建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年4月号〉

interview

環境産業を軸に「ものづくりのマチ」の再生へ

市町村合併は西胆振9市町村の大同合併も視野

北海道室蘭市長 新宮 正志 氏

新宮 正志 しんぐう・まさし
昭和 10年 11月 14日生まれ
昭和 33年 3月 専修大学商経学部卒業
昭和 33年 4月 室蘭市役所入所
昭和 49年 5月 市議会事務局議事課長
昭和 56年 4月 総務部職員監
昭和 58年 7月 環境衛生部長
昭和 60年 4月 市民福祉部長
昭和 61年 6月 財政部長
昭和 62年 7月 総務部長
平成 2年 4月 収入役
平成 7年 5月 市長 現在2期目
室蘭市は、北海道南部に位置し、港・海・自然そして工業技術を中心として発展し、平成14年度には、市の開港130年・市制施行80年を迎えた。この間、8年間に渡り、室蘭市の舵取り役を担い、平成10年には、白鳥大橋を完成させるなど、サークル都市実現を目指してきた室蘭市長・新宮正志氏に、8年間の総括と今後の展開を語ってもらった。
――まもなく市長任期2期目を終えられますが、政策の効果は見られましたか
新宮
現職に就任した平成7年以来、出口の見えない景気の停滞、これまで我が国を支えてきたシステムの行き詰まり、そして構造改革が迫られる中での8年間でした。
私は、「改革・参加・創造」を信条に、市民の方々のふるさと室蘭への熱い情熱に支えられて、市民の笑顔が輝く新しいまちづくりと力強い産業のまちへの再生に、全力で取り組んできました。
――任期中の室蘭市において、最も画期的だった出来事は
新宮
平成10年6月の白鳥大橋の開通です。このお陰で、室蘭そして西胆振の交通体系が変わり、市民の経済活動、イベントさらには買物、通院などの日常生活、人の動き、流れにも大きな変化が生まれました。活用・発展へのエネルギーが創りだされ、確実にまちは変わったと実感しています。また、この白鳥大橋によって、室蘭のまちづくりは20世紀から21世紀ヘスムーズに引き維がれ、次のステップヘの飛躍が可能になったと考えています。
全体としては、長期の不況により商業活動を含めて、地域の経済基盤が疲弊してきたことや、人口の減少、フェリー航路の苦戦など幾つかの困難な課題はありましたが、行財政改革の推進とまちづくりにおける政策の選択、そして市民との協働により、まちづくりの着実な前進が図られ、再生・発展の新しい芽が数多く創りだされてきたと考えています。
――鉄のまち・室蘭の産業・経済情勢は
新宮
鉄鋼・石油精製などの基幹企業は、粗鋼生産量が高水準で推移するなど堅調ですが、セメントや地元中小企業は、デフレ不況の影響から受注の減少・単価切り下げなどで苦しい経営動向にあります。そのため、雇用や市内商業活動も全体的に縮小傾向を示しています。
そこで、地域経済の活性化、雇用確保の為に、官民あげて工業振興の取り組みを強めています。その方向軸は、環境を切りロとする新しいものづくりへの挑戦です。これは、製造業の世界的な構造的変化に対応し、環境を重視する21世紀的視点で、環境産業の育成を図るもので、北日本最大の環境拠点都市の形成を日指し、「室蘭地域環境産業拠点形成実施計画」を策定して事業化の促進に努めています。
現在、すでに、道内各地から、リサイクル原料として、廃タイヤ、廃プラスチック、肉骨粉、製紙スラッジ、下水汚泥などが搬入・処理され、さらに、自動車リサイクル、バイオマス、水素利用の研究、事業化も計画されています。
また、国が進めるPCB廃棄物処理事業に、室蘭の技術基盤を生かして処理施設受け入れを決定しましたが、平成15年2月19日付で、事業認可されました。平成18年10月の処理開始を目標に施設設置が進められます。
さらに、国が推進している構造改革特区制度の導入に対し、地元企業と連携して「室蘭港臨海部リサイクル産業特区」の申請手続きを進めています。これは、既存企業の環境分野への進出や環境関連の新規企業の立地を促進する為の規制緩和を図るもので、昨年は、室蘭港が「リサイクルポート」として指定されたこととあいまって、環境産業展開の条件整備として、この特区導入を積極的に進めています。
この他、工業都市としてのポテンシャルを生かし、地域企業の新たな商品開発や新分野進出を促進するため、これまでの補助制度を大きく改善し、室蘭テクノセンターと連携しながら「ものづくり創出支援事業」補助を創設しました。新製品研究・新技術開発から商品化促進、販路開拓さらには創業支援までトータルに支援を図るもので、大きな効果を期待しています。
昨年に採択した「ものづくりのマチ」宣言の精神で、これらの施策を効果的に推進することを最重要課題と考え、全力を尽くします。
――地球岬という観光資源に加え、白鳥大橋が観光産業の下支えとなりそうですね
新宮
白鳥大橋の開通以来、風車、道の駅「みたら」、マリーナ、臨海公園など観光スポットが多くなるとともに、新たな拠点ができました。しかし、観光客が長時間滞在でき、また滞在したくなるという水準にまでは、まだ到達しておらず、またリピーターを定着させる点でも弱点もあります。
