建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年4月号〉

interview

スケソウの韓国輸出で5億円

深層水の有効活用に活路

北海道議会議員 國澤 勲 氏

國澤 勲 くにさわ・いさお
昭和 13年 5月26日生まれ、端野町出身、法政大学法学部卒
昭和 49年 総務部文書課主査
53年 商工観光部資源エネルギー課電政係長
54年 同産業保安課企画保安係長
57年 総務部行政資料課主幹
59年 同文書課情報公開準備室主幹
60年 同文書課参事兼情報公開準備室長
61年 同行政情報センター所長
62年 空知支庁地方部長
平成 元年 総務部防災消防課長
3年 企画振興部地域振興室長
5年 林務部次長
7年 桧山支庁長
後、はまなす財団理事を経て、
平成 11年 4月北海道議会議員に当選、現在に至る。
元檜山支庁長の國澤勲道議は、議会では水産林務委員会、新幹線・総合交通対策委員会を務めている。檜山は、かつてニシン漁で栄え、その繁栄ぶりは「江差の五月は江戸にもない」と言われたほどで、その地域の発展のため、1期目をまもなく終える國澤氏に、今後の檜山の展望、課題などを語ってもらった。
――道議として務めたこの4年間を、どう感じていますか
國澤
やりたいことの半分もできなかったですね。地方交付税の削減や景気の低迷など、次々と難問が持ち上がり、自治体もなかなか思い切ったことはできず、小さな町を抱える檜山管内はとりわけ大変でした。力不足と言えばそれまでですが、しかし、やり残したとは言いたくありません。まだまだやることができるし、やらなければならないことがたくさんあると思っています。
――特に、今後も優先的に取り組むべき課題は
國澤
檜山管内は、道路や河川などのインフラ整備が遅れています。200oぐらいの雨で道路が不通になり、田畑が冠水する地域は他にありません。また、今年度末の公共下水道の普及率が檜山管内は2割程度になるのですが、他管内は7割近くに達しています。この数年間で道路改良や河川改修などが進められたので、以前よりは良くなりましたが、他管内に比べるとまだまだです。厚沢部川などは、4〜5年前から治水事業を行っていますが、完成までは14〜5年かかる状況であり、その工事費も100億円を超えるものです。
管内で公共事業が進められることは地域にとって大変喜ばしいことですが、見方を変えれば、いかに檜山の整備が遅れているかを表しているものだと思います。
産業面では、ヒラメやアワビ、ウニなど、消費者のニーズが、高価でも美味しかったらお金を払うという風潮と上手くマッチしてきています。その点で、漁業は少し良くなったと思いますね。農業については、管内の産品は味が良いのですが、ロットが少ないために大生産地である空知管内などに太刀打ちできません。漁業と同じように、良い物であれば高くても買ってくれる消費者の需要に応じた展開ができれば良いのですが。
――管内の概況は
國澤
四年前に管内を廻ったときと最近の状況を比べると、働き盛りの男性が在宅している例が多く、就労口が無い現状が顕著でした。不景気が思った以上に深刻であると感じました。
特に不況を感じさせられたのは、建設業関係です。公共事業の減少が、深刻な状況をもたらせていると思います。また、管内でも市町村合併や支庁再編などが議論されておりますが、残念ながら地域からは切迫感があまり感じられない気がします。
――現在の水産林務委員会での活動内容は
國澤
水産林務委員会での議論の結果、いわゆる水産基本条例と同じく森林基本条例が制定されました。今まで様々な政策が細切れになっていました。木を植えたり切ったりする林業、魚を獲ったり養殖したりする漁業を、もっぱら業として捉え、産業問題として議論してきました。
しかし、新たに制定された水産基本条例は、水産資源の確保やプレジャーボート対策、遊漁問題まで網羅しています。林業基本条例も環境対策を行ったり、自然を残すため、国土保全を考えるなど、林業を総合的に広くとらえています。漁業でなく海の話をしよう、林業でなく森の話をしようという視点を基本にして、それぞれ振興を図っていく予定です。
――新幹線・総合交通対策委員会としては
國澤
北海道新幹線の早期実現は道民の悲願ですが、函館にしても札幌にしてもそのメリットばかりが強調され、負の部分は述べられていないのが気になります。その負とは、並行在来線の江差線などが廃止になることです。檜山管内にとっては、これは大変な問題なのです。
現在、道南を中心に主張されているのは、青森開業と同時に函館新駅を開業することですが、実際に新幹線の線路が敷かれる時ではなく、函館新駅開業が計画される時点で、江差線には廃止の同意が必要なのです。木古内江差間は、通学のほか高齢者の方や病院通いの人など交通弱者が使用する線路です。
