建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年5月号〉

interview

連載インタビュー

第1回|第2回|第3回(最終回)

世界と地域に開かれ愛される国立大学への変貌を遂げ、“ノーベル賞”にふさわしい人材育成を目指す

99の国立大学は今こそ、“公共財”としての使命感を胸に希望ある積極的な施設整備を推進すべき

文部科学省 文教施設部長 小田島 章 氏

小田島 章 おだじま・あきら
昭和19年12月17日生(埼玉県)
東北大学工学部卒
昭和 46年 4月 管理局工営課
56年 4月  同 助成課専門職員
59年 4月 山形大施設課長
61年 4月 官房文教施設部計画課補佐
平成 5年 4月      同    指導課監理室長
8年 7月      同    技術課長
10年 4月      同    指導課長
12年 4月      同    技術参事官
13年 4月      同    部長
2002年度予算は、2年連続で一般会計総額が減額となる超緊縮型であり、実に47年ぶりの予算編成となった。2002年度は予算全体で5兆円を削り、その浮いた財源から2兆円を「環境問題」「都市再生」「科学技術の振興」などに厚く配分するとされているが、47年前となる昭和30年度(1955)の予算編成も「文教・科学技術の振興」「経費の徹底した重点化・効率化」などの柱が掲げられており、我が国の構造改革は昔から途上の段階に終始している。その中での“科学技術”の重点配分について文部科学省文教施設部長の小田島 章氏は、「時代がどうであれ“学問の自由”があり、それに基づいて“学校の意志”がある。例えばノーベル賞の基盤には研究をするだけの十分なスペースが必要であり、そのための応援にためらいはない」と、あくまでこれからの日本や世界を担う人材の育成から目を逸らしてはならないと強く提唱する。今月号から連載(全3回)でお届けする。
(第1回)
──最近の文部科学省における文教施設に対する取り組みをお聞かせください
小田島
平成13年度に策定された「第2期科学技術基本計画」(以下・科学技術基本計画)では日本の“科学技術創造”という観点に基づいて、国立大学の施設整備を進めるべきとの方向性が確立されました。この計画を受けて、「国立大学等施設緊急整備5か年計画」(以下・施設整備計画)を作り、それにあわせて施設ごとの整備計画も5か年としました。
科学技術基本計画は13年度からの5か年計画で24兆円を科学技術に投入する計画ですが、それにあわせて施設整備計画は5年間で1兆6,000億円を投入するわけです。
計画のテーマは4つの柱があり、最も重要なのは「大学院施設の狭隘解消」です。国立大学の大学院は、この10年間で大学院生を倍増しており、特に理工系大学院生が増えています。大学院生は自分の研究・実験のためのスペースが必要ですが、現在はその人達のためのスペースを確保する整備が、全然追いついていません。そのために約120万uほどのスペースを5か年で整備する計画です。例えば、“ノーベル賞”受賞例を見ると、大半は大学院か助士クラスの頃の研究が重要な基礎になっていますので、若い研究・実験者のためには十分なスペースの確保が大事です。
昨年、ノーベル化学賞を受賞された名古屋大学の野依良治先生は、かなり若い時分に始めた実験テーマが、今回の受賞につながったと聞いています。そうした事例から、大学院の施設整備は優先的に進めていきたいのです。
二つ目は、「卓越した研究拠点の整備」で、これはいわゆるセンター・オブ・エクセレンス(COE)と言うもので、世界に通用する第一級の実験施設・研究施設の整備です。例えば、高エネルギー加速器研究機構(kek)は、世界に通用する研究実験をしていますが、それに匹敵する施設整備を応援したい考えです。三つ目は「大学病院の整備」で、先端医療のための大学病院の整備を引き続き行っていきます。これは約50万uほどの整備が必要とされています。最近は再生医療、遺伝子治療を代表とする先端医療が進行しており、特に大学病院はその中心になっています。
四つ目の、「老朽化した施設の改善」は、主に現在ある建物のリニューアルをしていく改修工事になります。これは単なる増改築ではなく、改修工事として約390万uほどを5か年のうちに整備していくものです。現在国立大学には2,000万uを超える大きな施設ストックがありますが、その半分くらいは老朽化しているので、それらを近代的な実験研究に対応できる高機能の研究教育スペースにリニューアルします。
──旧帝大で、移転などの整備を進めているところはありますか
