建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年4・5・6月号〉

interview

特集・わが国の文教施設整備最前線

世界水準の教育研究成果を目指す国立大学等施設緊急整備5か年計画

クオリティ スペース コストの管理と環境創出がテーマ

文部科学省大臣官房文教施設部長 萩原 久和 氏

萩原 久和 はぎわら・ひさかず
昭和22年生まれ、三重県出身、東京理科大学工学部卒。
昭和 45年 文部省(現文部科学省)入省
59年 新潟大学建築課長
62年 大臣官房文教施設部計画課補佐
平成 2年 教育助成局施設助成課補佐
5年 大臣官房文教施設部技術課監理官
6年 東北大学施設部長
8年 大臣官房文教施設部計画課整備計画室長
10年     同    計画課長
12年     同    指導課長
13年     同    施設企画課長
13年     同    技術参事官
14年 文教施設部長
我が国の国立大学は、2004年には国立大学法人としての自立が求められることになる。それだけに、各大学とも標準的な教育レベルに止まらず、個性とクオリティの高い教育が求められる。さらに、我が国の国際競争力強化のためには、大学院機能の強化と研究レベルの高度化も重要課題だ。だが、多くの大学は、学舎も研究施設も老朽化、狭隘化しており、新時代を担う教育と研究に、施設面での対応が求められている。我が国の頭脳となる高等教育の施設と研究施設はどうあるべきか、文部科学省大臣官房文教施設部長萩原久和氏に伺った。
――文教施設の整備は、どのようにして行われていますか
萩原
文教施設整備といっても幅広く、学校、社会教育、体育・文化施設などたくさんの分野がありますが、ここでは特に国立大学を中心にお話します。
平成13年3月30日に閣議決定された「第2期科学技術基本計画」を受けて文部科学省では、世界水準の教育成果の確保を目指した「国立大学等施設緊急整備5か年計画」を平成13年4月に策定しました。
この計画では、平成13年度から17年度の5か年で緊急に整備すべき国立大学等施設の約600万uを事業費約1兆6000億円で重点的に整備するとともに、施設の利用などについて様々なシステム改革の推進を図るもので、平成14年度が2年目になります。
現在の進捗状況は、平成14年度の補正予算までを含めて、事業量で約5割弱まで達成されており、概ね順調に進んでいると思います。
――緊急整備のポイントは
萩原
既存の施設には、老朽と狭隘の二つの課題があり、老朽化したものはグレードアップし、狭隘化したものはスペースを増やすことで、この二つの課題を同時に解決しようとしています。ただ、優先順位としては増築を先行し、そこに従来の機能を移しながら既存部分を改修していく手法が、利用者の都合も考慮すると良い手法と考えています。
――昨年はノーベル賞の3年連続受賞と、史上初めて2人の受賞という快挙を成し遂げたので、文教施設整備に弾みがついたのでは
萩原
そうですね。しかし、ノーベル賞は10年、20年前からの研究が評価されたものですから、今の整備が即来年のノーベル賞に繋がることはありません。とはいえ、施設は長期に渡って充実させて来ていますから、その効果が少しずつ現れてきているものとは思います。
以前に、有馬朗人参議院議員(元文部大臣兼科学技術庁長官、元東京大学総長)は、施設も研究費も充実したお陰で、日本の若い技術者と外国の研究者の交流が増えており、それが受賞につながったと発言されていました。つまり、優秀な研究者は以前から沢山いたのに、世界に知られていなかったために受賞機会を逃していたといえます。
したがって、今後は益々受賞される研究者が増えてくるのではないかと思います。
特にこの4、5年は、前科学技術基本計画(H8〜12)に基づく施設整備及び現在の5か年計画による施設整備を進め、施設の老朽、狭隘も徐々にではありますが解消されつつありますから、その視点から見る限りは受賞機会が減ることはなく、むしろ増えてくると思います。
そして科学研究費など、競争的資金による、プロジェクト研究が益々増えていますから、これらの研究をサポートできる施設が着実に整備されることで、ノーベル受賞者を政府目標である50年に30人ではなく、50人を30年でという状況になれば良いと思っています。