現在、まちづくりに高い関心を持つ方々が、体験型観光や港活用のボランティア活動を行ったり、イベント開催に積極的に取り組むなどして、市民を含め観光入り込みの増加に努めています。とりわけ、本市の基本方向である「ものづくり」と結びつけた「体験型観光」は、参加者の評判も良く、今後は内外への発信力も高まり、相当面白いものになると期待しています。
また、白老を含めた西胆振観光の一翼を担うという基本姿勢で、洞爺・登別の温泉地とも連携を強めて、滞在時間の長く、繰り返し来たいと思われる観光資源の充実を図ることが今後は必要でしょう。
具体的には、橋を生かした観光資源の整備が進んでいる白烏大橋のたもとの祝津地区で温泉開発・温浴施設の整備を図り、この地区へ観光客を誘引する力を高めることを考えています。また、観光の広域連携を、胆振支庁や各観光協会と協力して推進し、管内の入り込み増加を図ることが、室蘭観光にもプラス要因となることから、「西いぶりフォトカルチャー展」の開催、「西胆振ぐるっと一周スタンプラリー」などを継続し、西胆振観光を活発に発信しつづけることが重要と考えています。
――市町村合併問題については、どうかまえていますか
新宮
これまでもまちづくりや市民サービスなど、市民生活や行財政運営に大きな影響を与える重要な課題と位置付けて、積極的に取り組んできました。自治体運営は地方分権により、市町村に自主・自立的な判断での住民への総合的なサービス提供が求められています。また、本格的な少子・高齢社会が到来し、市町村が提供するサービスの充実と水準の確保が市民から強く期待されています。反面、国の構造改革による地方交付税制度の見直しによる税収減など、地方財政の環境は厳しいものがあり、行政の効率化、効果的な運営が求められます。この認識と見通しから、市民の自主的・自立的な判断にもとづく市町村合併は、一つの有効な対応策であると考えてきました。
そこで、住民発議に基づく登別市との法定合併協議会の設置の請求があり、私は合併特例法の規定に基づいて、15年度第1回定例議会に付議するところです。
登別市との合併問題は、経済圏・生活圏の行政境界を超えた一体性と、室蘭における「ものづくり」、登別の「観光」など、それぞれのまちの特性を考えると、これからの自主・自立しての将来にわたる地域づくり、まちづくりを進める視点から、両市にとって重要な課題と考えています。
したがって、私は合併協議会という公の場を設置し、市民の積極的な参加、意見反映をいただきながら、あらゆる角度から合併論議が深められるべきものと考えています。
さらに、国の動向や地域の将来を見通して、歴史的なつながりや、観光をはじめとした様々な広域的な行政の積み重ねによる相互信頼感や一体感などをも考えると、西胆振に白老町を含めた9市町村の大同合併も視野に入れながら議論を進めることも必要でしょう。
――室蘭市内の都市基盤整備は、十分に行き渡りましたか
新宮
室蘭市での都市基盤整備は、道路、公園、上下水道、衛生環境など、いずれのインフラ領域でも相当程度の進捗であり、今後は、中央地区、中島地区、東室蘭駅周辺地区など、商業地域の再開発事業に関連しての高度化が図られることとなります。
市民生活に身近な生活環境分野では、市民の理解と協力をいただく中で、平成10年10月から、家庭系ごみ処理の有料化を実施しました。ごみの減量、リサイクルの推進は、21世紀が環境の時代といわれる中、行政と市民の協働が不可欠とされるテーマです。国のダイオキシン排出規制の強化もあり、近隣も含めて大きな課題であったごみ焼却施設の整備を、室蘭から豊浦までの7市町村で構成する広域連合により、pfiに準じた方式で民間活用を図りながら着手しました。平成15年4月からの本格稼動を目指しており、順調に進んでいます。また、資源ごみの効率的な処理拠点となるリサイクルセンターの建設も平行して進め、15年12月に完成の予定となっています。
さらに最終処分場も、室蘭市から西胆振廃棄物処理広域連合に移管し、総合的なごみ処理体制を広城的に確立することとなり、全国的にもモデル的事業と高い評価を受けています。
下水道整備は、平成8年度から着手した本輪西地区、八丁平地区が14年度末完成の予定で、残っている陣屋地区、幌萌地区についても14年度に着手し、16年度完成を目指しています。これによって、計画区域は100%となります。
――次期に向けての抱負は
新宮
国・地方の財政悪化と地方分権の流れという大きな背景を見ると、現時点が21世紀室蘭の進路を定める重要な分岐点であると考えています。市民の皆様から、強く期待されている地域経済の活性化を、環境産業を軸に「ものづくりのマチ」の再生で実現していくことが、最大の政策目標となります。
また、市民と協働して、商業地域の再開発や都市基盤の整備に取り組むことで、白鳥大橋を生かしたまちづくり、サークル都市の形成を推進していきたいと考えています。これらの効果的な実現により、市民がいきいき輝く室蘭を創造していくのが、私の仕事と強く思っています。

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