建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年12月号〉

interview

暮らしや心を豊かにする「ふれ愛ユートピア」の創造を目指して

生産性が高い農業も農村生活を楽しむ環境づくりを

北海道士幌町長 小林康雄 氏

小林 康雄 こばやし・やすお
昭和 25年 12月 士幌村(西吉野)で生まれる
昭和 44年 3月 道立上士幌高校卒業
昭和 44年 4月 士幌町役場に就職
昭和 51年 4月 厚生課社会係
昭和 55年 4月 農林課農業共済係
昭和 59年 4月 農業共済課総務家畜係長
昭和 62年 4月 企画課主幹
平成 3年 3月 自治大学校卒業
平成 6年 4月 企画調整室長
平成 10年 12月 士幌町長就任
北海道士幌町は、酪農・畜産基地として全国に誇る農業王国だ。現在、進めている第4期町づくり総合計画は、経済的な豊かさに加え、精神的な豊かさも視野に入れた「農村ユートピア」を目指している。そのためには、行政と町民の協働が必要と語る、士幌町長・小林康雄氏に、その考えを伺った。
――町長1期目の4年間をどう評価しますか
小林
この4年間は、取り巻く環境が変わり、地方分権や介護保険制度など新しい制度もスタートし、まさに激動でした。士幌町は、畜産のウエイトが高く、一昨年には口蹄疫、昨年はBSEが発生し、特にBSEでは多額のダメージを負いました。現在は、ようやく沈静化しつつありますが、まだ完全回復ではありません。
この他にも地方交付税削減の問題、市町村合併の問題など、課題が多々あるだけでなく、町のあり方が問われてきた4年間でしたね。
この様な中にあって、福祉村の整備やプラザ緑風の整備といったプロジェクトに取り組んできました。
――町ではこれまで、福祉のまちづくりを積極的に進めてこられましたね
小林
昭和45年には、町で「過疎法」に基づく過疎地域振興計画を作る時、当時の飯島町長が「母胎から楽土まで」、「愛の町」建設を、まちづくりのスローガンにして、施設整備を行ってきました。しかし、築後30年が経過し、施設の老朽化に加え、介護保険という新たな福祉の制度も出てきたことにより、平成11年から4年間でハード施設の整備、「福祉村」の整備を進めてきました。国保病院、福祉センターの建設は終了。特養老人ホームも既に着工し、今年の11月末には完成します。
これでハード面の整備は大体終わるので、今後はいかにして保健・医療・福祉を機能連携させるかが課題です。保健・医療・福祉を総合的に推進する協議会を作り、町民にもメンバーに入っていただき、行政部門にもケア会議の組織を作って連携しながら検討しています。
また、介護保険により福祉の考え方も施設介護から在宅介護へと移行し、行政だけでは対応できないので、住民への参画も求めています。平成11年には、町内で臨時学校を2年間開校し、80人程の民間ホームヘルパーを養成してきました。その人達をマンパワーとして生かし、介護保険のサポートをしていただく。こうした形で地域を支えるシステムづくりを進めていきたいと思います。
――士幌町のまちづくりの理念は「ふれ愛ユートピア」とのことですが
小林
このスローガンは、将来の地域づくり、農村づくりの目標で、農村ユートピアを建設しようというものです。町民のふれあいと農村ユートピアの完成を目指しています。
確かに、規模的にも経済的にも、農業基盤のマチの中では高い生産性のマチになりましたが、現在のふれ愛ユートピアの考え方は、さらに暮らしや心などを豊かにすることを目指しています。
――士幌町は、全国に誇る農業王国ですが、今後の振興策は
小林
当初の農業は豆作が中心でしたが、今では酪農や畜産、じゃがいもやビートなどの寒地型農業を確立しています。また、加工施設も設置し、農産物を原料とするだけでなく、付加価値を付けて販売もしています。現在、農業生産品の販売額は、1戸あたり4,000万円ほどで、農業所得はおよそ1,400万円。これは十勝管内平均の1.3倍、全道平均の2.8倍です。その意味で、非常に生産性の高い農業と言えます。
しかし今後は、自然環境問題や基本的な土づくりなどの課題があります。また、昨年のBSEの発生以来、いかに安心・安全な食料を供給するかも課題です。経営面では、輸入農産物が入ってきて価格も下がる時代で、経費節減も大切です。
そのため、共同化やコントラ事業を進めていくことを考えなければなりません。農村生活についても、農家住宅の環境改善や生活の見直しなど、将来の農業を見つめたビジョン作りが必要です。特に農作業は、女性にとってはきつい面もあります。労働負担を軽減し、農村生活を楽しめる環境づくりをしていきたいですね。
――町村合併問題については
小林
将来に向けた市町村のあり方の一つの選択肢として、合併議論を積極的にしていきたいですね。平成17年3月の特例法の期限に間に合わせるなら、来年の3月までには、方向性を決めなければなりません。町でも合併研究会を作り、議会でもこの春に特別委員会を設置。住民には広報誌の特集で情報を伝えています。また、十勝管内全体でも、1ヶ月に1回のペースで検討会議を開き、それぞれのブロック毎での議論も行っています。
合併パターンは、士幌町、音更町、上士幌町、鹿追町の4町が一つのパターンになっています。合併すれば、音更の人口が約4万人ですから、併せて約5万8千人で、市移行型の合併となります。現在は、道が合併後の姿についてシミュレーションを提示していますが、それを地域実態に合う独自にシミュレーションし直し、その情報を町民に提供していく予定です。
――今後の政策展望・抱負を
小林
より住民と連携するまちづくり、公平・公正なまちづくりを目指したいと思います。そのためには、町民と行政が協働してまちづくりを進めるシステム作りをしなければなりません。また、厳しい時代ですから、全事業を再評価し、行政組織をスリム化して、コストを下げる取り組みをしていきます。
さらには少子高齢化への対応する地域社会の実現が求められており、農業政策も、ただ単に農業の振興ではなく、農村としての発展に視点を当てながら考えていきたいですね。
財政は厳しくなりますが、それゆえに行政が持っている情報をしっかりと公開し、企画段階からできるかできないかを含めて、きちんと住民と議論をしながら、町民と行政が協働でまちづくりをしていきたいですね。

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