――老朽化や狭隘化は、時代の変革によって“施設”に求められるニーズが変化したために生じることもあるのでは
萩原
そうです。先の有馬先生の講演では、かつて物理学賞を受賞した湯川秀樹先生や朝永振一郎先生は、理論物理学者ですから、必要な道具は「紙と鉛筆」だけと仰っていましたが、昨年物理学賞を受賞した小柴昌俊先生の場合は、それを実証する“カミオカンデ”と、その後に“スーパーカミオカンデ”という研究施設の整備を行いました。そうした最先端の施設と、それに基づく研究が受賞に結びついたことは、施設を整備する立場としてはうれしいですね。
その一方で、昨年化学賞を受賞した田中耕一氏は、自らを研究生ではなくて技術者、エンジニアと自称されていましたが、企業の研究者が受賞されたことも良い刺激になったと思います。大学院に在籍せず、企業で研究して受賞したというのは画期的なことだと思いますね。
――施設整備の基準作りは、どのようにして行われましたか
萩原
平成9年に有馬先生が理化学研究所理事長の時に主査を務めて頂いて、「今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議(有馬委員会)」を設置し、平成10年3月に報告書「国立大学等施設の整備充実に向けて―未来を拓くキャンパスの創造―(有馬レポート)」をとりまとめて頂きました。
この報告書では、基本的な教育研究環境の確保、社会の変化・大学改革に対応する施設環境の整備、計画的施設整備及び施設整備財源の充実と多様化の観点から、15の提言が示され、これが大きく施設整備が変わっていく節目となり、現在の国立大学等施設整備の原点となりました。
その後、大学評価・学位授与機構長の木村孟先生が主査になられ、昨年3月に報告書「国立大学等施設に関する点検・評価について」をとりまとめて頂きました。
また、平成13年に国立学校財務センター所長の大ア仁先生を主査として、「今後の国立大学等の施設管理に関する調査研究協力者会議」を設置し、昨年5月に報告書「『知の拠点』を目指した大学の施設マネジメント―国立大学法人(仮称)における施設マネジメントの在り方について―」をとりまとめて頂きました。
更に、科学技術基本計画に基づく対応や大学改革に基づく教育研究体制の変化及び国立大学の法人化などに適切に対応するため、昨年11月に「今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議」を発展的に拡充し、今後の国立大学等施設整備の推進方策及び施設の管理運営について調査研究を行うこととしました。
――その中で重点的に調査研究されている点は
萩原
調査研究では施設整備と管理運営が調査項目となっていますが、管理運営については専門部会を作り重点的に検討を行っています。管理運営の基本である施設マネジメントには大きく3つの柱立てがあります。
一つ目は「クオリティーマネジメント」、施設の質です。大学等施設においては、教育研究活動の変化に柔軟に対応できる機能及び安全性の確保が必要です。また、研究者や学生等の施設利用者の満足度を向上させることや、管理面から省エネルギーやバリアフリー等に関する対策を講じることも必要です。
二つ目は「スペースマネジメント」です。国立大学等施設は、大学院学生や留学生の増加等に対し、施設整備の遅れなどにより狭隘化しております。しかしながら、施設の占有化を廃し共用スペースの拡充を図るなど、全学的な視点から効率的に施設を運用することで、同じ1万uの施設でも使い方の工夫次第で、それ以上の利用価値を得ることもできます。
そして三つ目が「コストマネジメント」です。施設の新増築から維持管理等に至るトータルコストを如何に最小に抑えて教育研究の成果を最大にするかという費用対効果の徹底を図ることです。
これらの施設マネジメントにおける3つの視点から、国立大学の施設水準について議論して頂き、併せて今後の国立大学における施設の管理運営に関する基本的考え方をとりまとめる予定です。
――既存の施設を外国のものと比べた場合、どのような違いがありますか
萩原