小田島
移転については、九州大学が郊外に移転を計画し、すでに一部土地の造成を福岡市の開発公社にお願いをして造成を始めています。来年あたりから造成の終わったところから、建物づくりを始めて行くことになります。九州大学は大規模ですから、施設整備の規模もかなりのものです。
この他、京都大学では工学研究科の桂への移転計画を進めています。阪急桂駅の裏手にある山ですが、そこに都市基盤公団の開発した住宅団地があります。その地続きに土地を求めて移転のための整備をしています。
──単に移転するのですか
小田島
いえ、5か年計画には「システム改革」という項目があり、整備そのものではなく、“どのように整備をしていくのか”を定めています。例えば京大では、“大学改革と一体となった施設の有効利用”に力を入れており、いままでは学部、学科ごとに建物を建設してきましたが、この場合は施設間の融通が効かなくなります。そこで、今後整備する施設は「なるべく共用化する」とことにしたわけです。
ある研究者が3年間そのスペースを借りて一定のプロジェクト的な実験をやり終えたら引き上げてもらい、次にまた別な研究者が入るといった“レンタルラボラトリー”というものを作って施設を有効利用することなのです。
──縦割りを廃止するということですね
小田島
これまで工学部、理学部などは、学科単位にまでも間仕切りがありましたから。しかし、研究生の多い活気ある研究室も、それほど活気のないところも同じスペースで割り付けるのは、無理があります。不要な研究室にスペースが余り、必要な研究室ではスペースが不足するという事態も起きているようです。
そこで、もっとスペース配分が柔軟に融通の効く建物づくりをしようということで、なるべく間仕切りをしないで大空間を作り、時々のニーズに応じて間仕切りをしたり外すことが出来る施設が理想的です。いわゆる“総合研究棟”と呼んでいる構造を基本にするわけです。
──確かに研究室といえば、密室性が高かったですね
小田島
そうです。研究室に籠もってしまうと、人が居るのか居ないのかも分からないような極端な場合もあります(笑)。それは良くないですね。もちろん教授専用の研究室を整備する必要はありますが、それもなるべく低いパーテーションにしたり、ドアはなるべく中が見えるようなガラス窓の付いたドアにすることにしています。お互いの研究や実験内容が見えるような建物づくりをして行きたい。
それでも、ドアの内側から紙を貼って目隠しをする教授がいるとすれば、恐らく研究をしていない先生なのでしょう(笑)。
──研究室の構造における新しい工法は
小田島
現在ほとんどの新しい建物はoaフロアです。二重床で、下にパソコンのケーブルが張り巡らされていると言う形式です。キャンパスの中にはLANも整備しています。最近は、ほとんどの研究室において直接lanで相互に研究データのやり取りが出来るようになっています。
棟ごとにもLANでつながっています。ただ古い建物はまだ無いので、このリニューアルの中で実施して行こうとしています。情報化時代にあって、こうした整備は特に緊急を要しますね。
──大学改革と法人化を控え、どこの大学も特色を持たせることが課題になりますね
小田島
基本的には“どのような建物を作りたいのか”と言う方向性は「学校の意志」ですから、本省が指示すべきものではありません。学校とは本来、そういうものです。
学問の自由とは、始めに学校の意志がありきです。我々は、それが“合理的なものであるか、有意義なものであるかどうか”を判断はしますが、大学側としてやりたいこと、欲しい施設について話をお聞きし、それに納得して予算配分するのが基本です。
──以前に、前北大総長で現在は放送大学長、土木学会長でもある丹保憲仁氏が、本誌インタビューで「今後は工学系の人々も、文化や哲学的な思想を持つべき」と主張していました。工学と文学が融合するといった、異分野の学問のクロスオーバーは面白いと思いますね
小田島
その通りです。いまは特に医学と工学はすごく融合しています。医学的な分野を工学側からサポートするなど、バイオメディカル、メディカルエレクトロニクスのように医学と工学は積極的に交流していますね。
──その中でも特に、大学病院の最先端医療に予算が重点配分されることは、国民の安心に結びつきます
小田島
そうです。大学病院の場合には、先端医療のほかに、地域の拠点という役割も果たします。例えば、北海道では、北大の大学病院があってこその安心感が、地域にはあると思います。
その点では国立大学の附属病院はかなり貢献していますので、これからの施設整備も強く応援していきます。

