建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年7月号〉

interview

都市や空港に近いメリットを生かした田舎づくり

合併問題は「自然体」で構え、住民の連帯感を考える

北海道由仁町長 斎藤 外一 氏

斎藤 外一 さいとう・といち
生年月日 昭和9年6月4日
最終学歴 北海道大学経済学部 卒業
昭和 32年 10月 北海道職員
平成 3年 5月 由仁町長
平成 10年 9月 全国優良田園住宅促進協議会 副会長
平成 15年 4月 由仁町長に再選
由仁町は、田舎らしさを保ちながらも、道央圏を結ぶ主要幹線道路に近接し、道都札幌市や空の玄関千歳空港など主要都市へのアクセスも高い利便性を持つマチだ。斎藤外一町長は、これまでその利便性を生かしながら、都市と農村の共成を図る田舎づくりを進めてきた。今期で4期目を迎える斎藤氏に、今後の由仁町のマチづくりについて伺った。
――首長として町政を務めた3期12年間の感想は
齋藤
これまで生活環境や福祉にしても、由仁町は遅れていたため、駆け足で施設整備を行ってきました。例えば、介護を充実させるための「げんき館」や、文化交流のための「文化交流館」、下水道整備もそうです。また、ハーブ庭園の「ゆにガーデン」を中心としたまちづくりもそうですね。
これらは、国の景気対策と相まって整備できたので、タイミングとしては非常に良かったと思います。しかし、今後は厳しい財政状況下をも考え、スローな速度でソフト面の充実を図らねばなりません。いわば、「仏像に魂を入れる」ことです。仏像はできましたから、今後は魂を入れていくことが必要ですね。
――基幹産業である農業の現況は
齋藤
この1、2年は、天候が悪かったのですが、一等米のように良質の米を作る農業は、ほぼ定着してきたと思います。それを支援すべく、米の乾燥貯蔵調整施設「米賓館」を整備しました。この施設により、質の良い米を作り出すことが可能になったのです。
しかし、平成16年から米の生産調整の方式が変わります。今までは政府管理の下で、米の生産量を決定していましたが、今後は、農家や農業団体が自ら生産調整をしなければなりません。これにより、大きな転換期を迎えると思います。更なる品質の良い米、売れる米を作らなければなりません。
そのためには、これまでパワーアップ事業として、農家負担5%で農地整備事業を進めてきましたが、まだ土地改良が必要な農地がかなり残っているので、国営農地再編整備など国の事業を導入しながら、農業の基盤整備を進めたいです。
また、米ばかりでなく、都市や空港に近いという立地を生かした他の農作物との組み合わせ、例えば野菜や小麦、大豆、そして苺や花、或いは食用ほおずきのように新しい農作物などとの組み合わせや消費者に直結した農業も考えなければ、農家経営は立ちゆかなくなると思いますね。
――財政基盤や経済基盤の強化には、基幹産業の振興が重要ですね
齋藤
最近は経営の悪化により、農地を手放す人が多くなってきました。その農地は、他の農家が買い取るなどしていますが、農家の空家も目立つようになってきています。そこで、例えば都会のサラリーマン夫婦が空家に住み、ご主人は札幌に通い、奥さんは農家の手伝いをしたり、あるいは農家宅地は広い面積が確保されていますから、家庭菜園や、場合によっては農産物の販売所を設置するなど、多角的な空家対策を考えていきたいと思っています。
――平成13年に「ゆにガーデン」がオープンして約2年が経過しましたが、観光施設の一翼として定着してきましたか
齋藤
オープンした初年は非常に厳しかったのですが、おかげさまで、2年目にほぼ収支が合うようになり、観光客も昨年は約17万人を動員しました。
この結果を通じて、よく耳にするのは、何回も来るリピーターが非常に多くなってきているということです。また、本州、東京を中心に「ゆにガーデン」が認知され、非常に評判が高くなってきています。その現れとして、東京を中心とした旅行会社が、昨年度は2社だけがツアー企画として取り扱っていたのが、今年は7社に増える予定です。
これによって、おそらく本州から3万人前後の観光客が見込める状態になりますから、今年は概ね20万人を目標にしています。また、その相乗効果として「ユンニの湯」の利用客も増えていますから、観光産業の経済効果も現れてきていますね。
