建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ1999年2月号〉

interview

経営者のセンスで合理化と増収策を遂行

四島返還で「日出ずるマチ」に

北海道根室市長 藤原 弘 氏

藤原 弘 ふじわら・ひろし
昭和11年11月16日生まれ、東京都出身、北大水産学部卒。。
昭和 34年 道庁に入庁
52年 水産部漁政課組合係長
55年 後志支庁水産課長
56年 水産部漁政課長補佐
58年 同漁業経営対策室参事
60年 同漁政課長
61年 同技監兼漁業経営対策室長
63年 水産部技監
平成 元年 根室支庁長
3年 水産部長
6年 道庁を退職
6年 北海道栽培漁業振興公社会長代行
9年 北海道漁業信用基金協会副理事長
10年 根室市長選に初当選
昨年の市長選で、元北海道水産部長だった藤原弘氏が、現職を5,000票差という大差で敗り、初当選した。水産のマチ・根室市は、水産業の低迷で財政が緊急事態になり、市立病院も経営難で、市財政圧迫の要因ともなっている。まさに渦中に飛び込む格好だが、新しい根室市を切り拓くべく藤原市長は大胆な変革を実現しようとしている。また、根室といえば北方四島の玄関であり、返還の受け皿でもある。下田条約以来の長い政治的課題に、根室市としてはどんな役回りを演ずべきか。新任の藤原市長に市政と四島問題などについて語ってもらった。
――藤原市政がスタートしましたが、職員には戸惑いもあるのでは。初登庁し、職員と相対して最初にしたことは
藤原
私は昨年9月29日に就任しましたが、その際、私が何を考えているかを職員にお話ししました。そして、一日も早くその考えに沿って職務を進めるよう、かなり長い時間にわたって訓示しました。さらに、それを地元の釧路新聞と根室新聞に全文掲載してもらいました。その後、第三回定例市議会では所信表明として発表しました。
――どんな内容ですか
藤原
基本は「市政の変革」で、見直すべきものは見直し、事業の取捨選択を行い、新たな発想のもとに出発しなければならないということに尽きます。
先の選挙で、私が5千票の差をもって現職に勝てたのは、根室市民が市政の変革を求めているからです。したがって、市民が主役の市民参加型の市政を推進しなければなりません。市民の視点に立って行政を進めることが重要です。勇気と決断を持って見直すべきことは見直すつもりです。
ですから、初登庁で決まって見られる慣例として、新市長が整列した職員に出迎えられ、女子職員から花束の贈呈を受けるというシーンがありますが、そうした無意味なことは止めることにしました。また、出張の際には、付き人が鞄を持って同行したりしますが、特に必要ない場合は単独で行動することにしました。
――庁内における体制づくりも、就任直後の課題と思いますが、これについてどのようにお考えですか
藤原
まず助役、収入役、教育長の特別職人事の選任同意を議会に求めました。教育長には、現職の中学校長を起用しました。助役には常勤監査委員の一条氏にお願いし、後任の常勤監査委員は非常勤として、専門的な知識と権能を持つ根室市の税理士の方にお願いしました。
職員については、北海道保健福祉部の課長補佐を企画振興部長に迎えました。一般職はごく小規模な人事にとどめましたが、来春に向けて組織機構の見直しを実施する予定です。
その中でも重要なのは、企画振興部門の強化と市立病院の再建体制の確立です。病院の経営再建に関しては、庁内に専掌のプロジェクトチームを発足させたところです。
――公立病院の経営難は、確かにどこの自治体にも共通した悩みのようです
藤原
根室市も例外ではなく、最大の懸案事項は市立病院経営の問題です。病院の収支を見ると、医療収入28億円に対して支出が39億円。不足分の内、約8億円を、およそ190億円の一般会計から繰り入れているのが現状です。
――原因は何でしょうか
藤原
主な原因は、診療科目が充実していないため、大手術を要する重傷の患者さんなどが、釧路市内の病院に流出していることです。
現在、根室市立病院には、20名の医師が勤務していますが、うち 7名は短期出張医で、母体は東京医科大学なのです。
短期出張医は2〜3か月ごとに交代します。週末に来て2日くらい診療して帰るという勤務体制になるため、出張費用などの経費がかかっています。このため、再建には短期出張医の解消がまず先決で、東京医科大学には引き続き支援を求めていくとともに、今後も道内の大学にも協力をお願いしようと考えています。
その他、経営安定策を先に述べた庁内のプロジェクトチームで検討させていますが、ハード面では病院の新築も視野に入れていかなければならないと思っています。市民の要望が最も高い分野ですから、安心して病院にかかり治療していただけるよう診療体制の充実を図らなければなりません。
もちろん、出来ることは直ちに手を着けました。市立病院の壁を塗り替え、照明も取り替えました。
――財政問題もかなり深刻のようですね。昨年は国、道の補助を返上せざるを得ない状況になったようですが
藤原
その通りで、根室市の財政再建も大きな課題です。経常収支比率、起債制限比率などは非常に悪い。なおかつ総合計画も、財政事情がひっ迫しているということで先送りしてきています。「入りを計って出ずるを制する」という言葉がありますが、市税収入がすでに30億円を下回り、年々下がっています。反面、支出はますます増えています。
そのため市民には申し訳ないのですが、どこかで事業の中止や延長を決断しなければなりません。さもなければ、財源不足は平成11年度で8億6千万円、12年度には12億から14億円に膨らみます。
――経営者感覚での思い切った合理化と同時に、増収策も必要ですね
藤原
