建設グラフインターネットダイジェスト

〈建設グラフ2002年5月号〉

interview

堅調なマンション供給と加速する都心回帰

大阪の都市居住魅力向上のための住宅施策の強化がポイント

大阪市住宅局長 岸野 和雄 氏

岸野 和雄 きしの・かずお
本籍地 奈良県
生年月日 昭和20年11月7日
最終学歴 昭和43年3月 和歌山大学経済学部経済学科卒業
昭和 44年 4月 1日 大阪市採用
昭和 61年 4月 16日 市民生活局相談部消費生活課長代理
平成 1年 4月 1日 計画局調整部企画主幹
平成 2年 2月 20日 財政局管財部調度課長
平成 4年 4月 1日 経済局副理事
平成 4年 7月 15日 フランス共和国パリ市駐在
平成 6年 4月 1日 経済局経済企画部長
平成 10年 4月 1日 教育委員会事務局教育次長
平成 12年 4月 1日 計画調整局理事
平成 13年 4月 1日 住宅局長
大阪市にとって構成のバランスのとれた人口回復は重要な課題であり、そのための住宅施設の役割は大きい。また、大阪市の市営住宅のストックは、10万戸に及び、全国自治体でもトップの水準。今後は、そのストックの活用をいかに円滑に進めていくかが重要である。一方、市民還元型施設の営繕事業も充実しているが、維持コストの削減が課題だ。住宅局の岸野和雄局長は、「建築技術の集積した専門セクションとして、コスト縮減に向けた技術的な提案を各局にすべき」と提唱している。
──最近、人口の都心回帰が見られますが
岸野
大阪市では、昭和62年以来人口減少が続いていたのですが、平成12年に4,136人の増加と13年ぶりの人口増加に転じました。さらに平成13年は11,842人と大幅な人口増加となりました。
──人口回復と住宅建設との関係はあるのでしようか
岸野
人口回復の主な要因として、都心部を中心に市内の分譲マンションの供給が活発なことや便利な都心居住の魅力が再認識されてきたことに加え、人口回復を目的のひとつとした住宅施策を積極的に推進してきたことがあげられると考えています。
大阪市内の分譲マンションの供給は、平成4年頃は、年間1,000戸程度の供給だったのですが、平成12年は約8,700戸、平成13年は約9,200戸と、マンション建設が非常に活発になっています。
価格についても、平成3年頃には、市内の75平方メートルのマンションが9,000万円程度と高額で、府下と比べてもかなりの価格差が見られたのですが、平成12年では、同じ規模のマンションが約3,500万円にまで下がり、府下との価格差も縮まってきましたので、利便性の高い都心部のマンションがよく売れています。
さらに、本市では、優良なマンション建設への補助も行っていますから、より一層建設に弾みがついているのではないかと考えています。
──それは、どのような補助制度でしようか
岸野
「大阪市優良建築物等整備事業」という制度で、住戸規模や緑地面積など一定の要件を満たす優良なマンション建設等に対して、共用廊下や階段などの共用部分について、その工事費の3分の2を、限度額の範囲内で補助しています。
また、本市では、子育て世帯に対する分譲マンション購入融資利子補給制度や、新婚世帯向けの家賃補助制度といったユニークな住宅施策も実施しており、こうした取り組みも今回の人口回復に寄与しているものと考えています。
──ところで、大阪市の市営住宅はかなり充実していると聞きましたが
岸野
大阪市では、昭和30年代から40年代にかけて、地方や周辺都市からの入口流入にあわせ、年間3千戸から4千戸の市営住宅を建設してきました。
その結果、現在では市内の住宅総数の約1割にあたる、約10万戸の市営住宅があります。これは、全国の政令市の中でもトップの水準ですし、割合で見ても、震災の影響で大量供給された神戸市を除くと、全国で一番高い割合になっています。
これからは、こうした住宅ストックを有効に活用していくことが重要だと考えています。
──これらのストックの活用を進める上で、どのような方針を持っていますか
岸野
こうした市営住宅ストックを良好な社会資産として有効に活用するため、昨年11月に「市営住宅ストック総合活用計画」を策定しました。
この計画では、昭和30年代までに建設した住宅については原則的に建替え、40年代の住宅は建替えや改善など、団地に応じた適切な手法をとっていくこととしています。
──昭和30年代といえば、高度成長期でマイホームに縁のなかった庶民が、少しずつ夢が叶いはじめた時期でした。最近はその当時の暮らしを、懐古的に再現して展示していたりしますね
岸野
大阪市では、昨年の4月に「住まいのミュージアム」をオープンしました。
これは、大阪の住まいの歴史や文化を広くprする施設で、総合的な住情報発信拠点として平成11年に開設した「住まい情報センター」の8階から10階にあります。
8階の「近代の大阪」のフロアでは、明治・大正・昭和の大阪の住まいと暮らしを精巧な模型や映像で紹介しています。
そのひとつに、住まい劇場「あの日あの家−ある家族の住み替え物語−」というものがあるのですが、これは、市内の商店街で生まれ育ち、戦後の一時期をバス住宅で仮住まいし、高度成長期に、今お話のあった鉄筋の市営住宅団地に引っ越すという、一人の女性の住み替え物語です。これが、精巧な5分の1縮尺の模型や当時の映像とともに、八千草薫さんのナレーションによって紹介されています。
