建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年2月号〉

interview

─胆振・日高地区の精鋭企業トップに聞く─

建設業の視点から日本経済の対局を見据える

(株)手塚組 代表取締役社長 手塚純一 氏

手塚 純一 てづか・じゅんいち
昭和 39年 8月 25日生
昭和 63年 3月 北海道工業大学土木工学科卒
4月 株式会社手塚組入社
現在
(社)室蘭建設業協会土木委員会委員
室蘭経営研究会総務委員長
プログレス日高幹事
シンザンフェスティバル実行委員会財政委員長などを歴任
手塚組の手塚純一社長は、3代目だが、先代の遺業に甘んじることなく社業の発展に向けて果敢な取り組みを進めている。年々、採点が厳しくなる発注官庁による経営審査への対応だけでなく、独自に農業にも参入し、北海道の食糧供給基地としての役割を担う。同社長は、「建設業も農林水産業あってこそで、それらとは不可分」と語る。
――手塚組設立の経緯をお聞きしたい
手塚
明治後半、私の曽祖父が福井県から浦河に農業で入植しました。その後、生まれた祖父が当地において建設が始まった天皇の御陵牧場の現場で働いていたそうです。当時、牧場建設には青森の近藤氏という大工の橋梁が200人くらいの大工を伴い、当地に乗り込み工事を行っていたそうですが、そこに祖父が働きに来ていたようです。牧場の建設が終わり、近藤氏の一団が青森に引き上げていった後に、祖父が残って建設業を始めたのいうのが我が社の生い立ちです。
会社として初めて施工を請け負ったのが昭和12年なので、この年を創業の年としています。株式会社にしたのは昭和40年5月1日で、私で3代目となります。
――全国的に公共工事は減少傾向にありますが、浦河・日高管内における工事の受注状況は
手塚
軒並みダウンしていますね。最も落ち込みが大きいのが、自治体の発注です。当社でも、浦河町の受注が多い時で年間1〜2億円分はあったのですが、今では平均2〜3千万円というレベルです。北海道日高支庁の農業土木、水産土木も極端にダウンしています。
水産土木については、平成3〜4年くらいまでは、支庁の年間事業規模が約20億円でしたが、今では4〜5億円。農業土木については、この3年くらいから減少し、多かった頃の約半分の事業量。開発建設部、土木現業所についても今年から減ってきています。
――希望を持ちづらい状況ですね
手塚
今日はとにかく「公共事業=悪」というイメージが根強く付きまとっていますね。いろいろな不祥事も重なり、「建設業者=ダーティー」というイメージが、この10年から20年の間で形成されています。同時に、「建設業者数が多すぎる」という話も盛んに言われており、それが業界再編の論議の原因にもなっています。
公共事業は、国土と国民の生命と財産を守るために行われています。採算が合わなくても国民のために行われるべきもので、民間市場に任せていては全く供給されないか、著しく不足するものを国費で提供するという役割を果たしているのです。
しかし、それがなかなか今は素直に捉えられません。公共事業の必要性については、やはり我々の業界自体がきちんと考えなければいけません。それを踏まえた上で、業界再編に対する対策も考えるべきでしょう。
――現実には、生き残りをかけた厳しい生存競争なのでは
手塚
確かに、まず生き残るための最低限のことはしていかなければなりません。今日、国土交通省では、建設会社数を減らすべく、いろいろな制度導入を図っています。1級施工管理技師の配置、経審の見直し、管理技術者制度、ISOなど、次々と篩分けのハードルを高くしてきています。当社は地域の中小ですが、それをクリアしていかないと生き残っていけません。
そこで、まず第一に必要なのはランクの維持です。国は、コスト削減の意味もあり、発注ロットを大きくしてきています。ロットの線引き基準はランクです。そのランクがどこで決まるかと言えば経審です。経審の点数を上げて上のランクに残り、なおかつボーダーよりかなり上にいなければ、まず話になりませんから、ランクアップは必要です。
それから技術力、技術者の質を上げていくことです。技術力といっても土木工事の場合、特殊技術があれば別ですが、一般にはなかなか甲乙付け難い。そうなると、会社の技術力は、簡単に言えば技術者や、一級施工管理技師の数でPRしなければなりません。
――ISOやCALS/EC、電子入札などへの対応も必要では
手塚
5年前から社内LANを組んでいるので、CALS/EC、電子入札についての対応は万全です。ただ、ISOについては、実は非常に抵抗がありました。例えば、日本にはJIS規格があります。各発注機関にはそれぞれ工事仕様書もあります。役所自体の管理基準というものがあるわけです。ISOというのは本来、自主管理をするためのシステムですが、建設業の場合には、工事を受注した段階ですべてそうした規格値があり、それに基づいて工事を行うわけですから、なぜ、さらにISOが必要なのか不思議に思っていました。しかも、ISOを導入すると現場代理人の負担もかなり重くなります。
とはいえ、今後はISOの取得が入札の条件にも入ってきますから、やむを得ず、年明けから取り組もうと思っています。
ただし、取り組むからには、事前に取得した仲間のアドバイスも受けながら、コンサルタントに頼らずに自力で取り組もうと思っています。
