交差点部での右折車線の設置やバスベイの設置など交通のボトルネックの解消や新交通システムの整備により自動車交通から公共交通への転換も推進しています。
――三環状整備は、順調に進捗しているのでしょうか
小峰
山手通り(都道環状6号線)の地下に整備されている中央環状新宿線は、平成18年度の完成を目指して急ピッチで工事を進めています。
外環は、建設に反対する声も強く、30年間も凍結されていましたが、大深度地下案を提示するなど地域住民とねばり強く協議しています。
圏央道は、既に練馬から青梅を経由し日の出まで開通しました。八王子方面に向けては、トンネルや橋梁の工事が行われていますが、一部地権者の反対があるため土地収用手続きを進めています。
圏央道は、相模原・八王子・青梅・川越・つくば・成田など都市間の連携を強化する道路です。それだけに、早期開通が求められています。
――それにアクセスする道路は、多いほど利用価値も上がりますね
小峰
圏央道は、東京圏の核都市を連絡する重要な高速道路ですから、都としてもそれにアクセスするための都道整備をあわせて進めてきました。現在は、最後の路線である新滝山街道を整備中です。
――一方、都道間のネットワークをどうするかも課題ですね
小峰
現在、最も力を入れているのは、区部では環状8号線、環状6号線、環状5号線などの環状道路、多摩地域では調布保谷線や府中所沢線などの南北道路等骨格幹線道路です。今後10年くらいの間に、骨格幹線道路の完成率が、75%くらいになるように進めています。それが達成されれば、自動車の走行速度は、全国平均とほぼ同等になるものと考えています。
――速度が30kmに向上すると、5兆円の経済効果があると試算していましたね
小峰
現在、区部では平均18.5q/hくらいで、多摩地域を含めると平均して20km/hくらいです。ただ、最近は不況で、輸送トラックなどの車両が減っているため、少しはスピードアップしているようですが。時速30kmでの走行が可能となると東京全体で、時間短縮などの直接的な経済効果を年間約5兆円と試算しています。
――道路整備においては財源対策が大きな課題では
小峰
東京都は景気低迷による税収減が大きく、今後ともかなり厳しい財政運営が求められており、事業を絞り込んで、重点配分していかなければなりませんし、コスト縮減にも力を入れています。また、国に対しては東京を含めて大都市への財源配分の拡大を東京圏の8都県市、全国の政令指定都市と連携して強く要請しています。
――都として独自の新規事業は行っていますか
小峰
都独自の事業としては、「効果満点道路事業」という新規事業を昨年から始めました。これは残りわずかな未取得用地がネックとなっているような箇所に重点的に投資して、早期に事業効果を発現させようというものです。用地の取得には収用制度を積極的に活用していきます。名称は若い職員が考案したのですが、良い名前だと思います(笑)。
また、「交差点すいすいプラン100」と「踏切すいすい事業」を行っています。「交差点すいすいプラン100」は多摩地域を中心に100カ所の交差点を選定し、右折車線の設置等を行うもので、少額の投資で渋滞緩和等に大きな効果をあげています。14年度末までに61カ所が完成し、残りもすべて事業実施中です。計画を年度が18年までですが次の計画を策定する方針で新規個所について調査することにしました。「踏切すいすい事業」は仮設立体などの緊急整備手法で踏切や交差点の渋滞を短期間に緩和・解消するもので、14年度の予算査定時に、石原知事から提案された事業で、既に1カ所で完成しており、地域住民などから高い評価を受け、また建設業界からも大きな注目を集めました。
――道路の部分改良と同時に鉄道の連続立体事業も進んでいますね
小峰
交通の円滑化を図る事業といえば、ピンポイントではなく、朝夕のピーク時には1時間に40〜50分も遮断されている踏切を連続的に解消する鉄道の連続立体交差事業も高い効果があります。jr中央線、小田急小田原線、京急本線・空港線など、8路線9カ所で事業を進めています。現在、小田急線は、訴訟中ではありますが、既に踏切は解消しています。また、中央線は20年度の完成を目指し全区間で工事が行われています。
とりわけ、喜多見から都心寄りでは、小田急線の高架化が進み、この10年ほどでかなり地域が変わりました。
――事業費は莫大なものになりますね
小峰
何しろ、中央線、小田急線の下北沢地区、京浜急行線、それぞれ1,700億円ほどの金額になります。
これらの事業は、早期完成が望まれていますが事業費の確保、用地取得、列車を運行しながらの施工などもあり、完成までに10年を超える時間が必要です。
――連立事業では、単に高架化するだけでなく、地域自治体も参加して周辺開発も進めていますね
小峰
巨額の費用を投じる事業ですから、投資効果を高めなければなりません。国も事業成立の条件として駅周辺の街づくりを一体的に進めることを求めています。当然のことだと思います。
特に京急の蒲田、小田急の下北沢、京王線の調布など、ターミナルとなる駅の周辺は、大きく変わっていくでしょう。
――財源対策も、いろいろな手法が考えられていますね
小峰
