建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年7・8月号〉

interview

(後編へ)

海産物の多角利用で高付加価値化を模索

漁家は海の監視員

北海道水産林務部長 大畑 邦彦 氏

大畑 邦彦 おおはた・くにひこ
昭18.6.17日生まれ(帯広市)
北海道大学水産学部卒業、
北海道大学大学院(修士課程)修了
昭和 62年 6月 総務部審議室主幹
63年 4月 企画振興部企画室主幹
平成 元年 4月 水産部漁政課長補佐
2年 4月 留萌支庁経済部長
4年 4月 水産部漁業管理課長
7年 6月 栽培漁業総合センター場長
8年 4月 水産部技監兼国際漁業対策室長
9年 6月 水産林務部水産局長
10年 4月 釧路支庁長
13年 4月
我が国の食糧自給率向上において、生産高が全国の4分の1を占める北海道の水産業は貴重だ。大畑邦彦北海道水産林務部長は「このシェアは今後も大幅に上昇することはない」と展望し、その代わりに「水産資源の多角利用と高付加価値化を目指したい」と、将来的な方向性を描き出す。北海道の自律の道に向けて、ここにも大きな決め手が潜んでいる。
――道路や河川といった一般土木の分野の公共事業が批判される中で、とりわけ受益者が限定される漁港・漁村の水産基盤整備への風当たりは、さらに強くなることが予想されます。しかし、食糧、タンパク供給におけるわが国の自立を考えると、政策として進めなければならない意義を、行政としてわかりやすく説明することも大切ではないかと思います
大畑
漁業生産を担っている漁村においては、例えば下水道や上水道などの生活環境の問題があります。これは生活の基本となるものですが、道内の下水道普及率は約85%ですが、漁村地域は約30%となっています。数字で見ても解る通り、都会から見れば大変、整備が遅れています。
しかし、我々はどこに住んでいても、同じ基本的な生活上の利便を受ける権利があるわけです。都市部で享受できる基本的な利便性や快適性を、漁業者の人達も受けられる体制を整えることが、行政の使命だと考えています。
しかし現状は、都会でも国による公共事業が抑制されているほどですから、地方が単独ですべてを整備するのは難しいと思います。また、今では漁村地域は、そこに住む人達だけでなく、都会から来て海との触れ合いや体験を希望する人々の訪問も多くなってきています。その人々を受け入れるためにも、安心して漁村地域に来られるよう、生活環境のインフラ整備を進めていく必要があります。
私は10年ほど前に、留萌支庁に務めていた頃、たびたび天売・焼尻島を訪問しました。この島は自然が素晴らしく、夏には観光客が多いのですが、ある民宿に泊まったところ、トイレが水洗化されていませんでした。このため、都会から訪れた子供達は、汲み取り式のトイレの底が見えない暗さに恐怖を感じ、怖くて入れないと言っていました。お陰で、体調を崩し滞在期間を切り上げて引き返してしまう家族もいました。今は簡易水洗化も進みつつありますが、都会の人に安心して滞在してもらうためにもこうしたインフラの整備は急がれます。
――せっかくの観光ビジネスのチャンスを、逃すことになりますね。生活基盤の整備の遅れのほかに、漁場などの仕事場の環境も整備されず、いつも高波の心配をしているようでは、その地域で仕事に従事しようという人がいなくなるのでは
大畑
人材確保については、漁業団体や漁業協同組合などで色々な取り組みはしています。現在、漁村地域などは過疎化が進んでいます。やはり人がいてこそ地域社会が形成されますから、我々は過疎化に歯止めをかけるためにも、できるだけ若い人達がその地域に住み続けたいと思う環境を整備していく必要があります。
北海道の海の環境が、今日このように綺麗に残されているのは、そこに住み続けて生産活動を行っている漁業者の人達が環境の監視役を果たしているからです。漁業者には、その自覚は希薄かも知れませんが、もしも自分の仕事場とする海が汚れて、魚介類が死滅するとなれば、これらは自分らの生活に関わるわけです。そのために、常に海を綺麗に保つ努力をされていると思います。