(第2回)

新年度を目前に控えた3月末に“新しい「国立大学法人」像について”の方針が示された。その大きな柱となるのは“法人化”であり、各大学が「知」の拠点としてだけではない社会競争的環境の中で切磋琢磨し合いながら自主・自律を促し、職員を“非公務員型”にするなど能力・個性を最大限に引き出す活力のある運営体制を確立するための改革である。学長・学部長を中心とするダイナミックで機動的な運営体制の見直しや教員の多彩な活動を可能とする人事システムの弾力化、各大学独自の方針・工夫が活かせる財務システムの弾力化などの積極的な改革案が出された一方で、第三者によって各大学の理念や教育研究の質的向上を評価する制度も強化されるなど、「国民に支えられ、最終的に国が責任を負うべき大学」として他人任せではない強い自覚と自信を持った志が欠くことはできない。前号に引き続き、国立大学改革の真っ只中にある現在において、それを支える厚い基盤となる文教施設整備の内面について聞いた。
──各都道府県でも、誘致する動きがあります
小田島
都道府県は国立大学には直接関係はありませんが、都道府県と協力して、地域の地場産業を共同で研究するケースは見られるようになってきましたね。
大学の中には“共同利用研究センター”という、地域の企業と共同で研究するための研究施設もどんどん整備されています。企業と大学が研究テーマを出し合って、協力するための交流スペースが出来ています。
したがって、ハード面だけでなくソフト面も整備に関係してきます。北大ではキャンパスの中に、北海道の財界等が中心となって組織された財団が研究棟を建設し、そのまま大学と企業が一緒に研究している共有施設もあります。
──予算配分では、やはり官僚を輩出してきたセンター大学と言える東大が、最も大きな比重を占めますね
小田島
優れた研究を行っているところには良い施設をという発想は大事ですから、戦略的、重点的配分が考慮されます。2か年続けて、ノーベル賞を受賞するというのは、大海にて追い風にのるようなものです。
名古屋大学では、「野依先生の名前を冠して野依記念館のような研究交流棟を作りたい」という要望も聞かれます。野依先生一人のための建物ではありませんが、関係者の方々の思いを象徴する建物としても野依先生の受賞を讃えた研究実験棟を作ろうとの意向は伺っています。私たち施設整備を担当する者としては、私たちの整備した施設からノーベル賞受賞者が登場するのは嬉しい限りです(笑)
──小泉首相が“米百俵”と言う考えを表明しましたが、5か年計画の精神と合致していますね
小田島
そう思います。世の中は大変な不景気ですが、科学技術の重要性を、国民のみなさんも分かってくれるようになって来ましたから、比較的順調に予算付けして頂いていると思っています。
──地域の風土や文化・歴史を生かした面白い施設はありますか
小田島
国立大学の場合は、やはり古い大学にそうした事例が多いですね。古い大学で良い建物を持っているところが多いです。東大も北大も、国の重要文化財に認定されている良い建物を持っています。奈良女子大学も歴史が古く、岩手大学も昔の高等農林学校として、当時の木造の良い建物を持っています。いずれも、国の重要文化財になっています。
──100年ほどの間で、国が帝国大学による“万民に教育を”と言う教育政策を押し進めた結果、これだけの地域に教育が根付き、その結果、現在の国家を築き上げる根幹を確立して行ったことに改めて驚嘆します
小田島
そうです。「明治からの近代教育の成果だ!」とみなさんが言っていますね。国立大学は“国民の学力”と言うよりは、もっと世界に通用する研究、実験をという様々な立場で教育を考えています。先に述べたノーベル賞もそうですが、そうした希少価値のある賞をたくさん受賞されるなら、施設整備もし甲斐があるというものです。
