建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年12月号〉

interview

たくましく生きる力を養う教育を

学力向上フロンティア事業でゆとり教育に対応

北海道教育委員会教育長 相馬秋夫 氏

相馬 道夫 そうま・あきお
生年月日  昭和19年2月18日
出身地  北海道帯広市
最終学歴  北海道大学法学部(昭和41年3月卒)
昭和 41年 4月 北海道職員採用 
昭和 62年 6月 総務部人事課長補佐
平成 元年 4月 空知支庁地方部長
平成 3年 5月 総務部知事室参事
平成 5年 4月  〃 人事課長 
平成 7年 6月  〃 次長
平成 9年 6月  〃 職員監
平成 11年 5月 網走支庁長
平成 12年 4月 建設部長
平成 13年 4月 総合企画部長
平成 14年 6月 現職
ゆとり教育が提唱され、学校週5日制が公立学校に導入された。しかし、社会は高度化と複雑化が進む一方、少子高齢化も進んでいる。さらに情報化の進展で、国際社会も身近なものとなっている。そうした環境の変化の中にあって、21世紀の北海道を担う上では、どんな人材が必要か。また、どんな教育と教育施設が必要なのか。相馬秋夫北海道教育委員会教育長に見解を伺った。
──教育長へ就任して半年間が経過しました。教育改革の推進で、教育行政は岐路に立たされていますが、その執行責任者としての実感・感想などは
相馬
確かに、教育長に就任してから早くも半年が経ちました。この間、国や市町村教育委員会の方々、校長会代表の方々、生涯学習や文化・スポーツ関係者、大学の関係者など、多くの人々のお話を伺ったり、地域に出向き、地域の文化財を拝見したり、学校の教職員や児童生徒の皆さんとも、直接お話しをする機会を得ました。
そうした経験を通じて、教育に携わる方々の、教育の充実に向けた熱意や真摯な姿勢に接することができ、教育というものの幅の広さ、転じて教育長としての責任の重さを改めて痛感させられました。
訪問したある小学校では、地域の方々が校舎を70年近くにわたって、文化財として大切に保存し、今もなお活用されていることに深い感銘を受けました。また、へき地の小規模小学校を訪問し、複式授業を参観したときには、自然の中で、家庭や地域がともに学校を支えようとする雰囲気がそこから感じられ、いきいきと楽しそうに学習する児童や、保護者、地域の方々に信頼され、熱心に指導される先生方の姿に接して、改めて地域ぐるみで教育を支えることの大切さを実感したところです。
就任当時に、私は、一人一人の子どもたちが、いきいきとたくましく、心豊かに成長していくことが、保護者や地域の方々だけではなく、全道民の願いであり、学校、家庭、地域がそれぞれの役割・機能を補い、力を合わせて子どもを育てることが重要だと話しました。これまでの視察経験から、その思いはさらに強くなりました。
今後とも学校や関係機関、団体などとの信頼関係の中で、連携協力しながら、本道教育の振興、充実に努めていきたいと思っています。
──北海道の教育の目指す姿、理念、方向性とはどんなものでしょうか
相馬
本道には、優れた自然や特色ある気候・風土、開放的で、自由を尊ぶ気風などがあります。こうした特性を生かし、人々が生涯にわたっていきいきと学び続けることができるのが理想です。このため、道教委では、21世紀の北海道教育長期プラン(第3次北海道教育長期総合計画h10〜19)において、「心豊かに学び新世紀のふるさとを拓く人を育む」を基本理念に掲げ、この基本理念の実現に向けて、二つの基本姿勢を定めています。
一つは、北海道の恵まれた自然環境や地理的条件を生かし、豊かな人間性をもち、心身ともに健康で、激しい社会の変化にも柔軟に対応できる資質と能力を身に付けた「“たくましく生きる力”をもつ人の育成」を積極的に進めることです。
そして、そうしたたくましく生きる力を育成するために、二つ目としては、子どもたちや学校、家庭、地域社会を含めた社会全体が、時間的にも空間的にも、また精神的にもゆとりをもつことが重要であり、子どもから大人まで、だれもが、いつでも、どこでも学ぶことができる「“ゆとりとうるおい”のある学びの環境づくり」を積極的に進めることです。
