建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年8月号〉

interview

社会システムの縮図となる仙人峠道路

道路事業を通じ地域振興に向けて幅広い取り組み

国土交通省三陸国道事務所長 大和 恒哉 氏

大和 恒哉 やまと・つねや
生年月日 昭和22年11月1日生
出身地 岩手県
最終学歴 岩手県立盛岡工業高等学校土木科
S 41年 郡山国道工事事務所採用
H 3年 福島工事事務所福島国道維持出張所長
H 5年 郡山国道工事事務所工務課長
H 6年 仙台工事事務所調査第二課長
H 7年 道路部道路管理課長補佐
H 9年 東北技術事務所副所長
H 11年 道路部道路管理課長
H 13年 企画部技術開発調整官
H 14年 三陸国道工事事務所長
内陸部と沿岸部を結ぶ仙人峠の狭隘箇所を解消する仙人峠道路は、単に物流の円滑化だけでなく、その立地条件や環境を利用して発電事業やリサイクル事業に取り組むなど、様々な派生事業が展開されようとしている。大和恒哉三陸国道事務所長に、事業の概要とそれを核としたユニークな取り組みについて伺った。
▲仙人トンネル終点〜滝観洞トンネル起点
位置図
――仙人峠道路の概要をお聞かせ下さい
大和
仙人峠道路は、一般国道283号における釜石から花巻までの路線の中で、最も狭隘で不便な箇所に整備しているものです。この路線は県が管理していますが、未改良部分が多数残っています。この箇所は、技術的に施工困難であるため、代行制度に基づき、国が県からこの箇所を引き取り、直轄事業として工事を進めています。
14年度末の事業進捗率は6割弱で、かなり佳境に入っており、平成18年度の供用目標に向かって順調に進んでいます。非常に大規模なプロジェクトで、ここ数年の投資額は当事務所の改築費用の半分に相当しています。
――事務所の所管業務概要は
大和
当事務所は、一般国道45号の維持管理のほかに、三陸縦貫道等の縦軸の自動車専用道路を担当しており、仙台を起点に青森まで通じている国道45号の、岩手県内三陸沿岸、240kmの管理を行っています。その45号沿線の中で、三陸縦貫自動車道は仙台を起点に宮古が終点になっていますが、その220kmのうち岩手県分の100kmと、宮古から久慈までが三陸北縦貫道路で、これは地域高規格道路として整備しています。その三陸北縦貫道路の、北に繋がる八戸久慈自動車道があり、この3路線が担当する主要路線です。
それらに付随して、将来的に骨格となる横軸の釜石〜花巻間の自動車専用道路の一部を県から代行して狭隘箇所を整備しています。縦軸の整備に加えて横軸の整備は、県土全体を考えても、非常に重要になってきています。
この仙人峠道路自体は、旧運輸省と旧建設省とが一体となった国土交通省として、港湾事業と道路事業が連携したプロジェクトとして第1号になります。世界最大級の水深の湾口に防波堤をつくる大規模な事業を釜石港湾事務所が実施しており、それに関連して我々は仙人峠道路を、県は水深11mと7.5mの岸壁を整備しているのです。したがって、重要港湾釜石港からの物流や、経済の活性化といった視点では機能を連携した事業といえます。
――国民にとっても、省庁再編の恩恵が具体的に得られる最初のモデルケースと言えますね
大和
岩手県全体の産業経済状況で、工業統計の製造品出荷額を見ると、この地域は昭和55年以前は内陸に勝るとも劣らず、沿岸部が重厚長大型になっていました。岩手県には重要港湾が4つあり、こうした製造品の出荷額は内陸以上に多かったのです。
その後、東北縦貫自動車道さらには新幹線が内陸に整備され、内陸と沿岸部の格差が約4倍と大きくなりました。それに伴い、就業の場もなくなっていき、若者は首都圏や内陸の方に出て行きました。そのため非常に高齢化率が高い地域になったので、何とか沿岸地域を活性化させて、元気を取り戻したいわけです。
そこで、我々も事業を通じて地域振興を支援しようと頑張っています。東北で横軸を直轄管理していない県は岩手県くらいのもので、突端にある青森県を別とすれば、内陸と沿岸を結ぶ直轄の管理道路がないのです。そのため、県も釜石から花巻、宮古から盛岡といった横断道には力を入れていて、沿岸の活性化、または内陸との物流に力を入れており、その一つに、県と一体となって施工している仙人峠道路プロジェクトがある訳です。総延長は18.6kmですが、権限代行で私たちが施工しているのは、そのうち13.2kmで、県が遠野側5.4kmを施工しています。そのうち、現在の仙人トンネルのアプローチを含めて3.4km部分が未改良で、非常にトンネルが狭く、速度を完全に落とさないと、壁面に接触する危険性があります。急勾配、急カーブの区間もあり、物流面や観光面で隘路になっています。
例えば現在、車両納品のために大規模に仙人峠道路を使用している岩手県金ヶ崎町のトヨタ系列の関東自動車さんは、車両の搬出が3シーズンは出来るはずですが、冬場になると路面が凍結して通行が難しくなります。今は仙台港の方から出荷しているとのことですが、いずれこの道路が開通したら、金ヶ崎町から仙人峠道路を通りながら、釜石港を使いたいとのことで、仙人峠道路の整備に民間側でも大きく期待している事情があります。