そうです。例えば市税の滞納整理も力を入れていますが、ただ、徴収額と徴収経費とのバランスを考えなければなりません。全国670市について調査してみると、例えば100円の市税を徴収するのにかかる徴収経費の全国平均は4円50銭ですが、高知市は17円もかかっており、全国ワースト1であり、逆にベスト1は大宮市で1円50銭です。このような差は当然財政に現れてくるわけですから職員自身がコスト意識を持つことが必要です。
一方、市立病院わきの鳴海町通りは、舗装工事が完了し道路としての機能は整備されています。今後は、さらに拡幅と歩道整備が計画されていますが、この事業はストップする方針で関係住民への説明会を開催し、納得していただいたところです。また、運動公園の予定地は谷底のような地形ですが、現在の計画に基づき、これの整備を進めていくと相当な整備費がかかりますし、適地ではないと思いますので、12年度以降は見直すことにしています。
町内会館建設も、前政権から住民に約束している事業でしたが、財政調整基金が底をついていることなど、財政状況の真実を十分に説明して、その事業の進め方等について市民の理解を求めます。
大矢市政の下で実施してきた継続事業の大部分は継承しなければならないのですが、しかし継続しても、根室市のためにならない事業については、思いきって中断、中止しなければなりません。
周囲からは「大変な時期に市長になったものだ」と言われます。私自身は、アイデアやプランをたくさん持って就任したのですが、いまの財政状況では非常に厳しい。
しかし、だからといって単に緊縮財政だけというのでは、誰が市長になっても同じです。肝心なことは、メリハリを付けることなのです。
そこで、緊縮財政とともに税収の増大策としては、基幹産業の漁業と水産加工業関係のシェアが意外と少ないので、今後は産業全体の振興をさらに図ることです。任期中の2、3年は超緊縮財政にならざるを得ませんが、私としては、産業振興に結び付く事業には積極的に取り組む考えです。
例えば、重要港湾である花咲港区のサンマ船は、秋の最盛期には1日の水揚げが1,300tにもなり、港内は漁船で混雑して陸揚げに時間がかかることから、最後のセリが午後にずれ込むことがあります。そこで、西防波堤の境壁を削って道路とし、係船柱を設置する港湾整備事業はぜひ実現したいものです。
また、「根室に何か観光資源を造って欲しい」と、経済界から言われていますので、カニの水族館整備を検討しています。
根室市は近年、ロシアからの輸入が急激に伸びており、特に、カニの市況が良好です。しかも、全体の7〜8割は活カニです。したがって、生きたカニが見られる水族館は、根室に最適の企画と思っています。
この水族館で、タラバガニ、花咲ガニ、ズワイガニ、毛ガニ、日本最大のタカアシガニなどを展示する方針ですが、学術的な水族館ではなく、観光的な施設にしたいと考えており、現在、様々な参考資料を取り寄せながら施設の在り方を研究しているところです。
財政難の折ですが、生産に結び付く事業であれば無理をしてでも取り組むつもりです。
――さて、根室市といえば、北方領土問題における中心地という国際的な立場があります。この問題には、どのように取り組んでいきますか
藤原
これは私の選挙活動でも訴えたことですが、根室は全国的にも元島民が多いので、言うまでもなく私も返還運動を一生懸命やりますが、人的・物的交流の拠点として、さらに四島開発の拠点として根室を位置付けていくことが必要だと考えています。
例えば、今後、進められるであろう共同経済活動のインフラ整備に際しては、必ず花咲港湾を使ってもらうとか、四島問題における根室市の存在感を高める必要があるでしょう。
そこで、相互に漁業の安全操業を確保した上で、四島の沿岸漁場開発には積極的に取り組みたいと考えています。また、昨年サハリンへ訪問した際の北海道とサハリン州経済会議分科会「領土・水産会議」では、貝殻島コンブの漁獲量が減少しているので、その原因となる雑海草類の駆除をさせて欲しいとの要望を提示しました。
ただロシアとの交流においては、経済交流が先行し過ぎて、返還問題という政治(主権)問題が置き去りにならないよう警戒することも必要です。
――小渕内閣がスタートする時に、小渕総理は景気対策と日ロ平和条約の締結を2大重要政策として掲げていました。昨年はその第一歩ともいうべき小渕-エリツィン会談も行われましたが、わが国の対ロ外交と今後の展望をどう見ていますか
藤原
小淵首相が訪ロした後、首相官邸に出向き総理にお会いした際、総理は「大役を担って訪ロし、交渉に臨んだが、一刀両断というわけにはいかなかった。皆さんには申し訳ない面もあります」と発言されていました。
しかし今後、平和条約の締結に向けて、国境画定委員会並びに共同経済活動委員会を設置して次官級の協議が行われる予定です。現地にいる私たちとしては、これを「一歩前進」と受け止めていますが、旧島民の人々はもっと具体的なものを期待していたようで、関係者の間に多少の温度差はあるようです。
しかし、新聞報道されましたが、ロシアのパノフ駐日大使が返還問題について、平和条約に明記はするが、詳細についてはさらに別の条約で締結することになるだろうと発言したのは、注目すべきことです。実は、このようなことがあってはならないと思っています。
それまでの間に領土返還問題は、全国レベルでもっともっと世論を喚起していく必要があります。何もメリハリがない中では、盛り上げる決め手に欠けるかも知れませんが、締結年の2000年はひとつの区切りとなりますから、それを目前に控えた今こそが絶好のチャンスです。
そこで根室市としては、四島交流や返還の窓口であるという市民の自覚と、返還に向けての民意を高めるため、電光掲示塔を設置し、2000年の日ロ平和条約締結までの日数をカウントダウンするという事業を実施中です。そして、その塔に掲載されるキャッチフレーズは、「北方領土の返還を願い、日出ずる国」です。テレビの報道番組を見ていた人は、ピンとくるはずですね(笑)。

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