この基本理念と基本姿勢に基づき、具体的には四つの理想像を「北海道教育のめざす姿」としています。四つとは、1活力ある生涯学習社会の構築、2豊かな人間性の育成、3社会の変化に柔軟に対応する人材の育成、つまり国際化への対応、情報化・科学技術の発展への対応、環境問題への対応です。そして最後は、4地域を創る教育・文化・スポーツの振興充実、つまり初等中等教育の充実、高等教育の充実、社会教育の充実、文化の振興、スポーツの拡大、ということです。
21世紀の社会を展望し、新しい世紀を拓く、創造性あふれる北海道を創りあげていくためには、私は教育の果たす役割は極めて大きいものと認識しており、今後とも本道教育を計画的・総合的に推進するため、この北海道教育長期総合計画に基づき、各施策を着実に展開していきます。
──文部科学省がゆとり教育を提唱しましたが、一方では学力低下が懸念されています。これにどう対処しますか
相馬
完全学校週5日制の実施や、新しい学習指導要領において、教育内容の厳選や授業時数の削減などが行われたため、確かに保護者らからは、子どもたちの学力が低下するのではないかと懸念する声が上がっています。
これについては、それらの声をしっかりと受け止め、各学校において生徒が知識や技能を身に付け、活用する力や問題を解決し、自分で道を切り拓いて行くための「確かな学力」を身に付けていけるよう、積極的に取り組んで行く必要があると考えています。
道教委では、各学校の学力向上に向けた取り組みを支援する観点から、今年度からはティームティーチングや、少人数指導などの充実を図るとともに、新たに「個」に応じた指導方法の実践的な研究を行う「学力向上フロンティア事業」などに取り組んでいます。
今後、こうした取り組み結果や成果などを生かし、各教育委員会、学校、さらに関係団体などと連携して、学力面においても、心の教育においてもその充実が図られるよう努めていきます。
──最近、病院施設では、患者の治癒力を高める院内環境の整備が目標とされています。同様にして、教育効果を高めるための学校施設の整備というものも考えられると思います
相馬
学校施設は、児童・生徒の学習、そして豊かな人間性を育む場として、極めて重要な空間です。常に児童生徒の立場に立って、地域材の活用による柔らかで、温かみと潤いのある教育環境づくりのために、木材の利用を進めており、道立学校では校舎床面積の60%に相当する木材の使用に努めています。小中学校についても、道立学校の利用伏況を踏まえて、木材の利用を高めるよう市町村に働きかけることにしています。
また、学校は公共施設の中でも大きな敷地を有していることから、その緑環境は学校のみならず、周辺地域や市街地に与える影響も大きく、また、豊かな緑環境に対する社会的二ーズも高まっています。そのため、校地内に残されている自然や緑をできる限り保全していくとともに、樹木、草木による学校緑化面積を、校地の20%は確保することにしています。
そして、人間性豊かな児童・生徒の育成のため、校舎は画一的とならないように、地域の風土や環境、周辺の景観と学校施設との調和を図りながら創意工夫する、いわゆる「文化的味つけ」に努めています。
一方、学校施設のバリアフリー化も重要です。学校開放を積極的に進める観点から、高齢者や障害のある人に配慮した施設を整備することにし、玄関スロープ、障害者用トイレ、エレベータなどの設置を推進しています。
スポーツ振興を支えるためには、冬期間の体育館暖房も必要です。冬期間の学校における体育活動や諸行事を円滑に行うため、遠赤外線方式による屋内体育館の暖房化を推進しています。
──道民の生涯学習を充実させるために、関連施設をどのように有効活用しますか
相馬
平成2年の中央教育審議会答申「生涯学習の基盤整備について」において、生涯学習は学校や社会の中で意図的、組織的に行われる学習活動だけではなく、人々のスポーツ活動、文化活動、趣味、レクリエーション活動、ボランティア活動などの中でも行われるものである」と、幅広く定義されています。
