建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年5月号〉

interview

ダンピング防止の徹底を

異分野への参入も積極的に

株式会社盛永組 代表取締役社長 盛永孝之 氏

盛永 孝之 もりなが・たかゆき
昭和 34年 早稲田大学政経学部卒業
昭和 34年 (株)盛永組入社
昭和 36年     〃   常務取締役
昭和 48年     〃   代表取締役副社長
昭和 56年     〃   代表取締役社長
【公職】
旭川建設業協会  会長
北海道建設業協会  副会長
旭川商工会議所  常議員
旭川社会福祉協議会  会長
学校法人旭川大学  理事
旭川発明協会  理事
安全運転管理者事業主会  理事
盛永組の盛永孝之社長は、平成12年から旭川建設業協会長を務めている。近年の公共事業受注におけるダンピング競争を懸念しており、適正な価格と施工体制の確立を訴える。また、建設業界の異分野への参入による振興策も提唱しており、農地の規制緩和も訴えている。年々、公共工事が減少する情勢下で、どのような生き残り策が考えられるか、同社長に伺った。
――旭川建設業協会会長職を兼務していますが、管内建設業界の情勢はいかがですか
盛永
建設事業者の合併・再編は、全道的な潮流ですが、管内建設業界でも、やはり合併論議が進んでおり、具体的にそれが実現したケースも登場しています。
建設業界の合併というのは、製品を製造するメーカーの合併とは違って、独特の特殊性があります。簡単に合併効果が現れるものではありません。土木を得意とする企業と建築を得意とする企業とが合併して、両分野に対応できるといったパターンであれば、それなりの効果が期待されますが、同じ土木専門事業者同士が合併してすぐ効果が出るかどうかは問題のあるところです。
現時点では、合併した段階で指名ランクが上がるなどの利点がありますが、それが果たして効果的な受注の拡大につながるのかどうかも疑問ですね。
――実際に合併を経験した企業の経緯は
盛永
去年は、その合併に成功した事例が見られました。その合併した会社は、決して経営が行き詰まっていたわけではなかったのです。しかし、逆に行き詰まっていない今のうちに解散すれば、どこにも迷惑や悪影響を及ぼす心配がないと判断したのです。その計画を知った別の会社が、それならば合併しようと持ちかけたわけです。その結果、両社とも、一人の従業員を解雇することもなく、合併によって経営基盤の強化に成功しました。
もちろん、そうした合併に向けて動き出してから、1年近くの時間が掛かりましたが、協会にはそのための経営相談窓口を設置していたお陰で、情報を交換しながら準備が進められました。
――通常であれば、経営難に陥り、債務が膨大になっために、打開策として採用されるところですが健全経営のうちに先手を打ったわけですね
盛永
そうです。したがって、こうした合併は、かなり珍しいケースではないでしょうか。解散を先に検討していた企業の社長は、現在も、その新会社で専務として務めています。役員を含めて全従業員が、そのまま職を失わずに実現されたのですから、かなり珍しい事例だと思います。
――健全経営のうちから、解散を検討するというのも、よほどの先見性がなければできないことと思いますが
盛永
やはり、年々工事量が減少していきますから、ジリ貧になっていくことは明白で、しかも後継者問題もあります。
以前は、跡継ぎが他社に勤めていても、いずれは会社を引き継ぐために戻って来るケースが見られました。しかし、今日の情勢では、すでに堅実な職に就いている息子に対して、戻って来いとは、いかに親でも言えない状況です。
――工事量の減少傾向は、それほど深刻なのでしょうか
盛永
現在の減少傾向が続く限りは、業者数、従来の業界規模では、生きていけません。いきおい、しっかりとした技術力と経営基盤を持ち、地域で信頼の得られている会社だけが残ることになるでしょう。
――盛永組の創業は
盛永
昭和初期に、私の祖父が北海道へ入植しました。そして、父親がこの事業に携わり始めたのです。振り出しは土木からスタートしました。現在は、建築と土木の受注比率は半々くらいになっています。
――最近は、建築事業などでは、激烈な低価格競争が展開されていると言われますね
盛永
建築事業の受注における、利益率の圧縮はかなりのものです。そうした低価格による受注競争は、ダンピングに繋がってきています。したがって、ダンピング防止のための対策を、建設業界挙げて発注官庁に要望しています。
適切な競争を排除するのではありません。企業経営が成り立つためには限度というものがあります。見積もりの2割、3割も下回るような工事価格では、まともな施工など出来るはずがないのです。何でも安ければ良いというものではありません。
例えば、きちんとした技術者がいなくても、値を叩いて無理に受注し、それを丸投げするような手法も横行しかねません。そうした問題については、発注者側として十分に管理し、不良不的確業者を排除してもらわなければなりません。やはり適正な技術を持ち、責任ある仕事をこなす業者が、正規に受注出来るような体制をとってもらわなければ、健全な業界の発展は望めません。
――これは公共工事に経費がかかることを罪悪視する世論にも問題があるのでは
盛永
新聞などは、安く受注できた事例ばかりを紹介しますね。バナナの叩き売りのような印象を受けてしまいます。
もちろん、我々業者側も、技術の向上に力を入れて、安くても工夫できるよう、提案をしていくことも必要です。それが、入札条件の一つにもなってきているわけですから、従来以上に技術力の向上と経営内容の安定に力を入れていかなければなりません。
しかし、北海道の場合は、この建設業が雇用面で果たす役割は、非常に重要です。従来型の工事が増えることは、期待できませんから、それだけに雇用対策を十分に立てなければ、北海道全体として大きな問題になると思いますね。
