建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年8月号〉

interview

既存道路の柔軟な運用で経済効率の向上を

限られた予算を有効に活用する社会資本整備とは

北海道建設部長 山上 徹郎 氏

山上 徹郎 やまがみ・てつろう
昭和 20年 6月25日生まれ
帯広柏葉高、北海道大学土木工学科卒。
昭和 43年 入庁
昭和 56年 帯広土木現業所技術部道路建設課都市施設係長
昭和 60年 住宅都市部
昭和 58年 生活環境部環境影響審査課 主査
昭和 62年 住宅都市部街路公園課街路計画係長
平成 元年 帯広土木現業所技術部道路建設課長
平成 3年 土木部道路課高速道室 主幹 兼 市町村道室 主幹
平成 5年 網走土木現業所技術部企画調整室長
平成 6年 札幌土木現業所 事業部長
平成 7年 土木部総務課 参事
平成 9年 建設部建設企画室企画調整課長
平成 10年 網走土木現業所長
平成 11年 建設部土木局長
平成 13年 宗谷支庁長
平成 15年 現職
不況ゆえに税収は減少し、税収が減少するために公共投資財源が不足し、投資財源が不足するがゆえに景気対策が不十分となり、景気対策が不十分ゆえに不況から脱することができない。農業、観光、建設業の三大基幹の一角である建設業は、デフレスパイラルの寸前にある。本道の公共事業を担う北海道建設部の山上徹郎部長は、公共投資そのものではなく、公共投資によって整備されたインフラ施設の有効活用による経済再生の道筋を提唱する。
――景気動向は、一向に回復する状況も見られないことから、波及効果の広い公共投資がまだまだ必要ですね
山上
景気の低迷に伴って税収が減っています。今までは、ケインズの経済理論に乗っ取って、不況になれば政府が経済安定策としての公共投資をしてきたわけですが、それができなくなった影響は大きく、地方交付税に国税、道税の割合も減ってきています。加えて、高齢化が進んでくれば社会保障に比重が移りますから、公共投資予算は長期的にも絶対量が少なくなってくるものと思います。
外国人雇用の問題など人口の減少過程ではどんなことがあるのかは、分かりませんが、ともかく、経済の復興を目指していかなければなりません。
――いわゆるニューディール政策が困難になった今、何が景気回復の決め手になるでしょうか
山上
景気を回復させるための方法として、ひとつは供給を減らすことです。一方で需要を増やすために、当然、公共投資はやはり必要です。特に北海道の建設業界は、31万人が就業しているのでそのためにも重要だと思っています。
ただし、不要と思われる投資については取捨選択し、ストック効果をきちんと考えていかなければなりません。特に私たちのセクションは、その役割上から、どちらかといえばフローよりもストックに重きを置いています。
――しかし、ストックは、全国と比較するとまだ不十分なのでは
山上
そうですね。特に高速道路の整備率は、全国平均63パーセントに対し、北海道は36%でしかありません。今までの全国平均の総投資額は最近の5年間の平均1兆1,000億円に対し、北海道は平均450億円しかありません。高速道路ネットワークについては、現在は日本道路公団民営化や新直轄方式での運用等の検討が行われていますが、私たちにとっては、とにかく高速で走れる施設が欲しいわけです。私の前任地は稚内でしたが、稚内から札幌までは5、6時間もかかります。これは問題だと思いますよ。
道民は、60kmの制限速度を守って走っていながらも本音では80kmで走れる道路が必要と考えているのではないでしょうか。もっと極端に言えば、建設予算が足りないのであれば、ローカルルールなど工夫して、予定路線などでは現国道を利用しながら高速走行を可能にする方法を検討しても良いのではないかと思います。
その他、災害に備える基盤整備として、河川事業なども早急に完成させていくべきだと思います。ただ、そのために少し木を切りすぎたとも思います。戦後は、かなり激しい洪水があったので、河川改修のために多量に伐採したのです。その結果、洪水はある程度抑えられました。そのときはそれで正しい選択だったのだと思います。
しかし、後にいろいろな問題が発生したために、自然復帰を目指して、植樹などをしていますが、それは経済効果のためではありません。
人口は確実に減るのですから、それに伴って生活者がいなくなったところは、自然に戻すのが筋なのです。
――それが公共投資というものですね
山上
決めつけるわけではありませんが、公共投資で今まで考慮されなかったものに、例えばCO2の問題があります。将来の子孫のために大気を浄化し、CO2を減らそうという取り組みは、利潤を追求する企業にはなかなかできません。やはり、これは行政の果たすべき役目なのです。だだ、そのために緑化を進めることを、B/Cで捉えて、経済効果を求めるのであれば、問題は残ります。
高速道路にしても、地方は確かに首都圏に比べれば経済効果は薄いのかも知れません。しかし、私はナショナルミニマムの問題だと考えます。
――道路は流通経済を支援しますが、治水施設は財産と生命を守る治安施設となるわけですね
山上