――観光客を受け入れる側としては、都市基盤整備も必要ですね
齋藤
特に基盤整備で重点を置いているのは、上下水道です。由仁町の市街地区は由仁本町と三川地区、川端地区と3地区に分けられるのですが、下水道は現在、川端地区で整備を進めており、最終段階に入っています。この川端地区が完成すると、小集落を含めた市街地の下水道整備は、ほぼ完成します。
残りは個々の農家になりますが、合併浄化槽を逐一整備する予定で、一刻も早く全戸水洗化を達成させたいですね。
一方、上水道については、言わば「たこ足配線」ならぬ「たこ足水道」という状況で、4カ所から水を取水しており、電気コードのたこ足配線と似た状態なのです。井戸や沢水、一部は夕張川など、色々な所から水を取水しています。しかも水質は、もちろん無害ではありますが、決して良いとも言えない状況です。
そこで町長に就任後、抜本的に上水道を変えるため、水源を千歳川に一元化してリニューアルのための整備を進めてきました。これは、千歳川上流にある支笏湖の綺麗な水を住民に供給することで、浄水コストも安くなり、また水源の一元化にともなうコスト削減も実現できます。
――市町村合併が論議され、政府も様々な対策を検討していますが、管内の状況は
齋藤
平成17年中に合併をすれば、新しい事業の着手において、国からの特典があると言われています。しかし私は、合併問題は自然体で考えることが必要だと考えます。つまり、国の財政援助にこだわって、「遮二無二に合併しなければ」とは考えていません。
もちろん、だからといって暢気に構えているわけでもありません。自然体で合併問題を考え、その結果、目標年次に間に合えば良しと考えており、故意に「間に合わせる」という発想はありません。
というのは、合併問題にはたくさんの課題がありますが、私は一言で言えば、合併をしようとする町同士で住民の連帯感が生まれるのか、生まれる可能性があるのか、それを見極めた上で合併を決めるべきだと考えています。連帯感が全く無いのに、無理に合併しても、その町は成り立ちません。
したがって、今後はその連帯感が生まれるのかどうかについて、徹底的に住民と話し合いをしながら、国が定めた期限に縛られることなく議論を積み重ねていき、その上で判断したいと思います。
――町として政策的に開発した優良田園住宅は、好調のようですね
齋藤
由仁町では、大都会や空港に近い田舎づくりとして、都市と農村との共成対流を基本に据え、田舎らしい宅地供給、優良田園住宅を進めてきました。現在では、第1期で8戸、そして今回、2期分の手続きが完了し、概ね400坪前後の土地で19戸への分譲が終わりました。おそらく今年中には、建物も完成すると思います。そして来年は、さらに第3期分が募集開始の予定で、50戸分の供給を考えています。
これは、田舎らしさを残して都会の人に田舎暮らしをしてもらうのが、我々の考え方です。そのためには、やはり田舎の便利な点、不便な点、メリット、デメリットを、コーポラティブ方式で充分に見極めてもらった上で、田舎暮らしをしてもらうことにしています。単なる宅地販売でなく、都市と農村との共生交流に繋げる戦略を含んだ定住対策なのです。
――4期目に町政における抱負は
齋藤
4期目に当選させていただいたということは、私の実績が認められた結果だと思います。しかしながら、だから今までの町政実績が100%なのかと言えば、必ずしもそうではないと考えています。今後は100%の完成に向けて、これまでの実績を踏まえた上で、反省すべき点を反省し、ためらうことなく方向を変えていくことも考えています。
また、最初に述べたように、仏は作ったものの魂がいまだに入っていない物があります。これに、魂を入れていくことが優先課題ですね。具体的には、行財政改革問題や合併問題、農業の体質改善などで、これらの課題は何をおいても、まず先に取り組むべき課題です。
一方、これまで由仁町では「都市や空港に近い田舎づくり」をスローガンに掲げてきましたが、今後もそれを浸透させていく必要があります。この地域の条件を生かした商工業、農業・農村づくりを手間ひまかけて推進していきたいと考えています。

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