──最先端の施設ですと、建物を建てるに当たってはやはり技術的な面も相当に要求されて来ますか
小田島
そうですね。色々とありますが、例えば“地球の地面”はいつでもちょっとした小さな振動をしている様なのです。微少地震です。建物は必ず地面に建てますからその微少地震に連動して必ず揺れていますので、その揺れが実験台に全く伝わらないように縁を切った床も作っています。例えば宇宙のことで言いますと、地球には色々な宇宙線が降ってきます。そうなると当然精密な放射線測定などの実験の邪魔になるので完全なシールドルームを作って出来る限り遮断しています。文教施設でもそういう面白い環境づくりはしていますね。
それから物凄く綺麗な部屋と言うことで、埃の無いクリーンルームを作っています。これはアメリカのNASAで使われている様な高度なレベルのクリーンルームですが、そういう面白い実験室づくりもしています。
──文教施設部としてもその都度、最先端な部分をある程度研究しながら建築を進めて行かなければなりませんね
小田島
そうです。そういう先端な部分と、もっと素朴な部分もあります。学生のための講義室は割と単純ですね(笑)。
──両極端ですね(笑)
小田島
すごいんですよ(笑)。何でもありで、施設と言うのは少量多種なんですね。多くの種類がありますが、それぞれの数はそんなには無い。国立大学の施設は少量多種が特徴ですね。
──各課、学科自身が各分野そのものですね
小田島
各分野が色々とあるでしょう。例えば、音響を実験するためには全く雑音の無い部屋を作らなければ行けないですから、そういう様に非常に特殊な部屋を作るケースが多いですね。
──本省の技術者の方々もある程度その辺のことも把握していないといけませんね
小田島
それはいつも研修などで、「新しい技術情報を取り入れるように努力しなさい」とは言っています。苦労と言うよりは面白いですね。
──海外の技術的なものがあれば海外で学びますか
小田島
大学の施設担当職員や研究者が視察に行ったりしています。
──ただ箱物だからと言う雰囲気とは違いますね
小田島
非常に種類が多いことです。大学病院から学生のための講義室、幼稚園も作ります。何でもありますよ(笑)。私も冗談で言いますが、葬儀場以外は何でも作っているのではないでしょうか(笑)。葬儀場と刑務所以外は何でも作っているのではないかと思いますよ(笑)。
──国立大学の施設は日本文化そのものですね
小田島
そういうことですね。大学と言うのは大きい大学だと何千人と人が居ますので、ファミレスではないですが食堂も作るかもしれませんね。レストランから幼稚園から何でもやります。その変わり量はそんなに多くはない。先ほども言いましたが少量多種なのです。
──文教施設の方々に一つの街を作って下さいと頼んだら作れますね
小田島
作れますね。文教施設はちょっとしたパークですから。そうしますと建物を作るだけではなくて外の環境も大事です。例えば、天気の良い日となると学生はベンチに座ってディスカッションしたり本を読んだりしていますから、今後もそういう自由な環境を想定して作らないと行けません。
──公園やベンチもですか
小田島
そうです全部やります。少なくとも工事で発注するものは全部やりますから、外部空間も非常に大事になっていますね。建物の中だけではなく、キャンパスとしての全体の街づくりも考えている訳です。
──まったく新しい街になりますね。フリーな大学ですとか、先ほども言いましたけども、文化財に指定されるような建物が同じキャンパスにあったりしますし
小田島
そうです。最先端の研究実験棟があったり、学生のためのレストランのような食堂があったりと非常に“タウン”ですね。

(第3回・最終回)