有馬委員会で議論されましたが、外国には“伝統”という柱があります。ヨーロッパやアメリカでは、200年前に建設された建物が残っています。しかし、日本では大学自体が「開学して200年」という歴史を持つところがありません。
日本には、国宝クラスは除いて、大学に限らず歴史の有る建築が少ないですね。戦後は材料も悪くコストも安かったこともあり、ことごとく建て替えています。しかし、そのように壊していたのでは蓄積になりません。
たとえ古くても手入れをしているものには“伝統”が感じられます。そういう建物は環境面からもキャンパス全体の雰囲気づくりに貢献するという役割がありますから、それをもう少し意識する必要があります。
そこで“100年建築”をテーマに掲げ、新しく造る建物は無論のこと、今ある建物も改修して100年持つようにしようと考えています。これまで、戦後に建てたものは40年くらいで改築していますが、そうではなく、最初から長持ちするように造り、また維持管理して持たせようという方針を打ち出したわけです。これもやはり有馬レポートに基づく発想です。
その他、建設するにもこれまでは専有施設として整備してきました。学部単位で校舎を建設し、新しい組織が出来れば、それに対応した専用施設を造ってきました。しかし、今後は大学全体の共用施設として造り、緊急性、需要性の高い組織にその施設を優先的に使ってもらうような造り方、使い方をしていくべきだという提言もあります。この提言は、現在整備している各大学の総合研究棟に反映されています。施設マネジメントの提言もその延長上にあるかと思います。
――歴史を感じさせる建築物を残しながら、人間や時代とともに施設も生きていくものでありたいですね
萩原
そうです。最先端の研究となると、かなり短いスパンで新しい波がどんどんと押し寄せて来ますから、同じ事をやっていたのでは世界的な競争に勝てません。そのため、最先端の研究施設に関しては、必要に応じて随時、設備も向上させていきますので、施設もそれに対応できる造り方が必要となります。
しかし、“教育”となると、違ってきます。この場合はむしろ、伝統や雰囲気というものが非常に重要な割合を占めているのではないかと思います。
したがって、最先端の研究施設と、教育施設とは少し違う考え方で整備し、利用していくべきだと考えます。
――そうした発想で整備された環境で、教育される学生は幸福といえますね
萩原
そうです。しかし昔と比べれば、施設も良くなって来たのですが、一方で新しい問題が幾つか発生しています。その一つは安全性です。耐震、防災も当然のこととして防犯対策も必要です。
池田小で凄惨な事件が発生しましたが、日本社会は古くから安全と思われ、中でも特に学校は「安全な場所」と認知されてきたのです。ところが、そうした事件が起きた以上は、「安全だ」という固定観念での学校運営や学校づくりは見直さなければなりません。
その他、“環境”に関しての諸問題もあります。省エネルギー、省資源、室内空気汚染の問題をはじめとし、バリアフリー、木材を使って良い環境づくりを行うなど色々なテーマがありますが、これは国立大学施設だけではなく公立や私学や学校以外の文教施設全般にも該当することです。これについては、様々な調査研究が行われております。
――これから法人化が進むことを踏まえ、施設整備において全国的に注目される事業はありますか
萩原
この本省庁舎が「PFI事業」で建設されることが、注目されています。国土交通省が担当するのですが、我々もユーザーとして事業に参画しており、現在は民間事業者の募集を行っているところです。その中から事業者を選定し、平成15年度に契約するとのことです。
建物の古さとしては財務省の方が古いのですが、この庁舎も趣きがあって交差点から見る「文部科学省の建物はなかなか良い」と評価してくださる人は多いのです。とはいえ、全てを残すと建設できないので、前面を残して背後を解体し、そこに高層棟を建設するとのことです。
これと同様に、国立大学等施設でもPFIを導入しています。全部で14事業あり、内訳は筑波大1件、東京大3件、岐阜大1件、金沢大1件、京都大2件、大阪大1件、九州大1件、熊本大1件、神戸大は立体駐車場で1件、政策研究大学院大1件、総合地球環境学研究所1件となっており、平成15年度に契約する目標で進めています。

