建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年9月号〉

interview

8月10日は「道の日」―記念インタビュー

道路批判は多様な効果を理解した上で

PFI研究を進め、官側との連携を模索

日本道路建設業協会北海道支部長 宮崎 洋二
(道路建設(株)代表取締役社長)
政府の「道路関係4公団民営化推進委員会」の委員選任で、民営化論者の猪瀬直樹氏の就任が話題を呼んだ。道路、とりわけ地方の高速道路や高規格道路の建設について、賛否両論が展開されている。しかし、「道路の経済性だけで必要性を判断するのは間違い」と、日本道路建設業協会北海道支部の宮崎支部長は安易な批判論に疑問を呈する。日本で最初の道路整備計画がスタートした日にちなんで制定された「道の日」に伴い、道路に関する様々な研究・pr活動を行っている、同支部長にインタビューした。
──最近、「地方の道路は必要なのか」と、道路の必要性について厳しい意見が聞かれます。最近の「道路」をめぐる世論について、どう考ますか
宮崎
道路に関する最近の議論で、特に話題になるのは高速道路ですね。北海道で言えば、道東自動車道などは「車より熊のほうが多い」などと批判されています(苦笑)。その部分だけに関して言えば、道路が全区間にわたって完成しているわけではなく、日高山脈を貫通させて、初めて既存の開通部分も生かされるわけです。
したがって、道路の端の部分だけでの交通量を指して批判するのは、的外れではないかと思います。デパートで言えば、1階から9階までまるっきり空で、10階だけオープンしているような状況の中で、果たして客がそこへ行くのか、と論議しているようなものです。
また、収支採算状況だけで判断する傾向がありますが、これも正しいとは思えません。例えば、道路は地域の経済に貢献しているだけでなく、医療面でも貢献しています。救急治療の必要な患者さんを搬送するためには、高速道路というのは非常に効果を発揮しています。当社の所在地である苫小牧市には、樽前山という、いつ噴火するのか分からない活火山があります。もしも、これが噴火したとき、緊急避難経路として、高速道路は非常に効果を発揮します。こうした道路がなければ、噴火時に対応できません。その意味で、道路だけの収支状況で議論するのは間違いです。
平時から緊急時に至るすべての人間生活の営みの中で、道路というのものの価値を、トータルにとらえていかなければならないのではないでしょうか。
──確かに、道路を含めて公共事業の経済効率だけに注目する傾向が見られますね
宮崎
人口とのバランスなどの視点で、道路の必要性を議論する人もいますが、道路はその視点で見るべきものではありません。特に北海道の場合は、都市間距離が本州とは全く違います。面積が桁違いに広いので、それに対応する道路網が必要なのです。
その視点を持たずに、北海道の人口が510万人だが、東京の場合は1,300万人で、これにかけている投資がいくらといった比較論議をしても不毛です。
──そのためには、協会として道路に対するPR活動が重要ですね
宮崎
日本道路建設業協会は、戦後、「日本の復興は道路整備から」を信条として掲げて発足しました。北海道支部は昭和23年に創立され、平成10年に50周年を迎えました。協会の歴史は、一言で言えば、経済の基盤である道路づくりの歴史です。協会にはいろいろな業務がありますが、道路の必要性、道路の使命を市民に訴えかけていくことが活動のメインです。
協会の支部には、技術検討会というものもあり、技術レベルの向上にも努めています。その他、年に1度、講演会も開いており、道路関連の話題以外の講演もあります。「失楽園」で一躍有名となった、作家の渡辺淳一氏に講演していただいたこともあるのですよ。
──そうした努力にも関わらず、道路の必要性と意義が、一般市民には十分に理解されていないとの印象があります
宮崎
ご指摘のように、最近になって、道路無用論というほど極端ではありませんが、道路に対するプレッシャーが高まってきているのは事実です。非常に残念なことです。我々も、道路のあり方、道路の必要性を多くの方々に訴えかけるボリュームが小さかったのではないかと反省しています。
