建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年6月号〉

interview

自ら発信する建設業を目指す

利益を地域に還元できる体制を

宮脇建設株式会社 取締役社長 齋藤 祐一 氏

齋藤 祐一 さいとう・ゆういち
昭和 22年 8月 22日生まれ、稚内出身
昭和 46年 3月 北海道大学農学部農業工学科 卒業
同  年 4月 宮脇産業株式会社入社
昭和 57年 5月 宮脇建設株式会社取締役に就任
平成 13年 4月 宮脇建設株式会社取締役社長に就任
現在に至る
沼田町の地場建設企業である宮脇建設は、米どころである地域特性もあって、農業基盤整備に多くの実績を残してきた。もちろん、高規格幹線道路や地域河川の治水事業の実績もあり、オールラウンドプレイヤーでもある。近年は、建設業の再編整理の中で、建設業と農業の融合による生き残り策も提案されているが、同社の齋藤祐一社長は、それにはやや懐疑的だ。
――会社の創業はいつ頃で、どのような施工実績を残してきましたか
齋藤
昭和24年に沼田町を本店として創業しました。現在は地元の沼田町で、高規格道路の事業が進んでおり、今がまさに最盛期で、今年の夏頃までには沼田のicまで高規格道路を開通させる計画があります。この事業では深川大橋の起工当時より大なり小なり施工に係わらせていただいています。
一方、当社は一般土木以外に、農業土木工事での施工実績も多く、特にほ場整備事業は北空知が火付け役であったこともあり、かなりの実績を残してきたと思います。現在でも、売上の相当部分を農業土木工事で占めています。
ただ農業自体が、海外からの価格攻勢や、国内での減反政策の影響によって大変厳しい状況におかれていることから、関連で仕事をさせてもらっている私たちも当然厳しい状況下にあることは、言うまでもありません。ただ、GATTのウルグアイラウンドなどの国際協約を視野に入れながら、国としても食料自給率を上げようという動きもありますので、その意味で、ここ数年は農業基盤整備の予算に急激な減少はないかも知れませんが、農業自体が非常に厳しい時代を迎えていますので予断は許しません。
この農業基盤を守り、国民の生命と財産を守る建設業の原点ともいうべき河川改修工事も得意分野です。特に沼田町を流れる奔川の治水については、町そのものを守る、そんな気概で施工しています。
――最近では建設業者も農業に参入してはどうかという提案もあります
齋藤
公共事業の減少で立ちゆかない建設業が、農業にシフトしてソフトランディングすればよいという意見もありますが、現実には難しいのではないかと思います。農業と建設業は、“土”と“水”という意味では確かに根の部分では繋がる業種であるとは思います。そのため、建設業から農業、農業から建設業へと簡単に移行できそうな印象はありますが、私は農業において建設労働力を受け入れるキャパシティがあるとは思いません。農業における機械化もかなり進んでおり、むしろそれによって得られた余暇・余力を建設業で受け入れているという実態もあります。
そこで得た収入を営農収益の一部に補填しているのが現実ですから、建設産業が直面している窮状の打開策を農業に求めてソフトランディングできるものとは思えません。
しかし、林業などは山を守るためにかなり手作業の多い機械化のむずかしい業種で、そのために労力不足で放置されている山がたくさんありますから、この分野との連携は考えられるかも知れません。
ただ、農業を建設産業のソフトランディング先として見るのではなく、一企業として農業への参入をどう考えるかということであれば、私は大変興味を持っています。
――業界再編成が論議されていますが、異分野への転向は確かに容易ではありませんね
齋藤
かつて建設業は、炭鉱の閉山の時、農業の減反の時に、余剰労働力を吸収することにより、失業率の低下に寄与して来た歴史があります。そんな経緯から近年のような業界の窮状を、出来得れば建設業以外の受け皿で何とか助けて欲しいと願っております。とはいえ、ハード的な建設業に携わっている人がit産業やサービス業というソフト分野に移動するのは、これはまた並大抵のことではないと感じますね。
そう考えると、公共事業費は国の財政上、削減傾向にありますが、社会資本整備と同時に失業対策としても必要な公共投資だといえます。
――建設業界は、何かと負のイメージがつきまとっています
齋藤
その意味では、業界関係者としても反省しなければならない部分はあると思います。けれども、豊かな国土を形成する社会資本整備は、永遠になくなることはないと思っていますので、その大部分を担う私共建設業は自信をもって臨みたいと思います。
そこで、業界のイメージアップに向けて、空知建設業協会も全道に先駆けて協会のイントラネットを形成し、外部に向かって情報発信するスタンスに変わってきています。これからの協会というものは、同業者だけの中で自己満足している存在であってはならないと思います。外部にどうアピールしていくかが大切です。
――国も自治体もアカウンタビリティの役割を、業界側にも担って欲しいということでは
齋藤
特に北海道の場合、開拓時代より官主導できたので、民が自分で考えて発信していく能力は、十分に訓練されておらず、不慣れなのかも知れません。しかし今は、民は民なりに発信せよということですから、私たちも努力しなければ、なりませんし、またそうする義務もあると思います。
たとえば身近な例で言えば、施工計画書の序文には事業目的が記載され、それをよく理解して施工するとの文言もありますが、現実には工事が地域的にも社会的にもどう位置づけられているかについて、深く考える現場代理人は、あまりいないのかもしれません。どうしても、現場内の安全管理、施工管理で精一杯なのでしょうが今後はそれらのことはもとより、工事の趣旨を十分理解し、地域や社会に対して自らアピールしていくことは大切ですね。
――今後の会社としての自己イメージを、どう描いていますか
齋藤
当社は沼田出身で、戦後間もなく、地元の家具会社からスタートし、地域と共に歩んできた会社です。特に沼田は米どころで、農業基盤整備が地域にとっては重要な施策でしたから、これに携わりながら全力投球できたという自負があります。今後も、地元といかに一体となって理解を得ながら進めていくかが大切だと心得ています。
また、ありきたりですが、顧客第一主義を企業理念としてやっています。発注者はもちろんそうですが、納税者である国民も顧客であり、施工している地域の住民も顧客ですから、地域のニーズをしっかりつかまなければ、地場建設業者の経営はたち行かないと思います。
そういう意味では台風・地震など、自然災害などがあったときには、地元企業として迅速に復興協力にあたれるような地域社会に頼られる会社でありたいと思います。
また、宮脇建設は創業以来、直轄施工がモットーの会社で今日があります。かつては300人から400人もの作業員がいた時代もありましたが、今は機械化が進み、協力会社体制も整って来ておりますので、およそ6,70人くらいの地元直雇いの部分を維持しつつ、出来るだけ地元に利益を還元していける体制を考えながら進めていきたいと思っています。
▲深川留萌自動車道 沼田町 沼田高架橋下部工事 ▲沼田奔川改修(国債)

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