やはり、高速道路は、次世代の人々のためにも必要です。次世代の人が、先人はどうしてこんなものを造ったのかとは言わないはずです。
そしてまた、既存の国道の運用にも柔軟性が必要です。速度制限が東京の中心部も60km、通行車両の少ない山間部でも60kmというのは不合理です。安全な箇所では80kmまで高速化すれば、効率が高まります。
――弾力的な運用が可能になれば、事業予算の不足も解消されそうですね
山上
ただし、単純な改良よりは、予算がかかる可能性はあります。例えば、2車線しかない道路の沿線に民家があった場合、そこで高速走行をしたのでは、そこに住む人々は道路に出るのが怖くて出られなくなります。そのため、民家の周辺だけは4車線にして拡幅するなどの対策が必要になるでしょう。
――最近はPFIによって、民間の経済行為に任せるという潮流もあります
山上
高速道路も端的に言えばPFIの走りと言えます。道路公団を民間に置き換えれば、PFIそのものですね。
ただ、最近の地方の経済力から見れば、PFIでこれから伸びるジャンルは建築事業ではないかと思います。たとえば、公宅などはPFIで、民間企業が建設したものを利用することも考えられます。職員が転勤で入居し、家賃を支払う形です。
――住宅供給公社で、建設運営する方法もあるのでは
山上
公社は、設立当時は、十分に稼働したと思います。それが、後にバブルがはじけて、時代に合わなくなったのです。
このため、公社は現在実施している継続建設事業以外の事業は行わないことにしております。
――建設業界の今後の展望と、業界へのアドバイスを
山上
建設業は、生産・生活基盤整備の担い手として、地域経済と雇用を支える基幹産業として大きな役割を果たしています。しかし、景気の長期低迷による民間投資の縮小、国の構造改革に伴う公共投資の縮減などで、建設市場は縮小してきています。その上に、受注競争が激化するなど、経営環境は厳しさを増しています。
しかも、国をはじめ地方自治体の厳しい財政状況や少子・高齢社会の到来による投資余力が減少している情勢を踏まえると、建設投資に占める公共投資の比率の高い本道としては、地域に与える影響は非常に大きいものです。
道では、平成10年に「北海道建設業振興アクションプログラム」を作成し、建設業の自主・自律に向けた取組を促進させようとしています。そのプログラムも、15年2月には改正して、これまで構造改善や経営基盤の強化などの推進に努めてきたわけです。
その基本的な考え方としては、まず経営体質強化は、各企業の自助努力、自己責任が基本です。一方で、行政としては、意欲ある企業への支援と技術と経営に優れた企業が成長できる環境の整備に努めます。そのために重点化を図りました。
――その重点は
山上
経営体質強化に向けた取組を加速させるためには、競争力ある企業づくりが必要です。そのため、経営支援診断指導事業や経営多角化アドバイザー派遣事業などの、相談・指導事業や融資制度、企業連携や新分野進出に関する情報提供などの建設業ソフトランディンゲ対策を継続します。
また、適正な競争環境を確保するために、「入札契約適正化法」など関係法令の遵守の指導強化や、昨年に施行された「施工体制点検・確認要領」に基づく施工体制の適正化を徹底します。
その他、優れた人材の確保・育成も大切です。施工管理やコスト管理など技術力の向上を図らなければなりません。
――業界内では、単に受注確保を目指してのダンピング入札が問題となっていますが、発注者としての対策は
山上
いわゆるダンピング受注については、工事や委託業務の手抜き、丸投げなど不適正な施工、下請へのしわ寄せ、労働条件の悪化などが危惧されます。そのため、我々発注者としても、これは防止することが必要です。
道としては、工事の請負契約について、低入札価格調査制度と最低制限価格制度を適用してきましたが、14年11月からは、地方自治法施行令の改正を受けて、工事の施行委託だけでなく、設計測量と地質調査などの委託業務契約についても、最低制限価格制度を適用することにしました。
業界団体からは、ダンピング受注を排除するため、価格だけでなく、技術力や経営力を含めた評価による受注者の選定や決定システムの導入を求める意見があります。しかし、その導入には、特に技術審査などが重要で、審査方法のあり方なども含めて検討する・必要があると考えています。
いずれにしても、ダンピング受注の排除に向けて、国とも連携を図りながら、いろいろと検討していきます。
――今後の建設業界に望むことは
山上
企業においては大変厳しい時代ですが、こうした時代を生き抜くためにも、時代認識をしっかり持ち、十分な自己分析を行った上で、技術力の向上や経営体質の改善・強化に努めてもらいたいと思います。これまで培ってきた技術力やノウハウなどの経営資源を最大限に活用し、新分野への進出や多角化にも積極的にチャレンジしてもらいたいですね。
道としても、企業の経営革新に向けた取組が一層促進されるよう、業界団体と連携を図りながら全庁を挙げ支援事業の着実な推進に努めていく方針です。

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