建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2003年2月号〉

interview

─胆振・日高地区の精鋭企業トップに聞く─

社員の生活も肩に感じながら経営することが大事

手作りによるISO取得で、社員教育にも効果

北紘建設(株) 代表取締役 笹山智市 氏

笹山 智市 ささやま・ちいち
昭和 31年 10月 17日生まれ、伊達市出身
昭和 55年 3月 北海道大学工学部 卒業
昭和 55年 4月 戸田建設株式会社 入社
昭和 57年 9月 戸田建設株式会社 退職
昭和 57年 10月 北紘建設株式会社 入社(総務部長)
昭和 60年 1月 北紘建設株式会社 専務取締役就任
平成 3年 1月 北紘建設株式会社 代表取締役就任 現在に至る
北紘建設椛纒\取締役である笹山智市氏は、2世社長でありながら、現会長が築いた経営基盤に安住せず、積極的に経営向上を目指して、手作りのISOや社員教育に取り組んできた。北海道伊達市の代表的建設業者として活躍する同氏に、今後の胆振西部地域のあり方や、2世社長としての理想的な姿を伺った。
――北紘建設の生い立ちは
笹山
昭和38年に創業し、平成15年で40周年になります。私の父親(現会長)が創業したのですが、父も以前、別の建設会社に務めていた経験があり、その経験を活かして、地域に根ざす建設業として、この地域の為に貢献したいと考え、会社を設立したのが始まりです。
地域貢献として、認められたのかどうか解りませんが、昨年には、雇用の改善に貢献した功績が認められ、厚生労働大臣より建設雇用改善優良事業所表彰を受賞しました。
――北海道では、該当は1社だけでしたね
笹山
今般の受賞で、私が一番嬉しかったのは、この表彰はまったく予想もしなかった、会社内部の地道な努力でしかなかったものだからです。40年にわたって、社業として継続してきた努力が認められ、評価された点が何よりも嬉しかったのです。
――昨年の4月には他社と合併したとのことですが
笹山
伊達市の日胆土木鰍ニ合併をしました。20年ほど前に、資本参加の要請があり、それ以来の関係が今日まで続いてきたので、今回、いよいよ合併することになりました。
――合併は、業界再編における一つのアクションですね。
笹山
我々の合併は、今後、懸念される受注機会の減少を見据えてのことであり、財務体質をより強固なものにしようという考えに基づくものです。日胆土木も、合併する以前は無借金で手形も発行していませんでした。もちろん当社もそうですが、そうした健全経営の会社同士の合併ですから、その点では非常に有望ですね。
――ISO取得についても積極的のようですね
笹山
平成11年にISO9002を取得しました。実は、その取得に1年8ヶ月を費やしています。理由は、手作りでISOに取り組んできたからです。私は、ISOの講習会に色々と出席した中で、これは、品質管理の上でも、また、社員教育に関しても非常に効果があると感じました。そこで、どうせ取得をするのであれば、手作りで取り組もうと考えたのです。
したがって、こうした手作りのISOによって、現場でも総務でも、社員ひとりひとりがそれを意識しながら行動し、社業に励んでいることが逆に伝わってきます。
――建設業界の今後については、どのように展望していますか
笹山
とにかく打開策が無い、難しい時期だと思います。私が常に感じているのは、まず社外よりも社内の自助努力を徹底させるべきだということです。私たちは現在、ISOを取得した中で毎日、内部コミュニケーションシートというものを、総務セクションと土木セクションとで交換しています。この意義は、社長である私自身が会社全体を十分に目配りできることです。その中で、北紘建設の経営理念に基づき、社員教育の徹底、人材育成をしていくことが必要だと思うのです。
これを徹底させて、利益率を向上させていくことが、業界再編以上に社内的にすべき事ですね。それが、各企業内で達成されて、初めて合併なども派生していくものだと思います。また、マイナスとマイナスが合併をしても、意味がありません。お互いに、技術が向上した上で、新たな再編を考えていかなければいけません。その一つが合併であり、協業化だと思います。
――社員に対して、日頃から訓示していることは
笹山
私は常々、管理という言葉を口にしています。これは、自分だけを自己管理するのではなく、役職のない新人でも作業員を抱えているわけですから、その彼らに対する管理=教育ということです。
それから、自分達は誰の為に働いているのかということです。会社の為に働いているのではなく、自分の生活を守る為に働いているということを、再認識して欲しいと伝えています。それが結果的に、会社の利益向上に繋がるのです。
これらの考えを、職員ひとりひとりが持ち、組織力の重要性を再認識することによって、会社は発展していくと思います。経営というのは、毎日の積み重ねです。常に、新鮮な気持ちで、翌日またその翌日へと、新しい明日を向かえ続けたいですね。
――ところで、有珠復興のエコミュージアムワークショップに積極的に参加をしているとのことですが
笹山