そうしたことから、地域の活性化のためには、この横断道の早期整備は必要不可欠なのです。釜石といえば、平成元年に新日鐵の火が消える以前の昭和38年には、人口も沿岸域で9万人台という拠点都市だったのですが、現在では半減しています。この頃は釜石市でもエコタウンの指定に向けて、リサイクルポートの指定も受けながら、地域の活性化に向けて、市も頑張っています。それを支援する意味でも、この仙人峠道路は重要です。
――物流における時間とコストの削減は、経済の生命線ですね
大和
そうです。現況では、内陸と沿岸域を結ぶ高規格道路は、まだ一本もありません。やはり東北全体と国土全体から見ても、こうした高速ネットワークは、地方にもきちんとシフトされても良いわけで、そうした国土全体の利活用から見ても、早期の整備が必要な箇所だと思っています。
――三陸には有力な観光資源がありますから、バスの団体ツアーも企画出来ますね
大和
世界遺産や、自然、建物などいろいろなものがありますが、この三陸海岸の自然造形がようやく世界自然遺産候補にノミネートもされまして、実際に訪問した人々も良いところだと言ってくれます。陸中海岸国立公園は、宮古を境に北が隆起式海岸、南の方は沈降海岸と言われていますが、こちらも見所がたくさんあります。
今日では、沿岸域でも遠野経由で資料館などを見ながら、沿岸域のホテルに一泊して、三陸の良さを人々に見て頂こうと努力している人々もいますが、せっかく素晴らしい資源を持っているのに、アクセスが悪いので、そうした面でも仙人峠道路の果たす役割は大きいものがあります。
だから、横軸はむろんのこと縦軸も早く整備をして、皆様方に三陸の良さを知ってもらいたいと思います。また山海の幸のいいところですので、是非とも見て、味わっていただけるように、早くこの高速ネットワークを整備していきたいところです。
――やはり高齢者も安心出来る、安全に通行出来る道路が必要ですね
大和
ただ、リアス式海岸の特性として、自然美は良いのですが、逆にそれがデメリットになっている部分もあるのです。例えば、携帯電話の不感地帯が至る所にあるのです。ラジオ電波も届きづらい。このためにも、国道45号、さらには高規格道路にも光ファイバーを設置し活用しなければなりません。
<情報BOXの整備>
<防災情報ネットワーク>
――情報ボックスですね
大和
そうした不感地帯の解消を図る必要があります。何しろ、シニアの方々が、三陸はいいところだから、行ってみたいと思っても、携帯電話も通じないのでは、車を運転していて、万一のときに連絡ができない状況を考えると、放置はできません。
また、地震や津波が発生し、道路災害が発生しても道路利用者から、情報を得ることが出来ないことになります。
――確かに情報面も含めて、道路はいろいろな機能を持ち始めていますね
大和
携帯電話には、いろいろな通信事業者がありますが、企業としての営利事業ですから、ニーズのない、採算ベースにあわない地域でのインフラ整備には、なかなか手が回りません。したがって、企業にとっての経営リスクが、どのくらいのものであるかを見極めながら、行政として情報過疎の改善を図っていく必要があると思っています。
それから医療と福祉においても、地域から若者が流出し、高齢者が多くなってきていることから、救急医療支援のために、道路整備を担う管理者の立場として何かできないかと、いろいろ考えています。
そこで、三陸縦貫道の一部近場に、救急指定されている病院があるので、それを高速道と救急退出路と直結させれば、わざわざインターからのアクセスではなく、ダイレクトに利用できます。そうした方法が可能になれば、支援出来るのではないかと、検討中です。
このように、道路の果たす役割というのは多方面にまたがりますから、単に高速道路ネットワークを構築するのでなく、地域の活性化になるよう方向付けができればと思っています。
――道路整備と言いつつ、自治体のようにあらゆる分野に目を向けなければなりませんね
大和
そうです。そもそも、我々は誰のために道づくりをしているのか。地域道路そのものは、日本国全体の一部に過ぎませんが、敷設される地域全体のためにあるべきだと、私は思っています。この地域のためにも有効に利活用できるような道づくりをするのが当然のことですので、地域の皆さんのニーズを聞きながら、協力できるものがあれば、実行していくというスタンスで事業を進めています。
▲仙人トンネル 釜石側坑口
▲洞泉橋
――地域の要望は、多様でしょう
大和
そうですね。私たちにもアカウンタビリティの責任を負い、開かれた行政へと変わっていく必要があります。道路の維持管理においても、市民のみなさんと協働しようと思っています。そのために、市民参加の道路管理に向けて懇談会を行いながら、そこで市民の意見を取り入れながら、地域と一体となった道路管理を行いたいと思っています。
