〈建設グラフ2001年2・3月号〉

interview

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デュアルアリーナの札幌ドーム「Hiroba」が完成間近

野球とサッカーを両立させた世界初のドーム

株式会社札幌ドーム社長 札幌市長 桂 信雄 氏

桂 信雄 かつら・のぶお
1930年(昭和5年) 札幌市生まれ、北大法経卒。
1953年(  28年) 市役所入庁
1972年(  47年) 北区長
1975年(  50年) 企画調整局長
1979年(  54年) 教育長
1983年(  58年) 助役
1991年(平成3年) 4月 札幌市長に初当選
1999年(  11年) 4月 3選を果たす
札幌ドーム「hiroba」の完成が近づいてきた。400億円を越える大規模プロジェクトであり、事業主体となる札幌市では、経済界や北海道のバックアップも得て1998年に着工した。屋外・屋内2つのアリーナ(デュアルアリーナ)が向かい合うユニークなフォルムは、他のドームには見られないものだ。運営会社の株式会社札幌ドーム社長でもある桂信雄札幌市長に、ドームのセールスポイントなどを伺った。
――いよいよ札幌ドームの完成が近づき、遠くからもその偉容が見られるようになりましたね
そうですね。札幌ドームは、4万席を超える観客席を有する大規模全天候型多目的ドームです。本格的な大規模ドームとしては国内では、東京・福岡・ナゴヤ・大阪に次いで5番目となります。
愛称『Hiroba』は、1999年3月に7,722件の応募の中から選ばれたもので、人々が集う場所という意味に着目して、たくさんの人々がドラマに酔い、心を通わせる場所、世界中の人達の夢と感動の「hiroba」となることを願って名付けられたものです。
 シンボルマークは、2つの顔を持つデュアルアリーナをイメージしたフォルムに、降りそそぐ「夢」と「感動の記録」をあしらったものです。基本カラーは、広いドームのなかをわたる爽やかな風をイメージするブルーを使用しました。
――施設の特徴はどんなところにありますか
客席数は、野球の場合約41,300席と、東京ドームに次いで2番目の規模となります。また、空間の大きさは福岡ドームに次ぐ2番目の大きさで、これは東京ドームがスッポリと収まるほどの大きさです。敷地は約31ヘクタールもあり、全国一の広さですから、まさに雄大な北海道に相応しいビッグスケールといえます。
しかし、何よりも札幌ドームが2002年のFIFAワールドカップ大会会場のひとつに選ばれていることは世界最先端の技術を集めたドームと札幌の街を世界にprする大きなチャンスです。日本国内では宮城県、茨城県、埼玉県、横浜市、新潟県、静岡県、大阪市、神戸市、大分県が選ばれていますが、ドームが会場となるのは札幌だけです。
このほか、プロ野球やjリーグなどのスポーツイベントをはじめ、コンサートや展示会など様々なビッグイベントが開催できます。
――ワールドカップをはじめ、これまで市民・道民が体験したことのないビッグイベントが夢と感動を与えてくれそうですね。ところで、札幌ドームが最終的に現在の方式に決定した経緯についてお聞かせ下さい。
1992年7月の市議会で、まず、2002年FIFAワールドカッブ大会の札幌市への招致が全会一致で決議され、日本招致委員会に立候補しました。1996年1月には会場整備に当たって、サッカーのみならずプロ野球やコンサートなど多目的な利用が可能なドームとする基本方針を決定しました。
そして同年5月に、2002年FIFAワールドカップ大会の日韓同時開催が決定し、12月に札幌市が正式に開催地として決定しました。
これを受けて、1997年2月にドームの設計技術提案コンペを行い、9グループから応募がありましたが、そのなかから東大名誉教授で京都駅ビルなどを手がけた実績を持つ、著名な建築家である原広司グループの案が採用されました。
 そして、6月に農林水産省北毎道農業試験場用地の一部を取得して、実施設計を行い、1998年6月に着工となったのです。こうしていよいよ、21世紀幕開けの年である2001年5月末には竣工し、6月のオープンを予定しています。
――会場整備に当たっては、ドームとするのかオープン型のスタジアムにするか、つまり屋根を設けるか否かで論議がありましたね
屋根を設けるかどうかで、総工費はおよそ100億円ほども違ってきます。経済界の熱心な要望と協力、そして北海道からの支援も得ることができたので、ドームとすることを決断したわけです。
積雪寒冷地である札幌としては、全天候型であることのメリットは図り知れません。ドームとしたのは、やはり良かったのだと思います。