また海岸などで遊泳中の事故などがあった際、まず最初に救助にあたってくれるのは、漁業者のボランティア団体の救難組織です。その他にも、沖へ出漁中に不審船などを発見した場合、漁船による通報などによって、ある意味で密入国者などを防止・抑止する役割を果たしています。
──今後の噴火に備えた安全対策は、どう構築しますか
大畑
有珠山の噴火周期は、20年から30年で、我々は古くからここで生活し、また今後も生活しなければなりません。そのため、有珠山と共成したマチをつくらなければなりません。そして、周期に従って噴火が予測できますから、有珠山の特徴を掴み、火山性の地震がおきると避難をすることです。
そこで現在、ゾーンを設定し、あまりにも有珠山に近い区域内には、公共施設等は建設しないことにしています。住宅も、危険区域に近い場所には建てないようにしています。
公共施設の整備に当たっては、避難所を兼ね備えたものとします。建築中の洞爺湖温泉小学校も、屋体は避難所を兼ね備えています。
また今回は、水道が全滅し、また消防機能が麻痺した反省から、そのあり方も見直さなければなりません。水道はこれまで、水源を1ヶ所に集約した方が、コスト面で有利と考えていましたが、災害時の水源確保のためには、数カ所に分散することが必要です。そこで、洞爺湖温泉地区と市街地の2ヶ所に水源地を設置することになりました。同じく消防署も、今まで温泉地区と市街地を1本化してきましたが、2つに分けました。
このように、日本の周りの海で漁業活動をする人が、海を守るという公益的機能を担っていることは、見逃してはなりません。
――なるほど、新築の家も人が住まなければ早く朽ちてしまうように、臨海地区を放置したら、無政府状態になりかねませんね。その臨海を、さらに漁業として有効活用すべく栽培漁業が進められていますが、北海道での定着状況は
大畑
北海道は、秋サケやウニ、アワビ、そしてホタテ、最近はニシンと種類が豊富になってきています。地域的には、シシャモのふ化放流にも取り組んでいます。秋サケなど作り育てる漁業の対象魚種のウェイトは最近の生産量約160万トンのうち4割以上になり、生産額約3,000億円の5割にも上ります。
やはり200海里内の資源を管理して作り育てることは、漁業者と行政の義務ですから、将来を見越した栽培漁業に力を入れていかなければなりません。
――北海道における水産物の自給率は、どのくらいでしょうか
大畑
北海道の漁業生産量の全国シェアは、約4分の1を誇ります。国が現在、食糧自給率の向上を目指し、魚介類についても自給率を上げていくことを目標にしていますから、北海道が果たさなければならない役割は大きいと考えています。
水産業・漁村振興条例を、この3月に議会で議決いただいたので、それを実行していくための今後5年間の推進計画を、今年度中に策定する予定です。その中で具体的に国の食糧自給率、北海道の果たす役割を念頭において、水産物の生産目標を具体的に数値化し、色々な施策を展開していきたいと思います。
――5年後の北海道がどのような姿になるのか、アウトラインは描かれていますか
大畑
大きな枠組みはできたのですが、具体的にどんな事業を進めていくかは、これから固めていく予定です。大まかな姿として、漁業生産が全国の4分の1とはいえ、近年の資源が減少していること、ロシア水域などの国際規制が強化されることにより、水産資源が減少しています。一方で、輸入の水産物が増えていることや、産地価格の低迷などにより、経営は悪化しています。また漁業者も高齢化している中で、北海道の水産業は、活力の低下が懸念される状況にあります。
その中で、先にも述べましたが全国の水産物の供給拠点基地としての北海道の役割、また食品の安全性や品質に対する消費者の信頼が揺らいでる中で、安全な水産物を安定的に供給していくことが、何よりも重要な使命だと思います。
また、道民生活の中で自然との触れ合いが求められ、余暇活動で海と触れ合うことが盛んになってきている昨今、漁村全体としての役割も期待されています。それを通して、地域の基幹産業としての漁業発展を通じて、雇用の場を確保することも必要です。
