建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年7月号〉

interview

政府公共事業予算削減で地方単独整備事業の絞り込み(前編) 

道内建設界を挙げての体質改善が急務

北海道建設部長 菅原 久広

菅原 久広 すがわら・ひさひろ
昭和 18年 11月 15日生(58歳)
室蘭工業大学工学部土木工学科卒
昭和 41年 4月 入庁(土木部河川課)
平成 6年 4月 土木部道路課長
平成 7年 6月 札幌土木現業所長
平成 9年 6月 建設部技監
平成 11年 5月 渡島支庁長
平成 12年 4月 総務部知事室長
平成 14年 4月 建設部長
政府の公共事業予算の削減は、否応なく地方における建設事業の縮小をもたらす。建設産業の経済全体におけるウェイトの高い北海道には、大きな痛手だ。北海道建設部の菅原久広建設部長は、「今後は事業の重点化が必要だ。建設業界も、自己分析を行い、経営体質の強化を図る必要がある」と、厳しい将来展望を示している。
──国の構造改革に伴い公共事業予算が縮減されましたが、今後の社会資本整備は、どのように進めますか
菅原
平成14年度予算については、小泉内閣の「聖域なき構造改革」の一環である「行革断行予算」の実現により、全国の一般公共事業費は10.8%減のおよそ8兆3,500億円、このうち北海道開発事業費については、11%減の8,386億円となりました。
また、平成14年1月に閣議決定された国の「構造改革と経済財政の中期展望」によって、公共投資の規模の縮減や重点化・効率化が一層図られることなどを考慮すると、公共事業予算に関しては、今後も前年度予算額を下回ることなどが想定されます。
このような中で、道におきましては、平成10年から北海道の構造改革に取り組み、平成13年3月には「北海道における社会資本の整備方針」を策定し、社会資本整備の重点化に取り組んでいます。
──確かに、今後は事業を絞り込んでいくことが必要ですね
菅原
そうです。今後もこの方針を踏まえ、少子高齢化や環境重視型社会、高度情報通信社会への移行といった時代の潮流に対応した社会資本や観光の振興、物流の効率化など、本道経済の活性化に貢献する社会資本について重点的に整備を進めます。
また、生活基盤や交通基盤、火山噴火、津波などの災害に備え、国土保全基盤などの基礎的な社会資本についても着実に整備する必要があります。
──事業と事業の連携による相乗効果も、考慮する必要がありますね
菅原
そうですね。今後の社会資本の整備は、地域の特性に応じて、事業間の連携強化や総合的な事業推進を展開することが必要です。そこで、昨年度に各支庁の所管区域ごとに設置された「地域連携会議」での議論から、地域の意向の的確な反映に努め、地域のニーズに基づく活力ある地域社会の形成を図るために必要な社会資本について、重点的に整備を進めていこうと考えています。
──建設産業を取り巻く環境は、今後どのように変わってくると見ていますか
菅原
国の財政構造改革に基づく歳出の抜本的な見直しにより、建設投資は確実に減少します。建設市場の諸条件、環境の変化を踏まえると、好むと好まざるとにかかわらず、建設業界、設計・コンサルタント業界は「競争・淘汰の時代」を迎えています。
また市場原理に基づき、良質な品質を確保する上で不良不適格業者の排除、技術と経営に優れた企業が生き残れる環境整備や施策が促進されます。したがって、企業は自らの経営状況を的確に分析、把握し、合併や営業譲渡、業務の提携などの選択が求めらます。
「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」の施行にともない、公共工事の発注について、公平な競争の促進、透明性の確保など「発注者としての責任」も強く求められています。このため、道としても、公共工事の執行にあたっては「入札制度改善行動計画」に基づき、契約事務の適正な執行が重要です。
建設部としては、さらに競争性、透明性、公平性を確保し、適正化法の徹底についても、積極的に取り組んでいきたいと考えております。
──今後、建設業界に期待することは
菅原
本道の建設業は、平成11年度の道内総生産の12.4パーセント、また、雇用に関しては平成13年度の全就業者数の11.4パーセントを占めるなど、地域の経済と雇用を支える基幹産業として重要な役割を果たしています。
しかし、そのほんどが経営基盤の脆弱な中小建設業者であり、しかも建設投資額に占める公共事業の割合が63パーセントで、全国平均の45パーセントに比べて非常に高い割合となっています。