長年続く不況や、本格的な高齢化社会の到来に備えを必要とする現状を踏まえ、“社会資本整備”について政府全体が最初にまとめた「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」が平成9年4月に策定されたことを受け、当時の文部省、科学技術庁でも「工事コスト縮減対策に関する行動計画」が策定され、11年度までの3年間で両省庁ともに計画で掲げていた直接的施策の数値目標6%を達成した。だが、依然と厳しい財政事情の下で重要な社会資本である国立学校・研究機関の施設整備を着実に進めるためには、コスト縮減施策の定着を図るだけでなく、品質の向上によるライフサイクルコストの低減や、環境負荷の低減などの新たな施策も含めた総合的なコスト縮減対策を進めることが必要と認識されたため、政府では平成12年9月に「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」を策定。これを受けた文部省、科学技術庁でも新たな行動計画が策定される中で両省庁の統合に伴い、文部科学省として最終年度を平成20年度末までとする「公共工事コスト縮減対策に関する新行動計画」が策定された。これら計画の本質は、厳しい財政状況だけを考慮し具体的な施策によるコスト縮減の裏付けもなくただ単に工事価格を下げることではなく、工事の計画・設計、発注の効率化、工事構成要素のコスト低減、工事実施での合理化など、“工事”について改めて多角的に見直しつつ、新時代の公共工事に向けての発想の転換を促そうとする大きなうねりでもある。「大学の宿泊施設に泊まり朝に目が覚め外を見渡すと、茂みの中をゆっくりと川が流れ、そこを子ども達が楽しそうに登校している姿は素晴らしい景色」と言う文部科学省文教施設部長・小田島氏の言葉は、公共工事の中でも特に文教施設の整備は“工事”だけに留まらない人々の心も築き上げる大きな意義があることを物語っている。
──何年もかけながら大学が出来ると言う点で、まずは今回の5か年計画の中でどこまで整備されるのかがとても待ち遠しいですね
小田島
そうですね。これは“科学技術”だけに特化し、それを意識して整備しようとは考えておりません。先程も言いました様に“街”ですから建物と言うのは単独で整備したなら建物と同時に大きなエネルギーとなるインフラも要りますので、単なる「街づくり」と言うよりは、電気、ガス、水道を供給することもしなければなりません。キャンパスの境界線までは電力会社が電気を持って来てくれますが、大学の中は大学の責任です。下水も通しますし、水道、電気などのインフラ整備は本当に必要不可欠ですね。特に大きな大学の場合だと相当建物がありますので変電所も整備します。例えば、15万ボルトで電力会社から受けて、大学の中に変電所を用意して、大学は変電所から電気を供給すると言うことがあります。
──それはやはり停電があった時に非常的に使用するのですね
小田島
そうです。当然、特に病院は重点的に整備します。それから実験研究棟も実験を止められないですから非常用電源を用意して、商業電力が止まったら必ず間を置かずに自家発電から供給できるものも考えています。重要なキャンパスでは全部そのようにしています。
──災害が起きた時には、近くの住民がキャンパスに逃げ込めば生き延びられますね
小田島
そうですね。話がそれますが、阪神淡路大震災の時には神戸大学に近所の人がたくさん来たそうです。やはり災害が起きると何となく大学も含めて“学校に避難する”ということはよくあるケースですが、そういう意味で住民の方が神戸大学に避難して来て、体育館、教室を開放して避難してもらったことがありましたね。
──高校、小学校、中学校と言うよりも一つの大学のキャンパスは非常に広いですから、そう言った意味では地域住民が安心のできるところですね
小田島
キャパシティが大きいですからね。毎回そうですが、災害、特に地震に強い建物づくりをしています。お陰様で阪神淡路大震災でも神戸大学はほとんど被害に遭いませんでした。だから人が来たのですが。
そういう様に割と前々から地震に強い建物づくりをしており、建築基準法の計算より2割くらい上乗せした構造計算をして頑丈な建物を作っています。それがそういう緊急時に役に立つのだと思いますね。大学施設、学校施設、一般もそうですが、災害の時の防災拠点になる可能性がありますから、しっかりとしたもの、強い建物づくりをするように心掛けています。
──確かにそうですね。正に拠点と言う観点から行くと、国立大学の良いところが新たに発見されますね
