建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年7月号〉

interview

現場は生きた教科書

道路の施工技術に特化

株式会社フジコーワ 顧問 石川 博 氏

石川 博 いしかわ・ひろし
昭和 8年 10月 31日生
昭和 27年 4月 株式会社冨土工入社
昭和 55年 8月 株式会社冨士土木入社
昭和 61年 3月 株式会社フジコーワ取締役
平成 4年 12月 株式会社フジコーワ代表取締役就任
平成 14年 5月 株式会社フジコーワ代表取締役辞任
同 顧問就任 現在に至る
府中市を拠点とする潟tジコーワは、昭和61年に法人化した新しい会社で、地域に密着した道路工事に力点を置いて活動している。地場企業としての特性を生かし、難工事も請け負うなど、足腰を据えた経営方針を貫いている。近年、横行するダンピングの風潮について、石川博顧問は「安く受注した現場ほど、警戒され、注目されるもの」と、厳しい目で見ており「そうした現場ほど、丁寧な施工が大切」と主張する。
▲200tクレーン
――こちらは創業して何年くらいになるのでしょうか
石川
法人としては、昭和61年に設立した若い会社です。バブルの時期でしたが、道路関係の工事に携わる目的で設立しました。
――どんな経営理念を持っていますか
石川
やはり業界と会社の置かれている周辺環境をわきまえていかなければ、生きていけないということです。特に、この府中、三多摩地区は仕事量が他地区からみて減ってきているとはいえ、まだ我々が生きる道はあると思うのです。その活路としては、所在地を中心とした範囲の中で、小さいながらも独立した花形企業としてありたいと思っています。
私が業務に10年間、携わった経験を通じて、常に念頭に置いてきたのは、あくまでもこの環境の中で仕事をしていかなければならない宿命です。工事もさることながら、営業においてもそれを自覚し、認識していなければ、時代に取り残されてしまいます。
――今後の経営戦略は
石川
会社は住宅地の中にあるので、生活道路などの整備に注力していく考えです。当面はなんとか生き続け、そうして3年くらいも経てば、生き残れるような形もできてくると考えています。何しろ今が一番苦しいですが、その苦しみを味わっておいた方が良いと思います。
――会社が設立されてから、社長が3代変わっていますが、その時々で状況は変わってきていますか
石川
もちろん変化はありますが、この地に長く住んでいるお陰で、環境、条件を最も理解しているわけです。工事を行う上での施工条件も、営業上の環境も理解していますから、それに順応していけば良いわけです。
そのためには、何よりも人材が大切ですね。会社の意を汲んだ人間に仕事をしてもらわないと、成り立ちません。
営業においても、やはり施工結果を正当に評価してもらうことで、営業に繋がっていくものですから、工事の面でもスタッフが自分の役割をきちんと認識すれば、実績に繋がっていくわけです。
――受注状況は
石川
受注工事は役所の指名がほとんどで、民間の仕事となると下請けに入ることが多く、当社がメインとなるのは駐車場整備といったところです。地元には大規模な開発事業はありませんから、とにかく自力でやっていくしかないと思っています。
――独立独歩というのも厳しい生き方ですね
石川
したがって、現場のスタッフには、近くに他の工事現場があるなら、必ず観察してくるように指示しています。というのも、それが現場担当者にとって貴重な勉強になるからです。
現在、是政橋の撤去工事を担当しており、技術を大手ゼネコンから学んだりしていますが、受注の獲得ばかりを考えず、他の現場から学ぶことも大切です。
バブルの時期は資格を取得しなさいと会社から言ったものですが、私としては、そうではなくて自分のためにと自覚することが必要だと、社員にはよく言います。積極的な人間でなければ、これからは生き残れませんから、そうした人材をなるべくつくりたいと思っています。
――それによって技術者が得た知識、技術は、会社の財産になりますね
石川
まだ設立して20年も経っていないので、新人にしても、新卒者を採用して人材育成ができる段階ではありません。やはり、ある程度の知識と経験を持った即戦力で生きていくしかありません。
そして、最も得意とする技術分野をしっかりと身につけなければならないと思いますね。ですから、言葉で仕事をするなと、よく言っています。
――この地域は、道路が狭く、特に歩道整備が必要な部分が目立ちました。住宅街ですからもう少し拡幅されても良いのではないかと思います。そうした提案が、会社側からあっても良いのでは
石川
そうですね。土地のことに関しては、地元企業としていち早く知らなければならないし、実際に知っているわけです。
逆に地元であるからこそ、所管官庁と打ち合わせをしたり、助言されたり、したりという関係になるわけです。
一方、私たちは地区町内会にも参加していますが、地元町内会というのは意外と厳しい目で見ているものです。
――やはりビジネスライクに割り切ってしまうのではなく、どの仕事にも思い入れがないと力が入らないものですね
石川
私はマニュアルというものが好きではないのです。現場というのは、ひとつひとつ違いますから、一人の考え方でだめならば、みんなで集まり、一人で悩む前に十分検討した方が良いと考えます。
工事にともなって、近所への騒音問題や公害など、いろいろな環境の問題が出てきます。その対応のための、マニュアルなどはありません。誠意と対策をもって臨まなければ、誰も相手にはしてくれないのです。
――こればかりは人間が相手ですからね
石川
特に道路工事は、周りの環境を視野に入れておかなければなりません。したがって、私たち地場企業が地元町内会と、いろいろと対話の場を持つというのは非常に重要なことだと思います。
小さな建設会社が生きていくためには、この地域で地道に生きていく覚悟を持たなければ、地域の方からの信頼が得られません。
もちろん、公共工事は発注官庁が指名するわけですが、地域住民が見ても、あの会社であれば指名しても大丈夫だと思う信用が、ひとつひとつ積み重ならなければ、大きく成長してはいかないのだと思いますね。
――最近、一般競争入札が増えた結果、ダンピングが問題視されています
石川
誰しも安くて効率が良いものを求めているわけですから、やはり我々は自分の得意とする技術を磨いて、その力を発揮していくしかないと思っています。
しかし、安くて苦情が来るのであれば、やめた方がいい。というのも、「請ける」というのは「信頼」ということなのです。そして、完成して、できたものが我々の商品なのです。だから、ひとつとしていい加減な施工があってはならないのです。
今日では、道路舗装は10年間もつような設計にしていますから、特に安く受注したときほど、良い仕事をしなければなりません。というのも、安く受注した現場は、逆に警戒しなければならないものです。安く受注した現場は、逆にみんなが注目しているものです。近年は、いくらで受注したのか、入札結果や契約内容が公開される時代なのですから。
――一方、地元企業なので地域ならではの難工事の施工を期待されることもあるのでは
石川
確かに、部外者にはなかなかできないような工事もあります。地下道の工事では、一部だけがオープンカットで、道路橋だけを別の工区として分けていますが、その施工場所はガソリンスタンド跡地で、旧構築物があった事を知っていましたので、それに対応して工事を行っています。
――そうした技術を、どうprし理解してもらうかが、課題では
石川
かなり、よく考えなければならないと思いますね。例えば、営業が難しいので、業務幅を広げようとしても、ゼネコンがたくさんあるので、単に奪い合いになり、過当競争になってしまいます。それでは中小企業が生き残るのは難しい。中小企業は、腰を据えた生き方をしていかないと生き残れないと感じます。

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