(第二回)

私大との競争激化

全国の国立大学が、法人化することで、今後は各大学の特色や個性が求められることになりそうだ。それを施設整備でどう支援できるかは、まさに各大学施設部課のアイデアと腕の見せ所といえよう。とりわけ、すでに少子化の中で生存競争を強いられてきている私大との差別化も重要なポイントになるだろう。国立大学としても、そうした動向を踏まえて、施設整備においてPFIの導入を進めるなど、新たな取り組みにチャレンジしている。
――国立大学の施設整備にも、PFIが導入されつつあるようですね
萩原
PFIの促進を図ることを目的として、平成11年にPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)が施行されました。
国立大学などの施設についても「国立大学等施設緊急整備5か年計画」の具体的実施方針として、新たな整備手法の導入を検討することにしており、緊急に国立大学等施設整備を推進するためにもPFIの導入を積極的に進めています。
――対象となる施設は
萩原
現在、検討を進めているのは、六本木に整備する政策研究大学院大学、新組織の総合地球環境学研究所をはじめ、東京大学、金沢大学、京都大学、九州大学の新キャンパスでのPFIの導入を中心として、総合研究棟や福利厚生施設を対象としています。
今後は、第2弾として既存校舎の改修事業についてもPFIの導入を検討したいと考え、平成15年度予算にPFI実施準備経費を要求したところです。
――国立の文教施設に民間資金等を活用するのは、画期的な試みですね
萩原
画期的な試みではありますが、PFIは施設の建設が完了して終了ではなく、その後の維持管理、運営も含まれ、しかも国立大学の場合はPFI事業期間である15年間にわたる毎年の支払いがあります。橋や高速道路のように通行料による料金収入を見込めるものは、それを財源にすることも可能ですが、国立大学となると、学生の支払う授業料だけでペイできるものではありません。そのため、多額の国費を必要とし、それが特色であると同時に、難しい課題でもあります。
それを考えると施設整備全てをPFIで実施する訳にはいきませんので、今回は第1弾として、建設費ベースで約700億円分のPFI事業を行うこととしています。これは初めての取り組みであり、様々な問題を抱えながら文部科学省と各大学が連携しながら進めているところです。
今後はそうした経験を基に、文部科学省としてPFIのマニュアルを策定する予定としています。今後のスケジュールとして、平成15年度早々にはPFI事業の契約締結を行う予定です。
――大学の法人化に当たり、大学の個性というものが論議されています。施設整備には、それは反映されるのでしょうか
萩原
現在でも、各大学ごとに、それぞれ工夫してもらっていますが、最近は個別の組織ごとに建設する手法ではなく、大学単位あるいは団地単位で使用するという「総合研究棟」を建てる手法が主流になっています。
これは、「国立大学等施設整備5か年計画」のシステム改革の柱として打ち出したもので、「各大学の研究等の整備に当たっては、各大学の部局等が共有する総合的・複合的な研究棟やプロジェクト的な教育研究活動に供するスペースなど、弾力的・流動的に使用可能な共同利用の教育研究スペースに重点化する」という方針に基づいています。
ただ、総合研究棟の整備も、今後はさらに違う工夫をしながら独自性を発揮していくのではないかと思います。「総合研究棟」というものは、団地あるいは大学関係者が緊急度・重要度に応じて、そこに入居できるシステムになっており、そこに共通のスペースを20%ほど確保してプロジェクト研究も行える造り方をしていますが、その共用スペースとなる共通実験室をさらに増やして、30%から50%、あるいは100%にまで特化したプロジェクト研究棟にする構想もありますので、そうした画期的なものが今後は見られるのではないかと思います。
――今後は、私学との競争もさらに激化してくるでしょう。施設整備の面からも、そのサポートが必要になるのでは
萩原
プロジェクト研究のためには、“研究施設”という利用目的がはっきりした器がなければなりません。しかし、「教育」は少し違うのではないでしょうか。教育は個々の施設にとどまらず、キャンパス全体で展開されるものです。“教育施設”としてはさらにどんなものがあり得るのか。これについては、「今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議」でこれから審議され、提言を頂くことになると思います。
私学に比べると、そうした学生のための施設となる“教育施設”については、国立大学は私学に後れをとっているのではないかと感じています。理系の場合は、実験施設や設備にかなり力を入れてきたので、単価の面でも高くなっていますが、文系となると、逆に私学より単価が安いのです。
原因の一つは、18歳人口が減っているため、私学も生き残りを賭けて、かなり工夫・配慮を施した施設づくりに取り組んでいるからではないかと思います。その点では、国立も私学をもう少し見習い、整備にも力を入れなければなりません。
財源が限られた中でどう配分していくのかは難しいことですが、今後の課題になろうと思います。

(第三回)