――先にも触れましたが、敷地面積が全国最大というのも、雄大な北海道らしいですね
何しろ、31ヘクタールもありますから。現地の状況は、北側に国道36号、南側は羊が丘通、西側は福住桑園通、そして東側は農業試験場と隣接し、白旗山から連続する自然豊かな地形を構成しています。また、北西方向は商業、住宅地域となっています。
そうした地勢や風致地区に指定されているといったことも踏まえて、「ガードニング(庭づくり)」という設計コンセプトに基づき、敷地内には、約8,000本もの樹木を植栽し、その中に散策路をめぐらせ、随所に「コンパウンドアート」と呼ばれる木々に囲まれたベンチやあずまやを配置しています。まさに札幌ならではの豊かな緑に囲まれた環境を創出しています。
また、自然豊かな丘陵地帯の北端に位置し、敷地が羊ヶ丘通側から北の国道側にかけて、ゆるやかに傾斜しています。このため、入場口のある1階は国道36号より約12mも高くなっています。
 周囲には、北海道ならではの田園風景が展開していますので、自然と都市機能の調和を目指した「スポーツの庭」というイメージがコンセプトに含まれます。これはまさに、北海道だからこそ実現できたものといえるでしょう
――ドームの形状を見ると、実に個性的ですね
屋根のある「クローズドアリーナ」と屋根のない「オープンアリーナ」が向かい合って「デュアルアリーナ」を構成しています。これは他のドームには見られないユニークな形で、ホヴァリングサッカーステージは、このデュアルアリーナの間を移動します。
クローズドアリーナは地上4階地下2階建てで、アリーナの床面を地下2階レベルまで掘り下げ、1階よりも10mほど低くすることにより、ドームの見かけ上の高さを押さえ、周辺の自然景観との調和を図っています。
――ドーム内外の施設には、どんなものがありますか
客席スタンドは、観戦がしやすく安全性に優れたすり鉢状の「一層式シングルスロープスタンド」を採用しています。観客同士の一体感が生まれやすいといわれています。こうしたダイナミックな空間構成となっていますから、ここで巻き起こるウェーブは壮観でしょう。
また、サッカーの練習場もあります。オープンアリーナの東側に2面あり、市民の方々が利用できます。このうち1面は、北海道初のサッカー用人工芝を使用しています。
トレーニング室は、ワールドカップ開催時にプレスセンターとして使用する部屋を、大会終了後に改修し、アスレチック器具を備えて整備する予定です。
展望台は、イベントのない日もできるだけ多くのお客様に来ていただき、ドームのスケールの大きさや周囲の眺望を楽しんでもらおうと、国内ドームでは初めて設置するものです。
ドーム内3階から空中エスカレーターで上るこの展望台は、札幌市街地方向に向かって屋根から突き出た形となり、約190人が収容可能です。アリーナ面からの高さは約53m、ドーム内をほぼ真上から見下ろすことができるほか、札幌市街をほぼ一望でき、晴れた日には遥か石狩湾までもが眺望できます。
また、普段見ることのできないブルペンや選手更衣室など、ドームの裏側を専属のガイドが案内するドーム見学ツアーも体験できます。
さらに、クローズドアリーナの国道36号側に隣接して、長さ約150mのガラスシェルターに覆われた明るい開放的な通年営業のレストラン・ショッピングゾーンを設けます。ここにはオリジナルグッズを販売するドームショップや、レストラン、カフェ、展望台へのロビーなどができます。
 ドーム内3階には、クローズドアリーナ、オープンアリーナの両方が見渡せる通年営業の展望レストラン(アリーナビューレストラン)を設置します。ここでは、イベントを眺めながら食事を楽しむこともできます。このほか、1階コンコースには13店舗のファーストフードなどの売店もできますが、これはイベント時のみの営業となります。
――交通アクセスはどのようになっているのでしょう
地下鉄福住駅からドーム敷地まで約500m、徒歩で約10分です。札幌都心から行く場合は、地下鉄東豊線で大通駅から福住駅まで約11分、タクシーで約25分。新千歳空港からは、バスで高速道路と国道36号を利用した場合、福住駅まで約40〜50分、jrと地下鉄を乗り継いで行くなら1時間弱くらいです。
なお、ドームヘのアクセスとして、中心となる交通機関は地下鉄で、4万人規模のイベントの場合、半分の約2万人の地下鉄利用客を想定しています。その他、大型イベント時には、地下鉄南北線真駒内駅、平岸駅、東西線南郷18丁目駅、jr白石駅とドームを結ぶシャトルバスの運行を予定しています。。
 また、車両関係施設として、羊ヶ丘通からの進入路を整備するほかに、バスターミナル24バースと、一般車駐車場は約1,700台分を設置します。     