また、9・10階の「近世の大坂」のフロアでは、江戸時代の天保年間(1830年代)の大坂の町並みを、伝統的工法を用いて実物大で復元していて、その中を自由に散策することができます。
  大変面白い施設ですので、皆さんにも是非ー度見ていただきたいと思います。
──こうした情報発信にも力を入れているのですね
岸野
「住まい情報センター」では、先程の「住まいのミュージアム」のほかに、「住情報プラザ」において、住まいに関する相談や、民間住宅を含む各種住宅に関する情報提供を行うなど、住まいに関する様々な情報や大阪の居住魅力の発信に取り組んでいるところです。今後は、こうしたソフト面での施策の充実が、ますます重要になってくると考えています。
──市内には老朽化した木造住宅が密集している市街地がたくさん残っていますが、これらの市街地を改善していくために、どのような取り組みを行っているのでしようか
岸野
老朽住宅密集市街地の整備は、住環境整備や災害に強い安全なまちづくりをすすめていく観点からも非常に重要な課題です。
市内には、JR大阪環状線の外周部を中心に密集市街地が広く分布していますが、こうした密集市街地整備のモデル事業として、生野区南西部の約100haのエリアで総合的な面的整備事業を進めています。
整備にあたっては、特に老朽化の著しい住宅の密集した地区を限定的にクリアランスするとともに、その他の地域について、民間による自主建替えの促進とあわせて、道路や公園、まちかど広場等の公共施設整備をー体的に行うなど、「古くからのコミュニティも生かした活力あるまち」への再生を図っています。
さらに、平成13年度からは、「建ぺい率許可制度」を活用し、老朽住宅の自主建替えをより一層促進するとともに、建替え時の道路後退により、地域の課題であった狭隘道路の整備についても、新たに取り組んでいます。
また、昨年12月に決定された、国の第3次都市再生プロジェクトにおいて、密集市街地の緊急整備のモデル地区として位置付けられた「福島区北西部地区」においても、事業を進めていきたいと考えておりまして、整備に向けた検討調査を行っていきたいと考えています。
整備の方針ですが、地区内の密集市街地整備については、生野区南部地区と同様に、民間の自主建替を基本として、必要最小限の限定的な公共投資により、効果的な整備を図っていきたいと考えています。
──地域住民は、事業には協力的ですか
岸野
生野南部では、住民参加のワークショップで計画した「まちかど広場」という小さな公園を整備し、その管理も住民の方々で行っていただいています。井戸から水を汲み上げて流したり、一方では冒険広場として、ロープを利用して子供が遊べるように計画しています。
通常ならば「危ないからやめておけ、管理も大変だから」と反対されるものですが、自分たちで管理するということで、お年寄りの方々も手伝ってくれており、結構よく使われている広場になっていますね。
──理想的なケースですね
岸野
もう一つ注目すべきは、平野郷と住吉大社周辺で進められている、HOPEゾーン事業という街なみ整備事業です。これは歴史的な景観を生かしたまちづくりを行おうというものです。平野郷は、昔から環濠都市として有名なところで、地域にある町家など、伝統的な建築物を保存するため、修景に対して補助しようというものです。
住吉大社の周辺は緑が多いので、民家にもできるだけ緑を取り込んだ修景を行ってもらおうと考えています。これも地元主体で、熱心に取り組んでもらっています。四季の映える街なみの形成を目指しています。
──街なみの形成にも地域住民の協力は大切ですね
岸野
地元でそれをやろうという機運が高まらないとこうした取り組みは難しいものです。全部とはいかないでしょうけれど、こうした地域には、地元の整備とまちづくりに熱心な方がおり、街なみを残そうという機運があります。ありがたいことです。
──一方、庁舎その他の営繕事業も、活発に行われていますね
岸野
昨年は、市の歴史博物館が完成しました。今年の夏には、湊町リバープレイスが完成します。これは道頓堀の川辺整備と一体で行われるもので、「なんばHATCH」と呼んでいますが、音楽ホールを整備しています。
この他、公会堂の耐震化と保存・再生が秋には終わり、それ以降は、近代美術館の整備が予定されています。これについては、PFIを導入するかどうかを検討しているところです。
営繕事業は、コストがよく論議されます。そこで今後は、営繕事業の計画検討委員会を組織して、より一層のコスト縮減に取り組んでいきます。民間のノウハウもできるだけ取り入れるような形にしたいと思っています。
また、環境面での検討も必要です。例えば屋上緑化の推進ですね。区役所などは積極的に進めていますが、維持管理の問題もあり、なかなか全施設で導入するのは難しいのですが、できるだけそれも事業目標として提案していきたいと思っています。
私自身も、営繕部は建築の専門セクションなのだから、各局に技術的な提案をしていくよう、職員には言っているのです。例えば、省エネについても、庁舎ビル全体の省エネを提案することもできるでしょう。その中では、太陽光発電という提案もあるでしょう。そうした技術的な提案もして欲しいと考えています。

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