国立大学等の教育・研究基盤としての施設

少子化と、国際社会のグローバル化のなかで、我が国の大学は多様化と経済社会への貢献が求められる。それを視野に置きながら、施設マネジメントを推進しなければならない。「施設部課という組織は、施設を整備するための組織に留まっていてはならない」と、萩原久和施設部長は主張する。
――今後は“法人化”に向けて、少子化の中でも存続し得るために、大学ごとに潜在能力をどのように引き出すかが課題になるのでは
萩原
そうです。国立大学も、18歳人口が減ってくれば、“定員割れ”が想定されますので、そのための工夫をしなければりません。そこで、魅力のある充実した施設づくりを行うことは、非常に大切なことであると思います。もちろん、優秀な教授陣を揃えていることも大きなアピールポイントだと思います。「施設」は目に見えるものですから、その意味では、今後はさらに“施設づくり”が、大学運営の大きな柱になると思います。
ただ、今日の日本は、景気も経済も悪い側面ばかりを見過ぎていると思います。ある人の講演を聞きましたが、「少子高齢化という現象を悪い側面だけで見ているのではないか。少子というのは人口問題から見ると悪いことではないし、高齢化も長寿という面から見れば喜ばしいこと。だから少子高齢化を悪い側面だけで論じるな」という主張でした。
同じ事柄でも見方によって変わります。近年のような状況は、なるべく明るい方向で見ることが大事なことかもしれません。
――今後の大学は、単なる学問の府として象牙の塔に留まるのでなく、積極的に経済社会の現実に向き合い、貢献していくことが求められるのでは
萩原
そうです。今後の日本経済は、ますます大学抜きには語れず、一体となっていかなければならないと思います。
これは経団連ホールで行われた講演会でお聞きした、東北大・大見先生の受け売りですが、戦後、日本が欧米に次ぐ2番手にあった時代は欧米の新しい技術を取り入れ、そこからさらなる工夫をして、付加価値を持った、より良い製品を創って世界に売り出し、かくして企業の努力で発展してきました。
しかし今や、日本はトップクラスになりました。そうなると、以前のように企業だけの努力では日本経済は向上しない。今後、企業は大学の協力が不可欠となります。大学と企業が一体となっていかなければ、過去のような成長ないと思います。大学の研究というものも、学内に閉じこもって行われるだけでなく、企業と一緒に社会に役立っていくように工夫しなければならない時代にきていると思います。
――構造改革や社会変化も想定される今日において、どのような施設整備が求められるでしょうか
萩原
国立大学等の施設整備は、「今後の国立大学等施設の整備充実に関する調査協力者会議」以来、大きく変わってきています。大きな変化のひとつが“施設マネジメント”の導入です。総合研究棟も“施設マネジメント”という概念の中で生まれ、また総合研究棟から“施設マネジメント”が発展してきました。これを今後の施設整備の大きな柱にしていきたいと思います。
従来は、施設の業務といえば、建物を新営したり改修するなどの「造ること」が主体でした。「施設部課」というと「施設を造る」組織であると見られていました。これからの施設部課は、建物を「造る」業務が半分、「使う」業務が半分となることを、当面の目標にしていくべきと思っています。
さらに、「造る」ことがある程度達成されたなら、その先は「使う」ことの比率が大きくなり、その業務が増えてくるだろうと思います。このように施設の「企画・立案」から「維持管理・運用管理」までを、トータルに担っていくことが必要です。
「造る」だけでは、施設の老朽狭隘問題は解消できません。「使う」面からの工夫をし、その両面を合わせた“施設マネジメント”が遂行されることで、老朽狭隘が解消されると思います。
――世界的にグローバル化が進んでくると、それに対応できる人材が求められます。そうした国際社会を背景に考えると、大学を選ぶ学生のためには、選択肢が多様であることも必要では
萩原
確かに、価値観も変化していますから、従来のような偏差値や競争倍率だけで、その人の歩む道を決めつける時代は過ぎたのではないでしょうか。何に着目して大学を決めるのか、その選択基準は、かなり多様化してきており、むしろ好ましい傾向ではないでしょうか。単線の列車のように、ただ一直線に決めるのではなく、いろいろな見方によって、いろいろな評価が出てきます。
それを一つの物差しで計るように一律に当てはめるようなことをすれば、様々な不都合が生じると思います。単一の基準に合わない者は、全て排除されていくようではいけないと思います。大学に特色があるように、やはり学生も自分の望む方向や個性に合わせて自分に合う大学を選んでいくことが必要ですね。
また、今後日本が国際競争で勝ち続けるためには、人材が多様化しているという状態は良いことだと思います。

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