小田島
防災のために作られている訳ではないのですが、いざという時にこそ役に立つことが国立施設の一つの使命なのかな・・・と。それが由縁なのかと思いますね。
──国民の一つの財産ですね
小田島
そうです。その点は地震に限りませんが“公共財”だと言う意識が大事なのです。前の方に話しましたが、ある学校で建物を作ったらドアのガラス窓に紙を貼り付けてしまうと言う行為は“公共財”と言う感覚が無くなりますから。やはり“国民の共有財産である国立大学の建物”と言う感覚で使って欲しいと言うのがあります。“公共財”だと言う意識は大事ですね。
──なかなかそういう風にはいままで使っていなかったのかもしれませんね
小田島
そうです。先生方がどうしてもずっと同じ所に居るケースが多いですから公共財という感覚がなくなってしまうのですね。我が家ではなく会社なんだと思ってもらって、「国民からお借りしている“公共財”を使って実験研究をしているんだよ」と思ってもらいたいと思いますので、いつもあちこちで言っています。
──これから大学敷地の中の塀が少しずつ下がって来て、ある程度地域の人達も入れるような雰囲気になって行くのでしょうか
小田島
ええ。それは先ほども言いましたキャンパスの環境づくりの中で、地域に開かれた大学にしようということは言っています。小中学校の方だと昨年に起きた大阪の小学校児童殺傷事件がありますので難しい面がありますが、大学の場合には社会的弱者ではないので地域の人に愛される親しまれるキャンパスづくりが必要です。あまりぐるっと塀で囲ったりするのは良くない。囲いも生垣ぐらいにして「あまり地域から拒絶されたような環境にならないようにして下さい」と言っています。
──それがやはり21世紀の大学ですね。夢があると言うか、いままでと隔たりがあった地域の自治の中に入って行くという姿勢の現れですね
小田島
そうです。私は以前、北大のキャンパスの中にある宿泊施設に何回か泊まらせてもらったことがありまして、朝に目が覚めて窓から外を見渡すとうっそうとした森の中にゆっくりと川が流れているところがあります。その辺りを幼稚園児や小学生がランドセルを背負って楽しそうに通っているんですね。あれは素晴らしく良い景色だな・・・と思うんですよ。
──散歩はもちろんですが、いまはウォーキングをする人も増えていますからね。
小田島
そうですね。だから暖かい日だとお母さんが子どもを連れて来て散歩をしていますからね。そうしますと大学というのは良い景色だなと思いますね。そういう大学づくりをぜひ進めて行きたいですね。
──これから段々とそういう理想の元に整備をして行きますか
小田島
なるべきだと思いますね。世界も大事ですが地域との関係も大事ですからね。特に国立大学は、“地域と世界に開かれた大学”と言うテーマを持って施設づくりともやって行かなければなりません。
──昔まではどうしても学生と大学だけの施設で、部分的に「知識者以外は入っては行けない」と言う雰囲気がありましたね
小田島
大学も変わって来ています。地域と世界に開かれた大学を施設側からも一生懸命に応援をして行きたいと思いますね。
──最後に、実際に現場で施設を作っていらっしゃる建設会社は現在非常に厳しい状況にもありますが、何かご意見はありますか
小田島
私からお願いをする立場ではないのですが、良い建物を安く作って欲しいですね(笑)。ただ、“良い建物”と“安さ”と言うのは矛盾しています。“質”を維持しながらもコスト縮減の努力はしますが、しかし同時に“質”が落とされては困りますのでやはり優良な業者さんに良い建物を作ってもらいたいと思いますね。それから50年、100年使って行く訳ですから。建物の場合は一品生産ですから、やり直しが効きませんし、出来あがったものを選んで買って来る訳にも行きませんから、非常に建設業者さんとの信頼関係は大事です。例えば車で言うならトヨタが嫌なら日産を買いますが、施設はそうは行きません。
一品生産なものですから非常に信頼関係が大事なので、良い仕事をして頂くことをいつも常にお願いをしています。
──確かに先ほど言ったように最先端の技術がなければ作れない部屋がありますからね。そういう技術者の方々、特に建設会社の方々は誇りを持って良い物を作れば良いのですが、それがいまは少しおかしくなって来ている時代になっていますね。この度は貴重なご意見を頂き有り難う御座いました。

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