(後編)

6月2日の札幌ドームオープンにむけ、関係者の動きがますます活発になってきた。注目されているのは、オープン後の稼働状況。どれくらいのイベント開催が見込めるかに関心が持たれている。また、どのようなイベントに対応できる施設なのかも重要だ。「ドーム経営に失敗は許されない」と背水の陣を敷いて望む桂信雄市長は、ドームのprに積極的に力を入れており、施設の多機能な性能などについてアピールしてくれた。
――札幌ドームについては、稼働率や運営も注目されていますね
札幌ドームは、全国で初めての公設民営による大規模ドームとなります。施設は札幌市が公共施設として建設し、運営は1998年10月に設立した株式会社札幌ドームが担当します。
この会社は、市が55%、残る45%は道内外の大手企業が出資して設立した第3セクターです。
札幌ドーム最大の特徴は、世界で初めてサッカーと野球の両立を可能にしたことです。国内最大級の規模の観客収容力を有し、しかも季節や天候に左右されずに様々なビッグイベントを楽しむことができます。2002年6月には道内で初めてプロ野球の開催も決定しています。
野球で使用する時には、人工芝をアリーナ床に敷きつめて使用します。両翼100m、センターは122mあり、プ口野球のほか、全道大会規模のアマチュア大会や、時間制によって市民の草野球利用も可能です。
またサッカーの場合は、外のオープンアリーナにある、天然芝のサッカーステージをクローズドアリーナの中に移動します。これは、空気圧を利用してサッカーステージを移動させる世界初のシステムです。客席4万席以上、客席の2/3以上に屋根を設けるというワールドカップのFIFA基準はもちろんクリアーしていますが、観客席とピッチとの距離が比較的近いので、サッカー専用のスタジアムに近い臨場感が得られます。
コンサートなどでは、ドームツアークラスの大規模なコンサートの開催も可能で、2万席、3万席、4万席と、多様なセッティングが可能となっています。コンサート時に必要な、完全な暗転も電動の遮光口ールカーテンにより実現しました。
展示会・貸本市・集会などについては、アリーナの床面積が道内最大の14,460m2もあり、オープンアリーナとの連結部分(インターセクション)も加えると、17,800m2にまで拡大できます。さらにはオープンアリーナとの、連続使用も可能です。
しかもアリーナ面は、工夫次第で様々なアレンジが可能で、スタンド席を利用すれば、各種大会、学会、総会などのコンベンションにも対応できる構造となっていますから、コンベンション主催者にとっても使い勝手は非常に良いものになると自負しています。
もちろん、最近、若者を中心に人気が高まっているプロレスや、k1など格闘技の開催も可能で、アリーナ面も使用すれば、最大で5万人以上もの収容が可能です。
――様々な展開と発展性を秘めていますね。イベントのない時のドームの利用や駐車場の料金については、どのようになっていますか
イベントがない場合には、床が人工芝の状態で一般市民に2時間20万円で草野球などの時間貸しを予定しています。練習試合などの場合は、例えば20人で利用されると一人約1万円の負担となります。
また、展望台の利用については、大人1人500円で、羊ケ丘展望台と同額です。
さらに選手のロッカールームやブルペンなど、ドームの裏側を専属のガイドが案内するドームツアーは、大人1,000円。いずれもイベントがない日に実施を予定しています。
駐車場は、プ口野球など来場者が一定の時間帯に集中するイベントの場合、完全予約制を予定しています。その場合、1回1台2,500円を予定しています。この料金は札幌市内郊外から大人2人子供1人の家族が地下鉄とバスを乗り継いでドームを往復する場合とほぼ同額に設定しています。
展示会など来場者が分散するイベント時や、イベントの無い時は2時間まで300円としています。
何しろ、事業費は設計費から外構工事費までも含めて422億円、この他に用地取得費として115億円を投じていますから、稼働せずに眠らせるわけにはいきません。これからもprや営業活動などに知恵を集め、工夫をこらしながら、有効に活用していく方針です。
――オープニングのセレモニーは
今年5月に竣工、6月2日のオープンを予定していますが、当日のオープニングセレモニーは「夢の実現」をコンセプトにドームならではの広い空間や高さを効果的に演出し、ドーム誕生を楽しく表現したいと考えています。オープン後は、多目的施設の特徴を活かし、様々なジャンルのイベントをオープニングシリーズとして展開する予定です。
また、市民の皆さんには、ぜひ期待していただきたいし、また大いに活用もしてもらいたいと思っています。

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