建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

interview

地域全体で公共事業のあり方を模索する仕組みづくりが必要

真の顧客は地域住民

釧路建設業協会副会長 村井 順一

(村井建設(株)代表取締役社長)

村井建設は、会社創立以来、開拓精神を社是として、築き上げてきた歴史に自信と誇りをもって確固たる基盤を築いてきた。現在、公共事業は削減の流れにあるが、これからの建設業界があるべき将来の姿を、釧路建設業協会副会長である村井順一氏(村井建設代表取締役社長)に伺った。
──会社の沿革は
村井
当社は、大正10年に創立し、去年に創業80年を迎えました。阿寒町の雄別炭山で、炭坑の下請けをしていたのが会社の発祥です。その後、昭和30年代頃までは、関連する林業関係の業務を手広く行い、会社の基礎が出来上がりました。
その後、昭和40年頃から石炭産業が衰退し、雄別炭山が閉山しました。そのため、昭和41年からは、土木建築事業に専業すべく、釧路に本社を移し、それ以降は釧路を基盤にして事業展開しています。
──ISOに対する取り組みにも熱心ですね
村井
ISOは、平成12年2月に1994年版の認証を受けました。この8月には2000年版に移行する予定で、現在準備を進めています。
2000年版のISO9001は品質マネジメントシステムですが、昨今環境や労働安全分野でのマネジメントシステムが取得されてきています。マネジメントシステムの導入は、基本的には「危機管理」を万全にするためのものです。近ごろの雪印などの大企業の事例からも明らかなように、危機への対応を誤ったため、それが要因で社会の信頼を失ったと言えるでしょう。しかし、これは大企業だけでなく、私たち中小企業のレベルでも当然あり得ることです。
危機管理は、他業界でもそうですが、早急に対処していかなければなりません。社内、社外の取りまく色々な要因、危機的な状況になる前に、その原因を見つけ、その対策を講ずることが重要です。
──地場企業と地域社会との関係は、どうあるべきと考えますか
村井
当社における経営理念は、「地域社会へのより良い共生」です。建設業は、基本的にはインフラ整備を通じて、地域住民に対し、様々な利便性や、安全・安心などを提供しています。私たちも創立当時から、そのことに使命感を持って業務に当たってきました。
本来の業務を通じて、地域との信頼関係を築き、貢献をしてきてこそ、会社の今日があるものと思っています。
──公共事業予算削減の流れは、今後も続くものと予想され、それに伴い業界の再編整理の必要性が主張されるようになりましたが、管内の現況と今後の動向については
村井
確かに、大変厳しい情勢にり、特に釧路・根室管内については以前から、政府の開発予算への依存度が高かったとの批判を受けます。しかし、現実は間違いなく厳しい状況が続いてきていたのです。
それでも、私たちはそうした厳しい時代の中にあっても、底力を発揮してきたとの自負はあります。
今後、公共事業のあり方と建設産業の動向は、さらに変化してくるでしょう。例えば、釧路管内で、建設関連産業に従事している人は、約1万9,000人です。単純に考えると、公共事業予算が10%削減されて、工事量が減少すれば、1,900人が失業することになります。
──釧路地域は、太平洋炭鉱閉山による影響もありますね
村井
太平洋炭鉱が閉山した時は、約2,000人の失業者が発生しました。つまり、公共事業予算の1割カットによる影響は、これと同じくらいの規模になるのです。
そのことを考えると、社会資本整備は、従来のように港湾なら港湾だけを、道路なら道路だけを重点配分して進めるという方法ではダメです。道路と港湾を連携させ、一体的に整備し続けることが重要です。横断的に事業を行い優先順位をつけて整備をしていくやり方でなければ、公共事業そのものが、いずれは消失してしまうでしょう。
したがって、我々建設業界も、今後は行政や経済界と一緒になって、将来の方向性を考えていかなければなりません。本来は受注産業であるため、今までは受注を待つばかりでしたが、これからは業界側からも、今後の公共事業のあり方を提案していくべきですね。
──どのような形での提案が考えられますか
村井
例えば、民間が主体となって進めるPFIもその一つです。これまで引き継がれてきた事業実施のシステムを、全て変えるのは大変ですが、今後はやはり、建設業界もただ工事を請け負い、行政は公共事業を企画・発注していれば良いという時代ではありません。
非常に難しいことかも知れませんが、この地域にどの社会資本が必要なのか、地域の中で議論を重ねる仕組みづくりをしていかなければなりませんね。
──今後の公共事業において、重要となるポイントは
村井
建設業は情勢が大変なので、何か違う事業展開を考えるべき、あるいは本業だけでなく副業を持つべきなど、色々と忠告を受けます。そこで、色々と模索をしている会社もあるでしょう。例えば環境・リサイクル関係や、農業関係などへの進出などです。これらの分野は、建設業に通じる部分もあり、本業から離れるわけではありませんが、我々にしかできないようなアイデアを考えていけば良いと思います。
また、私たちが施工する公共事業は、言うまでもなく最初から完成しているのではなく、無から構築していくものです。行政側から要求された条件を、全て満たす構造物をつくり、確実に施工することが、私たちの使命、役割です。
そして、公共事業を請け負う私たち建設業にとって、真の顧客は誰かを常に意識することが大切です。発注者たる行政があって仕事があるわけです、その公共事業費を負担するのは、納税している国民です。したがって、真の顧客は地域住民だという意識を強く持ち続けることが、重要だと思います。

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