その通りです。これから都財政全体で年間3〜4千億円の財源不足が見込まれるなか、新しい財政再建推進プランを策定していく必要があります。建設事業においても、都自らの努力によりコストダウンをさらに図ることが大切です。事業によっては、完成年度を少し延ばすことによって、単年度の事業費を押さえることもあるでしょう。
また、国費を導入することが重要です。これはどこの自治体でも同じですが、厳しい財政状況下で自主財源は大幅に不足しています。都は東京圏の7県市や全国の政令指定都市とともに都市再生に向けて大都市地域への財源の配分拡大を国に対し強く要求してきています。国の経済再生の政策もあり近年拡充が実現してきています。
さらに、民間活力の有効活用も大切です。道路事業ではなかなか難しいのですが、民間が魅力を感じるような公共事業で、それなりの利潤が得られるものを探し、PFIとして実施していくことです。
――民間活用で実際に行われている事例はありますか
小峰
既に道路維持管理や公園施設の整備では実施しています。例えば、日比谷公園が今年で開園100年を迎えたので、それを記念する事業をいろいろと行っていますが、その一環として一般の人の負担により、ベンチを設置します。“思い出ベンチ”と名付けて、出資者の名前と思い出となる一言を刻んだプレートを取り付けます。
東京再生の目玉の一つである汐留区画整理地区では、地下歩道やペデストリアンデッキの管理を進出企業や地元地権者が社員となっている中間法人が、必要経費の概ね半分を負担して行っています。
――本格的なPFIが多く実施されると、状況もかなり変わってきますね
小峰
そう考えているのですが、公共目的を達成しながら民間の創意と工夫により、リスクを回避し利潤を生み出さなければならないので安易ではないと思います。
国や地方自治体が先進事例を研究したり、規制緩和などを通じて民間の公的事業への参加を促進するなどPFIによる事業を成功させる条件を整える必要があるでしょう。

(後編)

段階的道路整備で計画途上でも効果を発揮

インフラへの評価は、完成した後に発揮する効果によって決まる。延長の長い道路の整備事業では、事業期間も長く、しかも通行止めを伴う場合もあり渋滞の原因となりかねない。そこで、渋滞の原因となる重要箇所の部分改良を優先的に進めることで、即効性をもたらす形で事業実施している。しかし、財政状況の厳しさから今後はメンテナンスも重要な問題となってくる。前号に続いて、小峰良介東京都技監に、政策について伺った。
――十分なインフラがストックされても、維持管理にかかる経費の確保が課題になりますね
小峰
石原都政の2期目の主要施策のひとつは、都市基盤を着実に整備し、都市再生を実現することで、特に道路整備は重点課題となっています。現在、環状方向などの骨格幹線道路の整備の遅れにより、慢性的な交通渋滞が発生し、経済活動の低迷、環境負荷の増大など、国際競争力や東京の魅力を低下させる要因となっています。
早急な幹線道路網の整備が不可欠ですが、加えて、今行われている「交差点すいすい事業」に、わずかに手を加えるとさらに使いやすくなることもあります。そういうところを地道に着手していかなければなりません。
一方、確かに施設の維持補修には、かなりの経費がかかってきます。財政状況が厳しくなれば道路、橋梁などの施設の維持管理費用の確保も難しくなります。
しかし、維持管理費を極端に節約すると、トラブルも起きやすくなるのです。このバランスを真剣に考えながら取り組まなければなりませんね。
都ではアセットマネージメント、つまり資産をどのように運用していくかが課題となっています。この2年ほど、土木の分野でも今ある施設をどのように維持管理し、あるいは再建していくか、検討しています。
例えば、オリンピック関連で整備した施設などは、50年近く経過しており大規模修繕が必要になります。それを放置しておくと、やがては他の施設ともども一斉に更新しなくてはならなくなります。
そうすると短期的に膨大な事業費が必要になり更新できないということになってしまいます。そうした事業費のピークを平坦にすべく、むしろ維持費にもう少し経費をかけるなど、アセットマネージメントにより、施設の長寿命化を図ろうと検討しているわけです。
したがって、維持・補修・保全といった分野は、これからは新たなマーケットになりますね。今はちょうどそれに移行する中間時期だと思います。これは河川・公園・鉄道など、あらゆる施設についてもそうですね。
――都財政の負担を軽減しつつ道路整備により交通渋滞を解消していくには、やはり国の直轄事業や特殊法人などによる事業を推進していくのが、現実的ですね
小峰
山手通り(都道環状6号線)の地下に整備されている中央環状新宿線は、平成18年度の完成を目指して急ピッチで工事を進めています。
外環は、建設に反対する声も強く、30年間も凍結されていましたが、大深度地下案を提示するなど地域住民とねばり強く協議しています。
圏央道は、既に練馬から青梅を経由し日の出まで開通しました。八王子方面に向けては、トンネルや橋梁の工事が行われていますが、一部地権者の反対があるため土地収用手続きを進めています。
圏央道は、相模原・八王子・青梅・川越・つくば・成田など都市間の連携を強化する道路です。それだけに、早期開通が求められています。
――完成までに時間がかかりすぎると、公共投資による成果がいつまでも得られないということで事業批判が起こるのではないでしょうか