やはり北海道の場合、1次産業が安定しなければ、北海道全体の観光産業や地域産業などが発展しません。そのため、特に水産加工業といった食品加工業と連携する中で、漁村地域の活性化を図っていきたいと思います。
――北海道からの食料供給率が高まると、全国における北海道の地位が高まっていきますね
大畑
北海道全体として、漁業生産高は3,000億円くらいですが、水産加工業の生産はその2倍以上で7,000億円に上ります。そこにさらに付加価値を付けられれば、雇用の機会もさらに増えると思います。
――原料供給も食品加工も含めて、北海道のシェアをさらに上げることは
大畑
北海道のシェアは4分の1ですが、それ以上は難しい状況です。したがって4分の1の生産に対して、いかに付加価値を与えていくかが、今後の方向性だと思います。水産加工業も北海道の原料だけに依存するのではなく、安定的な経営を続けるためには、外国からも原料を輸入し、それに付加価値を付けていくという取り組みも必要です。
これからは、原料の入手先を多角化し、例えば、天然と養殖で獲れる魚、道内そして外国で獲れる魚、これらを総合的に組み合わせた中で、経営を安定させていくことが必要だと思います。
また、水産加工会社も地域の中で連携することが必要です。単独で全てに当たるのは、規模の大きい大手水産加工会社でないとできませんから、地域で組合組織などを通じた中で取り組む必要があります。
――今後は地域の活性化のために、地元でタイアップして付加価値の高い商品を開発する必要があるということですね
大畑
その意味では、北海道の食品加工研究センターや水産試験場などでは、水産物を原料として、単に食品にするだけでなく、サケからコラーゲンを抽出し、化粧品を開発する研究なども行っています。
現在は、秋サケの白子から遺伝子研究用試薬の開発に有効な成分を採るために積極的にその研究を進めています。現段階では白子はまだ商品価値はありませんが、近い将来には商品化して高価なものへと変えられる可能性があります。秋サケが安定的に生産されているので、こうした成果が秋サケ自体の付加価値を高めることになります。
――ビジネスに結びついていく可能性に、大きな期待が持てますね
大畑
そうです。単に食べ物としてだけでなく、それを原料として、例えば化粧品や医薬品、また色々な試験研究のための貴重な試料・材料として、まだまだ可能性が大きいですね。
その他にも、ヒトデは海のやっかい者とされていますが、そのヒトデには害虫などを寄せ付けない防虫力があり、しかも安全なので、害虫の防虫剤の機能を果たすことも考えられます。
近年は、飛行場などの芝生地帯に虫がつき、その虫を目当てに鳥が飛来して、飛行機と衝突することがよくあります。現在は、その鳥を寄せ付けないように、経費をかけて対策を施していますが、そこにヒトデでつくられた防虫剤を使用すれば、そもそも虫がつかなくなり、鳥も飛来しなくなる可能性があります。やっかいもののヒトデが、逆に非常に役立つものへと変わるわけです。
薬品などを撒けば、環境面で副作用などが発生する心配もありますが、自然物であれば、やがては自然に帰るわけですからクリーンです。
――確かに最近は、人工的な素材を使いすぎた結果、環境ホルモンなどという聞き慣れない病原が注目されたりしました
大畑
秋サケもその意味では、天然の餌を食べて成長し、養殖物とは全然違う環境の中で育っていますから、これからは、秋サケが安全性や健康志向に配慮した食料であることをprしていく必要があります。養殖に比べて天然物は脂肪が少なく健康的です。
現代人から見れば、天然物は味が薄くて物足りないという感想があるかもしれませんが、天然の餌を食べて育ってきているわけですから、健康志向の水産物だという視点で、もっと見直して欲しいと思います。
――農業で言えば、飼料が元でBSEという国際的な問題が発生しましたが、その意味で、北海道の水産物には、トラブルはないといえるのでは
大畑
特に北海道の水産物は、ホタテやヒラメも餌を与えるのではなく、秋サケと同様に自然にある餌を食べて成長しています。これからも我々は自然の環境を守って、そこから安心できる食べ物、あるいは消費者の人に喜んで食べていただけるものを供給していく役割や義務が高まっていくと思います。