また、代替道路として予想される上ノ国を通る道道江差木古内線の問題があります。現在、改良工事が進められていますが、難関は木古内と上ノ国の間です。急なカーブがあり、トンネルも狭あいで、バスは通れず小型車しか走れません。冬は、よほどのベテランでなければ、みな敬遠して通りません。
私は、まずこの道路を整備すべきだと思います。特にトンネルを整備して、バスが通れるようにして欲しい。でなければ、江差線が廃止になったら、木古内〜上ノ国間の交通手段の確保ができません。
――檜山の今後の展望については
國澤
以前から、私は「檜山流」と言っていますが、他管内を真似るのはもう止めようと提唱しています。真似たところで、人口も少なく、面積も小さく、生産量も少ないのです。農作物についてみれば、上川や空知に比べて桁違いです。水産も、オホーツク、太平洋に比べると同様です。それより檜山の優位性、檜山の身の丈にあった方法を考えるべきだと以前から訴えています。
例えば、檜山管内で最も漁獲金額が多いのはスケソウダラです。韓国には、スケソウダラを利用した大衆鍋料理があるのですが、韓国漁船が日本近海から閉め出されてしまいました。そのため、スケソウダラを売って欲しいとの要望から輸出が始まりました。
檜山は、はえ縄漁でスケソウダラを獲っているので魚が傷まず、非常にイキが良く、韓国では檜山のスケソウは美味いと評判です。しかも鍋料理では魚肉が主体なので、オスが喜ばれるのです。1年目は2〜3千万円程度でしたが、2年目は2億7〜8千万円くらいになりました。今年は5億円を超えるのではないかと言われています。
――漁業者にとっては、瓢箪から駒のような話ですね
國澤
特に、今まで国内では喜ばれなかったオスが求められていますからね。漁法を変えたり、船を変えたわけでもない。工場を誘致したのでもない。これまでと同じやり方で、売り方を変えただけで成功したのです。これによって5億円も売上がある。私は、こうしたやり方が理想だと思うのです。この発想を檜山に定着させていきたいものです。
――企業の誘致や、何か大きな産業を起こすと言っても、なかなか難しいですからね
國澤
熊石に海洋深層水の取水施設ができました。海洋深層水が効果的であることは、今や誰もが理解していると思いますが、1日に3,000t以上の深層水を汲み上げるのに、酒や塩、化粧品だけををつくっても採算は合わないと最初から感じていました。衛生管理など食の問題が問われている時代ですから、管内では、まず漁業に使うべきだと思いました。同じ思いを持った人がいたのでしょうか、韓国向けに輸出するスケソウダラを深層水で処理してみると、鮮度の持続期間が3日も違うとのことです。
現在は、漁港にタンクローリーで海洋深層水を運び、スケソウダラを処理しています。
――今後は、海洋深層水の多角利用も課題ですね
國澤
そのためには、漁港の機能向上を漁協などと相談しなければなりませんが、熊石から上ノ国まで30〜40qも海洋深層水をパイプで運ぶことは無理です。しかし、深層水の効果が解った以上、誰もがそれを使いたくなります。そこで私は、深層水を持って行くのではなく、漁獲物を持って来たらどうかと提案しています。
例えば、漁を終えた後でも20〜30分ほどで、漁船は乙部から熊石まで来られます。自分の町にも同じ処理施設をつくって欲しいとみな要望しますが、利用する方が施設の方へ来るという発想があっても良いのではないでしょうか。
――漁協の合併は達成されましたが、市町村合併はなかなか進まないようですね
國澤
押し付けの市町村合併は絶対反対ですが、人口が極端に少ない村などではやむを得ない場合もあると思います。また、町村合併の問題は、いきなり賛成、反対から始まりますが、地域の事情をよく考えなければならないと思います。昔は、隣町に行くにも自転車か馬車、あるいは徒歩で行くしかなかった時代です。町には映画館や床屋、歯医者、病院もあり、一定エリアの中に、自己完結した生活圏が必要であったわけです。
しかし、現在は、私たちの生活が日常的に車で100q以上を移動し、町を4つも5つも通り越していく時代です。交通手段が未発達だった時代にできあがった集落や町村が、今の時代に適応するのか疑問であるという議論も聞くべきでしょう。
市町村の財政事情ばかりが強調される合併論は、将来に悔いを残すことになります。さらに、市町村合併は、管内では、檜山支庁の統廃合とも関連します。仮りに、道が示した北に一市、南に一市と奥尻町の三つが妥当であるとすれば二人の市長と一人の町長しかいない地域に、支庁長以下部長課長が何人もいる支庁が必要かどうかという議論もあると思います。
自分の生まれ育った町や地域の名前が消えるのは寂しいことですが、そこに住んでいる人々がいかに幸せになれるかが最も大事なことです。いずれにしても、これらの問題は、冷静で、バランスのとれた広い議論の積重ねが必要であると思います。

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