今日では、学校や民間のカルチャーセンターなども含め、様々な施設で地域の方々のために多様な学習機会が提供されており、それが、生涯学習推進のための重要な場となっています。例えば、道内にある67の大学・短期大学・高等専門学校における公開講座の開設状況を見ても、平成13年度の実施講座数は、前年度よりも71講座多く、390講座で、受講者数も786人増えて、25,598人となっています。このように高等教育機関の積極的な講座開設によって、道民の生涯学習への取り組みが年々活発になってきていることがわかります。
こうした情勢から、道教委では、専門的で多様な道民の学習二ーズに応えていくために、知事を学長とする「道民カレッジ」を開講しました。これは、従来の社会教育に限定せず、生涯にわたる学習活動の総合的な推進を図るための生涯学習推進の拠点施設として、昨年4月に道立社会教育総合センターを「生涯学習推進センター」に改称・改組し、学ぶ意思のある道民全てを対象に、地域の課題解決や個々人の能力を高める学習の機会を広げ、産・学・官の連携・協働を促進する総合的な生涯学習支援システムです。
この道民カレッジでは、「北海道の人づくり、地域づくり」をテーマに、道内の市町村の事例を取り入れながら、大学と北海道放送の協力の下、6回の大学放送講座を放映するとともに、それをさらに深めた学習ができるよう、ご指導をいただいた講師に市町村の生涯学習関連施設に直接出向いていただき、スクーリングも実施します。
また、大学や専修各種学校の公開講座、市町村の講座、研究機関等の講座のうち、322講座の情報を「ほっかいどう学」、「能力開発」、「環境生活」、「健康・スポーツ」、「教養」の5コースに分け、ガイドブックやホームページなどで提供しています。
──スポーツ振興策の今後の方向性と、関連施設の整備については、どう考えていますか
相馬
本道のスポーツを振興していくためには、スポーツに親しめる環境づくり、夢と感動をあたえる強い競技スポーツ、スポーツ活動の基盤づくりなど、中心となるテーマがいくつかあると思います。その一方、「だれもが、いつでも、どこでもスポーツに親しむことができるような生涯スポーツ社会の実現」も、大きな目標となっており、そのための新たな取り組みとして、地域の方々が主体となって創設・運営し、様々な年代の人が複数のスポーツを楽しめる総合型地域スポーツクラブの育成や、それを支援するセンター機能の充実が重要です。
現在、道内では18市町で、総合型地域スポーツクラブが創設されていますが、今後とも普及・啓発や人材育成を進めながら、こうした取り組みを促進するとともに、施設整備に関する各種補助制度の活用の奨励なども含め、スポーツ環境の整備促進に努めていきたいと思っています。
──今年は、スポーツに関するトピックの多い年でしたね
相馬
確かに今年は、プロ野球日本ハム球団の本拠地の札幌移転決定、史上初の日韓共同開催となったワールドカップサッカーが、本道で3試合開催されるなど、話題の多い年でした。9月末には「北海道スポーツフェスタ」が盛大に開催され、北海道スポーツの祭典として、道民の話題を集めたところです。
それだけでなく、学校スポーツにおいても生徒さん達の活躍が目立った年でもありました。上磯中学校の生徒さんが、全国中体連陸上大会で百メートル、二百メートル、四百メートルリレーで優勝するという快挙を成し遂げたほか、音更高校一年生の女子生徒さんが、全国高校定時制通信制剣道大会で、女子として初優勝。また同バドミントン大会では、有朋高校(単位制)が団体で男女アベック優勝、さらに全国高校総合体育大会では、札幌工業高校が学校対抗ボクシングで初優勝の栄冠に輝くなど、素晴らしい成果を達成し、道民に喜びと感動を与えてくれました。
栄冠に輝いた生徒さんから、直接感想を聞いたり、お手紙をいただくことがありますが、生徒さんたちの生の感動がこちらにも伝わり、非常に嬉しく思い、また、将来の活躍を確信して心強く感じています。
今後も、スポーツを含めた本道教育の振興に努めて参りたいと考えています。

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