(後編)

道産材の需要が低迷する中で、全国の4分の1の面積を占める北海道の森林も、その役割、機能の方向転換をせざるを得なくなっている。かつてのように、木材の生産を担う畑としてではなく、森林自体が持つ機能に重点が置かれるようになった。地球環境は森林、河川、農地、そして海へとつながる。その源にあるのが森林だ。その及ぼす影響は、一地域に止まらない。今春には中国の黄砂が北海道にも飛来した。砂漠化の進行が原因である。隣国の自然環境までもが影響をもたらす今日、自然環境の改善・保護は今や国境を越えた取り組みが必要になってきた。
――林業については、最近は産業活動というよりは環境保全の役割が中心になっているようですね
大畑
林業は基本法が改正され、北海道においても、今年、水産と同様に関係の条例が制定されました。北海道の森林面積は、全国の約4分の1を占めています。その中でも、国有林と民有林の占める割合が6対4で、全国平均3対7よりもかなり高く、また天然林の割合も大きいものです。
しかし、木材の需要は下降気味で、特に道産材を扱う木材業界は、就業者が高齢化しつつあり、厳しい環境です。
その一方で、森林に対する道民の期待は高まっています。例えば地球温暖化防止や国土保全、あるいは野生動物の生息の場などの公益的機能を発揮させる場としての期待が、大変、高まってきています。
特に北海道の道有林は、北海道全体の約1割に達します。これについては保安林的なものとして、例えば水資源のかん養などの公益的機能を発揮する森に変え、木材生産を目的にした伐採はしない予定です。山を管理する上では、人工林などは間伐しなければならず、それによって得られる木材は利用しなければなりませんが、基本は山そのものを保全することです。山を守り育てていくことで、先に述べた地球温暖化を防止したり、きれいでおいしい水を道民に供給するわけです。
国有林についても同様で、公益的機能を発揮する森林へ変えていく考えですから、連携を取りつつ、北海道全体の環境を守るための取り組みに力を入れていく必要があると思います。
――森林は水資源をかん養しており、北海道はこれが豊富です。もしも、水道事業法の改正によって、規制が緩和され、エリアを超えた水資源の供給が可能になれば、北海道はより貢献できます
大畑
電気などは、ケーブルを繋いで北海道と本州での相互の供給はしていますが、水道の基盤を整備していこうとすれば、相当な投資になります。北海道の各地ではミネラルウォーターを生産しています。本州では水道水の味が悪いところもあり、ミネラルウォーターへの需要が高い。ですから、そうした地域に、北海道のミネラルウォーターを安く供給できる仕組みを整備していけば良いと考えます。
話は変わりますが、平成10年に中国の江沢民国家主席が来道された折に、堀知事との間で、北海道のボランティアによる遼寧省の阜新での植林が取り決められました。今年は知事が訪問しました。中国からは黄砂が北海道まで来ましたが、相当な砂漠化が進行しています。去年は180人、今年は200人ほどが行っています。
中国は広大な大陸ですから、車でいくら走っても、延々として平らで、山地が全く無いのです。私が訪問したときは、雨が降らない時期で、大きな川があっても、どこにも水が流れていない状況でした。
――森林が枯れてしまったからでしょうか
大畑
そうです。訪問した阜新市は、中国の中ではさほど大きくない地方都市で砂漠が近くにありましたが、人口は190万人にも上る都市でした。それでいて、その都市の周りの川には水がまったく無い状況です。そこで、どのように生活をしているのか尋ねたところ、全てを地下水で賄っているそうです。農業も井戸水から汲み上げ、発電所も全て地下水とのことです。しかし、地下水というのは、視認できませんから、いつ資源が無くなるのか分かりません。
中国でも歴史上、砂漠の中に大きな都市がありましたが、水が無いために、人が住めなくなった経緯が、遺跡を通して知られる状況です。とりわけ、中国の中でもモンゴルに近い地域で、砂漠化はかなり進行しているとのことです。
――古代史では九原と呼ばれた地域で、馬賊や遊牧民が多かったとのことですから、一刻も早く山間部での水資源のかん養機能を向上させることが必要ですね
大畑
やはり緑を増やさなければ、環境が悪化すると、中国側では懸念していました。しかしこれは、中国だけの問題ではなく、韓国でも日本でも、同じ季節風の影響を受けるわけです。中国の環境が悪化することは、我々の住む日本の環境にも影響することなので、一地域の問題ではありません。
ですから、隣国周辺の地域の環境にも関心を持って協力していくことが重要です。自治体レベルで、あるいはボランティアとして、また国レベルで協力していくことが必要だと思います。
――そうした活動に対して、周辺事情は
大畑
現在は、そうした活動については、ほとんどの人々が賛同してくれています。道議会には、林業活性化議員連盟という超党派の連合体もあり、環境保全などをバックアップしてくれています。
北海道の開拓時代などは、木は農地を整備するのに支障をきたすもので、木の根一つを取り除くのに大変でしたから、その意味で森林は、開拓には邪魔であった時代もあったかもしれません。しかし、現在は、我々の生活を守るためにも、また潤いを持って生活するためにも欠かせない資源です。
したがって、条例を検討する際にも道民の方々から意見をいただきましたが、積極的に森林を増やして環境の改善に取り組んで欲しいという意見が多かったですね。
――いわば追い風の中で、施策を展開することができるわけですね。また、中国に対して行政レベルではどのような協力をしているのですか
大畑
中国側は、土地に合った種類の木を植えたいと要望しています。そこで、北海道林業試験場でも、寒地型の寒冷試験などを通じて、どの樹種が中国の風土に適しているかを研究しています。
また、行政レベルで色々と意見交換や情報交換を行っています。今後とも、より積極的に取り組む必要があると思います。
――中国にはどのような木が合うのでしょうか
大畑
中国と言っても広大な大陸です。旧満州あたりでは、南の地方と比べると気温が20度から30度も違っています。内陸型の気候ですから、その土地に合った木で、成長も良いものを植えなければなりません。そうした意味では、ポプラの木が合うそうで、寒い地域でもよく成長します。
そんな意味で、北海道で培った林業技術を中国などの地域の環境改善に貢献する「みどりの交流大使」などのアイデアを実現できればと考えています。

HOME