今後、国の構造改革に伴う公共投資の縮減や景気の長期低迷による民間投資の縮減などにより、競争の激化も予想されるなど、建設業を取り巻く経営環境はー段と厳しさを増していくものと考えられます。
こうした状況で、建設業が本道の基幹産業として健全に発展していくためには、これまで以上に産業構造の効率化や高度化などの構造改革に取り組んでいく必要があります。各企業は時代認識をしっかり持つとともに、十分な自己分析を行ったうえで、将来を見据えた経営革新に取り組み、経営の効率化を図りながら、優れた技術者など人材育成に努めることが必要です。
また、近年厳しい経営環境を反映して、合併などの動きも活発となってきていますが、競争力のある企業づくりを進めるためには、得意分野への特化や新分野への進出、さらには、こうした合併や協業化などの企業連携も視野に入れ取り組む必要があります。
──業界の再編整理は、業界に任せておくとなかなか進まないという一面があります。行政側からの働きかけが必要では
菅原
道としては、昨年度に実施した「建設業企業連携実態調査」をもとに、道内における合併の事例と手続きのポイントなどをまとめた「建設業の企業合併」を作成したので、大いに活用してもらいたいと考えています。
今後とも「北海道建設業振興アクションプログラム」や、昨年2月に国が示した「建設産業の再編の促進について」の、今後の具体的施策とあわせ、企業の経営体質の強化を促進する各種施策を推進します。業界団体とも連携を図りながら、建設業が地域に根ざした足腰の強い産業として振興が図られるよう努めていきたいと考えています。
──建設業の経営体質強化対策として、有効策は何かありますか
菅原
道では、建設業の経営体質強化や経営多角化などの課題に対応するため、昨年10月に建設業経営者1,000社を対象に、アンケート調査を実施する他、学識経験者や業界団体、関係機関で構成する「建設業経営体質強化方策検討委員会」を設置し検討を行ってきました。
これらの検討結果を踏まえ、建設業における離職者の発生を最小限にとどめ、各企業の自主的な経営体質強化の取り組みが促進されるよう支援事業を実施します。
具体的には、経営管理者実務講座を、今年度は13カ所で実施します。これは、経営管理者を対象に、経営改革の取り組みに必要な実務的知識の習得や情報の提供を目的としたものです。
経営支援診断指導事業は20件から60件に拡充します。中小建設業者に対し、中小企業診断士を派遣し、経営状況や経営計画を分析し、改善方策などの助言を行うものです。
今年度から新たに建設業経営多角化アドバイザー派遣事業を50件実施します。これは、建設産業の構造的変化に対応し、経営の安定や経営基盤の強化を図るため、自主的に経営の多角化に取り組もうという意欲のある企業に対して専門家を派遣し、必要な助言や情報提供を行うものです。
──最近は事業の新しい執行方法として、PFIが話題になっていますが、まだ研究中のところが多く、具体例は数えるほどしかありません。北海道では、どのくらい進んでいますか
菅原
道においても、行財政改革推進の観点からも、全庁的な取り組みとして「PFI推進会議」で導入を検討しています。
建設部では、道立八雲広域公園をモデル事業とし、民間の参入意向調査などを踏まえ、PFI導入の適否を検討しているところです。
 全国のPFI実施件数を見ると、平成14年4月時点で49件ですが、道内の実施状況は、札幌市の第2斎場や、留辺蘂町ほか2町の一般廃棄物最終処分場について、導入されることになりました。
──道立八雲広域公園の検討は進んでいますか
菅原
11年に道立八雲広域公園ビジターセンターがモデル事業に選定されてから、12年に基本構想の策定と、PFI導入可能性調査を実施しました。13年には事業手法・VFMの精査、民間参加意向の詳細市場調査などを行い、14年は市場調査を踏まえた見直しと、PFI導入の判断を行います。
──PFIの導入における問題点は
菅原
まず導入に時間がかかることですね。より早期に検討に着手することが必要です。また、導入判断基準の明確化を急ぐ必要があります。
さらに、一般的には地元企業の参入が難しいと言われています。北海道でPFIの導入を進めるためには、今後とも道内企業へPFIのノウハウを普及させることが必要です。

(以下次号)


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