――地場企業にとっては、地域社会への貢献も求められますね。地域イベントなども、積極的に支援しているとのことですが
手塚
日本の競走馬の80%は日高地区で生産されており、この浦河町も軽種馬生産が盛んです。それにちなんで、町では有名な競走馬・シンザンにちなんだ「シンザンフェスティバル」というイベントを行っています。
これは、私の父達が、シンザンの銅像の下で馬の祭りをしようと始めたもので、今年で17回目になります。毎年8月の第一土日にメインイベントを行いますが、年間通して“ミス・シンザン”による浦河町のPRや、年明けに京都競馬場で行われるG2レース「シンザン記念」のプレゼンターなども務めています。
このフェスティバルの年間予算規模は約1,200万円ですが、私はその2代目財政委員長を務めています。初代は父親で、建設業者はいろいろな人脈があるものと期待され、親子2代に渡って資金集めの代表を務めているわけです(笑)。
――異業種への取り組みも行っているとのことですね
手塚
私の先祖は元来、福井県の農家でしたから、地域貢献として農業も行っています。今日、日本の農産物は外国品に押され、産業として成り立たなくなっています。そこで、日本の農業が生き残るためには、安全と品質というブランドを作り上げるしかないでしょう。建設業界は、比較的ネットワークが幅広く確立されている業界ですから、それを活用して農・林・水産業とタイアップしたらどうかと考えました。安全野菜を作り、北海道の農家から直接消費者に卸すシステムを作れないものかと考たのです。
我々建設業者が農業や漁業の人達と連携を図ろうとした場合、とかくその道の玄人からは「何も知らないくせに」と言われてしまいます。しかし、建設業者にとって、農業者や漁業者は他人ではないのです。建設業は、農業や漁業といった基幹産業があって初めて成り立っているのです。ですから、お互いに知恵を絞って協力し合わなければ、共倒れになって地域が潰れてしまうという自覚と危機感が必要だと思います。
そこで、私たちも農業をやってみようということになりました。化学肥料を使わない有機農法、馬糞を使った肥料作りから始めました。北海道の場合、春先は建設業は時間的余裕がありますから、空いている自社の機械、人を使って基盤整備を一気にやってしまい、流通は、くだものや野菜の卸に従事する友人に頼んで、農協を通さず、直接苫小牧などの市場に出荷してもらうことで、コスト削減を図っています。
今年はハウスでミニトマトとイチゴ、畑で小豆、ジャガイモ、かぼちゃを作ってみました。採算はミニトマト、小豆が良く、それ以外はあまり良くありません。イチゴの場合はすぐ熟してしまいますが、トマトは収穫してからすぐ出荷しなくても、熟すまで比較的時間があり、狭いスペースの中でもたくさんできます。小豆は地域の気候に合っており、植えてしまえば手はかからないのです
――建設業は厳しいから、農業へシフトするわけではないのですね
手塚
農業も厳しいということは十分認識しているつもりですから、これで生計を立てていけるとは思いません。建設業者は仕事が減って建設作業員が余るから、農業従事者にうまくソフトランディングできないかという議論がありますが、それはありえない話です。建設作業員の中には兼業農家もいますが、農業だけで食べていけないから建設業に参入するわけですから。
農業は、日本の食糧供給基地・北海道の再生のためにも必要です。私達が農業を行うことにより、建設業界として社会にアピールしたいと思います。建設業界は、自分達の利潤追求だけを考えているのではありません。地域の基幹産業があってこそ我々の仕事が成り立つわけですから、我々は一次産業に無関心ではいられません。我々も仲間に入れてほしい、ということです。
――業界としても受身ではなく、攻めの姿勢が必要ですね
手塚
建設業は公共事業を受注していますから、自治体などとのネットワークがあり、地域の諸事情についても熟知しています。従って、我々も大いに前向きな提案をしていきたいのですが、ともすれば、提案すればするほど墓穴を掘ってしまう。
例えば、マスコミや国民の目が厳しくなり、発注者と我々建設業者と協議をすること自体が悪だと見られています。倫理規定が布かれ、茶話会も会食も許されなくなりました。しかし、これは非常にくだらない風潮です。
事業遂行にあたっては、やはり、発注者・受注者が共に考えていかなければなりません。しかし、国民がそれを許さないのです。率直にお互いの意見交換ができる場がないことが、むしろ無駄な公共事業を増やす一つの原因にもなるのです。発注者と受注者の協議は癒着ではなく、むしろ大切なことなのだと言いたいですね。
――業界側としては、国民が納得できる説明が必要でしょう
手塚
日本全体が不況で失業者が増えている時に、北海道の建設作業員だけのために公共事業を計画して発注して欲しいという論理は、今日では通用しません。北海道の経済だけでなく、日本全体を考えなければなりません。
国の食糧自給率40%以上を確保するためにも、安全な食べ物を、安全な環境を国民みんなに供給するためにも、北海道の農業、林業、水産業やそれに関係する公共事業が必要なんだという議論をしなければなりませんね。

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