そうした取り組みを行う一方で、道路維持管理以外のことでも、地域と一体となった体制を構築していくための活動をしています。
――この地域は過去にも地震や災害が多くありました
大和
三陸は大きな津波災害を何度も受けています。そうした意味で、今の45号というのは大動脈なのですが、それ以外に代替出来る縦軸はないのです。そのため、一般車両はどうしても内陸を抜けなければならないという不都合が生じます。
今の三陸縦貫自動車道、北縦貫、八戸久慈自動車道といった路線を、津波の影響のない、高い位置に整備して緊急時の代替路線として活用していかなければなりません。
――道の駅も多いと安心出来ますね
大和
45号の沿線には、現在6ヶ所ありますが、そうした道の駅の活性化、市民を含めて利用者の方々への情報提供などの機能を充実させていかなければなりません。そこで、利用者に分かり易い情報提供を念頭に置いて、施設の更新・改善に努めています。
ただ、現況では分かりづらい場所にそうした情報施設があり、利活用がいまひとつ振るわないため、もう少しprには改善が必要だと思っています。
道の駅は、いろいろな情報を得ることができるので、是非ともドライバーの方々に利活用してもらいたいと思っています。例えばここから北山崎を見にいくとして、その位置を検索すると、時間や距離、ルートも分かるようになっています。
<小水力発電(キッピンエネルギー)
――冬の通行は、支障はありませんか
大和
仙人峠道路は、標高も200m以上と高く、冬期間になると降雪、凍結が頻繁に発生します。そうした状況から、県はロードヒーティングを敷設して路面の安全管理をしていますが、コストもかなりのものですから、なるべく除雪や凍結抑制剤の散布をしなくても済む区間を多くする必要があると考えています。
現在、トンネルや橋が連続する区間の中では無散水で消融雪できる設備を導入するなどの凍結対策を整備局で実施していますが、45号の鍬台トンネルの南側では、小規模な水力発電を試験的に実施しています。最大出力は45kwですが、今のところは5割から7割くらいを発電し、これをトンネルの照明に利用したりしています。
仙人峠道路には、橋と沢底の落差が100mを越える沢があるので、その落差を利用し水温が12、3度になるトンネル内の水を消融雪に使うほか、それをさらに活用して発電し、凍結対策その他のいろいろな面で活用する工夫を、追求しています。
――珍しい取り組み事例ですね
大和
道路管理者が水力発電を試験的に行っているというのは、全国でも例がないと思います。その他にも、例えば山中の整備ルートには大きな立木があり、上の方は伐採してもらうのですが、根は始末におえず、廃棄物処理場に搬送して、高い経費をかけて処理していたのですが、今はチップ化する機械が開発されたので、細かく刻んでチップにし、植栽の基盤材として利活用しています。
――ひとつの事務所でそれだけの知恵を出しているのですね
大和
そうです。発電について採算ベースで考えると、当初は17年くらいで減価償却ができる見込みでしたが、秋には取水口に落ち葉が溜まり、メンテナンスしなければならず、また用水も思っていたほど得られず、施設の改善をしながら取水量を一定にし、計画発電量にできるだけ近づけていこうと努力して、一年が経過したところです。
そうした微量なエネルギーでも、有効に活用していくことが、道路を管理する面でも、今後検討していかなければならないと考えています。
――仙人峠は、社会の仕組みを凝縮したものになり、子供達にとっても社会学習の教材になりますね
大和
今は教育制度が変わり、総合学習が導入されていますから、こうした社会資本についても、皆さんが見て理解し、覚えていくという体験型学習へと変わってきています。そこで、仙人峠道路の県道部にインフォメーションセンターを設けています。
このようにして、地域が変わっていくきっかけになる施設というのは、地域の財産です。したがって、そうした財産である社会資本を知って頂き、施設に対する愛護心や、さらには事業参加へとつながっていけば、公共事業の必要性も、より理解されるのではないかと思います。それを促す資料館的な施設整備も併せて進めていくことが大切だと思います。
<仙人峠道路インフォメーションセンター>
――道路事業を通じての市民への還元は必要ですね
大和
国土交通省は、以前と異なり、港湾、空港なども一体になりましたから、相互に密接に関連する事業がたくさんあります。そうした事業をみなさんに知って頂きながら、施設の大切さを理解してもらえるような街づくりも、今後は大いに進めていかなければならないと思っています。その意味では、当事務所としても、やりたいことがたくさんあります。実現は大変ですが、それを励みにして、職員一同一生懸命に頑張ろうと、決意を新たにしているところです。
仙人峠道路の早期供用を目指します
仙人峠道路安全衛生推進協議会

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