公共事業の費用対効果を重視すべきと言う主張も聞かれますが、利益が上がるようなものであれば、すでに民間企業が独自に着手しているはずです。そうした費用対効果が期待できないからこそ、公共事業として行われるものだと思うのです。
しかし、悩ましいのは、私たちのような業界関係者がそれを主張すると、我田引水と解釈されることです。例えば、街づくりについて提案をしても、それによって建設事業が発生し、仕事が増えるよう誘導しているかのように見られてしまうのです。
――インフラを利用する関係者からの要望や意見があると、抵抗がないかも知れませんね
盛永
実際、近年は高速道路が批判の的になっていますが、高速道路網を北海道全土で早く完成して欲しいと願っているのは、観光業界ではないでしょうか。
何しろ、短時間で効率良く北海道の観光を提供できるのは、やはり道路のおかげなのですから、工事を受注する建設業界よりも、それを活用する観光業界の方が高い要望を持っているものと思います。
ただ、高速道路は整備されても、利用率が低いと指摘されますが、東名高速と北海道の高速道路を比較されても困ります。投入される予算規模も人口密度もまったく違うわけで、そもそも道路というのはアクセスが全て完成してこそ道路の機能を発揮するものです。現時点では、空港とも港湾ともほとんど繋がれておらず、未完成なのです。
――北海道は食料の自給率が175%ですから、今後に向けてもインフラ整備の必要性は高まるのでは
盛永
自前で食糧を完全供給できるのは、日本では北海道しかありません。その意味では、北海道民も北海道を独立させるくらいの気概を持つ必要があると思います。何でも中央に「お願いします」の一本槍ではなく、もっといろいろな知恵も出さなければならないと思いますね。
――今後の公共事業で、有望視される分野は、どんなものだと考えますか
盛永
今日では、やはり自然や生活環境問題の解決に貢献する分野でしょう。特に、この近辺と道北を含めて、大きな医療施設は旭川市に集中していますから、例えば名寄や士別から、高速道路で患者を運べる交通アクセスが必要だと、地域の医師らも主張しています。
北海道は、何かにつけ、広さが問題になっており、たとえば医療対策だけでなく町村合併でもネックになっています。また、介護保険に伴う広域介護保険制度も課題です。ただ単純に、時間当たりの報酬を設定したところで、都市部であれば効率よく業務をこなせますが、僻地となると、交通に掛かる時間の方が、老人を介護する時間よりかかってしまうわけです。
だからといって、要介護の人々を放置するわけにもいかないのです。私は社会福祉協議会の会長も兼務しているので、そうした面からもインフラ整備の必要性を感じています。
――道路もさることながら、我が国のエネルギーや水資源、洪水調節による国土治安を担うダムについても、不要論や反対論が生じやすいですね
盛永
日本というのは山国ですから、放置すれば、貴重な水資源が全て流れてしまいます。そのため、ダムは必要です。例えばすでに役目が終わっているのに未だに続いているような事業は、勇気を持って中止することも必要ですが、何でもかんでも公共事業と名が付けば止めろという風潮では困りますね。
人間がこの地上に生きている限り、公共事業というものは絶対に必要なものです。
――行政サイドからは、建設業界も農業に参入してみてはどうかという提言がありました
盛永
そうした動きは、けっこう見られます。特に農村地帯をバックにしている町村の建設業者に多いようです。
ただ、異業種が農地を取得する上での規制が、やや緩和されましたが、それでも我々が有休閑地となっている農地を取得するには、営農をしていなければ許可されません。そのため、すでに農家が経営している中で、農業法人のような経営体を設立しなければならないので、そうした規制がもっと緩和されれば、取り組みやすくなるのですが。
何しろ、これからはより付加価値の高い作物を生産しなければなりません。そのためには、ある程度、スケールメリットを得られる規模の農地が必要です。そして、ただ売るだけでなく、加工なども行い、北海道の特色を活かす取り組みもが必要です。
――今後の会社運営における、新しい取り組みは
盛永
従来以上に技術力を高め、下げられるコストは下げていくこと。同時に、何よりも経営基盤の強化が課題です。業界再編の動向の中で、勝ち残るかどうかはそこにかかってきます。
また、単なるリストラで縮小し続けるのではなく、自分たちで出来る新分野には積極的に取り組んでいく姿勢が大切です。
当社としても、今後は建築におけるリニューアル部門での業務を積極的に拡充していく考えです。建築には、やはり独自の技術というものを開発していく必要があると思います。やみくもに競争で叩き合うのは、お互いに足を引っ張り合うだけです。これを盛永に任せたなら、問題なくきちんと仕上げてくれるという信頼を得ることが重要です。
――発注者サイドに要望したいことは
盛永
工事発注にあたって、最近は事前に価格を公表していますが、それもダンピングに結びつく可能性があります。そうなると、発注者としては、施工過程において必要以上に厳格な監督体制を布かなければならず、余分に経費を要することになります。
発注官庁においては、合理化のために定数削減をしていますが、技術者をあまり削減するのも善し悪しです。公金を基に行われる公共事業ですから、我々にとっては、あくまでも適正な価格で、良い仕事ができる体制であって欲しいですね。
一方、業界としては、若手による二世会には優秀な人材も多いのですから、もう少しいろいろな業界の若い人達と交流し、意見交換して、こちらから積極的に街づくりに提言して活性化させるよう、努力して欲しいと思います。

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