小峰
都としては事業計画全体の中で、段階的に整備効果の得られる進め方をしています。先般、塩川財務大臣が、環状3号線の信濃町地区の事業現場を視察されましたが、「ここはえらく時間が掛かっているね。どうしようもないな。」と言っていました。
環3の中に、現在事業中個所の都心側にオリンピック関連で昭和30年代に整備した区間や公共施設が立地しており用地買収が進み早期に整備できた区間があったこと、また以前から、都市計画線にあわせてセットバックして民間の建物が建てられていることなどからそう思われたようです。
信濃町地区は、500mほどの区間の事業認可を取得し、10年弱で完成する見通しで、都心部での複雑な権利関係、膨大な事業費確保、埋設事業者調整などを考えると、結構速いペースで整備が進んでいることを説明しましたが、なかなか理解が得られませんでした。これまで以上に積極的に判り易くprに努め説明責任を果さねばならないこと、工区を短く区切って事業認可を取りながら整備を進め、部分的にも交通の円滑化が図られ即効性が得られるようにしなければならないことなどを痛感しました。
――もう少し早い時期から、交通問題と道路整備に取り組めば現代に生きる我々にとっても、負担が軽くなったかもしれませんね
小峰
私の経験ですが、板橋や練馬で道路の拡幅の要望があったとき、30、40年前には、用地を無償で提供してくれた地権者もいました。その頃に現在の外環などを進めていれば、高架化に反対する人はいたかもしれませんが、ずいぶん状況は違ったと思いますね。欧米先進都市と比較しても余り遅れない時期に道路整備が行われていれば、都民、国民の負担がより小さくて済み、また、現在のような渋滞による経済的な損失や環境面でのマイナスは小さかったと思います。今日の状況をよく理解しているはずの一部の識者が、外国と比べて日本は公共事業が多いと批判していますが、モータリゼーション先進諸国では高速道路整備は50年ほども前に終わっているのです。そうしたストックの差は大変大きいというのに、そのレベルにこれから追いつこうとしている日本と外国とを単純比較して、公共事業批判をしているのは大変残念です。
――道路整備については、それを利用する人でさえ、一時通行止めになったりすることもあり、渋い表情で見たりします。事業者は世論から批判され、建設に当たる工事関係者は、通行人から唾棄されるケースもあるとのことで、人知れぬ苦労があるようです
小峰
行政の技術者という立場は、仕事を通して都市づくりや地域づくりに携わっているわけです。これまでは、住民に対して十分に説明しきれていない点があって、説明責任を問われたりしていますが、計画段階で早めに住民を巻き込んだり、地域に入って説明を重ねながら、地域に役立っている仕事をしていることを理解してもらうことが大切です。
また、施工を担当する技術者も地元住民等との接触を密にし、良質の「成果品」をできるだけ早く提供して頂きたいと思います。
公私の部門に拘わらず基盤整備に携わる技術者として、現在と将来にわたる都市づくり地域づくりに重要な役割を果していることを自覚して、取り組んで欲しいと思っています。
――道路整備に限らず、再開発でも関係者の合意形成に時間がかかっていますね
小峰
震災後の神戸の復興状況を見ると、こんなに上手く再開発が出来ているのだなと感心させられる地区がある一方で、地権者の調整がととのわず進まない地区もあります。あれほど酷い経験をし、辛い思いをしたのに、その街づくりが進まない地区もある一方で、すっかり近代化された快適な空間に、地域の人が普段着で買い物に来るような所もあるのです。
7年間で非常に進捗する所と、まったく進まない所の違いが生じるのは、やはり地権者の考え方の差によるのでしょう。
――技術や専門的知識を持った行政担当者が、自信をもって業務に臨むには何が必要だと思いますか
小峰
民間の建設会社、建築・設計事務所は技術士や一級建築士がどのくらいいるかによって技術的な格付けがされる面があります。都でも、施策を実施するなかで蓄積したノウハウを活用して、技術士の資格を取るよう奨励しています。長年、道路造りをしてきたのですから、それが対外的に客観的な形で認知されるよう努力する必要があります。そうした努力をして資格取得に対するインセンティブが必要だと思います。
都の管理職試験では、資格を持っている受験者には、一部の試験科目を免除しています。
――公共事業の総量が減少していく情勢から、建設業界はダンピングが問題視されています。都としての対策は
小峰
品質のいい土木・建築施設を短期間に完成できる企業と、そうではない企業の評価の差を明確にして、良い仕事をする企業については、受注機会を多くするなどの配慮が欠かせません。
点数制に加え、いろいろな表彰制度を活用し、その結果が次の受注に結びつくような工夫をしなければならないと思います。
しかし、価格競争は必要ですがダンピングによって、欠陥工事が行われては困ります。都としても、課長級の陣頭指揮により、厳しく監督しています。東京の都市再生の基盤整備のなかで、納税者である都民、国民の信頼を損なうことがあってはいけません。

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