「エコミュージアム」(自然博物館)は、有珠山や洞爺湖などの地域の資源を新たに認識し、その資源を活かして、より魅力的なふるさと・地域を創造しようとする取り組みです。現在は、「レイクトピア21」推進協議会として、胆振西部の6市町村で取り組んでいます。
私もこの地域に生まれ育った人間ですから、この地域の発展を望んでいます。現在は、市町村レベルで進められていますが、これに対して我々がどう参加していくか。北紘建設としてでなく、噴火地域という特殊な地域の中の、一住民としてどのように参加していくかを考えねばなりません。しかし、個人で参加するのは非常に難しいので、npo法人の団体として参加することを検討しています。
――その立場から、これからの胆振西部はどうあるべきと考えますか
笹山
一人の伊達市民として感じることは、今後の最重要課題は、市町村合併だと思います。これをどれだけ成功させるかによって、今後の展開が見えてくると思います。特に今後、これはエコミュージアム構想にも繋がる話ですが、この構想の狙いは、噴火地域を一つの観光地として形成しようというものです。
その為には、広域的な行政は不可欠です。伊達市は伊達市、他町村は他町村というのではなく、広域的な考え方、発想が必要になります。したがって、胆振西部6市町村の広域的な行政を望みたいですね。また、最終的に全部の市町村が合併参加をしなくても、その中で連携を取りながら進めていく。これが今後の胆振西部地域が発展するキーワードになるものと思います。
――広域連携は、時間が掛かり、一長一短でなかなかいかないようです
笹山
机上の空論では、何も生まれません。例えば、私が会社経営で、今後の組織をどうしたら良いのか考えても、それを全く行動に移さなかったら、0です。逆に、それを行動に移すと100になります。ですから、0か100しかないのです。
私は今の合併に関する議論に関しても、同じ事が言えると思います。だから行動にどれだけ移していけるかが、今の行政に期待することです。
――それは建設業に関しても言えますね。役所からの受注を待つだけでなく、公共施設などの必要性を行政側に訴えることにより、新たな事業計画と建設需要が生じます
笹山
私たちも伊達市民の一人ですから、市民として何が必要なのか、この地域をどうしていきたいのか。それを提案し、発言する場がも欲しいと思います。現在は、市会議員が住民代表としてそれを行っていますが、実際に機能しているかどうかは、疑問を感じます。したがって、そういう意味で地域の行政改革も必要だと思います。
――今日は、公共事業は悪だというレッテルが貼られています。その論調に対抗するのは困難なのでは
笹山
今まさに、やり玉に挙げられている公共事業に携わる立場ですからね(苦笑)。しかし、本来の公共事業の必要性というものを、偏った考え方ではなく、公平な視点で評価して欲しいと思います。
地域にとって、インフラ整備は、まだまだ遅れているのです。特に、我々が住んでいるこの有珠山周辺の胆振西部地域は、どこから噴火するのか解らないわけですから、今後の噴火に対する危機管理を含めたインフラ整備というのは、必要不可欠ではないでしょうか。
――笹山氏は2代目ですが、最近は、2代目経営者についての苦言がよく聞かれます。笹山氏にとって、理想的な2世とは
笹山
今の2世社長は、親が作った会社の上に、あぐらをかいて、何の努力もしていないとの印象があります。逆に築き上げた遺産を食い潰して、倒産していく会社もあります。
私自身は、2世であることは、非常に恵まれていると境遇だと思います。それは、ある程度の経営基盤があるわけですから、一つの宝ですね。そしてその宝を、2世である宿命として、さらに磨いていかねばなりません。
確かに今日、公共事業は厳しい。しかし、厳しいなりに、経営内容を充実するなどの努力をするべきです。他の2世の人達は、はっきり言えば、社員と共に生きる努力が不足していると感じます。
中には、財務諸表を理解できない人もいたりします。これは、社長業を営む者にとっては、致命的なことです。建設業には、経審がありますから、否が応でも理解できなければ、社長業は務まりません。しかし、異業種には、解らない人が多いと感じますね。
――自分の会社を、もっと計数的に研究するべきですね
笹山
経営者として、守り抜かねばならない人々、つまり従業員をどれだけ抱えているのか、その責任を、もっと自分の肩に感じながら経営をして欲しいものです。私としては毎日、社員と具体的なコミュニケーションを図ったり、その中でどれだけミスを少なくするか、無駄を省くかを考えています。これが利益に繋がるわけですから、その努力はしてきているつもりです。しかし、その様子は、他業種の2世経営者の方にはあまり見受けられない。
確かに、会社を変えていくのは、苦しい課題だと思います。苦しい作業ですが、それをやり遂げることは、明日の自分の会社の成長に繋がるはずです。また、そういう会社の集まりが、やはり良いマチをつくる条件だと思います。確かに、経営者の責任というのは、非常に大きいと思います。それは会社の大きさ規模に関わりません。
この北紘建設も、関連会社を含めて雇用している人間は、約100名おり、家族を含めれば300人ほどになります。その全てが、私の肩に掛かっていると思えば、責任は大きいですね。

HOME