道路はいろいろな場面で利用されるわけで、先に述べたような経済活動だけではありません。我々の幼かった時期は、遊び場であったし、今日でもお祭りの時には、夜店の屋台が並びます。水道やガスは道路の下を通り、光ファイバーも既存の道路を使用して敷設されます。道路は、そうした多目的な空間を提供しています。一般者は、言われて初めて、そういえばそうだと気づくのでしょう。
──道路の新しい機能として注目されているものに、its(※)という新技術がありますね
宮崎
ITSに対する具体的な取り組みは、まだ進んでいませんが、今後は、その技術レベルが向上してきていきます。現在でも、体の不自由な方、あるいは目の不自由な方のための誘導の装置がありますね。我々としても、積極的にいろいろな提案をしていこうと思っていますが、これはまさに、提案型の側面を持つPFIともリンクさせながら話が進んでいくことになるでしょう。
※ITS〜INTELLIGENT TRANSPORT SYSTEMSの略。最先端の情報通信技術により、人・道路・車を情報でネットワーク化し、交通事故や渋滞など、道路交通の諸問題の解決を目的に構築する新しい交通システムのこと。
──PFIについては、協会ではどのような研究を進めていますか
宮崎
協会では、公認の委員会を設けてPFI研究を行っています。国や自治体の公共事業予算が制限されつつあるとはいえ、それでも一定の投資は必要だというのが我々の基本的な考え方です。したがって、道路整備は今後も大いに進めてほしいものです。
ただ、道路特定財源の一般財源化など、道路整備に対するプレッシャーが予算編成において強くなってきていますから、新たに別の財源を確保していかなければなりません。ここでPFIという手法が浮上してきたわけです。PFIの場合には、一般的にはハコモノが主流になっていますが、駐車場や「道の駅」などをPFIで、という意見もあります。我々道路関係者にとっても、PFIという手法は必ずしも縁遠いものではなく、現実の手法として取り入れることは可能だと考えています。
しかし、PFIの現実的な運用となると非常に難しい。税法上の問題など、いろいろな問題点がありますから、それを一つ一つ取り上げて、現実のものにしていくための手法を研究しているところです。まだ、具体的に提案できる段階には至っていませんが、いずれ行政側との連携にまで高めていこうと思っています。
──道路整備における新技術の導入については
宮崎
舗装技術においては、画期的な新発明・新発見というものはなかなか登場しません。資金もかかり、難しいものです。
 けれども、何といっても、我々の仕事を支えるのは技術です。最近は、透水性の舗装やロードヒーティングなど、いろいろな手法が取り入れられています。北海道舗装事業協会やアスファルト協会など、他協会とも連携を取りながら、我が技術委員会でも活発に研究を続けています。
──道路の専門家として、発注者、並びに道民・国民に対するメッセージは
宮崎
テレビや雑誌などで、いろいろな人々の道路批判を目にします。そうした批判には、謙虚に耳を傾けなければなりませんが、ただ、発注者側に対しては、そうした声に挫けることなく、必要な道路はあくまでも作るという使命感を持って進めていただきたいですね。
道路はいろいろな効果をもたらすものであることはすでに述べましたが、例えば、景観、景色を作っているものでもあるのです。旧建設省が「日本の道百選」を刊行しましたが、北海道では札幌の大通公園や函館の石畳、静内の桜並木などが選ばれました。道というものは、こうした景観を作り出しているのです。それらが、人々の心に潤いを与えているのも事実です。
このように、道路とは経済効果だけで計れるものではないからこそ、“公共”事業として進められるのです。
我々は、一般市民に対して道路の必要性、使命を訴える責任があります。それらを全て伝え、理解された上ではじめて、道路に関する議論は成立するのだと思います。その説明不足を反省しながら、今後の協会運営にあたっていこうと考えています。

HOME