建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

interview

北海道全域は無理でも地域の発想を活かして局面打開へ

ISOは認証を取得するだけでなく、もっと有効な方法へ利活用を

釧路建設業協会副会長 澤田 彰
(沢田建設(株)代表取締役) 
釧路建設業協会副会長の澤田彰氏(沢田建設代表取締役)は、かつての行政経験を生かし、協会副会長の公職を全うしつつ、企業経営に当たっている。官民両方の立場を経験し、建設産業を長年見続けてきた澤田氏に、建設業のあり方と、また建設業が現在、抱えている問題点などを語ってもらった。
――公共事業における行政と建設業界のスタンスはどうあるべきと考えますか
澤田
行政と建設業は、立場において決定的に違いますが、やろうとする目的意識や方向性は同じです。しかし“行政の考え”がイコール“建設業界の考え”というのは違います。行政は、工事を企画・調査して発注し、完成を目指しますが、建設業はそれを受注して完成させるだけです。
今後の建設業界を生き抜く道は、企業自らが企画段階から携わり、地域にどんな施設が必要かを考える事が重要だと思いますが、現実には行政組織に匹敵するほどのノウハウはなく、人材も不足しています。
建設会社の大半は“北海道全体”という視野を持つことはできず、地域でしか実績を積み上げることができません。反して、行政側は2、3年単位で、北海道のあらゆる地域を異動するので、地域間の比較もできますから、当然、企画・立案にたけているというメリットがあります。
このため、建設業界はそうした行政に依存的になり、やがては受注の事しか念頭にはなくなるという状況になります。しかし、企業として「生きる」ことを真剣に考えているのも建設業界です。北海道の建設業界は、全てが官依存ではないのです。地域の発想を生かして、地元の建設会社の力で状況の変化に対応しようとしている局面もあると思います。
――国際標準規格のISO認証取得やCALSの導入については、どう取り組んでいますか
澤田
ISOは今や、ほとんどの会社が認証を受けており、特に珍しいものではなく技術力の向上に努めています。cals、ecは電子納入の段階です。今後はパソコンによる色々な手法での手続きに対応できる人材を養成することが必要で、多くの企業で導入に向けての準備を始めています。
しかし、ISOの場合は、これを維持するためのアフターケアが必要になり、余分に経費を費やします。サーベランス維持のために、数名のスタッフが一年間は付きっ切りになってしまい、足枷になっている面が見られます。しかも、製品について“同じ規格で、同じ品質の物”であるように、品質保証を目的としているわけですが、製造業と違い建設業は、工事ごとに性能がまったく違います。工事によって利潤率も均一でなく、構造物自体も同じものではありません。
ISOは単なる「施工管理」の基準であり、それによって、工程に余裕ができるというものでもありません。それでいて、ISO適用による経費そのものがコスト削減と相反し、苦慮しているのも実状でないかと思います。したがって本来は、それなりの事業規模を持つ企業がこれを維持して、施工管理に当たるのが理想的だと思います。
――今後の公共事業の動向については、どう展望していますか
澤田
公共事業は、これまで「要望」を受けて行われてきました。ところが、今日ではそれも忘れ去られ、不要な事業と見られています。昭和30年代、40年代は「こちらでも舗装してくれ」、「災害で水が被るから早くして欲しい」と求められ、そのためには道路用地を無償で提供するという時代でした。
ところが、今日では必ずと言って良いほど事業計画に抵抗します。時代の流れが変わり、施工された当時の評価が忘れられているのです。“今日の北海道”があるのは、そういう基盤整備があったことを認識してほしいと思います。
マスコミ報道のスタンスが、福祉にシフトしていることもあり「建設業イコール無駄遣い」のように見られるのが残念ですね。そのため、事業予算を全て福祉に回せば、建設関係者も介護関係の職場への道が開かれるとの主張もありますが、これは短絡的な意見です。
――今後の会社経営の方向性については
澤田
建設業界の様変わりする過渡期において、入札形態も変わっていますが、生き残って行くには、受注が減っても利益を上げるしかありません。利益を上げるためには、省力化しかないのです。省力化しながらも、一方では先のISO維持管理やcalsに対応するスタッフも必要であるという相反する条件をクリアしなければなりません。
CALSを委託してしまい、後は何もしなくて良いのであれば簡単ですが、その場合も、それに付随して動きが変わって来ます。その意味でも、今がまさに過渡期で、各社とも対応に困るところです。
かくして今後の動向が解らないから、一般的な建設業者は求人採用を控えています。本来なら毎年、数名の新人を採用してきましたが、今後の事を考えると現状の人数で我慢しなければなりません。人員を削減してそれに見合う受注ができれば良いのですが、「ISO」「CALS」に対応するにはそれなりの人材も必要で、相反する条件をいかにクリアするかにかかっています。

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